隻狼が荒れ寺で仏を彫っていたらいつの間にか荒れ寺ごと幻想郷にいた件について 作:荒北龍
「「·····················」」
かつて幕府に雇われた忍、弧影衆が筆頭の一人太刀足と、葦名から御子を護ろうと修羅に堕ちた御子の忍。
お互いに名はなく、忍としての字名を与えられ、お互いはそのまま人としての名を与えられることはなかった。
ただ、主の命令通り命を奪う殺戮兵器として生き続けた。
二人は黙々と部屋の掃除をしていた。
「我はここに来て数年経った」
突然太刀足が口を開き、その話を狼は無視することなく耳を傾けた。
「人を殺さずに貰う銭···············存外悪くはなかった」
「···············そうか」
「俺はもう、忍として終わってしまったようだ」
「そう、か··········」
忍として終わる。
それは死ぬ事では無い。
道具である事をやめた時、忍は忍で無くなる。
人としての情を持ち、人殺しに疑問を抱き、何も考えずに誰かを殺すことの出来ない忍びなど、それはただの人斬り。
忍びは何か考えてはならない。
忍はただ、道具として何も考えず、目の前の敵を殺し、主君の命令に従えば、それでいい。
それ以外を得た時、その者は忍びでは無い。
そして、自分もこの男のように既に、忍としての自分は死んでしまっていた。
「他の弧影衆はどうなった?」
「···············」
弧影衆は大勢斬った。
おそらく太刀足の仲間と呼べるものは誰一人この世に残ってはいまい。
それほど多くを斬った。
後悔はない。気の毒とも思わん。
自身の目的のために邪魔な者は大勢殺してきた。
今更も今更というもの。
何より、腐っても忍。
死ぬ覚悟もない臆病者など、誰もいなかった。
死んだら、それまでだったということだ。
「そうか」
太刀足はそのあと何も言わなかった。
ただ淡々と掃除場所を言い、掃除を進め、何も言わず、掃除が終われば姿を消した。
「あいつね、最初の頃はもっと反抗的だったのよ」
「···············」
突然自分の後に現れたレミリアに隻狼は驚きはしなかった。
ただ、かつて首のない妖怪と戦った際、逃げようとした瞬間突然背中から現れ、自分の後ろの穴に手を突っ込まれて殺された経験を思い出し、レミリアから距離を取り、サッと尻を隠した。
「何よ、何もしないわよ」
「いや、なんでもない」
何かとんでもなく失礼なことを思われたと思いながらも、そこは流した。
「···············影か」
「あら、鋭いわね」
隻狼は自分の影を見つめながら、再びレミリアを見た。
影に入る物の怪は見たことがなかったが、自分の影のようなものを飛ばし、複数体になって戦う者がいた事を思い出す。
幻術か、あるいは妖術か、どちらにせよ目の前の女もそれに似たようなことが出来るのだろう。
「アイツから渡すよう頼まれたわよ」
「···············これは」
「わざわざ手紙なんて渡さなくても、直接話せばいいのに。て言うか私に雑用押し付けるなんていい度胸してるわねアイツ!私雇い主なんだけど!」
そんな愚痴を零しながらも、隻狼に太刀足からであろう手紙を渡される。
───今夜、門の前へ来い。主無き忍よ