イケメンは海へ往った   作:勇気生命体

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一つや二つは鉄板ネタが欲しい

 ガレオン船に積み込まれていた棺桶やらと一緒に、フィンは海賊船に運び込まれた。グランドラインに殴りこんでくる海賊にしては人数が少ない。

 これなら雑用の手が足りてないかもしれない。そういう船は労働力を対価に相乗りさせてくれることが多い。ねらい目だ。

 

 船の甲板に優美に座ると、船員たちがフィンの前に立った。

 オレンジ色の髪の女が先ほどの黒髪の青年を怒鳴りつけた。

 

「ルフィ! あんたまた変なの拾ってきたわけ!?」

「おう!」

「おう! じゃないわよ!! おう! じゃ!!!」

 

 二人はわちゃわちゃと言い合いを始める。

 その間にフィンはこの海賊たちに取り入るための観察を始めていた。個人が生き残るためには集団に迎合するのが、最も簡単な方法なのだ。

 

 言い合いをする二人の内、青年は取り入りやすそうだ。ああいう腕白そうな人間は大した理由なくよそ者を迎えてくれる。逆に女の方はなかなか手ごわそうだった。ちらっとこちらを見たっきり、あとは青年に意識が集中している。ああいうタイプはイケメンに靡かない。

 

 見るからに強そうな剣士は警戒を解くことなく、じっとフィンを睨んでいる。まずフィンの勝てる相手ではないだろう。警戒心といえば妙に長い鼻の男はフィンを強く警戒している──というよりも少し恐れてさえいるような感じだ。そして、ずいぶん離れたところに小さな鹿人間がいる。悪魔の実の能力者なのか、それともそういう種族なのかはわからなかった。

 

 フィン自身が最も警戒しているのは、金髪の男だった。男は妙に怒気のこもった視線をフィンに送っている。しかし、黒髪の美女がフィンなど気にも留めないで棺桶の方に取り掛かると、ひどく表情筋を緩ませてそちらの方に行ってしまった。典型的な女好き。この男が悪意ある人間なら、間違いなく命の危機だ。今までもいくらでもあったことだが、イケメンが+に作用するとは限らないのだ。

 

「危ないところを助けていただいて、ありがとうございました」とりあえずフィンは言う。「命以外はなんでも差し上げますから、船に乗せてください」

 

 オレンジ髪の女の耳がぴくりと動いた。損得勘定で動くタイプなのかもしれない、とフィンは思った。

 

 しかし、女が何かを言うよりも先にルフィと呼ばれた青年が「おう、いいぞ!」と言った。あまりにあっさりと。

 

「ルフィ!」女がまた怒鳴る。

「いいんだ! 俺はもう決めた!」

「ありがとうございます! 船長さん!」

 

口ぶりから船における地位を察したフィンが素早く言う。

 

「実は商業船に乗っていたんですが、激しい嵐に巻き込まれ船は転覆。私はオールの流された小舟で遭難していました。それが今度は空からガレオン船! たまたま生きてたからいいものを皆さんが来てくださらなかったら、そのまま溺れ死んでたちんけな旅人なのです。かなづちの!」

「かなづち?」

 

 かかった! 妙に芝居がかった口調で一気にまくし立てたフィンは心の中でガッツポーズをした。

 

 この大海賊時代にたった一人で旅をする酔狂な一般人は少ない。まず基本的には海賊か賞金稼ぎを疑われるところだろう。しかも(戦闘力などまるでないとはいえ)悪魔の実の能力者ならばなおさらだ。ゆえに一番信用を得られる方法は自分から手の内をさらすことである。フィンは正真正銘の一般人だ。探られて痛い腹はない。もちろん危険もあるが、理由もなく殺してこないような相手には隠し事をする方が、後々厄介なことになりやすいものだ。

 

 ルフィは間違いなく面白いものが大好きで、下手に喧嘩を売らなければ攻撃はしてこないタイプだと考えられた。そのためフィンは、芸人のように自分自身をアピールすることで、手の内を晒すついでに心証をよくする腹づもりなのだ。

 

「そう! 私はなにを隠そう、あの悪魔の実を食べた男なのです!」

 

 その言葉で船員全員の意識がこちらに裂かれた。警戒している者もいるが、間髪入れずに言う。同時に力を解除した。

 

「──これが私の能力です!」

 

 反応は様々だ。だが全員驚愕していることだけは確かだった。

 

「ぶ、ブサイクになったー!!!」何人かの声が重なった。

「マネマネの実みたいな能力か?」剣士がそう呟いた。

「いいえ」フィンは答える。「俺が食ったのはヒトヒトの実モデル〝イケメン〟! ゾオン系の能力者さ」

 

 フィンは自分本来の顔のまま如何にも豪胆そうに言う──もちろん、内心は彼らに気に入られたかどうか不安でびくびくしている。

 

「ちなみに、イケメンになる以外、出来ることはなにもねぇ! ……だから、掃除ぐらいしか出来ることはねぇ!」

「いや、そんなに自信満々に言うことじゃねぇよ」長鼻の青年が言う。

「そんな俺だが、この船に乗せちゃあくれないか?」

「おう! いいぞ!」

 

 ルフィがにかっと笑いながらそう言って、今度は誰も咎めなかった。オレンジ色の髪の女もため息をついただけだ。

 とりあえず、フィンの命は大丈夫なようだった。

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