次回の話は間違いなく咥えタバコのあの人と一悶着ありそうな予感、そして例のツンツン頭も出るよ?
目的地を目指して歩くーーーなんてのは真っ赤な嘘である。
それに合わせて半歩後ろから追いかけるように小さな影が視界の端を掠める。
そして善鷹も黙認したまま見過ごすということが出来るはずもなく自分を尾行し続けるシスター、いやもう変人と表記してしまおう。銀髪シスターインデックスはあえて見つかるようにしているのか、はたまた見つけて欲しくてその距離を保っているのか善鷹を苛つかせるには十分過ぎる材料だ。
「いつまでついて来るつもりだお前」
ギロッとまさに睨みつけるに相応しい効果音。
だがインデックスという少女は怖いもの知らずなのかこっちの気もお構いなしに善鷹に近寄っていく。パアッと表情を明るくさせて、見つけてくれたことよりも話しかけてくれたことを喜んでいるようで、
「やっと気付いてくれたんだよ!!」
「言っとくがお前の存在にはとっくに気付いてるからな?間違ってもそのヘタクソな尾行に引っかかったわけじゃねぇからな」
「そういうのを負け惜しみっていうんだよ!ってよだかにでも分かるように解説してあげる」
えっへん、と胸を張って自信に満ちた表情で大きな顔をしているが彼女は気付いているだろうか?目の前の少年の顔に青筋を立てていることに。
善鷹は他人に苛立ったりすることはあってもむやみやたらと相手に怒鳴りつけることはそうはない。
けれど今は怒ってもいい気がする、善鷹はこの学園都市ではLEVEL0に位置しているが少なからず馬鹿ではない。隣人であるあのツンツン頭よりは頭は良い。比較対象として出すのも忌々しいほどに。
「クソシスター俺を馬鹿にするのも大概にしとけよ…?」
LEVELが低いからそいつの頭が悪いとは限らない。
それはあくまで超能力を上手く扱えるか否かの話であってそれ以外のあらゆる部分に特化した人間は数多く存在しているわけだし、そういった座学的な知識なら善鷹でもそこそこ記憶しているわけで、
イコール、善鷹に語学の説明なんて不要。
「シスター相手にそんな汚い言葉使うなんてあり得ないんだよ!!っていうかシスターとか関係なくても人に罵声を浴びせること自体あり得ないんだからねぇええええええッ!!!!」
感極まって?思考回路がショートしかかっているように思う少女の豹変振りに先日出会ったおマヌケ金髪少女を思い浮かべた。そういえばあいつはほんのちょっと誘導しただけで自爆してたな……なんて感慨深く思い出してしまった。他人を思い返すほど鮮明に覚えているなんて稀だ。
それがなんとなく目の前のインデックスと似ていて柄にも無く笑ってしまった。
「まぁ落ち着けって血圧上がるぞ?」
「むむっそこはかとなく馬鹿にしてるんだよよだか!!」
「おっ、よく気付いたな最近会う女共は皆遊ばれてることに気付かない奴等が多かったんだがさすがはシスターってか?」
「やっぱりよだかは悪い人だったんだよ!!?」
「おいおい……今更気付くとか遅いし」
ないわー…と手を横に振りながら何を言ってるんだと顔に出してやればインデックスはこれまた面白いくらいに反応してくれた。人を虐めるのが好きとは言わないが人をからかうのは好きかもしれない、というか好きだと思う。
だから銀髪シスターなんて物珍しい少女をとっ捕まえて?いや、これは語弊があるか。自分の背中をせっせっと追いかけて来る仔猫を遊んでやってるだけじゃないか。
散々適当に歩き回っていたわけだが気疲れしてしまった善鷹はその辺にあった手頃なベンチを見つけると問答無用にどかっと座り込んだ。
ここは俺の場所だと言わんばかりに。
なんとこの銀髪碧眼少女、善鷹が座ったのを確認するや否やその隣にちょこんと並んで座っただけに足らず足をぶらぶらさせ始めた。
「おい、」
「んー?なぁーに?」
「なぁに、じゃねぇよ何ちゃっかり隣に座ってんだよ向こう行けっつの」
「ベンチって公共の場なんだよ?」
「それがどうした、公共の場だろうがなんだろうが今は俺が座ってるんだから今は俺の場所だ」
インデックスの意見はごもっともだが善鷹はそういうことを言いたいんじゃない。
何故、どんな理由があって彼女が自分の隣に座ったかその明確な意図を問いたいわけだ。
「………今は俺しかいない」
「何言ってるのインデックスもちゃんといるんだよ!!」
「つまり何が言いたい?」
ベンチに凭れ込んだまま気だるそうにインデックスに言葉を投げる。
しっかり受け止めてくれるかは別として。
体勢はそのままを維持して視線だけでインデックスを追った。するとどうだろう彼女は何を思ったか楽しそうに笑った。
「ご飯食べさせてくれたりすっごく楽しかったんだよ」
「すっげぇ無理矢理っぽかったけどな」
「……けど、よだかはご馳走してくれた。貴方みたいな人は嫌なら絶対に助けてくれたりしないはずだから。だからーーー」
ありがとう。
先程まで騒いでいたのが嘘のようにその表情はすごく大人びて見えた。
そうだ、こいつの顔を見てるとなんか引っかかる。魚の小骨が喉に引っかかったみたいに。
ばかばか大食いしている姿や人を馬鹿にしているとしか思えない言動、底無しに明るくて騒がしい。そのくせにやたらと人の内面に敏感だったり、ちらっと見せる陰のある表情。
手を貸すつもりもないのになんだかんだ構ってしまった理由はそれかもしれない。
それに約一日一緒にいただけなのにインデックスのことを色々と知ってしまった気がする。
女の子らしい一面から主に食に対する異常な執着心まで様々だ。
「礼とかいらねーっつの……俺はお前に流されただけだ」
礼が欲しくてやったわけでも見返りを求めたわけでもない、ただなんとなくそういう結果に行き着いた。
感謝される覚えもない、ただの成り行き上の結果に喜ばれても善鷹にしたらむず痒くて違和感しか残らない。
「それでもありがとうなんだよ」
最近はこういった類の連中が増えてるのか?
以前にもこいつと同じように成り行き上助けることになった頭のお花畑が特徴の女とそのお友達にも似たようなことを言われた。
助けるつもりもないのに助ける形をとってしまった様は実に醜い。
善鷹の隣人である少年ーーー上条当麻のように胸を張っていられれば話は別かもしれないが善鷹にはそんな度胸は持ち合わせてない。やるべくしてやったことに責任は取れてもその逆は言うまでもなく、
「……あー、クソッ!おいお前はこの後俺にどうして欲しいんだ?」
「ふぇっ?」
間抜けな顔で瞬きをするインデックスをジトーッ、と睨み付けながら何が望みだ?と問い質す。
乗りかかった船とは言い難いがこの際体裁はなんでもいい飯も食わせて、挙げ句にまだ何かあるというなら要求しろ、
「じゃあ、とうまの部屋に行きたいかも……」
『とうま』その人物のところに用があるということなんだろう。
道案内なら出来る、と言い切ったインデックスの言葉を信用するなら付いて行くことは可能だ。
でも、と一瞬少女の言葉に弱音が混ざる。
はっきりしろと催促すれば言葉を濁しながら彼女は告げた。
「とうまの所へ行ったら魔術師と戦わなくちゃいけないかも」
ーー魔術師
ただのオカルト相手にビビっているわけじゃなさそうだ。
魔術はあるんだよ!!と詰め寄ってきた時だって可能性の中で言えば超能力があるなら魔術も存在し得る可能性は一割はある。
その実証自体を目にしないことには判断を下すことは出来ないが、
「めんどくせぇな、ンなもんは起こった時に考えりゃいいだろ」
敵として障害になるなら倒すだけ。
それにそいつ学生だろだったら学生寮の場所まで付いてってやる不本意だがな。
変にウロウロされるのが鬱陶しい、だから途中までの間一緒に行くだけだ、とベンチから立ち上がり歩き出す、
「で、でも」
「でもも糞もねぇ。迷惑とか考えてるなら今更だからな、とっくに俺は迷惑してる」
だからーー難しいこと考えてる暇があるならそのまま素直に頷いとけばいいんだよ。
「……分かったんだよっ!」
泣き出しそうな声を上げて返事をした少女。
二人は歩き出した、はずだったーーー
しかし機械が突然機能を失ったようにインデックスの体がぐらり、と倒れる。
それにいち早く気付いた善鷹は彼女の小さな体を難なく受け止め、
「おい!お前いきなり……」
何の冗談だ、
そう言えればよかった、少女の背中から溢れ出る血溜りを確認するまでは。
なんだ、これ、受け止めた善鷹の掌には血がべっとりと付着していて、だってこんな、さっきまでなんともーー
いいや、本当に何もなかったか?
ほんの数秒の間にこいつの言った魔術師に何かされたのだとしたらすぐ側に
なら、今この少女を守ることが出来るのは自分だけ、
「よ、だか逃げて……?」
「アホなこと言ってんじゃねぇッ!!」
途中まで一緒に行くと約束した。
最後まで無事に届けるというのは当然規約に当て嵌まる、なら今すぐここから離れなければ。魔術師とかいうオカルト連中の出方が分からない以上、どこにいようが危険でしかない。
なら当初の予定通りとうまとかいう奴の部屋へ逃げ込むのが妥当な判断だ。
ーーー善鷹はインデックスを抱き上げるや否や持ち得る限りのスピードで学園都市の街を駆け出した。
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