たった一人の戦いに疲れ果てて沈むとき   作:詠符音黎

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BLACK ACTION

「助けてくれええええええっ!」

「いやあああああああっ!」

 

 夜の肌寒さが消え太陽の暖かみが満ちはじめた朝に、街で人々の悲鳴が街に響き渡る。

 何百何千という人間が皆パニックになりながら建物に挟まれた道路を必死で走っていた。

 人々が恐慌に陥っている原因、それはすぐそこにいた。

 特異災害――ノイズである。一度触れれば人はノイズと共に炭化し、果ては誰ともわからぬ塵芥と化す。

 通常の物理的干渉も受け付けない災厄ノイズ。

 だが、それに対抗できる者たちがいた。それこそ――

 

「いくぞ! 立花! 小日向!」

「……ええ」

「はい!」

 

 翼、響、そして未来の三人、シンフォギア装者である。

 響と未来がシンフォギア装者になることを決意してから三ヶ月のときが流れていた。

 二人は翼と共に装者として偶発的に現れるノイズと戦う日々を送っていた。

 装者として戦い始めても案外と二人の日常は影響を受けることなく、せいぜい不意に呼び出されることがあるぐらいで、それもローテーションを作って対応することによりほぼほぼ問題なく過ごせていた。

 結果、ノイズによる被害は以前よりもぐっと減少していた。

 

「これより誰一人死なせはせん! ふんっ!」

「……ったく、今日の夜は未来と一緒に流星群を見る約束なんだから、空気読んでよ、っね……!」

「ここから先は通さない! えいっ!」

 

 三人の装者は群れになっているノイズを次々に駆逐していく。

 その手際は見事で、あっという間にノイズの姿はなくなっていた。

 

「……ふぅ、これですべて倒せたようだな」

 

 翼は手に持った刀の血振り――と言ってもノイズに血は流れていないが――をしながら言う。

 その横に、響がゆっくりと歩いてくる。

 

「そうですね。……はぁ、今日は休みだし夜に備えて長めに寝ておきたかったのに……本当に空気の読めないやつら」

 

 マフラーで口元を隠しながら響は不機嫌そうに口にした。

 

「もうそんなこと言わないの響!」

 

 未来はそんな響の元にすっと降りてきて響を叱った。

 

「気持ちは分かるけど、無駄に悪ぶった態度するから未だにクラスメイトに誤解されることが多いんだよ! 気持ちは分かるけど!」

「……二回も言うってことは未来だっていらついてるじゃん。それに、別に私には、未来がいてくれればいいし」

「もう……気持ちは嬉しいけど、そういうところだからね響。気持ちは嬉しいけど!」

「また二回も言ってる……」

「……ふふ」

 

 そんな二人の様子を見て、翼が小さく笑った。それをしっかりと聞かれていたのか、響と未来の視線が翼に向き、彼女はちょっとした苦笑いを作る。

 

「ああ、すまん! しかし、なんだかんだ私達三人でいるのも慣れてきたと思ってな。……正直、奏が死んだときはこういう日が来るとは思っていなかった。だが、私は今こうして二人と一緒に戦っている。わからんものだな、人生というのは」

「……そうですね」

 

 しんみりと言う翼に、響がぶっきらぼうに返す。だが、それが決していなしているわけではなく、感情を上手く表に出せていないだけというのを、翼はもう分かっていた。

 

「まったく……小日向も言っていたが、そういうところだぞ。立花」

「はいはい、どうせ私は無愛想で……んっ!?」

「っ!?」

 

 その瞬間、それまで穏やかだった二人が急に顔を強張らせた。一方で未来は、その二人の豹変に困惑する。

 

「えっ、どうしたのふた――」

「未来、こっち!」

 

 未来が言い終わる前に響は未来の手を持って飛び上がる。翼もまた同時に別方向に跳ねる。

 そして三人がその場を離れたほんの数瞬後、その場にミサイルが降り注ぎ、爆発したのだ。

 

「い、今のって……!?」

「……そこか」

 

 困惑する未来を横に、響ははるか上方の、道路の側に立っていたビルの上を見る。

 そこには、たしかに人のシルエットがあった。

 

「……ちっ。不意打ちしたつもりだったんだが、案外抜けてねぇみてえだな」

 

 頭上から聞こえてくる不機嫌な声。その声の主の姿を、翼と響は知っていた。

 

「どうしてお前がここにいる……雪音クリス!」

 

 空を背に立つ赤いシンフォギア――イチイバルを纏った装者、雪音クリスの姿が、そこにはあった。

 

「ああ? なんであたしの名前知ってんだよ? ……まあいいや。今回はちょっとお前らをボッコボコにぶっ潰してこいっていう命令でさぁ。ま、適度にすり潰されてくれ……やぁ!」

 

【BILLION MAIDEN】

 

 言い終わると同時にクリスは巨大なガトリングでの銃撃を響と未来に浴びせかける。

 それを響はまたも未来を連れて回避した。

 

「くっ……!」

「へっ、はしっこい奴だ。ムカつくぜ」

「どうしてお前が……何が目的で……」

「ああん? だからなんだよお前達のその反応はよぉ? 初対面の癖に馴れ馴れしい奴だぜ」

 

 響の言葉にクリスが不快を顔色に出す。

 だがすぐさま、その横合いから翼が跳ねて接近した。

 

「そこっ!」

「――っ!?」

 

 完全なる不意打ち。しかし――

 

「――させない!」

 

 その翼の刃は、間に入った者によって防がれた。

 銀色に輝くナイフとシンフォギア――アガートラームを纏う装者によって。

 

「……っ!? 今度はマリア・カデンツァヴナ・イヴ……お前だと!?」

「あら、私のことも知っているのね。ま、それも当然よね。私とあなたは同業者ですもの」

 

【EMPRESS†REBELLION】

 

 マリアは冷静な素振りから一瞬で蛇腹剣による薙ぎ払いをしてくる。

 翼は刀でそれを受けながらビルから飛び降り響達の元へと降りた。

 

「……翼さん。おそらく、彼女らは……」

「ああ、恐らくこちらの世界の彼女達だ。まさかこんな出会いをするとはな……」

 

 響と翼はそれぞれ確認しあう。

 そう、彼女らはかつて響と翼が出会った異世界のクリスとマリアではなく、この世界のクリスとマリアだった。

 二人は苦い表情を受ける響達の前にすたっと降りてくる。

 

「何こそこそと話してんだぁ? 作戦会議か何かか?」

「面倒ね、密談なんて。こっちはあくまで即席チーム。変なチームワークを出されたらちょっと困るわ。だから……」

 

 マリアがキっと三人……ではなくその背後に視線を送る。

 翼と響はそれに気付き、未だ動揺から立ち直れていない未来を挟むように響が背後に回った。

 次の瞬間――

 

「デェェェス!」

「はあっ!」

 

 二人の少女が未来を守る響に襲いかかった。

 

「数で勝たせてもらうわ」

 

 マリアのアイコンタクトにより襲いかかってきた小柄な姿。

 鎌を扱うイガリマの装者、暁切歌。

 回転ノコギリを武器としゅるシュルシャガナの装者、月読調。

 装者二人の一心同体の攻撃が、響の腕で火花を上げる。

 

「……だあああああぁっ!」

 

 響はそれを、大声を出しながら弾き飛ばす。

 飛ばされた切歌と調は空中で態勢を立て直し弾き飛ばしの勢いを殺すために少し滑りながら着地する。

 

「おおう! さすがガングニールの装者デス! すごいパワーデスね!」

「一筋縄ではいかなそうだけど……この数に勝てる?」

 

 クリスとマリア、そして切歌と調に挟まれる三人。

 響と翼は現在の状況がかなりまずいことを悟り苦々しい表情を浮かべ汗を垂らす。

 一方でやっと困惑から立ち直った未来はぎゅっと手を握りしめ、クリスとマリアの方を見る。

 

「待ってください! どうして装者同士で争う必要があるんですか!? あなた達の目的は一体なんです!?」

「目的か……だからてめーらを殴るってのが目的だよ。うちのボスがどうもやりたいことがあるらしくってな。だからボスの配下の装者同士で組んで、あんたらをぶっ潰せっていう指示があったのさ。あたし達のボス、フィーネからな」

「フィーネ……そいつが貴様らの首領か!」

「クリス、話しすぎよ」

「へっ、いいじゃねぇか別によぉ。それとも、まだ腹に来てんのか? お前の愛するマムとやらがフィーネにへーこらすることになってることよぉ?」

「……あなた……!」

 

 クリスの軽口にマリアは睨みで返す。

 そのマリアの視線に、クリスは肩をすくめる。

 

「おっと。そんな怖い顔すんなよ。悪かったって言いすぎた。……ま、これも世界平和のためさ。せいぜいお互い使いっぱしりとして仲良くしようや」

「……そうね。ここでいがみ合ってもしかたないわ。これもセレナの死を無駄にしないため。そのためなら私は、どんな外道にでもなってみせる……」

 

 マリアはアガートラームのギアで包まれた腕をなでながらそう言い、そして再び翼達を見て短剣を持ち上げる。

 それに応じるように、クリス、切歌、調も武器を構える。

 当然、響と翼も応えるように臨戦態勢を取る。

 しかし、未来は武器を構えられない。彼女はまだ決心がついていないようだった。

 

「ねぇ響! こんなのおかしいよ! 同じノイズと戦う力を持った人間同士で戦うなんて……!」

「……そうだね、未来の言うことは分かる。私だって、戦わないで済むならそれがいいと思う」

「だったら!」

「でも、向こうは少なくともやる気……。こういう手合は一度おとなしくさせないと話なんて聞いてもらえない」

「そんな……」

 

 覚悟を決めている響と、納得のいかない表情をしている未来。

 

「お話は終わったかよ? それじゃあ……行かせてもらうぜ!」

 

 だが、未来の覚悟を待つことなく、クリスが砲火によって口火を切る。

 

「はぁっ!」

「デェス!」

「ふっ!」

 

 それを合図に、マリア、切歌、調が三人めがけて突っ込んでくる。

 

「行くよっ、未来!」

「……う、うん!」

「この剣、折れるものなら折ってみろ!」

 

 そうして装者と装者の激しい対決が幕を開けた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「新たな装者が四人……だとぉ!?」

 

 弦十郎は驚愕に目を見開く。

 二課のモニターには七人の装者が戦う姿が様々な角度で映し出されていた。

 

「フォニックゲイン依然上昇中! これほどの数値見たことがありません!」

「自衛隊との協力により半径二〇キロの市民の完全な退避完了しました!」

 

 オペレーターの藤尭朔也と友里あおいの報告を受けながら、弦十郎は強くこぶしを握りしめていた。

 

「一体何が起こっていると言うのだ……くっ!」

 

 弦十郎はその光景を画面越しに見ながら、とっさに司令室後方の扉へと向かった。

 

「司令!? どちらへ!?」

「相手がノイズならともかく、出ているのは正体不明のシンフォギア装者だ! ならば俺にもできることはあるだろう! ここの指揮は了子君に要請してくれ! 非番の彼女を叩き起こすことになるだろうが、今回ばかりは仕方がない!」

「はっ、はい!」

 

 弦十郎はそうして一時的に司令室を離れ、響達のもとへ向かおうと廊下を走る。

 そのときだった。

 

「あら弦十郎君? どうしたの? そんな血相を変えて?」

 

 曲がり角をまがった先にいた了子が声をかけてきたのだ。

 

「了子君か! ちょうどよかった! しばらくの間司令室を任せる! 緊急事態なのだ!」

「……何かあったみたいね、わかったわ。行ってらっしゃい」

「すまん!」

 

 了子に簡潔に伝え彼女の横を駆け抜ける弦十郎。しかし――

 

「――っ!?」

 

 少し了子から離れたところで弦十郎はとてつもない殺気を感じて、瞬時に体をかがめた。

 その弦十郎の体の上すれすれを、鋼の触手のようなものが掠めた。

 

「……ふん、さすがだ。まったく人間離れした反射神経と身体能力だな」

 

 弦十郎が振り向くと、そこには金色の鎧を身にまとい、長い金髪をなびかせる了子の姿があったのだ。

 

「了子君!? その姿、そして今のは……!?」

「悪かったわね。この二課はこれより私……フィーネのものとなる。この基地の真の姿……カ・ディンギルとなってな」

 

 了子の姿を捨て、正体を現したフィーネが、邪悪な笑みを浮かべながら言った。

 

「フィーネだと!? まさか先程現れた正体不明の装者が言っていた……!」

「ふん、大方クリスが漏らしたか。まあいい。どうせこうなっていたのだから、変わらぬことだ」

 

 金の鎧――ネフシュタンの鎧の触手を弄びながら言うフィーネ。

 そんなフィーネに、弦十郎は拳を構える。

 

「……君が何者で、何を目的としているかは知らん。だが、何らかの悪意があっての行動と判断した。悪いが、話を聞かせてもらうぞ!」

「判断が早い……さすがね。でも……これならどうかしら?」

 

 そう言うとフィーネはとあるものを取り出し振るう。すると、弦十郎を囲むように無数のノイズが現れたのだ。

 

「何ぃ!?」

「これはソロモンの杖……簡単に言えばノイズを召喚し使役する聖遺物。人間相手には最強でも……ノイズには無力なのが悲しいな」

「ぐっ、しかしその杖さえ手に入れれば……!」

 

 弦十郎はノイズをかいくぐりフィーネのもとへと駆けようとする。だが狭い廊下に満ちるノイズの群れに、弦十郎はうまく動きが取れない。

 

「ふんっ!」

 

 そこに、ネフシュタンから伸ばされる触手が襲いかかる。

 

「ぐっ!?」

 

 その鋭利な先端を弦十郎はかわしきれず、腕に大きな傷を負う。

 

「そこっ!」

 

 それを好機とフィーネは別の触手で弦十郎の足を絡め取り真っ逆さまに転ばせる。

 

「……かはっ!?」

 

 さらに、体を地面につけた弦十郎の手足を、ネフシュタンが切り刻む。

 もはや、彼は身動きが取れない状況になっていた。

 

「私を殺す気でもっとなりふり構わない動きをしていれば話も違ったろうに……相変わらず甘いわね」

 

 ノイズに取り囲まれた弦十郎を見下ろしながら、フィーネは言う。

 その表情は、どこか淋しげな面影がちらついていた。

 

「……りょ、了子、君……」

「……さよなら弦十郎君。あなたのこと、嫌いじゃなかったわ。でも、あの方とは比べられない。……大丈夫、安心して。緒川さんも司令部のみんなも、ちゃんと仲良く炭にして後を追わせてあげるから」

 

 そうしてフィーネは弦十郎に背を向ける。

 

「やめろ……やめろおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 同時に弦十郎を囲んでいたノイズが彼に覆いかぶさり、弦十郎の雄々しい断末魔と共に、彼の体は炭と化したのだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「くっ……こんなときに司令部と連絡がつかんとはっ!」

 

 いつの間にか曇天に包まれた空の下、翼はマリアと剣戟を交わしながら言う。

 

「恐らく向こうにも何かあったんでしょうね……!」

 

 響が切歌と調の攻撃をかいくぐり、拳を返しながら翼に返す。

 

「そんな……じゃあ戻ったほうがいいんじゃ……!」

「おっと! 行かせねぇよ!」

 

 慌てる未来にクリスが弾丸を放つ。未来はそれをいなすので精一杯だった。

 そのときだった。大きく地が揺れ装者達の足を止めたのは。

 

「こ、これは一体……!?」

「ふん、どうやら成功したみてぇだな」

 

 翼が疑問を口にした直後にクリスが言う。そして彼女の視線の先には巨大な塔が地面から生えているのが見えていた。

 

「あれは……!? いや、あそこはリディアンがあった場所じゃ……!」

「その通り。正確には、二課があった場所だがな」

 

 響に応えるものがいる。それこそ、ネフシュタンを纏ったフィーネだった。

 フィーネは黄金色の輝きを光が薄まった曇り雲の下で光らせながらゆっくりと歩いてくる。

 

「あれはカ・ディンギル。世界をバラルの呪詛から解き放ち、新たな秩序と支配をもたらすための力だ」

「……櫻井……了子!?」

「ふん、そうだな立花響。そう私は呼ばれていた。だがそれは仮初の姿……私の名はフィーネ。新たな世界の支配者だ」

 

 正体を明かしたフィーネに響、翼、未来の三人の装者は驚きに包まれる。

 対してフィーネは勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 

「……まさか、櫻井女史が獅子身中の虫だったとは……!」

「そういうことだ風鳴翼。お前達はこのカ・ディンギルのためのフォニックゲインをよく集めてくれた。七つの音階、七つのシンフォギア……すべてはこのために私が用意したものだ」

「そんな……じゃあ私達がシンフォギア装者になったから……!?」

「小日向未来。お前には感謝しているぞ。正確には、並行世界のお前にだが。神獣鏡の適合者に関しては半ば諦め別のプランで行く予定だったが……お前が適合者であることによってすべては解決した。礼を言おう」

 

 フィーネの歪んだ笑みに未来は絶望する。

 よかれと思ってやったことが、何やら巨大な陰謀の片棒を担がされていたのだ。その衝撃は大きかった。

 

「貴様……!」

「ふふふ、これで我が長年の悲願がついに達成する! 今こそ人類は相互理解を取り戻し、醜く荒れ果てた世界は真の平和へと至るのだ! これこそ、人類にとっての福音、奇跡と言っていいだろう!ハハハハハ……!」

「――奇跡、だと? まったく、吐き気を催す言葉だぜ……!」

 

 高らかに笑うフィーネに対し、誰も知らぬ不機嫌な声が飛んでくる。

 それは空に浮かぶ怪しき姿だった。紫色で扇情的な様相の女性が、空にいたのだ。

 

「貴様、何者だ……」

「俺か? 俺はキャロル・マールス・ディーンハイム……奇跡の殺戮者だ!」

 

 そう言い彼女が何か結晶のようなものを地面に叩きつける。

 すると、そこから無数のノイズ、そして四人の少女の姿をした人形が現れたのだ。

 

「ヒヒヒ……やっとこさ出番ですかぁ? ガリィちゃん暇で暇でしょうがなかったですよぉ?」

「シンフォギアがこんなにも……すべて叩き折ってあげましょう」

「地味に大舞台」

「ははっ! 暴れまくってやるぞー!」

 

 突如現れた闖入者に困惑する装者達。一方で、その姿を見て、フィーネは不機嫌そうな顔になる。

 

「アルカ・ノイズにオートスコアラー……なるほど、錬金術師か貴様。まだ存在したとはな……ということは――」

 

 フィーネは言い切る前に咄嗟に振り向く。

 すると、そんなフィーネにとあるものが飛んできていた。

 それは白い帽子だった。帽子でありながらも鋭利な鋭さを持って襲ってきたそれをフィーネは弾き返す。

 弾かれた帽子は元の持ち主へと戻っていった。白いスーツを来た男のもとへと。

 

「感謝だね、覚えてくれていて。でも死んでくれないかな、僕のために」

「……相変わらず耳障りな喋り方だな、アダム」

 

 フィーネはその男――アダム・ヴァイスハウプトに煽るように言った。

 

「結構だよ、耳障りで。困るんだよね、呪詛を解除されちゃ」

 

 アダムはそう言うと軽く指を叩く。

 すると、どこからともなく三人の人影がフィーネへと襲いかかった。

 

「はぁっ!」

「ええっい!」

「らぁっ!」

「ぐっ……!」

 

 その攻撃に思わず後ずさるフィーネ。三人――サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティはアダムとフィーネの間に割って入るように着地した。

 

「フィーネ……歪んだ支配を築こうとする遺物め。今回こそ貴様を因果ごと消し去ってくれる」

「もう! こんな面倒なこと引き起こしちゃって! あーしムカついちゃう!」

「でもあいつの野望をへし折るには最高のタイミングなわけだ」

「パヴァリア光明結社……日陰に追いやってやったというのに再び潰されに来たか」

 

 錬金術師達に取り囲まれるフィーネ。

 だが彼女は冷や汗一つかかずにソロモンの杖を掲げノイズを召喚する。

 

「いくら貴様らが束になったところで、この杖を持つ私に敵うとでも? 頭は回っても浅はかなんだよお前達は」

「浅はかだと? ふん、舐められたものだな……ふん!」

 

 フィーネの言葉に対し、サンジェルマンのスペルキャスターである銃口からのレーザーで応える。

 すると、その光の直線上にいたノイズがダメージを受け崩れ落ちたのだ。

 

「……ほう?」

「我々錬金術師がノイズに対しまったく対抗手段を持たぬまま来たと思っているのか? それこそ浅はかな考えだ。位相差障壁に対する対抗策はすでに完成済みだ。アルカ・ノイズに搭載した解剖器官……これを位相調整し錬金術師自体の攻撃に転用する技術はもう確立してあるのだ。残念だったな、フィーネ。貴様の持つイニシアチブはすでに潰えている」

「はっ! 少しは知恵がついたようだな錬金術師共。いいだろう……クリス! そっちの相手はいい! こちらに手をかせ!」

 

 フィーネに呼ばれたクリスは大きく跳躍し、フィーネの隣へと着地する。

 

「へいへい、まったく人使いの荒いご主人様だ。で、こいつらをぶっ飛ばせばいいのか?」

「ああそうだ。言ってしまえばこいつらはテロリストのようなものだ。お前が一番嫌いな人種だろう?」

 

 フィーネの言葉を聞いたクリスは、あからさまに不機嫌そうな笑みを浮かべ銃を構える。

「へぇ……そいつは、誰一人生かしちゃおけねぇ……なぁ!」

 

 言い切る前に弾丸を三人の錬金術師達に向けてばらまくクリス。

 それに対し、サンジェルマン達は回避後にクリスに攻撃を仕掛け始めた。

 

「ちっ……面倒そうね……あっちが倒れたら、マムの立場も危ない……私も救援に――」

「おい! 俺様を前にしてよそ見するとかいい度胸じゃねぇか!」

 

 状況を判断し救援に向かおうとするマリア。

 だが、そんなマリアにキャロルの攻撃の雨が降り注ぐ。

 

「ちっ! 厄介な!」

「一応あっちは俺様にとってのパトロンでもあるんでな。それに、お前達からは俺様の大嫌いな奇跡の臭いがプンプンするんだ。近くにいるだけで腹立たしい……! 生きて帰れると思うなよ?」

「わけのわからないことをっ……!」

 

 キャロルに反撃するマリア。

 

「マリアっ!」

「今行くデスっ!」

 

 そこに調と切歌も救援に向かう。

 一方で響、翼、未来はオートスコアラーの攻撃に防戦一方だった。

 

「くっ……! なんなのだこの状況は! あまりに雑然としすぎているぞっ!?」

「まったく……! 状況整理も手数も追いつかない……!」

「うっ……! 私達どうすれば……!?」

「ひひひひひ! なんですぅー? 泣き言ばっかですかぁー? あー弱い弱い! でも弱い者イジメって楽しー!」

「まったく性根の腐ったガリィらしい不快な発言……しかし、私達のほうが強いのは明確なのは確かですね」

 

 オートスコアラーに煽られながらも倒されないのが精一杯な三人。

 状況は様々な思惑が入り乱れ混沌としていた。だが、さらに混沌は加速することとなる。

 

「ひゃあああああああああああああああっはああああああああっ!」

「っ!? ぐうっ!?」

 

 マリア達と拮抗していたキャロルを大きく殴り飛ばすものがいた。

 片手を異形の腕にした白衣の男――ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスだった。

 

「ドクターウェル!? どうしてこんな最前線に!?」

「ふふっ、こういうときだからこそですよマリアさん! このカオスを打開することこそ英雄の役目! そしてそれはこの僕にこそふさわしい! そう思いませんかァ!? ヒヒヒヒ!」

「その腕……完全聖遺物であるネフィリムか……チッ、また面倒なものを……!」

「おぉうよく知っていますねぇ! その通ぅーり! このネフィリムの前には聖遺物だろうがノイズだろうが錬金術だろうがすべては美味しくいただくエネルギーなんですよぉ!」

「にしったってあなた自体はそこまで動けるわけでもないでしょうに……! でも救援ご苦労ドクター。あの錬金術師とやらを叩き潰すわよ……そして」

「……ええ、わかってますよ。今はダメですが、あわよくば最良のタイミングを見つけて、あのフィーネも……」

「…………」

「ヒヒヒ! まったく本当に優しいですねぇマリアさんは。ナスタージャ教授のためにそこまで! すべてはこの英雄である僕におまかせを……」

 

 こっそりと二人で会話したウェルとマリア。

 混ざり合う声と騒音の中で二人の会話を耳にできたものはいない。

 

「うざったい奇跡がまた一つ……! おい、お前ら! とっととそこの雑魚共片付けてこっちに来い!」

 

 キャロルは不機嫌を隠そうともしないほどに顔を歪め、オートスコアラーに言う。

 

「あららぁ? マスターがすごいカリカリしてますよぉ? 面倒ですねぇやっちゃいますかねぇ?」

「地味に同意。一気に畳み掛ける」

「はっはー! じゃあ私から行くんだゾー!」

 

 ミカが三人に向かって飛びかかろうとクラウチングスタートの態勢を取る。

 

「ん?」

 

 だが、飛びかかる前にミカは何かを察知し上方を見た。

 

「はあああああああああっ!」

 

 すると、ミカに向かってまたもあらたな三つの人影が襲いかかっていたのだ。

 

「そりゃっ」

 

 ミカはそれを、虫を払うかのようにはねのける。それぞれの人影はそんな軽い薙ぎ払いだったのにも関わらず近くのビル壁に吹き飛ばされていった。

 

「きゃあっ!」

「ぐうっ!」

「ああっ!」

「おやおや。実験体じゃないか、誰かと思えば。生きていたんだね、逃げた出来損ないの癖に」

 

 彼女らを見て、遠目でノイズの攻撃をいなしながら状況を観察していたアダムが言った。

 彼女らはヴァネッサ、ミラアルク、エルザ。かつてパヴァリア光明結社で実験体として扱われていた存在だった。

 

「……よく覚えてくれてましたね、室長」

「へっ、下っ端がさんざんいじくり回してたモルモットのことなんて知らないと思ってたぜ……」

「まあ、嬉しくはないんでありますけどね……」

「バカにしてもらっては困るよ、この僕を。把握してるさ、僕は優秀だからね。データは貴重さ、錬金術師にとっては」

「で? そんな逃げ出したっていう失敗作連中が今更出てきて俺様のオートスコアラーに喧嘩売るたぁ、どういう了見だぁ?」

 

 アダムに続きキャロルが言う。キャロルはそう言いながらもハンドサインでミカを三人にけしかけた。

 

「ちっ!」

 

 ミカの攻撃を三人はなんとか逃げて、耐えることしかできなかった。

 なんとか力を合わせ攻勢に回ろうとするも、すべてがミカの足元にも及ばない。

 

「があっ……!?」

『ヴァネッサ!?』

「大丈夫よ、二人共……。何しに来たかですって……? そうね、言うなれば……弱者のあがき……よ!」

 

 ヴァネッサは機械の体からミサイルを飛ばす。

 それはミカに向けてではなく、なぜか響達に向かって飛んできていた。

 

「えっ!? なんでこっちに!? 危ない!」

 

 未来が咄嗟に神獣鏡のレーザーでミサイルを撃ち落とす。すると、大量の爆炎が当たり一面を包み込んだ。

 

「ぐっ、視界が……!」

「未来、大丈夫!?」

「うん、響こそ――きゃあ!?」

「未来!?」

 

 突如未来の悲鳴が聞こえてくる。即座に反応した響が煙の中を探しても、未来の姿は見えない。

 そして煙が晴れるとその場に未来はいなかった。

 

「そんな、どういうこと!? 未来は!?」

「響ぃーっ!」

 

 すると大きな声が聞こえてくる響の名を叫ぶ未来の声。

 そこには、ビルの上で小脇に抱きかかえられている未来の姿があった。更に、その未来を抱きかかえている人物を見て翼は驚愕する。

 

「おじい……さま!?」

 

 そこにいたのは、翼の祖父である風鳴訃堂であった。

 非常に歳を重ねた威厳を見せながらも、風貌は年齢のそれを感じさせない。

 

「翼よ……国難を前にしてその体たらく、防人として未熟。これより、護国のための力を手に入れ、神州を復活させるためにこの娘を貰い受ける。お前がまだ防人であると思うのならば、この場でその猟犬共と一緒に足止めをするがよい」

 

 訃堂はそう言い残すと、とても人とは思えぬ跳躍力でその場を去った。

 

「未来っ! 翼さんあれは一体……!」

「私も知らんっ! だが、何かをおじいさまはする気だ……! 行け立花! おそらく向かうは風鳴の屋敷だ! 何かがあるとすれば私に思いつくのはあそこしかない! 以前お前達を一度招いたことがあるから場所は分かるだろう!」

 

 翼は以前、響達が仲間になってから少しした後に、父親との和解を促してもらうに際して友人として響と未来を家に招いたことがあったのを思い出しながら言った。

 そのときも、未来が間に立ち関係を促してくれたことを思い出す翼は、手に持つ刀に力が入る。

 その声に、響は襲いかかってくるノイズを倒しながら応える。

 

「翼さん……いいんですか?」

「……ああ。おじいさまはきっとこの国のことを考えての行動なのだろう。だが、私にとってはそれ以上に友人としてのお前達が大切だ。行け、立花! 小日向を取り返してこい!」

「……はいっ」

 

 響は翼に後押しされ後を追おうとする。

 だが、そんな響にヴァネッサ達が襲いかかる。

 

「させないわよっ!」

「私達は今あのジジイに雇われてんだっ! ここで逃したら私達の未来は潰えるんだよっ!」

「わたくしめ達は戻るのであります……! そのためにもっ……!」

「させるかっ!」

 

【蒼ノ一閃】

 

 その三人を、翼は巨大な斬撃により一太刀で跳ね飛ばす。

 

『きゃあっ!?』

「貴様ら如きがこの剣越えられると思うてか! 立花走れっ!」

「…………!」

 

 響はマフラーで口元を隠しながらもコクリと頷き、その場から駆け出して風鳴の家へと向かうのだった。

 

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