にしても読み返してみると自分、戦闘描写へったくそだなぁ。
そこに一人の少年がいた、少年しかいなかった。
少年は逃げていた、少年は探していた、少年は変えられない現実を苦しんでいた。
どうすれば自分はここから逃げ切ることが出来るのか最悪の事態を避けた上で無事突破口を開けるか、それ全てに彼の命運がかかっていた。
「はッ、ハッ…!ここから抜け出さなきゃ俺は無事に帰れない、よなぁ」
年端もいかない男の子が無事に帰れないなんてどういう状況に陥ればそんな言葉を会話に盛り込める?
見たところ十歳を越えるか越えないか位であどけない顔立ちをしていた。実際なら友達と一緒に笑って騒いでいい年頃だ。けれどどうだろう、少年の格好は傷だらけで服のあちこちが破れていたし血が滲んでいる部分も少なくない。
何をどうすればこんなことになるというのか。
ただ鬼ごっこをしている風にも見えない、だって少年の瞳には僅かな焦りの色が窺える。追われているのか周囲の気配にやたらと敏感になっているのに加え物陰に隠れて息を整えているあたり随分走っていたようだ。
「笑えねぇよなぁこの状況、絶体絶命ってこういうことを言うのかねぇ」
苦笑いしている間にも側には追っ手はやってきている。
実際足音が近づいているのがその証拠。血眼になって探しているのか数は圧倒的に向こうの方が上、少年に勝ち目はないと言っても過言ではない。
だが決して少年の目は死んではいなかった。それは偏にここで
「つーわけでまだ死ぬわけにはいかないんだ、よ!」
意識の片隅に過った白い少年。
笑わない白い少年を笑わせてやりたいと思った。こんな糞みたいな世界で笑わせられるなんて思ってはいないけど、出来るならこの醜い世界でも笑顔でいられる場所が一つでもあるのだと教えてやりたい。生きている限り絶望を知る機会が多くあるのは当然だし逃れられない事実。そんなちっぽけな世界でも自分らしさを失わずにいられる場所くらいは知っておいてほしい。
一方的な押し付けにしかならないかもしれない。それでも忘れないでほしかった、絶望の中に微かに灯る希望があることを。
「見つけたぞ!」
「あっは、やべ見つかっちゃったか…」
武装した戦闘員が少年を取り囲む。
少年に残された術は己の全精力を以って現実に抗うことだ。
子供に銃を突き付けるなんて本来ならあってはならないことだが少年はそうされるだけの理由がある。彼が危険な存在だと認識されてしまっている以上解放されることはまずない。まさに命懸けという状況に笑い声が漏れた。
「悪いんだけど死んでもそこ通してもらわなきゃ困るんだわ、友達が待ってるんで」
とびっきり素直になれない頑固者を一人にしておくのは不安だった。
白い少年とは長い時間を過ごしたわけでも家族のような関係になったわけでもない、実験先でたまたま顔を合わせる機会があって顔見知りになっただけのありがちな関係。
けれど少年はそれを理由に白い少年にやたらと関わりを持つようになった。お互い歳が近いこともあったし、何より少年は初めて身近に出来た友達と呼べる相手。二人の距離が近づくのにそう時間はかからなかった。
普通とかけ離れた生活の中で見つけた一欠片の平穏を奪われるのを少年は良しとはしなかった。
学園都市の実験という非日常に足を踏み入れてしまった少年は自分と友達である白い少年を利用しようとする大人の考えに反発した。
結果、目の前に広がっている現状だ。
能力だけで人の価値を測るなんて最低だ、認めるなんて出来るわけがない。そんな人としての良心が少年を突き動かしていた。
能力者として学園都市の闇で同じように利用されている子供達は多くいる。それを救いたいと少年は思った。何も知らないまま利用されて気付いた時には泥沼に足を取られ、最悪死んでしまう者さえいる。
そうなる前に少しでも多くの命を救いたい。
自分のような人間をこれ以上作りたくないという明確な理由のもと少年は戦闘員達の前に立ちはだかる。
「邪魔させねぇ!!」
「全隊員発砲!」
隊員の掛け声と共に少年に向かって一斉に銃弾が撃たれる。
間違いなく少年は仕留めた、隊員達はそう信じて疑わなかった。これだけの数の弾丸を受ければ確実に即死だ、それに少年といえど十歳前後の無力な子供に変わりない。
避けるにせよそれだけ発達した身体能力を有するまでに成長していない少年は完全に硝煙弾雨の中で
だがどうだ、硝煙の漂う空間に立つ人影に彼等が驚かないはずがない。
何故生きている。
そこには本来一つ死体が出来上がっていたはずだ。少年の、血に塗れた哀れな死体が。けれど晴れた視界の端に映ったのは血流した
同時に彼の傍で地面に散らばる銃弾の数々は役目を失い鉄屑と化していた。
瞬時に生まれた隙を見て行動する。見かけは非力な子供、しかし少年には特別な
認識した事象を自由自在に操るという類い稀な能力。
先程行われたことで例えるなら無数の銃弾を鉄屑に変えてしまう。
あくまで知識として
効果範囲は説明するまでもなく認識出来る範囲内ならば存在する事象全てを変化、干渉することが可能であり対象となる物体・事象について知識を持っている限り応用の効く万能型な超能力だと言えるかもしれない。
「ば、化物…ッ!」
「失礼しちゃうなぁ、そういうの子供相手に言うかフツー?」
そういう大人ってがっかりだわ、少年は実に残念そうに溜め息を吐き出す。
つまるところ能力を使っただけの話。生き残るため自分の能力を最大限に活かすようまずは銃弾を鉛に変化させ、銃器から発射された弾丸の速度を解析した。
「ひィッ!」
「先に撃ったのはアンタ達だろ?じゃあ俺はどこにこの怒りをぶつければいい?」
相手が自分だからこの程度で済んだものを、防御するなり反撃する術を持たない相手ならどうするつもりだったというのか。
人の命に上も下もない平等に与えられるべきものでありそれを他人に無差別に奪われることはあってはならない。
「お前等はただ命令に従ったそれだけだろうさ。けどな、そうしたことで何人の餓鬼が犠牲になったと思う?数なんかどうだっていい、お前等がその手で摘んできた命には変えられない!!」
それをこの場で理解しろ、少年は叫んだ。
生きたいと願った命をゴミ屑のように扱う目の前の大人達を許すことは出来ない。もう手元に戻らない失われた命は少年にとって最も救いたかったものだ、同じ境遇を生きる子供達を助けたい。己よりも小さい子供だって多くいたのだそんな幼子が死んでいく姿を多く見てきた。何度も、何度も、その残虐な様を目に焼き付けてきた。
白い少年も、少年自身もその中の被害者だ。
それ故に打ち立てる。
誰も殺さず誰も傷付けず、どの犠牲も払わず済む最善の方法を。
「俺がアンタ等を殺すことは絶対にない、だがそれ相応の代償は受けなきゃ対当とは言えないよな?」
「な、何をするつもりだッ!?」
「安心しなって殺しはしない主義だ。じゃなきゃ俺はお前等と同類になっちまう」
それだけは絶対に手を染めるつもりはない。
なんたって彼の目的は自身の周囲にいる被験者を守ることなのだ。利用されないためなら自身の労力をもって敵の相手をするのは当然。
果たして逃げ場を失ったのはどちらか。
銃撃音の鳴り響いていた暗い路地裏は不気味な程に静まっていた。
まるで時間が止まったように。
しかし停止していた空間は急速に動き始める。
「殺さず尚且つ相手を追い詰める方法ってなんだか分かる?」
「あぎぃッ!?」
気付いた時には男の間近に少年はいた。
純粋無垢な子供らしい表情をして笑う。
「実体験させてやることなんだってさ。けどそれじゃ駄目だ生温い」
人を人として扱わない連中にそれを知らしめるには肉体的ではなく精神的に刻み込まなければ。
死を上回る恐怖があることをその身を以って知れ。
支配者は微笑む、この場に居合わせた全ての人間を
暗い路地裏に数々の叫びが犇いた。
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