最終的に〇んだ方がマシなTS聖女   作:政田正彦

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44~45回目のオリ主君ちゃんを第三者視点。
続きはありません。


フィテオルシラ

 彼らと彼女との出会いは、正直に言って、最悪と言っていい物だった。

 

 事の始まりは、彼らがとある村で、妖精が住むと言われる霧に包まれた森の話を聞いたこと。

 

 曰く「今までその森には霧なんて無かったのに、いつからかその森には少し先が見通せなくなる程の濃い霧が立ち込めていた」と、曰く「奥に進めば進むほど霧は濃くなり、次第に妖精達の囁き声や笑い声が聞こえてくる」との事。

 

 妖精、というのも、最近になって突然現れたそうだ。

 どこからやって来たのかも定かではないと言う。

 

 彼らは、その森を持つ街の貴族……現在でいう所の都市長のような立場の者から、原因の究明と出来ればその霧を払ってほしいとの依頼を受けたのだ。

 

 話を聞いていて、彼らは当時、各地で猛威を振るっていた『魔神』達の存在が脳裏によぎり、聞けば聞くほど奴らのうちの一柱の仕業である可能性が高いと考えた。

 

 結果それは間違いだったわけだが、今から考えても『森一つを覆うほどの巨大な霧』『妖精達の発生』『人を惑わし森で迷わせる』といった点から考えて、導き出される答えは一つだけだった。

 

 主を失った魔神の一柱が、森を拠点に妖精達を従え、霧で拠点を護り、力を蓄えているのではないか……。

 

 だが先述の通りそれは間違いであった。

 

 事実、森は報告通り霧に包まれており、進行は困難を極めた。

 しかし、検証の結果、霧自体に何か特殊な効果がかかっている様子は無いらしかった。 これだけ大規模な霧の魔法なのだからそれも致し方ない気もするが、一同は少し違和感を覚えた。

 

 「せっかくの霧なのだからせめてトラップでも敷いておけばいいのに」とはリーダーの談であり、仲間達は恐ろしいことを言うなと戒めるものの、内心でリーダーに同意した。

 

 しかし魔神とは基本的に狂気や怨念じみた何かに囚われており、破壊の限りを尽くす存在であり、このように自身の領域を展開する事自体が珍しい。

 

 霧を発生させるまでは良かったが、狂気に囚われた頭ではトラップを敷くまでの思考には至らなかっただけだろうとその場では納得する事になる。

 

 さらに奥地へ進むと、報告の通り、段々と何者かの囁き声のようなものや、霧の向こうにチラチラと青や緑、ピンクや水色といった色鮮やかな光を身に纏う虫のような何かが飛んでいるのを目にする。

 

 だが、囁き声は報告にあるようなものではなく、人間の言語で「出て行って」「来ないで」「それ以上進むな」といった明確な拒絶の意思を感じられた。

 

 それでも突き進むと、やがて光は見られなくなり、囁き声も気配も感じられなくなっていったが、最後に妖精達の内の一人がこう言った。

 

「あなた達なんか、妖精王様に勝てる訳ないんだから!」と。

 

 後から思えばそれは妖精達の精一杯の捨て台詞だったのだが、その場にいた彼らは全員そう捉える程の余裕はない。

 

 妖精王。 それが今回の魔神か、と彼らはその名を記憶に刻んだ。

 そうして森の奥地に辿り着いた彼らは、妖精達の()()……妖精王フィテオルシラと呼ばれる存在と出会った。

 

 それは大妖精と聞いてイメージするものとは少し違った姿だった。

 煙のように常にゆらめく霧で出来た外套を身に纏った、ぼんやりと青紫色に輝く身体を持つ、少女のような姿の妖精だった。

 

 姿だけ見れば、とても大妖精と呼ばれるような力を持つ存在には見えない。 むしろ、強い風が吹いてしまえば煙のように消えてしまいそうな見た目だが……彼らの内の一人が持っていた魔法の装備により、彼女の持つ存在感と、内に秘めた力を見抜いていた。

 

 そして知る事となる。 彼女の持つ力は彼らの想定を遥かに超えているという事を。 一瞬でも隙を見せれば最後、それだけで死は免れぬだろうと確信するほどの強者だったのだ。

 

「んん……? 誰?」

 

 彼女がこちらに気付くと同時に、戦闘を開始する。

 魔法詠唱者の一人がけん制し、リーダーが剣を振るう。

 

 突然の攻撃に驚いた様子を見せた彼女だったが、リーダーの斬撃はあろうことか素手で受け止められ、放たれたけん制の魔法は全く意味を成していないようだった。

 

 奴に続け! 攻撃の手を緩めるな! と仲間の一人が叫んだ直後、周囲に凄まじい威力の、少女、あるいは妙齢の女性、あるいは男、あるいは獣の声が幾重にも重なったかのような金切り声が放たれる。

 

 金切り声に威力とは、と思うかもしれないが、彼女の放ったそれは金属を切るときに出るような高く鋭い女性の声という意味での金切り声ではなく、文字通り金属でも切り裂けそうな程の超威力を持った、衝撃波を放つ攻撃として成り立っており、それによって一番接近していたリーダーが後方にある樹まで吹き飛ばされた。

 

 彼らがこれは撤退も考えるべきかと思った次の瞬間、不意に彼女が両の掌を向け、緊張感の全く無い声で私達にこう問いかけた。

 

「……あの……何か勘違いしてない?」

 

 ぽかん、とするメンバーを置いて、妖精王は話し始める。

 

 話を聞いて彼らは彼女に対する認識を改めざるを得なくなった。

 ……というか、勘違いが解けた。

 

 彼女は決して主を失って怒りと狂気に身を任せる魔神達の一柱ではなく、ここ最近になって“生まれた”女妖精だったそうで、霧は人間から自分を護るために放った魔法の効果、もっと言えばただの水蒸気が漂っているだけであり、人を狂気に陥らせるような効果は無いという。

 

 更に、彼女は周囲の妖精から『妖精王』やら『大妖精』と呼ばれている事はおろか、妖精がこの霧に集まっている事をそもそも自分の配下であるという認識すらしていなかった事が明らかになった。

 

 妖精達もまた、彼女が自分たちの中で一番強い個体というだけで、付き従っているという訳ではないだろうとの事。

 

 恐らく、妖精達的には、彼女の放った霧が人間達やモンスターから身を隠すのに丁度良く、その上同族の中で一番強かったので、こっそりその恩恵にあやかっていたのだろう。

 

 そこに来て、今までの獣を狩りに来た狩人やら薬草を採取しに来た者とは明らかに風貌の違う、明らかに完全武装した集団が森の中に侵入してきたのを見て、妖精達はハチの巣をつついたような大騒ぎになったのだ。

 

 妖精達の心情としては、せっかく安全な場所が手に入ったと思ったのに! うわーん出てってよう……と必死に訴えかけ、それでもずかずか森の中に進んでくるので、フィテオルシラに丸投げして泣く泣く逃げだした、というのが今回の一連の流れである。

 

 しかしこのままでは霧で街の人間が森に入れないのは変わらないので、事情を説明すると、以降は霧の範囲を狭めるか、妖精達と共に場所を移動する事にすると素直に応じ、非常に、それこそ同じ妖精の類のなかでも理性的な対応をした。

 

 リーダーが「ユニークモンスター……みたいなもんか……?」と独り言ちた後、一人で何か納得したように彼女に悪い悪いと謝罪を述べた。

 

 ようは彼女は魔神かそれ以上の力を持っているだけで、魔神そのものでも、ましてや直接自分に関わりのない人間をわざわざ害そうとするような事はしない、する理由も無いとの事であった。

 

 魔神かもしれないと覚悟を決めていた彼らは魔神ではなくて肩透かしだったような、金切声でズタズタにされた周囲の樹を見て、もし彼女が本当に魔神だったらこの程度では済まなかったという事実を考えると肩透かしで良かったというような複雑な気持ちで帰路についた。

 

 帰りは彼女の魔法により光の道筋のようなものが道に引かれており、それを辿ると霧に惑わされることも無くものの数時間で街の付近まで出る事になったのだった。

 

 依頼の概要を説明したところ、フィテオルシラが依然として存在している事実に若干の不満を覚えたようだったが、霧が無くなる事、妖精達はこちらから何かしなければ無害な存在である事、そして敵対した際は魔神を相手にする以上の脅威であることを説明し、渋々了承してもらった。

 

 彼らはそのままの足で報酬を貰い、その街を後にした。

 

 以上が彼ら、後に十三英雄と呼ばれる冒険者達と、無自覚の大妖精フィテオルシラの出会いである。

 

 そして始まりでもある。

 

 これで終わりだと思われていた彼らとフィテオルシラの縁はここで終わりではなかったのだ。

 彼らが街から出て少しすると、彼らの行く先に一つ、見覚えのある青紫色の光を放つ女性が待っていた。

 

 何故ここに居るのか問いかけると、聞けば「森の中は何の娯楽も無くて暇だから」「冒険についていけば何かあるかもしれないと思った」「だから私を仲間に入れてほしい」「心配しなくても実力は君たちの知っての通りだし、迷惑はかけないと約束する」との事だった。

 

 妖精達はどうしたのかと問うと、そもそもあの子達はフィテオルシラの眷属という訳でも無ければ仲間でもない、ただの同族である。

 

 だが流石にそのまま放置するのは気が引けたので、既に妖精たちは森の奥地の土地を土の魔法で盛り上げて、普通の人間ではまず上る事の出来ないであろう断崖絶壁の台地に妖精達を住まわせる事にしたそうだ。

 

 結界自体は、彼女が死んだり、高名な魔法詠唱者なら解除できるような物だそうだが、そこまでの事が出来てしまう彼女の実力の高さには驚かされる。

 

 これで最近生まれたばかりだというのだから更に驚かされた。

 

 ともあれ、強力な戦力になる事は間違い無いと判断したリーダーは特に問題が起きなければ良いと返し、彼女は「もし断っても勝手についていく」と発言した事から、大妖精フィテオルシラ……長いので、以降は自称および愛称フィオラがパーティーに加わる事となった。

 

 物理的な破壊力を持つまでに高められた声の攻撃や、始原の魔法と呼ばれる、階位魔法とはまた違う、ドラゴン等の特殊な種族しか扱えない魔法を扱えたり、彼らの中でも頭一つ、いや、隔絶した実力の持ち主であった。

 

 これだけ聞くともう全部コイツ一人で良いのではと思わないでも無かったが、見た目のせいで忘れがちだがこれでも彼女は妖精で、そしてまだ生まれたばかりの……良くも悪くも、極めて純粋な存在だ。

 

 どこで聞いたのか知識に偏りがあり、突然妙な事を言い出したり、強くなることに、なにか強迫でもされているのかと思うほどの執念を見せたり、各地で美味しい食べ物を食べる度に異様なほど喜んだり、悪戯が好きで良くメンバーを驚かせたり、そうかと思えば、どこで覚えたのか分からない詩を歌い始め、メンバーの心に確かな潤いを与えていた。

 

 故に、フィオラの死は彼らにとって大きな衝撃……そして悲しみを残した。

 

 

 詳しくは省略するが、最後の戦いで呪いを受け、敵味方を問わず暴れ狂う戦士となったリーダーを、気力を振り絞って解呪の魔法を唱え、発動と同時にリーダー本人の手によって斬り殺された彼女は、その刹那で魔法を完成させ、リーダーの呪いを解呪してみせた。

 

 いかにフィオラと言えど、ゲームと違い、HPやMPが設定されたデータ上の身体ではなく、精霊とはいえ生きた肉体である以上、斬れば死ぬ。

 

 リーダーは呪いから解呪されてすぐに剣を手放して彼女に駆け寄る。

 

 が、斬られたことによって存在が希薄になり始めているのだろう、彼らがどんなに回復魔法を放っても、傍に寄り添おうとしても、まるで空気に溶けていくように消えていく彼女の死を止める事が出来ない。

 

 目を開けてくれ。

 

 嘘だ、こんな……。

 

 MPが足りない、もう回復魔法が打てない……。

 

 こんな最期ってあるかよ!!

 

 悲しみの中リーダーか……あるいは他の誰かの、あるいは彼ら全員の叫びが、未だ紫色の炎に包まれ、煙が立ち込めている戦場に木霊する。

 

 そして、辛うじてまだ意識を保てていた彼女が、最期の力を振り絞り、こう言うのだ。

 

 

 大丈夫だよ。

 

 これでいいの。

 

 きっと、また会えるから。

 

 

 死の淵にあるとは思えない程の優しい声で、彼女はそう言い残し……触れる事すら出来ないその手で、涙を流す一人の仲間の頬をスッと撫でるように滑らせたのを最期に。

 

 大妖精フィテオルシラは、一切の痕跡すら残さずに、すうっとこの世界から消滅した。

 

 暗闇から晴れ目が差し込み、戦場と仲間達が日の明かりに照らされてようやく、全てが終わったのだと理解したのだった。

 

 彼女の最後の言葉……大丈夫だ、とは何の事なのか。 これで良かったとは何の事だろうか。 きっとまた会えるとは、何の根拠でそう言っていたのだろう。

 

 彼らは、彼女が虚言を言っている訳ではない……ような気がしていた。

 彼女がこういう嘘を言う人物ではないという事もある。

 精霊という特殊な種族であり、蘇生する方法もあるかもしれないというのもある。

 

 だが……死体が残っているならまだしも、あのように消えてしまっては蘇生魔法すら掛けられない。

 

 彼女と再び会える可能性は……絶望的だろう。

 

 

 だが、彼らはそれでも諦めなかった。

 

 一人は彼女が作った精霊の台地に赴いて精霊に聞き込みを行った。

 一人は古代の文献にある精霊について調べまわった。

 一人は精霊使いであるという者の下へ赴き精霊が生き返る方法を聞きに行った。

 そして()()は、始原の魔法を使用すればどうにかならないか、と考え、自分の知らない始原の魔法を求めて故郷へと。

 

 だがそれら全てが……フィテオルシラを生き返らせるに足る情報は得られなかった。

 

 そうして続く雲をつかむような調査。

 

 

 彼女には、もう会えない。

 そんな最悪の……しかし、当たり前の事実を、一人、また一人と受け入れ始めた。

 

 これ以上打てる手は何も無い。

 誰からともなくそう感じ……フィテオルシラという偉大なる妖精の加護を受け、世界を救った英雄として後の世にも語られることとなる十三人の英雄達の最後の冒険はついに、彼女の犠牲という形で……終わりを告げたのだった。

 

 それから……十数年の時が経った。

 

 

 旅が終わったリーダーは、かつて彼女と出会った森に隠居する事にした。

 

 周囲から世界を救った英雄として称えられる毎日に嫌気がさした……というのが半分。

 彼女が再びこの地に現れるのではないか……そう思ったのが半分である。

 

 だが、当然そう都合よく彼女が現れる事は無かった。

 森での生活がすっかり板について、隠居した老人のような日々を送っていた。

 

 このままゆっくりと安らかな時を過ごし、そして死ぬのだろう。

 ……しかし彼女が生まれたこの地で死ぬのなら、悪くないだろうと思っていた。

 

 そんな時である。

 

 

 彼を訪ねて来たのだろう、一人の少女が彼の家の前に立っていた。

 

 薪を集めて帰って来た彼は「自分を連れ戻すために遣わされた者なのだろう」とうんざりするような思いだった。

 

 しかも自分が留守だと分かると、ドアの前に腰かけて、自分が帰ってくるまで待つつもりなのだろうという事が分かる。

 

 居留守を使うつもりだったが、流石に家に入れないのはよろしくない。

 それにいつまでも居てもらっては困る。

 

 必要なら、可哀想だが久々に剣を抜いて脅す覚悟すら決めて、彼は彼女に歩み寄る。

 

 

 自分の存在に気付いたのか顔をこちらに向けた事で、彼女の容貌が明らかになる。

 美しい少女だ、と思った。

 

 整った顔立ち。

 透き通るような紫色の双眸。

 絹のような白い髪。

 

 将来は必ず美女になるであろう少女がそこに居た。

 

 思わず歩みを止めてしまった彼を見て、呆れたようにその場から立ち上がった彼女は……まるで長年苦楽を共にした友人かのような気楽さで歩み寄る。

 

 見れば見るほど美少女だ。

 おまけに、いい香りまでする。

 

 それに、何故だろう。

 

 こんなにも……懐かしい、と思うのは。

 

 

 君は一体、誰なんだ?

 

 

 思わずそう聞いて……彼女は得意げに腰に手を当てながらこう言った。

 

 

 かつての約束を果たしにやってきた、お前の仲間だよ。

 

 

 




フィラ台地:

大陸のどこかに存在する、フィテオルシラが妖精達の新たな住処を用意するために魔法で作り出した台地であり、飛翔する魔法の阻害の効果を持つ結界のようなものが貼られているが、当時彼女がまだ80レベル未満だったのもあり、台地の規模や結界の強度は、マーレが行った草原に丘を作った際のそれや幻影でナザリック上空を護る魔法と比べるとやや弱く、結界に至ってはフィテオルシラの死後は失われており、飛翔出来る者でそこそこ高所まで跳べるものなら誰でも訪れる事が可能。

だが、よしんば訪れたとしても、多くの妖精が住んでいて幻想的な光景が見られるだけで、精々木々や花が咲き乱れているだけであり、特にこれといったものは何もなく、これは現在では周知の事実となっている。

なお、本人はそんな事は記憶の片隅にしか留めておらず、特筆するまでもないだろう、と脳内の記録にもこの事は記されていない。
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