TSアルビノ少女は逆行する。   作:和海狐

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お待たせいたしました。
バイトがあったり展開に悩んだりとした理由でかなりの時間がかかってしまいました。
本当は今回で初日を終わらせたかったのですが、かなりの分量と時間が必要になると考え霧の良いところで区切ることにしました。
それではどうぞお楽しみください。


少女の名前

突如として現れた到底理解できない現実を前にただ茫然と鏡に写る少女を見続ける。

 

 

─────俺は夢でも見ているのか...?

 

 

自分は夢を見ているのではないか?そんな風に考えてみる。

目の前に見えるこの光景は偽りであり、本当の自分は病院で昏睡状態にある。

これが最も納得できる考えだろう。

しかし試しに頬をつねってみても痛みが走るだけで目が覚めることはない。

そして鏡に写る少女が自身の頬をつねっていることに気づいた。

驚いて手を放せば少女もまたその手を放す。

 

 

─────本当に...本当にこの鏡に写る少女は自分なのか...?

 

 

少しでも情報を得ることはできないかと鏡に写る少女を改めて観察する。

肩まで伸びた白い髪、日本人のものとは思えない空色の瞳、薄いオレンジよりもむしろ白に近い色をした肌その全てが19年間付き合ってきた自身の容姿とは似ても似つかない。

 

 

─────分からない。何もかもが分からない。

 

 

自分が何故生きているのか。何故此処にいるのか。何故少女の姿になっているのか。

ヒントはなく、答えらしきものも見つからない手詰まりな状況に全てを投げ出してしまいたい。

 

 

「どうしたの?本当に大丈夫?」

 

 

お母さんの声が聞こえ、顔を向けてみれば困惑した表情でこちらを見つめるお母さんの姿があった。

当然のことだ。お母さんからしてみれば先ほどまでの自分はさぞかしおかしく見えたことだろう。

 

 

「うん。大丈夫。ちょっと気になったことがあっただけ。」

 

 

嘘だ。大丈夫なわけがない。

しかし、だからといって今の自分の状況を馬鹿正直に話すわけにもいかなかった。

そんなことをしてしまえば自分はお母さんから狂人だと思われてしまいかねない。

そして何よりもお母さんに対してこれ以上迷惑になることをしたくはなかった。

 

 

「そっか...大丈夫ならいいわ。そういえばもう起きるの?」

 

「今何時?」

 

「今は8時を少し過ぎたくらいね」

 

「8時かー。じゃあもう起きる。」

 

 

お母さんとごく普通の会話をしているとふとある疑問が頭に浮かんだ。

 

 

─────もしこれが現実なのだとしたら俺の名前はどうなっているのだろうか?

 

 

男の時の自分は『白河裕也(しらかわゆうや)』という名前だった。

だが少女となっている今は苗字は同じだとしても名前はきっと違うだろう。

なら今の自分の名前は一体何なのか。それがとても気になる。

 

 

─────自分の名前は何かなにか?なんてストレートに聞くわけにもいかない。

それとなく聞く方法はないものか...

 

 

「わかったわ。今日は大丈夫そう?1人で階段下りられる?」

 

 

─────うん?別に階段くらい1人で下りられるが...?

 

 

「え?うん。1人で下りられるよ。」

 

「そう。なら先に下りて朝ご飯の準備をしておくわね。」

 

「わかった。」

 

 

そう言ってお母さんは部屋を出ていった。

 

 

─────さっきの言葉が少し気になるがこれ以上この部屋で考え続けるわけにもいかない。

 

 

そう考えベッドから降り立ち扉に向かって1歩ずつ進んでいく。

途中、この体に慣れていないせいか何度も足がふらつき転びそうになるがどうにか扉の前に辿り着く。

 

 

─────ドアノブの位置が思ったより高い...

 

 

遠目からでは気付かなかったが腕を上にあげないとドアノブが握れないことに気付く。

今の自分は男の時よりかなり身長が縮んでいるようだ。

ちょうど頭がドアノブの位置までしかないことから考えるに今の自分は1m程らしい。

どうにか腕を上げることでドアノブを握りこの部屋から出た後のことについて少し考える。

 

 

─────今の自分が少女の姿である以上女の子らしい口調にするべきか...

 

 

郷に入れば郷に従えとは少し違うかもしれないが、いつ元の身体に戻れるかわからない以上は今後のためにも家族や知人に不信感を与えるのは得策ではないだろう。

その為にも誰かと一緒にいる際は女の子らしい口調と振る舞いをし、ぼろが出ないよう気を付けなければならない。しかし...

 

 

─────女の子らしいかぁ...

 

 

当たり前だが女の子らしい振る舞いなんて一度もしたことがない。生まれてからずっと男として生きてきた、男としての生き方がこの身に染みついていることは間違いない。女の子らしくするということは自分のこれまでをすべて否定することに他ならなかった。その上1人でいる時ならばまだしも、誰かといる時はずっとその演技を続けなければならないのだ。

この身体でいる間は何時までも...何時までも...

 

 

─────自分にできるのだろうか?

 

 

夢から、自由から、努力から、現実から、あらよるものから逃げてしまった自分がこんな無理難題を成し遂げられるのだろうか?

 

 

─────いや。違うな。やらなければいけない。

 

 

できるできないなど問題ではない。()()()()()()()()()()()()()

今までの自分を否定することの何が恐ろしい?

男としての自分はあの時あの場所で死んでしまったというのに。

今更男として生きようと足掻く方が見当違いというものだ。

 

 

─────これから先、自分は女として生きて見せよう。

 

 

一体いつまで続くのかはわからない。もしかしたら死ぬまで続けなければならないかもしれない。途中で何度もやめてしまいたくなることだってあるだろう。

だが何があっても成し遂げて見せよう。そう覚悟して部屋の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出て、階段へ向かって歩いていく。

数歩歩くだけで()()()()を除けば記憶と何も変わらない階段を見つけることができた。

 

 

─────手すりがある...

 

 

家の階段には手すりはないはずなのに、なぜか存在している手すりを見て疑問に思う。

少女となった弊害か、思うように動けない今の自分にとってはこの上なくありがたいものではあるが、本来存在しないはずのものがあるとやはり気になるものだ。

自身が男から女になったことによる影響か。それとも()()()()()()()()()()()()()()()でもあるのか。どちらにせよ今の自分にわかることではないだろう。

あって困るものでもないのだから有効に活用しようと思い手すりを持ちゆっくりと階段を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か問題が起こることもなく、無事に2階のリビングへと辿り着くことができた。

部屋を見渡しお母さん以外の家族の姿がないか探してみるが見つからない。自分とお母さん以外に起きている家族はいないようだ。

先にリビングへ下りて行ったお母さんは今何をしているのか気になり、キッチンを覗いてみると朝食の用意をしている姿が見えた。

どうやら朝食にはもう少し時間がかかりそうだ。リビングの本格的な探索は朝食の後にでもするとして、今はテレビでも見ながら寛ぐことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緊急事態だ。

何が起きたのかを簡単に言うとするならば、トイレに行きたくなってしまった。

リビングから1階のトイレには何の問題もなく行くことができた。

寝間着のズボンと見慣れない子供用の下着を下ろし、便座に座ったところである問題が発生したのだ。

 

 

─────なんだかもの凄く恥ずかしい...

 

 

何かいけない事をしているような気分になり、顔がどんどん熱くなっていく。

一縷の望みにかけて視線を下に向けて確認してみたが、そこに自分の望んだモノはなくただ小さな割れ目があるだけだった。

望みが絶たれたことに大きな落胆と少しの安堵を覚える。

 

 

─────あぁ本当に女になってしまったんだな...

 

 

自分を襲った現象を改めて理解し、女となったことを自覚する。

すぐさま視線を上へと向けて見えてしまったものを記憶の外へと追いやろうするが、意識すればするほど余計に思い出してしまいさらに顔が熱くなるのを感じた。

何時かは恥ずかしがらなくなるのかもしれないが、今はどんな些細なことでも恥ずかしく感じてしまう。

そうこうしている内に限界を迎えてしまい、行為が始まる。思わず自分の耳を塞いでしまった。

耳を塞いでもかすかに聞こえる音を指を使って無理やり遮断し、後は一刻も早く行為が終わってくれるようただ願う。

なんとか十秒程の恥辱を耐えることはできたが行為が終わった後も羞恥心でしばらくは動くことができず、ぼんやりした思考で座り続けていた。

 

 

()()()ー。ご飯できたよー。」

 

 

どれほどの時間そうしていただろうか?上の階からそんなお母さんの声が聞こえてきた。

 

 

─────ミソラ...?そうか自分はミソラという名前なのか。

 

 

知りたいと思っていた自分の名前を知ることができたのは良いことではあったが、今の自分にはどうでもよく思えてしまう。

しかし、いつまでも便座に座り続けるわけにもいかずトイレットペーパーの方へとゆっくりと手を伸ばした。

必要な量より少し多めの量を千切り、視線を上に固定したままさっと拭いていく。

未知の感覚に声が漏れそうになったが拭いた後はすぐに水を流し、脱いでいたものを着てさっさとトイレから退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁミソラ朝ご飯の用意できた...って少し顔が赤いけど何かあったの?」

 

「え?あ。いや...な、なんでもないよ?」

 

「ふーん。ならいいんだけど。」

 

「そ、それより朝ごはんは何?」

 

「食パンよ。飲み物は牛乳でよかったわよね?」

 

「うん。大丈夫だよ。」

 

「マーガリンとジャムはそこに置いてあるから塗りたかったら塗ってね。」

 

「わかった。ありがとうお母さん。」

 

トイレから出た後は用意の終わった朝食を食べようとリビングへと戻ってきた。

正直に言うと今も先ほどのことが思い出されてな叫び出しそうではあったがお母さんの前でそんな奇行をする訳にもいかず、なんとか自分を制御していた。

 

 

「いただきます。」

 

 

これからあの行為を何回もしなければならないと考えると気が重い。だがやらないなんて選択はないのだから慣れていくしかないだろう。いつになれば慣れるのかは全くわからないけれど。

それにしてもまさか自分があそこまで耐性がないとは思わなかった。男の時は恋愛経験なんて一度もなかったけれど動画などで身体を見たことはあったのだ。

やはり理想がどうであろうと現実は思い通りにはいかないものである。

 

 

─────そういえばもう1つ確認したいことがあるんだった...

 

 

先ほどの出来事のあまりの衝撃や羞恥心で忘れてしまいそうだったが、もう1つとても重要なことがあった。

 

 

「ねぇお母さん。」

 

「うん?ミソラどうしたの?」

 

「『ミソラ』って漢字でどう書くの?」

 

 

自分の名前の書き方だ。聞かなくても何時かは知ることになるだろうが早い内に知れるのならば知っておきたいのだ。

どういった経緯でつけられた名前なのか。その名前にどんな意味が含まれているのか。

名前を知るということはとても重要なことだ。

 

 

「あれ?言ったことなかったっけ?」

 

「あったかもしれないけど忘れちゃった。」

 

「もう。しょうがないわね。ならもう1回教えてあげる。」

 

 

そう言ってお母さんは紙を取り出し文字を書くと私に見せてきた。

 

 

「美しい空と書いて()()それがあなたの名前よ。」

 

「美空...それが私の名前...」

 

「あなたの瞳の色から取った名前よ。大空の様に広々と自由に生きなさい。」

 

「うんわかった。私頑張る!」

 

「困ったことがあったらいつでも頼っていいからね。あなたは私の大事な娘なんだから。」

 

()()()()()()それがこれからの私の名前で大事な私の証だ。




ほとんどの時間を前半の話を作るのに使いました。
因みに一番時間がかからなかったのはトイレの話です()
書いてて楽しくはありましたが虚無感にも襲われました...
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