とあるぼっちの無限支配   作:黒河桔梗

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初の6000文字……長かった、とにかく長かった。
お気に入り70件突破です!ありがとうございます!


最凶の囮

「んじゃ反撃開始と行きますかね」

 

一藤善鷹は笑う。

勝てる確証も可能性もはっきり言ってない。

けどあの魔術師をぶっ倒すくらいのことはやってのけられる、なんたって彼の手には無限支配という想定外(イレギュラー)な力が宿っている。

それに本当に、本当に不本意ではあるが上条当麻の持つ幻想殺しはあのステイルとかいう魔術師に効果を発揮する。魔術で作られた炎剣だろうが魔術(・・)の作用が働くなら嫌ってくらい使い所はある。

 

 

「さぁ、次は何を見せてくれるんだ魔術師さんよ」

 

「……くっ」

 

 

なんだ、アレは?

ステイル=マグヌスは焦りを隠せずにいた。

予想外な出来事が多すぎて頭がついていかないわけじゃない、ただ思っていたよりも目の前の敵が厄介な能力持ちだというだけだ、

手段がないわけではない、なんたってステイルはまだとっておきを使っていない。

 

 

 

先程から何度も上条の右手で炎剣を消し飛ばされているのに全く引く気配がない、いや、むしろその逆だまだ何か手札を切っていないのかそれともーーー

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)

 

必殺の意味を背負う炎の巨神は上条当麻めがけて砲弾のごとく突き進む、が、

 

 

「邪魔だ」

 

 

いとも簡単に、手を振り払う一連の動作を当たり前にやってのけるようにステイル=マグヌスの最後の切り札を吹き飛ばした。

炎の巨神を象る重油の人型は飛沫となり一面に飛び散る。

 

何かがおかしい、善鷹は直感でそう思った。

その違和感がなんなのか説明は出来ないが視界に映ったステイルの表情は最後の切り札を潰されたにもかかわらず笑っていた。

その表情から読み取れることは、

 

 

 

「下がれ上条!!」

 

 

瞬時に感じ取った異変に善鷹は叫ぶ。

ビュルン!と粘性の液体が飛び跳ねる音が四方八方から響く。

 

「な、ーーーーーーッ!?」

 

 

驚いた上条が一歩後ろへ下がった瞬間、四方八方から戻ってきた黒い飛沫が集まり、再び一つの人のカタチを作り上げる。

あのまま一歩進んでいたら、四方八方から襲いかかる炎に取り込まれていた。

上条は目の前の光景に混乱しそうになる。上条の右手の幻想殺しは神話に出てくる神様の奇跡(システム)さえ一撃で打ち消す謂わば切り札(ジョーカー)だ。

 

アレが魔術という異能の力であるならたった一度触れただけで全て無効化出来るはずなのに、

 

炎の中で重油はカタチを変え両手で剣を持っているかのような形になる。

あれは剣、いいや違う、あれはまるで人間を磔にするような、二メートル以上の巨大な十字架。

ソレは大きく両腕を振り上げると上条の頭めがけて襲いかかる。

 

 

 

「ボケっとすんな!!」

 

一藤善鷹の声が建物を伝って周囲に反響する。

親友の声に反射的に上条は右手を前に突き出す。

 

 

「………っ!!」

 

上条はとっさに右手で受け止めた。

ガギン!と十字架と右手がぶつかり合う。

ジリジリと炎の十字架が上条の顔へと一ミリまた一ミリと近づく。

 

混乱する上条に善鷹は告げる。

 

「いいから一旦下がれ!お前が潰される前に俺があの巨神の相手をする!!」

 

まだどういう仕組みであの炎の巨神が作られ動いているのか、そこまでの確証は得られていない。

だがこのままの状態で炎の十字架を受け止めていたら間違いなく上条がやられる。いくら幻想殺しで無効化出来るといっても現状押されているのが事実だ、ならまだ魔術師の能力を制限出来る善鷹が動くのが得策だ。

 

 

「善鷹っ」

 

「少なくとも今この場でお前よりは使える!だからどいてろ!」

 

「そうは、させないよ!!」

 

 

そう。

この状況において一番危険視すべきは上条当麻の右手ではない、一藤善鷹というなんの変哲もない少年の摩訶不思議な能力、何を発動条件にしてステイルの炎を自分の持ち物であるように扱ってみせたあの能力を奪う力。

アレをやってのけられる方が今のステイル=マグヌスには部が悪かった。

 

 

「君を先に始末した方が後々面倒が減るんでねッ!」

 

「そうかよ、けどいいのか?」

 

「………何?」

 

「俺はテメェの足止めだけじゃなく相手も出来るってことを忘れてんなよ」

 

 

 

一藤善鷹は微笑む。

何も相手の能力を奪うのが善鷹の真骨頂じゃない。

彼の最大の強みは相手の力を制限した上でその能力者の力を自由自在に、変幻自在に扱える、という点にあるのだから。

つまり、何が言いたいかというと。

 

 

 

 

「なぁ、こんだけの炎に覆われてればさぞかしぶっ放し放題なんだろうな?」

 

 

その言葉から予測されるのは間違いなくーーーー

 

瞬間、ステイル=マグヌスは直感した。

 

灰は灰に(Ash To Ash)ーーー」

 

この目の前の少年は只者じゃない。

 

「ーーー塵は塵に(Dust To Dust)ーーー」

 

しかも今この場で潰しておかなければこの先障害になり得る存在だと、そう直感したからこそ次の行動に移ることも早かった。

 

 

「ッーーーーーーー吸血殺しの紅十字(Squeamish Bloody Rood)!」

 

 

貼り付けられた薄気味悪い笑みがステイルを焦らせる。

意味深としか言えない予告まがいな一言、それに乗せられるようにステイルは魔女狩りの王を善鷹に差し向けた。

 

 

左右から炎の巨神ごと引き裂くように大ハサミのような二本の炎剣が襲いかかる。

悪魔の笑みとはこういうのをいうのか、ステイル=マグヌスは見た、見てしまったーーー

 

ほんの一瞬の隙、荒れ狂う炎の中、一藤善鷹は笑い続けていた。

二本の炎剣と炎の巨神が激突し、無数の炎の塊が一つの巨大な爆弾と化して大爆発を巻き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

炎と煙が晴れた辺り一面は地獄だった。

金属の手摺りは飴細工のようにひしゃげ、床のタイルさえ接着剤のように溶け出している。

壁の塗装は剥がれてコンクリートが剥き出しになっている。

 

そこに少年達の姿はなかった。

ステイル=マグヌスは標的である少年を追っていた。

見た印象はどこにでもいる至って普通の高校生、だがその実力は計り知れない。

何よりあの爆発の中彼等は手摺りを飛び越えた。

命綱も何もなしに度胸一つで実行したのには驚いた。

 

 

「だけど、まぁ」

 

どれだけ悪足掻きしようが所詮はただの時間稼ぎ。

命を失う時間がほんの少し伸びた程度の話。

 

 

 

「死ぬ!ホントに死ぬ!死ぬかと思った!!」

 

命綱もなしに七階の手摺りから飛んだ上条は未だ心臓がバクバクしていた。

 

「アホがッ、今はそんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇんだよ分かってんのか馬鹿野郎が」

 

アホだの馬鹿だの散々な言われように上条は泣きたくなった。

隣にいるこの親友も自分と同じことをしてのけたというのに何故こんなにも落ち着いているのか上条は不思議でならなかった。

 

 

 

「それより、俺が魔術師を引きつけてる間にあのシスターから話は聞いたんだろうな?」

 

「お、おう!一応な!」

 

「…………。お前を信用出来んのか不安は多少、いやかなり残るがこの際そこには目を瞑ってやる、話してみろ」

 

 

今は無駄話に時間を費やしてる場合じゃない。

今は少しでも多く情報が欲しい。

 

禁書目録(インデックス)からの助言によればこの魔術は結界という妨害電波みたいなものであの紙切れ(ルーン)は妨害電波を飛ばすアンテナみたいなもの、だとか言っていた。

それよりあんな何万枚もある紙切れ(アンテナ)を全部剥がすなんて出来るのだろうか?

まぁ目標のルーンは床の上、ドアの前、消化器の腹に見つかってはいるのだが。

 

轟!という音を立てて金属の手摺りの向こう側から人型の炎が降ってきた。

 

 

「くそっ!!」

 

「敵もみすみす逃がしちゃくれないってこった、行くぞ」

 

善鷹がそう言うと上条を連れて横合いの非常階段へ飛び込んだ。

下へ下へと飛び降りる間にも階段の隅や天井にルーン文字らしき怪しげな記号の書かれた紙切れがセロテープで貼り付けられていた。

それは、明らかにコピー機を使って大量生産したものだ。

 

常識で考えても建物全体に何万枚と貼り付けてあるルーンの刻印、その全てを一枚残らず見つけ出すなんてこと出来るわけがない。

 

こちらの気も知りもしないで階段の上から魔女狩りの王が降ってくる。

 

 

 

これ以上階段を下りるのは諦め、横合いへ転がるようにして通路へ出る。床に激突した炎の巨神が辺りに炎を撒き散らし、通路へ飛び出す。

通路は一直線で速さだけなら魔女狩りの王を足で振り切る事は出来ない。

 

轟!と魔女狩りの王は上条の右手を捕縛するために一直線に襲いかかってくる。

 

 

「お、おぉあっ!!」

 

「クソッタレがさっさと走れ!」

 

「んなこと言ったって無茶なもんは無茶……ッ」

 

「無茶でもなんでもやらなきゃこっちがやられるんだ、そいつを自覚しやがれ馬鹿野郎!!」

 

死にたくなかったらな!

第一自分達がここでリタイアすればインデックスを助けるなんて夢のまた夢だ。

善鷹は躊躇わず上条の背中を蹴り上げた、

結果として上条当麻は二階の手摺りを飛び越えることになったが、まぁこの際方法は無視しておくとしよう。

 

 

「ひっ、わぁあああああああああ!!」

 

「っと、」

 

悲鳴と言い換えてもいい叫び声が学生寮全体に響く。

無理もない仮に二階から飛び下りたことを抜きにしても下は硬いアスファルト、 それに加えて自転車と自転車の隙間という、些か着地地点にしては不十分過ぎる場所でもあった。

 

なのに善鷹は楽々と着地していたのだからやってられない。

こういう状況にでもなっていなければ文句の一つくらい言うんだが仕方ない。

 

 

「おいあれ見ろ」

 

「!?」

 

善鷹に言われ上条は頭上を見上げ首を傾げた。

ごうごうと音を立てる魔女狩りの王は二階の手摺りに張り付いたまま地上にいた善鷹と上条をじっと見ている。

まるで見えない壁に阻まれているように二人の元へは行けないようで、

ルーンを貼り付けてあるのは学生寮だけらしく建物の外に出てしまえばステイルの炎から逃れられるようだった。

 

 

こういうルールを目の当たりにすると魔術というシステムの一端を知った気持ちになる。

はぁ、と溜め息をつく。

その側で善鷹は何か考えていたようだった。

上条は命の危機から解放されると途端に体から力が抜けた。

 

 

 

「そうだ警察……」

 

ほぼ無意識に上条は呟く。

至極当然のことを言ったつもりだった。魔術なんてオカルト話を話したところで信じてもらえなくとも学園都市の特殊部隊ならなんとかしてくれる、通報すればそれで終わるはずだった。

 

 

「それでいいのか」

 

「は?」

 

あのシスターを見過ごして、目を逸らして、お前は悔やまないのか?

善鷹の口から零れる言葉の数々に頭が冷静になっていく。

 

「べつにお前がどうしようがそれはお前の勝手だ。だが俺は行くぞ、生憎と似合わない主人公(ヒーロー)役買っちまったからな」

 

あの一藤善鷹でさえ戦うことを諦めていない。

なのに上条はその舞台から一人下りようとしている、ここから逃げるためじゃない、なんて最もらしい理由を付けて目を逸らそうとしている。

少女は自分になんて言った?少女は会ってままならない自分のために命を掛けて戻ってきたじゃないか。

それを見過ごすだと?そんなこと、そんなこと出来るのか?上条当麻という人間に。

 

 

「畜生、そうだよな……」

 

初対面の相手を誰が地獄の果てへ連れて行こうだなんて思う?あれはインデックスの、彼女なりの上条当麻に対する配慮だった。

それを上条が否定してしまったら彼女の努力が無駄になる、彼女の頑張りを無に帰することになってしまう。

 

 

「………認められるわけねぇよな」

 

「で、結局どうしたいんだお前は。今すぐここから尻尾巻いて逃げ去ろうが俺は全くもって構わないが」

 

 

 

「逃げねぇよ。逃げられるわけがねぇだろ」

 

「そうかい、ならさっさと準備しろよ」

 

 

時間は刻一刻と迫っている。

それにあの魔術師の攻略法が見つかった。

善鷹だけならまだしも上条もいる今の状況なら魔女狩りの王を相手するなら完全に完璧にあの巨神を殺し尽くさないと。そして今その方法を思いついた。

 

 

「上条お前には今から存分に働いてもらうぞ最凶の囮(・・・・)としてな」

 

 

 

 

そして一藤善鷹の作戦は功を奏する。

建物中に設置された火災報知器のベルが一斉に鳴り響いた。

 

「!?」

 

轟音の嵐にステイルは思わず天井を見上げる。

取り付けられたスプリンクラーが大量の人工の雨を撒き散らす。

 

夏休みの学生寮という事で実質殆どの学生は出払っているが消防隊がやってくると後々面倒なことになる。

 

「………。ふむ」

 

ステイルはぐるりと辺り一帯を見回し手っ取り早くインデックスを確保して立ち去る事にした。

彼の目的はインデックスの回収であって一藤善鷹と上条当麻を殺す事に夢中になっている時間などない。

 

どうせ自動追尾の魔女狩りの王に見つかって最悪真っ黒な炭か真っ白な灰にされているだろう。

 

だから背後から聞こえたキンコーン、という音に思考が停止する。

誰がエレベーターに乗ってきたのか、と。

夏休みの夕暮れという時間帯、生徒達は出払っていて学生寮はほぼ無人状態であることは確認済みだ。なら一体誰が?エレベーターを動かす必要があるのか、

ステイルはゆっくりと振り返った。

 

上条当麻がそこにいた。

 

どうやらもう一人の彼はいないらしい。

もしかしたら今更怖気ずいたのかもしれない、今はそんなことはどうでもいいか。

 

 

(自動追尾の魔女狩りの王は一体どうしたんだ?)

 

魔女狩りの王は一度でも敵をロックしたら最後、絶対に逃げ切ることは出来ないミサイルと一緒だ。

どこへ逃げようが隠れようが三○○○度の炎の塊が壁や障害物を溶かす、それが鋼鉄であろうと。

 

なのに上条当麻はそこに立っていた。

 

 

「そーいやルーンってのは壁や床に刻む(・・)モンだったんだっけな」

 

上条は冷たい人工の雨の中で、

 

「……ったく参ったぜ、アンタすげぇよ。正直、ホントにナイフ使って刻まれてたら勝ち目ゼロだったよ、こいつは周りに自慢したって構わねーぜ」

 

 

そう言いながら上条は右腕を上げて、人差し指で自分の頭上を指差した。

そこには天井、スプリンクラー。

学生寮に何万枚と仕掛けたルーンがコピー用紙だった事を、紙は水に弱い。幼稚園児でも分かる理屈に。

それが意味する意図をステイル=マグヌスは痛感した。

 

 

 

「ーーーー魔女狩りの王!」

 

 

叫んだ瞬間、上条の背後からエレベーターの扉を炎の巨神が通路に這い出てきた。

 

ステイルはそれでも勝利を確信していた。たかだか水に濡れた程度で完全に溶けてしまうほどコピー用紙は弱くはない、だがある一点を、一箇所を見誤っていた。

 

魔女狩りの王は腕をハンマーのように振り回す、がーーー

 

 

「残念」

 

上条の右手に触れた巨神は笑ってしまうほどに呆気なく、音を立てて四方八方へ吹き飛ばされた。

 

 

 

そして聞こえるはずないもう一人の、ステイル=マグヌスが最も恐れていた存在が目の前へ現れる。

 

一藤善鷹。

魔術師の炎の炎剣だろうと最強の切り札である魔女狩りの王だろうといとも簡単に無効化し自分の力に変えてしまう恐ろしい少年が。

 

「ば、かーーーな。なぜ、何故!僕のコピー用紙(ルーン)はまだ死んでないのに……ッ!」

 

「頭を使えよ頭を。インクは?コピー用紙は破れなくても水に濡れりゃインクは落ちるだろ?」

 

 

まぁそれでも完全には殺し尽くす事は出来なかったみたいだがな。

もぞもぞと動く魔女狩りの王の破片。

人工の雨が降り注ぐたびに一つ、また一つと消えていく。

コピー用紙のインクが雨に溶けていく。

 

そして嘲笑うかのように一藤善鷹がその炎を拾い上げ、掌を握ると魔女狩りの王は完全にその姿を失った。

 

 

「い、のけんてぃうす……魔女狩りの王!」

 

「悪いがどれだけ叫ぼうが再生したりしないぜ?お前の魔女狩りの王(最強の手札)は俺が殺した」

 

元には戻らない。

それを再度幼稚園児にでも分かるように説明してやる。

現実を認めようとしない、愚かな魔術師に。

何度でも何度でも善鷹の言葉は魔術師の、ステイルの心を、精神を抉り続ける。

 

「いのけんてぃうす……イノケンティウス、魔女狩りの王!」

 

 

魔術師は叫ぶ。

けれど世界は何も変化せず。

 

「ァ、ーーーー灰は灰に、塵は塵に。吸血殺しの紅十字!」

 

魔術師は吠える。

けれど炎の巨神はおろか炎の剣さえ生まれなかった。

上条当麻の足はステイル=マグヌスね懐まで飛び込み、さらに突き進み、上条の拳が魔術師の顔面に突き刺さる。

魔術師の体は竹とんぼのように回転し、後頭部から金属の手摺りへ激突した。

 




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