隻狼が荒れ寺で仏を彫っていたらいつの間にか荒れ寺ごと幻想郷にいた件について 作:荒北龍
─────多くを斬った。
ひたすらに、その身が血で染まり続けてもなお、斬り続けた。
邪魔をするものは、大義、武功、覇業、求道、欲心、修羅……憎悪も憤怒も悲哀も何区別なく斬った。
為さねばならぬことがある。その為なら、邪魔するものは誰であろうと、容赦なく斬った。斬り伏せた。
数多の人を斬り、人ならざる者を斬り、神を斬り、不死を斬り、友を斬り、恩人を斬り、師を斬り、義父を斬り
主も斬った。
これを修羅と言わず、なんと言うのだ。俺は死に損なった。
しかし俺は、修羅にもなりぞこなった。
人を殺し続けた末に目にしたものは、【何も無い】
俺には人斬りの才があると言われたことがある。しかし、それが無くなれば、自分には何も残らない。
ただの抜け殻でしかないのだ。
§
気がつけばそこに寺があった。
それそれはみすぼらしく、ボロボロで、入口には夥しい程の札が貼ってある、ある意味異質な寺だと、人里ではもっぱらの噂である。
そして薄暗い寺の中に、男が1人座っているのだと。
黒く、ホコリやゴミが絡んだ汚い髪を後ろで束ね、左腕は半ばから切り落とされ、背中には紅い鞘の大太刀と、横には諸刃の刃をし、蓮の花の形をした鍔と、珍しい刀を横に置かれている。
その刀からは異質な気配が感じられるらしい。
人里は、種族の中で最も弱い人間が集まる街。ここでは妖怪たちが人を食ったり、襲ったりすることは固く禁じられ、それを破ったものは、巫女である博麗霊夢に死を持って罰せられる。無論巫女は人間であり、また様々な異変から幻想郷を守った巫女として、その実力は誰もが認めている。故に妖怪たちは"人里は"襲わない。そんなことをすれば自分たちが確実に殺されると知っているからだ。
しかし、人里の外になると、それは妖怪たちが蔓延る異形の世界。
人間風情がたちいれば一日と原型をとどめることすらままならぬ世界。あまたの妖怪が住む森では、人間が一人や二人居なくなっても、誰が殺したか、誰が食ったか、さすがの巫女と言えど、それを特定するのは不可能に等しい。
しかし、この幻想郷にはいくつか掟がある。その中で最も知られるのが、
「一つ、人里を襲うべからず。その者には死の覚悟」
「二つ、妖怪山に普通の人間入るべからず。その者には死の覚悟」
「三つ、妖怪が食べるのは外来人に限る」
矛盾だらけのこのルール。
しかし、このルールのおかげで幻想郷は今も昔も平和が保たれ続けている。特に巫女と言う存在。
幻想郷において、巫女は警察のようなものをはたす。
悪さをするものを退治し、異変を起こした者に重い罰を与える。それが巫女の役目である。
特に人里には、好んで人里を守る妖怪や、中には神すらも住まうと言われている。
人里はある意味幻想郷における、最も安全な場所と言えるだろう。
しかし、外来人の男は人里に足を運ぶことは愚か、近づくこともせず、人里から離れ、妖怪たちの住まう森で、好んで寺に住んでいるだとか。
しかも男は昼夜問わず、なにかに取り憑かれたかのうに、仏を彫っているそうで、その彫る仏は、仏らしからぬ顔をしている。
────怒りに狂っている顔をしているのだというのだ、仏が。
人里では嘘か誠か、そんな変わり者の男の噂が今では人里中に拡がっているとか、いないとか。
§
感想夜露死苦