とあるぼっちの無限支配   作:黒河桔梗

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本当文才欲しいです。

善鷹の成長を描けていければいいなぁ、と。
今後もぼちぼち頑張りますのでお付き合いくださると幸いです。




自己確立

 

 

離して、と少女は声を荒げた。

 

悲鳴が聞こえたのを同時に少年は視線を向けた。

けれど少年は決して『助ける』という善意の行為には打って出なかった。理由は一つ、俺には関係ないからというだけの話。

 

なんてシンプルな理由だろう。

普通ならここでなんとかしよう、という意思的な力が働いてもおかしくないのだがそこはやはり一藤善鷹、人間性の問題からか主人公(ヒーロー)という大役の立場には収まらなかった。

強いて言うなら少年は悪党だ。

それも誰の味方でもなく自分自身だけのための味方、決して他に目移りすることがない最低最悪の悪党だ。

 

けれど時に運命とはそれ全てを狂わせる。

武装無能力集団に絡まれた少女二人は逃げようと必死なようだが簡単に逃がしてくれるはずもなく。

 

 

 

「いい加減にしてよ!」

 

「それはこっちの台詞だってのお嬢ちゃん」

 

「佐天さん…」

 

 

頭に花を咲かせた少女は一緒にいた黒髪の少女の名前を呼ぶ。

恐怖を隠す為かぎゅっと服の袖を握ったのがその証拠。

今すぐにでも振り払えるなら全力で振り払っているだろうが彼女等にはその術がない、抗うだけの術が。

 

たまたま運良く近くを通った少年、一藤善鷹のおかげで現状を打開することとなる。

少年にとって最低最悪な状況になろうと少女達にとっては絶望を振り払う唯一の希望になり得るのだ。

 

 

 

「なんだテメェ?」

 

 

特に話しかけたわけでも関わったわけでもないのに武装無能力集団に目をつけられた。

普段と変わらない姿勢の善鷹が何故巻き込まれるのか、ただ見ていたという理由だけで。それも全て目つきがすこぶる悪いというのが原因で、だ。周囲の通行人だって傍目からすればチラチラ視線を彷徨わせているにも関わらず善鷹だけが一点の標的にされてしまった。

本当に理不尽な話である。

 

 

 

 

「何見てんだオラ!」

 

 

威嚇しているのか近くに置いてあったゴミ箱を蹴っ飛ばす。

けれどそれだけだ、一藤善鷹にそのような小細工恐怖にさえなり得ることはない。善鷹は表情一つ変えず冷たい瞳が男を射抜く、これもいつも通りの光景だが影響を与えるには十分過ぎた。

 

 

 

「なんで黙ってやがんだ、」

 

言葉を発さない、使わない手法は時に相手を怯ませる効果がある。だがこれはあくまで一般論での話、ぱっと見高校生の出で立ちの少年がそれをやってのけるといっても限度がある。

ただ相手を視るという行為でこれ程までに平常心を掻き乱されることがあるのか。

 

 

 

「何を怖がってる?」

 

 

俺はまだ何もしてないぞ。

 

何か明確な行動に出たわけでもない。

だというのにこの威圧感はなんだ、まるでこれじゃ人間の皮を被った化物を相手にしているようなーーー

 

 

 

 

「クソ、畜生がぁっ!!!」

 

 

善鷹に向かって隠し持っていたナイフを突きつける。

瞬間、男はこの理解出来ない恐怖心から解放されるのだと信じて疑わなかった。ここでこの少年を叩きのめせば全てが終わるのだと、なのにそれはむしろ増長していった。

 

膨れ上がる恐怖心に身体が震える。

逃げたい、でも逃げられない、子供でも簡単に理解出来てしまう状況に男は絶望を見た。

間違いなく自分はこのままではやられる、ならどうすればいいか?そうだ目の前の少女を人質にしてしまえ。

 

 

 

 

「きゃあっ」

 

「へへっこっちには人質がいるんだ変な真似してみろこのお嬢ちゃんの顔に傷が付くぜ」

 

「初春!!」

 

 

キッともう一人の少女は男を睨むが男の笑みは消えない。

圧倒的優位な状況を得たと確信している顔だ。

ひっくり返せるものなら今の現状を打開してみろと言わんばかりに。

 

優位故に男は表情を変えずにはいられない、がどうだろう目の前の少年はな何がおかしいのかクスクスと笑い始めたではないか。

彼に恐怖心はないのかと疑いたくなる。

絶体絶命と言ってもいい状況だ、なのに何故笑える?

 

 

 

「くっハハハ…」

 

「何がおかしい!?」

 

「何が?そんなもん全部だ。こんな状況を作ってるお前自身も、そこで手出し出来なくなってる女も、人質にされてるソイツも、巻き込まれてる俺も何もかもが馬鹿馬鹿しい」

 

「このッ好き勝手言いやがって…この女がどうなってもいいのか?!」

 

「生憎と俺には関係ない」

 

 

 

 

関係ないの一言で切り捨てる善鷹。

ならこの少女には救われる価値がないということなのか、だとしたら一藤善鷹は残酷な人間でしかない。

黒髪の少女、佐天涙子は許せないと善鷹に視線を向ける。無関係の友達が巻き込まれたというのにその言い分はあまりに酷すぎた。

 

 

 

「だからって初春は関係ないじゃない!」

 

「そう。たまたまこのクソ野郎に標的にされたお前等も勝手な都合で巻き込まれた俺自身も運の悪かった被害者だ」

 

 

それだけのことを理解出来ていながら何故関係ないと言える。

少女等と一藤善鷹の立場は全く同じだ、なら。

善鷹がそんな理不尽を許すはずもない。

 

 

 

「つまらねぇ理由で俺達(・・)を巻き込んだこと今更後悔すんじゃねぇぞ」

 

 

少年は振りかざす己の信じる正義を。

誰にも伝わることのない、自分だけのための正義。

一藤善鷹にとってせめてもの良心があるなら数パーセント彼に宿った理不尽に対する意思こそが少女達にとっての希望だ。

 

佐天涙子は目を見張った。

これがさっきまで自分達を見限るような口ぶりで話していた相手なのかと。

 

 

「だったらこの餓鬼は切り刻んでもいいってことだよなぁッ!?」

 

「調子に乗ってんじゃねぇよ低能」

 

 

一藤善鷹はどこにでもいる普通の高校生。

しかし誰よりも理不尽を許容出来ないのも善鷹という少年らしさでもあった。

不可能を可能に変える能力(チカラ)

その場に存在する全てを凌駕し使役し絶対的な絶望を跳ね除ける、その能力名は無限支配(アンリミテッド)

紛れもなく佐天涙子とその友人、初春飾利を平穏に引き戻してくれる最高の救済だ。

 

 

 

「このクソ餓鬼っ、なめんなぁァァ!!!!」

 

 

男は我を失ったようにナイフを振り回す。

そして人質として捕えられた少女、初春飾利も確実に無事では済まないとそう確信していた。

 

 

「なめちゃいねぇよバーカ」

 

一藤善鷹はソレを目にした上で認識する、彼の瞳に映った男の手に握られたナイフはまるで嘘だと疑いたくなる程に刃先を含め持ち手も変形し使い物にならなくなっていた。

目を開いた次の瞬間あった現実は外傷が見られない地面に倒れ伏す武装無能力集団の姿と少女二人を救った限りなく主人公(ヒーロー)らしからぬ悪党側に位置する少年。

 

 

 

「初春っ」

 

「佐天さん!!」

 

 

二人がお互いの無事を確認するように抱き合う。

解放されて安心したせいもあってか涙を浮かべている。まぁこれで被害者である少女達は無事平和な日常へと帰れることだろう。たった数分の出来事だったはずなのに随分と時間が経ったように感じられた。

善鷹でさえそんな風に思い至ったのだ一番そう感じているのは人質にされた初春と気が気でなかった佐天だ。

 

一連の騒ぎもこれを機に一周するはず。

周囲の民間人が警備員を呼んだのか騒がしくなってきている。出来れば早々にここから離れてしまいたい、即行動に移ろうと周りを見回していると少女と視線がぶつかる。

はっきり言おう面倒なことになった、近寄ってくるのを確認して足を逆方向へ向ける。

 

 

警備員に見つかって事情を聞かれるのが面倒なのもあったが今日関わった少女達にも深入りするのを避けたかった。

 

 

 

 

「待って!!」

 

自然と足は止まっていた。

振り返ることなく少女の声に耳を傾ける。たった数分の短い時間で危険な状況に陥った、それを救ってくれたのは顔を合わせたこともない見知らぬ少年。

どんな芸当をやってのけたのかは知らないし分からない、けれど初春と自分を助けてくれた恩人だ。

 

言葉をかけずに別れるのは憚られた。

 

 

「ーーあ、ありがとうっ」

 

「私からもお礼を言わせてください!」

 

 

ありがとうございました。

頭を下げる初春と一言でも何か伝えないとと必死な佐天。残酷な仕打ちをした善鷹だが結果として佐天達を怪我一つなく救い上げたのは事実。

感謝の言葉を口にする二人に善鷹は振り返らない。あくまでこのままの体制で話を聞くつもりらしい、普段の彼からしたらせめてもの譲歩か。

 

 

「一つだけ聞いてもいい?」

 

なんで助けてくれたの。

純粋に気になったことだ始めは初春を切り捨てるくらいの一言をぶつけておきながら結果的には助けているのだ。

せめてその理由くらいは聞いておいても悪くないはず。

 

 

「俺は単に理不尽ってのが許せないだけだ」

 

無関係な人間が巻き込まれたと聞けば哀れだとは思える。同情はするがそこまでだ。でもそうなる原因が相手の一方的な理由で引き起こされたとなれば話は別。

助けてやる義理はないが自分が巻き込まれたその上に居合わせれば手を貸す。

 

「お前等を助けたくてやったんじゃない」

 

それを忘れるな。

都合が良かったってだけで救った命だ。善鷹は自分を守るためなら全精力を以って側にある命を救う、勝手だと笑ってくれていい、文句を言ってくれていい少女達にはそれを言うだけの資格がある。

 

「それでも、私を…私達を助けてくれたじゃありませんか」

 

だからもう、それだけで十分です。

初春飾利は笑っていた。幸せそうに、満足そうに、嬉しそうに笑うのだ。

傍にいた佐天涙子も同じ、少年に感謝していた。

一度は初春を見捨てた善鷹に笑いかける。意味が理解出来ない、普通なら罵倒するだろう?それだけのことを善鷹は言ったしやってのけた、なのにーー

 

 

 

「……このお人好しが」

 

「助けてくれた人にお礼言わないなんてそれこそ失礼だよ」

 

 

何か言うだけ無駄だ。

こういうタイプの奴等は言ったら聞かない。聞き流すに限るがそれも今回の場合は無意味かもしれない。経験からしてここで善鷹がすべき選択はきっと。

 

 

「礼はもう必要ない」

 

肯定して受け入れることだ。

否定し続けることが善鷹の答えだった。でも時には認めることも最低限必要なのだろう。他人の願いに耳を傾けることが、信じて気持ちを受け取ってやることが大事なことなんだ多分。

 

少年は何も告げない。告げない代わりに少年は肯定することを覚えた。

日常と非日常の狭間で自身の内に潜む殻を破るという行為を。

 




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