漆黒の泥 作:完璧な超兵
『聖教会転使化計画』、それは聖剣計画を隠れ蓑として研究された人類を更なる高みへと発展させるための極秘計画である。
手段として、まず聖剣計画に使用する幼児の幾らかを回収、研究所にて飼育することによって各個人の特徴を全てデータ化。その後、様々な実験を通してより素質のあるものを選別する。不要なものは再び聖剣計画の人員として配備、もしくは異端者として適切な処理をする。
優秀な個体として選ばれた検体に各番号を振り分け、徹底的な管理と調教を行う。これによって、成功例が出た場合の再現を容易とすることができる。
どのような状況でも墜ちる事がないよう、全検体に共通して異端者の処理を行わせる。幼い頃から死を身近なものにすることで、検体に強い忍耐力を形成する。
契約を破る個体は他全ての検体によって罰を与える。検体同士が監視、管理をすることで、反乱分子の鎮静化はもちろん、我々の経費削減をすることも可能だ。それに加え、のちに来るであろう部隊統率にも有用である。
また、常に神の御前で生活させることによって、信仰心をより確かなものにする。
以上を持って、『聖教会転使化計画』とする。
この計画の最終目標は、我々の手によって天使を造り上げることである。
天使増産の成功によって、いずれ来たる黙示録への対抗手段とすることができるだろう。我々教会が独自戦力を用意することで、三大勢力らへの多少なりともの牽制ともなるはずだ。
天使でありながら天使ではない、決して堕天することのない完璧な存在を造ることで、全ての存在を超越せんとするこの計画は神の下に必ずや成功を収めるだろう。
これより、簡易報告を行う。
天使を造るにあたって、検体数十体を聖水に漬ける。研究者の些細なミスにより、幾らかの検体の死亡を確認。残骸処理後、実験を再開。
実験終了後データを取るも、全ての検体が誤差程度の変化すら出さなかった。どうやら聖水に漬けるだけでは効果は出ないらしい。
後日、研究者の一人が検体の血液を全て聖水に置き換えてみてはどうかという提案があった。実験途中にまたもや幾らかの検体を処理する羽目となった。
結果は言わずもがな失敗であった。
我々は考えを改め、先に検体の身体改造を行うこととした。
悪魔へ依頼を通し数体の天使を確保。その後、検体に天使の血液を注入。他にも臓器移植や骨髄移植などを行った。
もちろん悪魔たちは適切に処理し、その後実験素材として活用する。
結果はなかなかのもので、検体たちは着実に天使に近づいている。転使の完成もそれほど遠くないようだ。
緊急報告。
悪魔と天使の血液を一定量注入した検体に特別な反応を感知した。
検体の汚染耐久テストのため行った本実験だったが、我々の予想を大きく上回る結果となった。
検体の天使と悪魔の血液が拒絶反応をおこし、急激な細胞分裂により死亡した。肉体が大きく肥大していたことから、相反するものに対抗するための細胞の急成長に検体の肉体耐久値が不足していたと予想。
実験を続行し、より多くのデータを収集する。
臨時報告。
聖剣計画にて、聖剣因子なるものによって疑似的に検体を聖剣使いにすることができるという旨の報告を受けた。
我々はこれを受け、天使から因子を抜き出す計画を立案。
失敗作こそ多く出たが、無事因子の摘出に成功。これを検体に移植した。
どうやら天使の因子は一般の検体には有り余るようで、全ての一般検体の死亡を確認した。
対しすでに天使の臓器移植を終えた検体には有用であり、より力を高める結果となった。成功であると言えるだろう。
報告を行う。
因子を組み込んだ検体に悪魔の血液を注入した結果、検体の身体に一部異常が検知された。
血液の注入箇所より、検体の身体が壊死する状態を確認。
一週間経過する頃には検体の身体は完全に壊死し、解剖しようと動かすと崩れてしまった。
以降検体らへ悪魔の血液を注入し次第、細かく身体検査を行い、常にデータを最新のものにしていくこととした。
おそらく、これが最終報告となるだろう。
実験は成功した。悪魔からも因子を取り出し、検体に与えることとした。
やはり、それだけでは肉体が分裂することは防げなかったので、最終手段として『
幾らかが発狂死したことを除けば、検体全てが耐性を獲得した。
過剰な細胞分裂によって死滅する肉体を外部から再構成することによって、検体の身体は徐々に変化に対応していく。
これ以上ないほどの素晴らしい結果と言えるだろう。
体中の細胞という細胞が互いを喰らいあって数ヶ月がたった。
しかし。
「それも今日で終わりだ」
検体の口が三日月に裂けた。
蘇生薬で満たされた水槽を内側から破壊する。検体の背にある白く輝く翼が、徐々に黒く染まっていく。
検体は数ある実験を耐え、無事転生し、そして反転した。
造られた転使は、もう一回りして堕転することとなった。
肉体的自由を手に入れた検体は、まず他の検体の水槽を破壊して回った。
水槽を破壊された転使たちは恐怖する。水槽を破壊して回る検体にではなく、神に反する行いをした己自身にである。
検体らは頭を抱え神へ贖罪の祈りを捧げる。
白き翼は震え、まるで生まれたばかりの小鹿だ。しかし、検体の祈りもそう長く続かなかった。
グシャ。
変容した検体が、地に付した検体の頭蓋を踏み抜いた。
「転使が地に頭をつけるなんて、どうかしてると思わないか。なァ検体諸君?」
白き検体たちは理解した。
目の前の黒き検体こそが、自分たちの信仰を踏みにじった異端者なのだと。
転使たちは一斉に目の前の異端者に襲い掛かった。
これは粛清だ。
神の名の下に行われる正当な行為である。我々こそが正義であり、神のもとに名を連ねる転使なのだ。
「ハッハ、ハハッハッハァ!最高だぜ兄弟!!最高に狂ってやがるなァ!俺も!てめえらも!」
実験により大きく数を減らしたとはいえ、数十体の転使による粛清だ。たった一人の異端者如きが、この粛清を逃れることはできない。
その筈だった。
「俺はこんなところじゃあ死なねェ!てめえらみたいなありもしねェ神なんかを幻視してる奴らに俺の邪魔はさせねェ」
骨を砕き肉を割き臓物を抉り出す。
この男は、転使たちにとって間違いなく『悪魔』であると言えるだろう。
数多の実験により得た殺戮技術と、それを一切の躊躇なく振るう精神。悪魔の因子を受け、堕転したことによって変容した肉体は、他のそれとは隔絶された力となって転使たちを襲う。
「てめえらの動きは全部わかるんだよォ!ただ力を振りまくだけで、思考が追いついてねェんだ。そこらの獣となんにも変わんねェ!!」
ほんの数分で転使の白い翼は赤く染まった。
男の背後には転使だったものの残骸が積み重なり、小さな池を作っている。
そして最後、部屋の隅にまで追いやられた転使がいた。
「た、助けてくれ.....死にたくない!」
転使の必死の命乞いに、再び男の口が三日月に裂ける。
「ダメだァ!てめえはここで死ぬ。サヨナラだァァァッハハハッハッハッ!!」
バギッ。
部屋の隅に、もう一つ小さな池ができた。
男は部屋を出る。
この施設にいる全てを殺し、そして自由を手に入れる。今の彼にとってそれはさして難しいことではない。逆に、研究者たちが彼から逃げることはほぼできないと言っていいだろう。
男の眼は、転使たちの作った池と同じ色に輝いていた。
片田舎の教会一つが火災によって焼失した。
鎮火され、救出隊が教会に侵入した所、生存者はおらず、数十体の焼死体が発見された。
また、地下にて何らかの研究をしていたと思われる実験場を発見したが、火は地下にも回っており、何の実験を行っていたかは確認できなかった。
以上、火災事件の報告を終える。
「ハ、ハッハッハハハハッハハァ!自由だ!俺は遂に自由を手に入れたんだ!!ハッハッハハハッハッハ!」