「――何なんだよ、コレッ!」
困惑をにじませた小さな怒声が、浩一の口からもれる。
そもそもがおかしかった。浩一は今いる場所に来た覚えもなければ、あんな化け物じみた力も持ってはいなかった。
「そういえば、さっき、僕を見てドレイクとか、誰か言っていたよな」
無我夢中であったため先程は気づかなかったが、一人になり幾分冷静になったことで光一の脳裏のはいくつもの疑問が浮かんでいた。
浩一を襲ってきた男達、彼ら自体おかしなところばかりだった。革鎧に帯剣など、コスプレでもなければ見かけない格好だ。そして、何よりも――
「――本物の剣がなんであるんだよ。銃刀法はどこいったんだ」
落ちていた剣を拾い近くのテーブルに斬りつけると、瞳に戸惑いの色を濃くし浩一はつぶやく。テーブルには一筋の線が出来上がっており、刃が研がれていることは確実だった。
現代日本において美術品としての日本刀ならまだしも、実用品としての西洋剣などどこを探しても見つからないだろう。
浩一の頭の片隅に非現実的な言葉が思い浮かぶが、かぶりを振りありえないことだと否定する。だが、受け入れねばいけない問題もあり、表情に青みがさしていた。
「角、翼、ドレイク、まさかね」
浩一は笑う。だがその笑みは引きつっており、心の奥底では理解している結果を受け入れられないそんな表情だった。
だからだろう、浩一は目をつぶり両の手を頭へと持って行った。ゆっくりと慎重に行うその行動はどこか祈りのようにも見えた。
震える指先が伝えるのは、硬質な感触だ。埋もれるようなやわらかさではない。背にも手を伸ばすと爬虫類の皮膚を思わせる、冷たい堅さが浩一の指に触れた。
「な、何なんだよ、一体何だってんだよ!」
常識外の出来事に抑えきれない感情が、叫びとなって発露される。不安と理不尽に対する怒りを半ば八つ当たりのように込めた拳が、テーブルを叩く。人からかけ離れた膂力で振るわれた力はテーブルを粉砕し、先ほどの乱闘でも割れなかった酒壺を床にぶちまけた。血液を洗い流すように透明な液体が濡らしていく。勢いは浩一の靴まで届き、反射のように視線を向けると薄く伸びた水溜りに顔が映る。
絵画から抜け出たような端正な顔に、太く厳かな竜を思わせる角を頭から生やした姿、それが浩一の現状だった。
「アァァァァアアアア!」
絶叫が浩一の喉から発せられる。
薄々は感じてはいても認めたくはなかった現実が、眼前に広がっていた。
「何だ、コレ! ナンナンダヨォォォオ!」
感情を伴った否定が洞窟を震わせるが、それに応える者はいない。残響となって幾度も問いかけるだけだ。
終わらない悪夢のように遅々として時が流れていく中、浩一は理解する。今自分の身に起きていることは、頭の片隅に思い浮かべながらも否定した事柄だと。
すなわち、異世界トリップ。浩一はラクシアの世界にドレイクとして転移していたのだった。