生まれ変わって10年、この世界には鬼がいない。しかも大正ではない。
この平和な世の中で俺はパン屋の長男。
「今日も美味しいパンを焼くぞー!」
「お兄ちゃん、今日は会計をしたいって言ってたよね」
工房から話しかけて来たのは、妹の禰豆子だ。
そして昨日、約束したことを思い出した。しかし、工房を禰豆子一人に任せるのは少し心配だ。
「大丈夫か禰豆子?」
「心配いらないよ!昨日お父さんが生地を作ってくれたから焼くだけ」
さすが父さん。クーポン券とポイントカードの準備万端っと。
「今日も一日頑張れ炭治郎!!」
営業開始だ!
土曜日ということもあって忙しい1日だった。そろそろ看板を下ろそうっと思っていると店の扉が開かれる。
「いらっしゃいませ!こんにちは!」
「ヒィィ…ッ」
来店したお客さんに見覚えと嗅いだことがある匂いがする。その金髪も汚い高音も俺は知っている。
「善逸じゃないか!再会できて嬉しいよ!!」
「ぃいやあぁぁ!な、なに?なんで俺、男に抱きしめられてるのぉ!?なんで俺の名前知ってんるのぉ!?コワィィ!!」
「お、落ち着いてくれ善逸!」
動揺する善逸を俺はなだめる。
「な、なんで名前知ってんだよ!ストーカーなの!?男のストーカーはいらないよぉ!!」
善逸は鬼殺隊のときの記憶がないんだな。名前を読んだのは不味かったかな。
「同姓同名の古い友人に似ていたから感極まって抱きしめてしまった」(嘘をつくときの顔芸)
「なにその顔!絶対嘘じゃん!音でわかるからなっ!?」
今世でも善逸の耳は物凄いみたいだ、これはまいった。
「お兄ちゃん、お店が騒がしいけどココアさんが来たの?」
「禰豆子、いいところに来た!」
工房から顔を出す禰豆子。
「え、なにその子!めっちゃカワイイ!!結婚して下さい!」
「えっなに?どうしたのこの状況?」
禰豆子のおかげで話をあやふやにできた。
「お会計は以上です」
「あのさぁこのクーポン券の量はなに?多くない」
「また来てくれよ善逸!」
話をそらす。
「来るよ!クーポン券貰わなくても来るよ!あとお前の名前教えろよ!なんで俺だけ知られてるの!」
「パン屋の長男!竈門炭治郎だ!これからもよろしく」
「じゃあな炭次郎!また来るよ禰豆子ちゃん!」
いつもの調子で店を後にした。
「「ありがとうございました!」」
善逸が帰っていく。この世界では善逸も平和に暮らしているんだな、よかった、よかった。
「お兄ちゃん、あの人と知り合いなの?」
禰豆子が聞いてくる。
「あぁ!善逸って言って優しくて強い奴だ」
「へぇ〜善逸さんかぁ」
もしかしたらこの世界には善逸だけじゃなく伊之助や義勇さんもいるかもしれない。いるとしたら会いたいな、善逸、次はいつ来てくれるだろう。また考えていると店の扉が開く。
「すみません営業終了してしまって」
「遊びに来たよ炭治郎くん!」
「ココアか」
お客さんかと思ったらココアだった。
「はいこれパンのおすそ分け」
どうやら売れ残ったパンを持ってきてくれたみたいだ。
「珍しいな。売れ残るなんて」
「いや〜多く焼きすぎちゃってね」
「何かあったのか?」
「半々羽織の無口そうな、お兄さんが沢山買っていってね。それで多く焼いたの」
「そんなことが」
半々羽織で無口…義勇さんかもしれない。
「それって臙脂色と特徴的な模様が入った半々羽織じゃなかったか?」
「え、そうだけどなんでわかったの?教えて!」
やっぱり義勇さんだ!この世界にいるのか会いたいな。
「そのお客さん知り合いなんだ」
「そうなんだ!」
驚くココア。
「また来たら、うちの店も進めてくれないか?」
「うん、いいよ!」
義勇「全種類(を一個ずつ)貰いたい」
ココア「???」
しのぶ「言葉が足りませんよ。そんなだから皆んなに嫌われるんですよ」
義勇「俺は嫌われてない」
ココア「全種類ってどういうことですか?」
しのぶ「店のパンを全部欲しいって意味です」
義勇「(そんなこと)いってない」