異形種プレイヤー「黒の矢師」   作:兵庫人

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「つっっかれた~! 全くあいつらいい加減にしろよ……!」

 

 何とか追ってきていた冒険者達を振り切り、スラム街の奥深くまで逃げたクロクレスはようやく足を止めると、心から疲れた声を出した。

 

 周囲を見回すと人の気配は全く感じられず、空を見上げると太陽はすでに沈んでいて代わりに月と星が見え、それによって自分がどれだけ長い時間冒険者達に追いかけ回されていたのか再確認すると、クロクレスはため息を吐く。

 

「はぁ……。毎日これじゃあ、たまったものじゃないよ。なんとかならないかな……」

 

 クロクレスの身体能力は冒険者達とは比較にならないくらいに高く、彼らから逃げるのは容易なのだが、こう毎日狙われては精神的に疲れてしまう。彼は冒険者達に狙われない案がないか考えてみる。

 

 案その一、「忌まわしき狩人シリーズ」の販売を止める。

 

 ……却下。「忌まわしき狩人シリーズ」の販売はクロクレスが金銭を得る唯一の手段だ。これを止めると彼が金銭を得る方法は自分も冒険者になるくらいしかない。

 

 しかしこの世界の冒険者の仕事は、ユグドラシルの冒険者とは違って日雇いの傭兵か何でも屋みたいな内容。そんな夢のない職業に就くなんて真っ平ごめんである。

 

 案その二、路上販売を止めて「忌まわしき狩人シリーズ」を冒険者組合に卸す。

 

 ……却下。実はクロクレスは「忌まわしき狩人シリーズ」のせいですでに冒険者組合から目をつけられており、何度か冒険者になるよう誘われている。

 

 その状態で「忌まわしき狩人シリーズ」を冒険者組合に卸したりしたら、いよいよ冒険者組合の誘いを断り辛くなる。

 

 案その三、「忌まわしき狩人シリーズ」の値段を上げて求める客の数を減らす。

 

 ……却下。いきなり値段を上げると客である冒険者達から不満が出るだろうし、その上路上で大金のやり取りをしていたら面倒なトラブルが起こる可能性がある。

 

「……本当、どうしたものかな。………何?」

 

 中々良い案が思い浮かばずため息を吐きそうになったクロクレスは、突然自分の左腰にある小物入れに視線を向けると次に自分の背後を振り返った。振り返った先には誰もいなかったが、彼は油断なく背後に向き直ると口を開いた。

 

「……おい。そこにいるんだろう? 隠れていないで出てきたらどうだ?」

 

「あっれー? どうして分かったのー?」

 

 クロクレスがそう言うと、彼の視線の先の物陰からフード付きのマントを羽織った女性が現れてフードをとってみせた。フードの下から現れたのは若く非常に美しい女性の顔だったが、その殺意に満ちて濁った瞳が妙に気になった。

 

「初めましてー。私の名前はクレマンティーヌ。貴方が最近噂のクロクレスさんだよねー? 初めましてー」

 

 そう言ってマントを羽織った女性、クレマンティーヌは手を振りながらクロクレスに挨拶をする。そして彼に向けて振っている手には「忌まわしき狩人シリーズ」の矢が握られていた。

 

「その矢は……。君も俺に『忌まわしき狩人シリーズ』を作って欲しくて追ってきたのか?」

 

 クロクレスはクレマンティーヌが持つ自分が作った作品を見て、彼女も先程まで自分を追いかけ回していた冒険者達と同じなのかと思ったが、クレマンティーヌは首を横に振って答えた。

 

「ううん。違うよー? 私はね、クロクレスさんを殺しに来たんだー」

 

「………は?」

 

 クレマンティーヌの発言が意外だったのかクロクレスは思わず呆けた声を出し、その様子を見た彼女は上機嫌に笑って、そして同時に纏っている殺気を濃くしながら話す。

 

「クロクレスさんが作ったこのマジックアイテムって凄いよねー? これがあればどんなモンスターが相手でも怖くないって感じ? でもそれってさー? 強くなる為の努力を全否定しちゃっているよねー? 私も強くなるのに相当努力したからそういうのって許せないの。だからここで私が貴方を殺そうと「もういいです」……あ?」

 

 楽しそうに話すクレマンティーヌの言葉を、彼女とは別の女性の声が遮る。そしてその女性の声は、クロクレスの左腰にある小物入れから聞こえてきて、彼は小物入れからそこにある物を取り出した。

 

 クロクレスが小物入れから取り出したのは、粘液に塗れた直径十センチ程の黒い結晶体であった。

 

「ああ? 一体何よそ、れ……!?」

 

 クレマンティーヌは、クロクレスが取り出した粘液に塗れた結晶体を見て怪訝な表情を浮かべるが、突然結晶体を覆う粘液が急激に増えたのを目の当たりにして表情を驚きに変えた。

 

 粘液は増え続け、クロクレスが黒い結晶体を手から離すと、大量に増えた粘液は黒い結晶体を自らの中心に取り込んだ後、その姿を変え始めた。そうして粘液だったものは、燃えるような紅い髪をしたメイドの姿となるとクレマンティーヌの目を見ながら口を開く。

 

「もはやこれ以上貴女の話を聞く必要はありません。貴女はクロクレス様の敵、それ故に排除します」

 

「な……! い、いきなり出てきて何を言っているのよ? アンタ、一体何者なわけ?」

 

「私ですか?」

 

 驚いた顔をしたクレマンティーヌが聞くと、紅い髪のメイドは表情を変えることなく、しかしどこか誇るように答えた。

 

「私の名前はシャイン・ダーククリスタル。こちらにいらっしゃるクロクレス様の唯一の眷属であり、先程お見せしたクロクレス様の秘宝『シャイニング・トラペゾヘドロン』の守護者です」

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