とあるぼっちの無限支配   作:黒河桔梗

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前話の経緯的な話。
麦野と善鷹は戦闘関連抜きでいけばそれなりに仲良くなれる気がする。
それ以前にこの連載がどこへ向かっているかが自分にも不明だったりなんかしちゃったりして。


彼と彼女の事情

 

 

 

「覚悟は出来たかクソ野郎?」

 

麦野沈利は微笑む。

獲物はもう目先にいる、始末するのに大して時間がかかることはない。

ジリッと後ずさる標的の少年、一藤善鷹は麦野とは真逆に苦い表情で彼女の一挙一動を黙って伺った。

 

 

 

 

「さぁどこから吹っ飛ばしてほしい?」

 

「……吹っ飛ばすってどんだけ物騒だよ」

 

「腕か?足か?それとも頭か?どこでも望み通り一発で消し飛ばしてやる」

 

「お断りに決まってるだろーが」

 

 

LEVEL5相手にまともに渡り合えるなんて思っちゃいない。

けど善鷹に勝機があるとすれば相手を倒すことではない、べつにこの場面で麦野沈利を倒さなくともゲームオーバーにはなり得ない。

善鷹に言わせてみれば「逃げ切れれば万事OK」

 

その代わり死ぬ気で原子崩しの相手をしなければならないが。

 

 

 

 

「悪いがアンタに逆恨みされて死ぬなんてごめんだ」

 

「テメェの意思なんて関係ねぇんだよお前が私達(・・)にとって邪魔な存在になるなら始末しなきゃならないってだけだ」

 

今回はその小手調べってこと。

善鷹にしてみれば迷惑でしかないが麦野沈利という暗部組織に属する彼女からしたら少しでも敵になり得る存在がいるなら早めに摘み取っておきたい。

それだけが彼女の原動力。

 

 

 

「実に分かりやすい理由だ。だが原子崩し、アンタに俺を殺すだけの理由があるように俺も死ぬわけにはいかないんでね」

 

「意見の不一致ってことは、もう話し合いの必要はねぇよなぁ?」

 

 

無意味なことに時間を避ける程お互い暇でもない。

なら当初の目的通り暗部組織ーーーアイテムに関わってしまった無知で無謀な少年の哀れな最期を麦野沈利は与えてやるべく手を振り下ろす。

瞬間、原子崩しは凄まじい音を立てて善鷹の腕に命中した。

 

手応えはあった、麦野は周囲を見回しながら善鷹の姿を探す。

ここがまだ人波から外れた裏路地だったから良かったものを数時間前のように人の多く集まる場所なら被害は甚大なものになっていたことだろう。

しかし、周囲に気を配りすぎて自分がダメージを受けてしまっては元も子もない。

 

 

土煙が舞う中、人影の姿を目にした麦野はいち早く察知しその方向へ原子崩しをもう一発放つ。

 

 

 

「あぁ?」

 

けど、先程のような命中した時特有の感触がない。

血と肉の生臭い匂いと焼け焦げたコンクリート独特の混ざり合った匂いが周囲に充満していた、

 

 

ーーーはずだった。

 

焦げ臭い匂いは辺りに充満しているものの血液の血生臭い匂いがしないのはおかしい、ならあの命中した感触は何だ?

 

 

「危ねぇなぁ、下手したらあの世逝きじゃねぇか」

 

ぱんぱん、と埃を払う善鷹に麦野は目を見開く。

背に汗が伝う。

何故そこに立っているのかとーーー完全に完璧に善鷹の腕は吹き飛ばしたはず、なのに何故無傷でこの場に立っている。

加えて焦った様子も驚いた様子もない、この状況を見越していたと言わんばかりの反応じゃないか。

なんだ目の前のこの男は?学園都市第四位の麦野沈利の一撃を受けてピンピンしているなんてコイツは高位能力者か?

 

 

 

 

「なんだお前?」

 

「人をバケモノみたいに言うなよ少なくともアンタよりは普通の人間だ」

 

 

 

なんたって。

お前の考えているような高位能力者ではないし普通のなんてことない高校に通っている一学生。

隣人に毎日巻き込まれ付きまとわれ挙句不幸にまで見舞われる実に不憫な奴だ。

 

だから麦野のように敵意剥き出しで目標に向かって行くこともない。

 

 

 

「ふざけてんじゃないわよっ普通の一般人がこの私の攻撃を止められるわけねぇんだよぉぉおおお!!」

 

「そうだな。だから訂正しとく」

 

 

 

ーーー俺はほんの少し日常から外れてしまった一般人(イレギュラー)だ。

 

 

 

 

原子崩しが善鷹に当たると思われた瞬間、何が起こったのか麦野によって生み出されたソレが反射したかのように麦野目掛けて降り注いだ。

コンクリートなんて呆気なく風穴に変えてしまう程の力だこんなものをまともに食らってみろ、いくら麦野でも無事ではいられない。

だがその辺の予測はついているのか善鷹は人影の動きをいち早く察知した。

 

ただでさえプライドの高いLEVEL5がそんなにあっさりと引き下がるとは思えない。

 

 

「おっと!」

 

 

ギュオ、と土煙に紛れて原子崩しの弾幕が発射される。

やはり諦めていない一般人(イレギュラー)は逃さないといったところか。

だが善鷹は当たれば絶命するであろう一撃をすらすらと避けている、本来なら避けることはおろか抗うことさえ出来ないはずなのに。

一藤善鷹は大して苦でもないのか右手を前に突き出す。

 

なんだ?と麦野は顔を顰める。

何故敢えて右手を差し出すようなモーションに入る?そんなことすればみすみす善鷹自身の右手を貰ってくれと言っているようなものだ。

ならその行動に移るだけの理由があるはず。

 

 

だが彼女にも次に何が起こるのか予測がつかない。

チッと苛立ちを隠せない麦野が舌打ちする、ここで仕留めるべきか否か、ある種究極の選択かもしれない。

 

 

 

「悪いわね、」

 

しかし麦野沈利が選んだ選択は。

マヌケな獲物を易々逃亡を許す程生易しいものじゃなかった。

その美貌を震える程に歪ませて先程以上の原子崩しの弾幕の数々を善鷹一点に絞って照射する。

瞬間周りは火の海に変わった。

辺りは焦げ付いた匂いとそこら中を舞う灰にチリチリと燃え上がる炎。

そこはもう平和な街の一角なんかじゃなく生きるか死ぬかをかけた命の奪い合いの場としか言いようがなかった。

 

 

その炎の中立っていたのは麦野ただ一人。

 

もう勝負は決まったと判断した麦野は背を向ける。

誰かなんて言うまでもないそこにいたはずの少年に不運だったことを哀れに思って終わり。

 

 

だったのに。

 

火炎の戦場からまたもや現れたのはあの少年。

目を見開く。何故だ何故、原子崩しを何度も食らって生きているはずがないそれは彼女の経験上からもはっきり言い切れるものだ。

 

 

 

「なん、で」

 

「悪いな、俺殺されてやる気はこれっぽっちもないんだわ」

 

 

彼の顔を一度見た瞬間麦野の視界は真っ白に彩られた。

気付けば麦野は仰向けに倒れていた。

なんだあれは、奴の顔を見たまでは変化はなかったのに。

あれは私と同じ原子崩しを使ったっていうのか?それはあり得ない第四位の攻撃を見よう見真似で使える程単純なものじゃない。

 

まして原子崩しは能力者自体にも扱いが難しい。

そんな野郎に自分と同じ手を使われて負けるなんて腹が立って仕方なかった、それにあれは奴がやったというよりはむしろ。

 

 

「(私の能力を逆に利用しやがったのか…!?)」

 

それなら色々と辻褄が合う。

右手を出すモーションがただのハッタリじゃないのだとしたら、仮にあれが考慮された上で行われたものなら。

 

だとするならあの少年はバケモノをも凌駕するバケモノということになる。

彼の能力の原理が解析出来ない以上どうすることも出来ないがまだ自分は戦える、だって麦野はまだ諦めていない上に生きているのだから。

 

動く限りは立ち上がる、それを実行するべく麦野は体に力を入れる。

 

 

 

「おっとあんま動かねぇ方がいいと思うぞ」

 

「敵に情けでもかけようってのか?だったらお前の方がどうかしてるわよ、命を取ろうとした相手に掛ける言葉じゃないでしょうが」

 

「別にアンタの心配なんざしてねぇよ」

 

 

それこそ一ミリだって。

善鷹からしたら相手がどうなろうが構いやしないが血を見るというのが気に入らないだけだ。

高位能力者が相手だとその分怪我をするリスクも上がる。まして相手があの原子崩しなら尚更、格段に上がると言い切ってもいいくらいだ。

 

 

 

 

「俺は血が嫌いなんだよ」

 

「だから私を見逃そうって?甘ちゃんだなお前」

 

「勘違いすんな、他人がどうなろうが俺にしてみればどうでもいいことだが今回は違う。その対象に自分が入っていて尚且つ嫌いなもんを進んで見たがる程のドMでもないからな」

 

「ハッ甘ちゃん以外の何者でもないじゃない」

 

「勝手に変な解釈してんじゃねーよコラ」

 

 

軽口で語り合う二人に先程までの緊張感はない。

が、あくまでそこまでの話であって決して互いを受け入れた訳ではない。多分麦野は少しでも異変を感じれば善鷹を殺す気でいるだろうし善鷹は善鷹で麦野が下手に攻撃の一つや二つ仕掛けてくるならそれを迎撃してやろうと思っている。

所謂その場凌ぎの会話というやつだ。

 

 

「おいアンタ動けるか」

 

「まさか私を手助けでもしようっての?」

 

「んなわけねぇだろ動けないならあのガキンチョ共に押しつけてやろうと思っただけだ」

 

「なんだ案外優しいとこあるのね」

 

「茶化すな黙って携帯寄越せコノヤロウ」

 

 

何にしても彼女の同僚が連絡して到着するまでの時間果てしなく気が重くなったのは言うまでもない。

せめてもの仕返しに麦野と彼女の同僚のガキンチョ共に嫌がらせをしてやろうと思ったのは善鷹のせいじゃないはずだ。




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