異形種プレイヤー「黒の矢師」   作:兵庫人

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 時は少し遡る……。

 

 ユグドラシルのサービス終了日。ナザリック地下大墳墓の地下九階層にある円卓の間。

 

 かつてはギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のメンバー四十一人が集まり賑わっていた大広間は静寂に包まれており、ギルドメンバーの数と同じ四十一の席にはただ一人のプレイヤーしか座っていなかった。

 

 そのプレイヤーは豪奢なローブを羽織った骸骨であり、前を開いたローブからは空洞の腹部に浮かぶ宝玉が見えた。

 

 この骸骨の姿をした異形種プレイヤーの名前は「モモンガ」。アインズ・ウール・ゴウンのギルド長であり、他のメンバーが全員ユグドラシルを引退していく中で唯一このゲームに残ったプレイヤーである。

 

「はぁ……。やっぱり皆、来なかったか……」

 

 円卓の間にある自分の席に座りながらモモンガはため息を吐いた。

 

 モモンガは四十人のギルドメンバーにサービス終了日くらい集まらないかとメッセージを送ったのだが、彼が知っている連絡先はユグドラシルでのみ使用されているもので、本人でさえもメッセージが届いている望みは薄い。そして案の定、モモンガは今日一日だけリアルの会社から有休をとって朝からユグドラシルにログインしていたのだが、すでに午後十時になった今でもログインをしたギルドメンバーは一人もいなかった。

 

「それにクロクレスさんも来てくれないし……」

 

 クロクレスはアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーではないが、それでも数年前から知り合って今でもユグドラシルで遊んでいる希少な友人だ。だからこそアインズは今日、彼にこのナザリック地下大墳墓に来て欲しいとメッセージを送ったのだが、彼はやって来ないどころか返事すら寄越してこず、それがモモンガを更に落胆させていた。

 

「こうなったら俺の方からクロクレスさんの所へ行こうかな? あの人だったらいつもの街で路上販売をしているだろうし」

 

 ユグドラシルのサービス終了日を一人で迎えるのは寂しいと思ったモモンガは、クロクレスがいる場所に向かおうとした。するとその時……。

 

 

「あれ? モモンガさん、何処へ行くんですか?」

 

 

「っ!?」

 

 モモンガの耳に懐かしい、聞き覚えのある声が聞こえてきた。そして彼が声のしてきた方を見ようとした時、目の前にメッセージ画面が浮かび上がり、その画面には次の文章が記されていた。

 

 

《「ヘロヘロ」さんがログインされました》

 

 

「へっ! ヘロヘロさん!? 本当にヘロヘロさんなんですか?」

 

「ええ、そうですよ。おひさーです。モモンガさん」

 

 突然の出来事にモモンガが驚きながら声がしてきた方を見ると、そこには漆黒の粘体の外見をした異形種プレイヤー、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーであるヘロヘロが照れ臭そうに手(?)を上げて挨拶をしていた。

 

「本当にお久しぶりです。ヘロヘロさん、来てくれたんですね」

 

 先程までの落胆ぶりは何処へ行ったのやら、モモンガは心から嬉しそうな声でヘロヘロを迎える。こうしてギルドメンバーの一人でも来てくれただけで、モモンガはこうして一人ユグドラシルに残ってナザリック地下大墳墓を維持してきた思いが報われた気持ちであった。

 

 しかし、モモンガの幸福はまだ終わっていなかった。

 

「そういえばモモンガさん。他の皆もそろそろ来る頃ですよ?」

 

「他の皆? それってどういう……?」

 

 ヘロヘロの言葉にモモンガが聞き返そうとした時、再び彼の視界にメッセージ画面が、それも今度は複数浮かび上がる。

 

《「ペロロンチーノ」さんがログインされました》

 

《「ぶくぶく茶釜」さんがログインされました》

 

《「武人建御雷」さんがログインされました》

 

《「弐式炎雷」さんがログインされました》

 

「……!? これって!」

 

 メッセージ画面に記された文章を読んだモモンガが驚きながら前を見ると、そこには新たな四つの異形の影があった。

 

 全身から黄金の輝きを放つ鳥人。

 

 全身がピンク色の粘体。

 

 日本の甲冑を身に纏った頭部に角を生やした巨人。

 

 忍者装束を身に纏っい覆面を被った男。

 

 彼らもまたヘロヘロと同様に長らくナザリックから離れていたアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーであり、彼らの姿を見たモモンガは震える声で話しかける。

 

「み、皆さん……! 本当にお久しぶりです……!」

 

「ああ、はい。お久しぶりです、モモンガさん」

 

「久しぶり。今まで来れなくてごめんね、モモンガお兄ちゃん」

 

 モモンガの言葉に金色に輝く鳥人ペロロンチーノが返事をして、リアルでは声優の職業についているピンク色の粘体ぶくぶく茶釜が可愛らしい声でそれに続く。

 

「久しぶりだな。モモンガさん、相変わらずラスボスっぽい凶悪なアバターだな」

 

「建やん。久しぶりの挨拶でそういう事を言うか? 久しぶり、モモンガさん。長い間すまなかったな」

 

 甲冑を身に纏った巨人武人建御雷が豪快に笑いながら再会の挨拶をすると、忍者装束を身に纏った男弐式炎雷がそれを注意してから自分もモモンガに挨拶をする。

 

 

 こうしてナザリック地下大墳墓に、長い間ユグドラシルを去っていたアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーが五人だけとはいえ帰還した。そしてそれはこの場にいない一人の異形種プレイヤーの働きによるものであった。

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