イケメンは海へ往った   作:勇気生命体

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海の上の町
水の都


 荒くれ者の島であるジャヤから、魚人島を目指して出発してから早数か月。フィンは自身の心境の変化以上に、世界の変化を感じていた。その変化の中心にいるのが、フィンのあこがれの男、麦わらのルフィである。

 

 最強の海賊であった白ひげと、海軍との戦争に殴りこんだ麦わらのルフィは、散々戦争を引っ掻き回した後、撤退。さらには後日、マリンフォードに元七武海や海賊王の右腕と共に乗り込み、16点鐘と呼ばれる儀礼的な行動──新しい時代の訪れを表すらしい──して逃げるという、とんでもない行動をしでかしたらしい。

 

 このことについて、フィンは彼が嫌いな世界政府へ喧嘩を売ったことへの痛快さと、しでかしたことへの恐れと、少しの恨みが混ざった複雑な感想を抱いた。それでも、憧れを持っていることに違いはない。

 

 時代が恐ろしい速度で変わっていっている。その変化はフィンのような一般人にも影響していた。以前のように、労働力を対価として船に乗せてくれる商船が少なくなっている。そもそもとして、民間の船が海に出ること自体が少なくなっていた。戦争以後、海賊の動きが活発になっているのだ。そうなると、自分の船を持たないフィンのようなものは一つの島に留まらなくてはいけなくなる。だが幸運なことに、フィンには違う島に行くことの出来る選択肢が与えられていた。

 

 それこそが、海を走る列車。〝海列車〟『パシフィック・トム』である。フィンはいま、その海列車に乗っていた。

 

 海列車が煙を吐きながら進んでいく。一体どうやって動いているのかはわからなかったが、ともかく面白い乗り物だった。これに乗るために美食の町『プッチ』で何千枚もの皿を洗っただけあったというものだ。

 

 車窓から覗くと見える水面は、激しく波打っていて、顔が映る余地などまるでありはしない。それだけでもフィンにはこの乗り物が最高の乗り物に思える。目的地である水の都『ウォーターセブン』へは、まだ時間がかかるようだったが、まるで苦にならない。海だらけの景色は長くみていられはしないが、奇抜で面白いことは確かだ。

 

 ふと思い立って、フィンは、昼飯用にプッチで買っていた弁当を、この海列車の中で食べてしまうことにした。きっと、ただでさえうまい弁当をさらにおいしく食べることが出来るだろう。フィンが弁当を取り出そうとカバンの中に手を突っ込んだとき、手が触れたのは紐でまとめられた紙束だった。思わずそれらを引っ張り出したフィンは、丁重に紙束を開くと、何かを確かめるように頷いた。

 

 それらは、いまや一味全員が賞金首となった麦わらの一味の手配書である。フィンはこれらを旅のお守り代わりに持っていた。正直、要らぬ諍いを引っ張ってきそうだとも思うが、ジャヤを出てからのフィンは憧れのルフィのように少し自分に正直に──もっときちんと言えば適度にバカに──なろうと決めた。なので、このお守りもその考えに基づいたものなのだ。

 

 麦わら海賊団の手配書を見ることに満足したフィンは、再びそれらを紐でまとめ、カバンの中にしまった。そして、今度こそ弁当を引っ張り出す。

 

 ウォーターセブンに着く間、フィンはゆっくりと弁当を味わった。

 

 

 *

 

 

「ここがウォーターセブン!」

 

 海列車から降りると、そこはずいぶんと活気づいた町だった。一つの巨大な噴水ような形をした水の都は、この世のどんな町よりも水を利用して生活しているらしい。

 

 少し歩くと、その謳い文句が本当だということがすぐに分かった。この町はありとあらゆる場所に水路が通っているようで、プッチでも見かけた奇妙な生き物──ブルという──が、馬が馬車を引くように、引っ張ている船を主な移動手段としているらしかった。

 

 それにしても綺麗な町だと、フィンは思った。もちろんその綺麗さで水嫌いが治った、なんて都合のいいことは起きなかったが、これだけ水の多い場所で生活すれば、そのうちこの嫌悪感を克服できるのでは、とは思っている。実際、精神的な修行もこのウォーターセブンにやってきた理由の一つだ。他にも、海列車で移動できる場所で最も魚人島に近いという理由もある。

 

 しかし、最大の理由はそのどちらでもない。

 

「おお、本当にやってる」

 

 フィンは少し大通りを逸れたところに行き、そこで何人もの男たちが家を建て直しているところを発見した。話に聞いた通りである。

 

 曰、このウォーターセブンでは、数か月前に起こった超巨大津波による被害が、未だ完全に修復されておらず、とにかく人手が足りない状況らしい。市長であり、巨大な造船会社を経営しているアイスバーグ氏は、雇用している船大工たちすらも復興の手伝いに回しているという話だ。

 

 フィンの最大の目的こそが、このアイスバーグ氏が経営するガレーラカンパニーであった。雇ってくれる上に、宿や飯もつく。しかも、船を持っていたり、買いに来たりする者たちが集まってくるので、魚人島への足を確保できる可能性まであるのだ。これ以上の好条件の仕事はまずないだろう。

 

 しかし、フィンの財布にはそれなりの余裕があった。つまり、一日二日で消えるはずのないこの仕事に飛びつくような真似はしないということだ。フィンは踵を返した。まずは観光。そう決めていた。プッチではウォーターセブンには水水肉と呼ばれる特産品があり、これがまたとてもうまいと評判だった。フィンはバカになって考えてみた。めっちゃ食べたい。いの一番に食べに行くべきだ。そのあとは目についたものを食べ歩きしよう。

 

 一瞬、冷静なフィンが、『おい! 考えなしに動くと、いざって時に痛い目見るぞ!』と言った。フィンはバカになろうと決めていたので、無視を決め込んだ。そして、肉を求めて足を進める。

 

 ルフィ船長でも同じようにしただろう。そう思った。実際、その考えは間違っていない。

 

 後悔は全くもって先に立たぬものである。

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