「そういえば貴方の名前聞いてなかったかも」
一藤善鷹は銀髪シスター、インデックスを連れ近場のファミレスに入ることにした。
彼女の食に対する異常な執念を見て怯んだものの特に食べたいものが決まっていたわけではなかったようなので手軽に入れて値段もそこそこにリーズナブルなファミレスに決まるのに時間はかからなかった。
ちょこんと席に付く姿が可愛らしい。
善鷹はインデックスの向かい側に陣取るとすかさず少女の問いかけに答えることになった。
「もう会うこともない相手によくそんなこと軽々と聞けるな」
「私も名乗ったんだから答えるのが筋なんだよ?」
(事故中心的なことしか言えないのかと思えば至極真っ当な意見を述べやがって…)
さて、どうする。
食いたい物を食わせておさらばするつもりが逃がしてもらえそうにない。
名乗れば解放してもらえるか?いいや、この手の奴は素直に従うと調子に乗ってさらに要求してくるのが目に見えてる。
善鷹は自分より年下に見える少女相手にいつになく本気で悩んでいた。
「チッ、一藤善鷹だ」
「舌打ちしたんだよっ?!」
「べつにお前が嫌いとかそんなんじゃねぇ…ただ人格的に苦手なだけで」
「十分過ぎるほどショックかも!!」
初対面でいきなり人格的に苦手だ、なんてカミングアウトされたらさすがのインデックスでもショックを受けるだろう。
だがそこは善鷹すぐに話題を変えるべく行動に移る。
メニューをインデックスの目の前へやると見ろと視線で訴えてみる。
「よだかもお腹減ったんだね、つまり私と一緒にご飯食べたいってことなんだね!!」
「どうやったらそんな解釈が出来るんだ。コラ目をキラキラさせんな俺をお前と同類扱いすんな、名前呼ぶな」
善鷹はインデックスから顔を背ける。
向けてはいけない、目を合わせれば最後この銀髪シスターに人格まで汚染されかねん。
理解した、この少女とはいくら会話しようとしても無駄だ。
彼女には彼女の興味に映ったものしか判断材料にならないのだと。
善鷹は頭痛に気付かないフリをしながらインデックスを眺めつつ、溜息を吐く。はぁ、とあからさまに伝わるようにやってみると不思議そうな顔でじっと見つめられた。
「なんか疲れてるんだよ?」
(全部お前が原因だよ)
「もしかしてよだかってば私よりもお腹減ってるんじゃ…!早く頼まないとだよ!」
「お前が早く食いたいだけだろうが一緒にすんなボケッ!」
あまりの天然さ加減に善鷹も堪えきれず机をダン!と叩く。
そのせいで店内にいた他の客にチラチラと善鷹達に視線が向く。当然善鷹は内心焦っていた、本来彼は他人の目に止まりたくないが故にそういった目立つ行動は極力しないようにしている。
なのに自ら進んでそうなるよう動いてしまった。
ある種自殺行為とも思えることを目の前の少女が原因となって引き起こされた善鷹はこれまた人相が悪いと判断されるような顔でインデックスを見た。……というかそうせざる負えなかった。
「……どうしたの?」
「お前のせいでめちゃくちゃだ、どうしてくれんだはらぺこシスター…」
あぁ、鬱だ。
まさか食事中ずっと付きっきりでこのシスターの面倒を見なくちゃならないんじゃないだろうな、そんなのはごめんだぞ。
今で十分過ぎるくらい気力を使ってやっているというのに、一体なんの拷問だこれは。
店内の数名が善鷹とインデックスを交互に見ている。
アンバランスな組み合わせの客だと思われたのか、まぁ片方はシスターだしその連れである学生の善鷹との関係性を考えたら確かに気になる。
向かいに座るシスターさんのせいで善鷹は絶賛白い目で見られ中だった。
「私はこれとこれとこれがいいかも!あ、でもこっちも捨てがたいかも…今ならなんでも食べられる気がするんだよ!!」
「もう黙れ…お前」
頭を抱える。
こいつには遠慮というものがないのか、というか暴食シスターだったとは…なんとなくそんな気はしていたんだあんな道端で女の子が行き倒れていること自体おかしい。
そんなことが起こったとしたらどこのギャルゲーだ、と罵ってやる。
まぁそんなギャルゲー体験を実体験してしまっていたわけだが。
「確かに奢ってやるとは言ったが」
「はぐはぐ!モグモグモグッ、んぐ!」
メニューを指差してあれやこれやと散々騒いだインデックスを黙らせる方法は一つ。
とにかく食って食って食いまくらせ続けるという手段だった。
おかげで善鷹の財布は随分軽くなってしまったが耳元で腹が減った腹が減ったと喚かれるよりかはマシだ。
インデックスの前にはハンバーグにステーキ、ピザと様々な料理の数々が埋め尽くされておりそれをその小柄な体のどこに押し込んでいるのか疑いたくなる。
一方、善鷹の前に置かれているのはコーヒーのみでほぼ机を占領しているのはシスターの食べ物なのだから彼が苦い顔をするのは無理もない。
「お前の胃袋はブラックホールかなんかか?見てて気持ち悪いっつの」
「ひもひはるいっへひふへいはも!!」
「全くもって意味分かんねぇよ。しゃべる時くらい食いモン離せないのかお前は」
ごっくん、と飲み込むとインデックスはキーッと喚く。
素直な感想を言っただけなのに何故これほどに非難されなくてはならないんだ。十中八九俺と同じ感想の奴はいるはずだ、気持ちいい食べっぷり、というのとは次元が違う。それこそもう化け物並だろ。
「失礼なんだよ!レディに向かって気持ち悪いはないんだよ!!」
「はーそうかい。でも本物のレディなら口の周りにケチャップなんかつけたまましゃべったりしねぇんじゃねぇの?レディはマナーも徹底してるはずだからなぁ」
「うぐぐ…!ご飯食べさせてくれたから優しい人かと思ったのにぃっ!!」
それこそ間違いだ。
世の中お腹が空いたから誰でも飯食わせてくれるなんてのはおめでたい奴の妄想だ。
瞳に涙を溜めながら善鷹にキッと睨みつけるものの善鷹はなんとも思っていないのかカップに入ったブラックコーヒーを一口つけるだけ。
周囲から言えば少女が不憫に思えてならない。
善鷹には悪意なんてものは存在しない。
ただ自分が思ったことを感じたままに目の前の小さな少女に告げただけでそれが彼女を傷つけることになるとは思っていない。
だって世界の中心はいつだって一藤善鷹という少年ただ一人なんだから。
「俺を優しいと勘違いするのはお前の勝手だ。だがな、俺をお前と一緒くたにするな誰かが手を貸してくれる、とかそういうのは一握りの人間に与えられた特権だ」
少なくとも善鷹には手を貸してくれる相手はいない。
ーー欲しいとも思わないが。
つまりインデックスは善鷹とは真逆の特権を得た側の人間。
ということは意見が交わらないのも当然のこと。
「俺は俺にだけ平等なんだ」
「なんだかそれって友達がいないって言ってるみたいに聞こえるんだけど…」
「そんなモンこっちから願い下げだ」
「なんで?」
「あぁ?そんなモン持ってても邪魔にしかならないからに決まってるだろ。俺は必要なモンと不要なモンを分けてるだけだ」
それじゃあ、
凛とした声が響く。
そこにいるのがさっきまで騒いでいた少女とは別人のように思えた。
その表情はどこか必死にも見えて、けれど善鷹の出した返答に何か違和感を感じて、何か言わないとと絞り出すように彼女は善鷹に問いかけた。
「貴方を信じてくれる人はいないの?」
信じてくれる人?
そんなものいた記憶さえ怪しい。
むしろこの俺にそんなものがいたとしたら逆に笑える。
俺は今の生活を、状況を、望んで選び取ったわけで誰かに操作されてそうなったわけでもない。
全部、全部、全部ーーー自分がそうなるべく進んだ結果がそれだ。
だから、他人であるお前にとやかく言われる筋合いはないと跳ね除けてやる。
「残念だが大きなお世話だ、」
信じるものに裏切られるっていうのはシスターにとって一番辛いことなんだろ?
まずは俺がお前の信じているものを真っ向から叩き折ってやる、それこそ修復なんて出来ないくらいに。
少年は自分の歩む道を誰かに左右されたりなんてしない、それほどに彼の意思は強く、頑なで曲げられるはずもなく、
それは善鷹から彼女に向けられた明確な拒絶だ。
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