「すごいですねぇ。こんなありあわせでそこまでのモノを」
「へへーん。もっと褒めたたえてくれていいぜ。……ていうか、アンタさっきと口調が変わってないか?」
「イケメンにはこっちの方が似合うでしょう?」
「なんだそりゃ」
ウソップは呆れたように眉を下げ、酒樽で作った潜水スーツの最終調整に移る。フィンは言葉の通りに感心しながら、海の底を考えて身震いした。水面よりはマシだが、海底もそれなりに怖かった。
麦わらの一味がフィンのことをとりあえず船に置くことに決めた後、彼らは空から降ってきたガレオン船に関する話を始めた。いや、空の話をしたと言った方が正確だろう。
彼らはガレオン船は空にある島から落ちてきたという。素敵な話だが、フィンにはおとぎ話のように感じられた。ガレオン船にあった棺桶の中の骨はかなり昔のモノらしいが、それでもそう思った。しかし、その空島について楽しく話す麦わら海賊団の人々は好ましかった。
いや、もっとはっきりと言うべきかもしれない。フィンはもうすでに彼らのことがかなり好きになっていた。甲板の掃除──この冒険ですっかりこれが得意になった──が終わったときにお礼を言われたことや、おずおずと質問すれば快く答えてくれること、特にフィンを見下したり、虐げたりしないところが好きだった。
フィンが話しているうちにガレオン船は海の下に沈んでしまったので、彼らはそれをサルベージすることにした。そこでウソップが潜水スーツを作ることになったのだ。フィンはその手伝いに名乗りを上げた。雑用に近いことはすべてやるつもりだったが、これに関しては単に工作好きなので、作業が見たいだけだった。作業を通して、フィンとウソップとはかなり仲良くなれたようだった。
潜水スーツが完成すると、ルフィ、ゾロ、サンジの三人が海底に向かってダイブした。どうやら彼らが腕っぷしビックスリーらしい。空気供給のホースは正常に作動しているようで、彼らは無事海底に向かった。取り付けられたマイクから、元気な声が聞こえる。
ふとフィンの耳に奇妙な声が聞こえた。サルとかなんとか。明らかにマイクから発せられるものではない。
すぐに声の正体はわかった。海賊船だ。
「サ~ルベ~ジ! サルベ~ジ♪」
奇妙な歌を歌いながらこちらの船のすぐ横に止まった海賊船の中から、妙にサル顔の男が現れた。
「おい、おまえらここで何してる。ここは俺のナワバリだ」
「今度はサルみたいなやつが……」
短期間で奇妙な人間に出会いすぎたせいか、ナミがぼそりとそう言った。それに反応してマシラの視線がナミに向く。
「このマシラ様がサルみてぇだと!?」
「やばっ!」
「そんな俺はサルみてぇか!!?」
マシラと名乗ったサル顔はでろんでろんに顔を綻ばせて、そう言った。「はぁ」とナミが疑問の声を出すのが早いか、それともフィンが口を開くのが早いか。ともかくフィンは言った。
「もちろん! あなたはまさしくサルですね!」
「ちょ、ちょっと──」
「──そーか! そーか! いや、まいったなぁ! 俺はそんなにサルあがりか?」
「もちろん、サルあがりですよ! それで……マシラさんは、やはり……サルベージに?」
「おお、そうだ! なんだ? お前まさか俺のファンなのか?」
「ええ、まぁ。見学してもいいですか?」
「もちろんだ! 好きなだけ見るといい!」
マシラはそういって、何やら作業に戻ってしまった。
その光景を見て、ナミやウソップ、チョッパーがフィンの方を見た。
「……すまない。媚びれる隙があると、ついつい人に媚びてしまうんだ」
「お、おう」
「まぁ、あいつら絆されたみたいだし、ナイスフィンさん!」
「ありがとう、ナミさん」
とりあえず、船の上に残ったフィンたちは、マシラに気が付かれないように、海底に潜った三人に対して空気供給を続ける。そして、マシラがサルベージの準備が終わるのを見て、フィンは驚愕した。なんと、マシラは船に空気を吹き込んで──まったく文字通りの意味だ。彼は何らかの方法で海底の船にホースを取り付け、驚異的な肺活量を使って空気を船に送り込んだ──船を持ち上げようとしているらしい。
メリー号に残った人々がこれではルフィ達がサルベージをしているのがばれてしまうのでは、と思った。案の定、海の中で何かがあったようで、マシラは妙にかっこつけた──多分、こちらに考慮したのだろう──口上を述べると、海の中に飛び込んだ。
やばい! フィンは思ったが、すぐにやばいの意味が変わった。
船の下に巨大な影が現れる。巨大あまりに巨大。船の何倍もの大きさだ。
「あ」
フィンが息を漏らした。二つの海賊団がサルベージしようとしたガレオン船は、巨大すぎる亀に食われた。なんということだ。フィンは思ったが、口にはできなかった。驚愕が大きすぎて、まったく口が動かなかったのだ。
麦わらの一味たちは全くの反対のようで、ロビン以外はすさまじい狼狽を見せ、騒ぎまくっている。最終的にナミの意見で、三人を見捨てること方向に行った。鬼か。
船上のパニックがピークに達したとき、突然あたりが暗くなった。夜になるには早すぎる。フィンは習慣的にあたりを見回した。
そのため一人気づく。巨大な亀など比較にならない大きさの、真っ黒な巨人が近くに立っていることに。
今度は口から言葉が出た。意味など持たない悲鳴だったが、声帯が動いたのは確かだ。
「怪、物!!!」
その瞬間、海底に潜っていたルフィ達が船に飛び乗ってくる。生きていたことに安堵するだけの余裕はフィンになかった。そんなフィンの様子に気が付いた何人かが、彼の視線の先を追う。全員にその脅威が伝わるのに十秒もいらなかった。
『怪物だああああ!!』
誰かがそう叫んで、麦わらの一味は全力を持って、メリー号を動かした。突然始まった夜が終わるまで、絶対に止まることはなかった。