たった一人の戦いに疲れ果てて沈むとき   作:詠符音黎

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すべては君を愛するために

「未来っ!」

 

 響は記憶を頼りに一直線に風鳴の家へと向かい、辿り着いた。

 家は無人であり、人一人いなかった。しかし響は徹底的に風鳴の家を捜索し、地下へとつながる道を見つけ、その先に未来がいると信じひたすら走ったのだった。

 

「ふん……あやつらは足止めすらできなんだか。所詮は出来損ないよ」

 

 響がたどり着いた先にあったのは、巨大な研究室と思われる空間だった。

 そこには様々な聖遺物と思わしきものが円柱状のガラスケースに入れられており、そのケースが沢山のコードに繋がれていた。

 そして、その中央。訃堂が立つ眼の前に、未来はいた。

 彼女はシンフォギアを纏った姿のまま、とても機械的な椅子に拘束されていた。その側には何やら棺らしきものがあり、椅子とコードで連結されている。

 

「ひ……ひび、き……」

「未来……! 今助ける……!」

「悪いがそうはさせんぞ小童よ。このものの使う神獣鏡の聖遺物はては原罪を洗い流す力こそ、神の力を手に入れるための鍵となるのだからな」

「神の力かなんだか知らないけど……私の友人に手を出したんだ。覚悟はしてもらう……!」

 

 そう言って響は未来の前に立つ訃堂へと駆ける。

 だが――

 

「遅いわ!」

 

 訃堂はかなりの速さだったはずの響をさらに上回る速度で響の背後に周り、まったく別方向の壁へと蹴り飛ばす。

 

「がっ……!?」

 

 響は壁へと激突し、ゆっくりと地面に倒れる。

 息をまともにできず、必死に呼吸をしようと肺が求める。

 

「ぬぅん!」

 

 そんな響の元に訃堂はまたも素早く接近し、彼女の頭を掴んで上方に投げ飛ばし、そして彼自身も飛び上がって拳によって響を地面に叩きつけた。

 

「あああああっ……!」

「ふん、シンフォギアを使っていたとしても所詮は齢二十にも達しておらぬタダの娘。先の敗戦からこの国の防人であった儂に敵う道理なしよ」

「ぐ……う……!」

 

 見下ろす訃堂になんとか立ち向かおうとする響だったが、どうしても立ち上がることができない。せいぜい頭を上げ、手足をかろうじて動かすことしかできない。

 以前弦十郎と手合わせしたとき以上に理不尽な力を感じると、響は思った。

 

「そこで見ているがよい。この娘の命を代償に、あらゆる聖遺物の力の枷を解き、そして南極より持ち帰ったこの棺を解放することにより、神州日本を蘇らせる力をこの儂が手に入れるところをな」

「……っ!? 未来の……命を……!? そ、そんなこと……させな……!」

 

 響は訃堂の言葉を受け、軋み悲鳴を上げる四肢をムリヤリ動かして立ち上がる。

 そして、フラフラと訃堂に近づく。だが、そんな響に訃堂は一瞥しただけで、再び椅子の近くにあるモニターを操作して、何かのスイッチを入れる。

 

「うっ、あああああああああああああああああああっ!?」

 

 それと同時に、未来の悲鳴が部屋に轟く。喉を潰してしまいそうなほどの、痛々しく大きな悲鳴を。

 

「未来っ!? 貴様ああああああああああああっ!」

 

 響はその悲鳴を聞くや否や、体の限界を越え訃堂のもとへと飛ぶ。

 

「愚か」

 

 だが、飛び込んだ響は訃堂の片手一本に止められる。

 首根っこを捕まれ、ゆっくりと締め上げられる。

 

「あ……!? か……!?」

「愚かなり童よ。思いだけで勝利が得られると思うたか。そうならばこの国は過去に不名誉な敗北をしておらぬわ。勝利に必要なのはなによりも力。力なき意思など無に等しいと知れ」

「ああ……あ……」

 

 響の声がだんだんとか細くなる。このままでは死ぬ。響はそう思った。

 だが訃堂はそんな響の意識が落ちる直前に、彼女を地面に落とした。

 

「……くあっ……!?」

「ふん、安心せい。命までは取らぬ。貴様のそのシンフォギアと原罪を洗われた肉体……まだ利用価値があるでな」

 

 響は訃堂にそう言われながらも、体に空気を取り込むことで精一杯になっていた。

 未来の命が今にも危ないと言うのに、それしかできない自分に響は無力さを覚えた。

 

「くくく……さあ! 神代の力よ! 今こそ目覚めよ! そしてその力をこの国の防人たる儂に――」

 

 訃堂が高らかに笑いながら言っていたそのときだった。

 彼の言葉が、不意に止まった。

 何かと思い響は顔を上げる。

 そこには、棺に繋がれていたはずのコードが、まるで意思をもったかのように訃堂の心臓と喉に突き刺さっていたのだ。

 

「え……?」

「か……がはっ……!?」

 

 訃堂は驚愕しながらも吐血し、その場に倒れる。

 更に訃堂の体はみるみるうちにやせ細り、ついには体が砂に――塩になっていっていた。

 まるでコードが彼の命を吸っているかのような光景だった。

 そして訃堂が完全な塵芥と化したかと思うと、棺が開き、そこに一人の女が現れていた。

 白く人間離れしたその女は、自分達とは別種の存在であると、響は直感的に悟った。

 

「ふむ……我が封じられてからも、人類の肉体に大きな変化はなかったようだ。故にこうも再構築が容易いとは……まあそれも当然か、我が作り上げた種なのだからな」

 

 超然たるその女――シェム・ハ・メフォラスは棺から出ると、未来の側へと立ち、そしてそっと頭に手を置いた。

 

「……なるほど。どうやらだいぶ面白い状況になっているようだ。ならば、そのフィーネとやらに手を貸してやるとするか。バラルの呪詛の真実を知った顔も面白そうだ……フフフ」

 

 未来の記憶を読んだらしいシェム・ハは、もう用済みを言わんばかりに未来を地面に投げ捨てる。

 

「……未来っ……!」

 

 響は状況に混乱しながらもやっと動くようになった体を動かし、未来の元へと這い寄る。

 未来は辛うじて息をするのもやっとという状態なのがすぐに見て取れた。

 

「ん? 貴様……今の世の人でありながら呪詛が解かれているのか……なるほど、その神獣鏡の力か……まあよい。貴様一人程度、捨て置いても問題なかろう。我の計画においてはすぐに消える運命よ」

 

 未来を抱える響を一瞥しそう言うと、シェム・ハは上へと飛び立ち、周囲の聖遺物が入ったケースを破壊し、地下に大きな穴を開けて地上へと飛んでいった。

 開けられた穴からは、曇り空の合間から差し込む黄昏の光が差し込んでいた。

 

「未来……! 未来っ……!」

 

 響は必死に未来に呼びかける。

 その声に、未来は辛うじて目を開け、響を見る。

 

「ひび……き……?」

「未来っ!? 大丈夫!? 今から病院に……!」

「……いいの。私、多分もう……助からない……」

 

 未来は擦り切れそうなほどに小さな声で響に言った。

 体中から玉のような汗を流しながら言う彼女の姿は、あまりにもその言葉を裏付けているように思えた。

 

「そんなこと……そんなことない! 未来が……未来が死ぬはず……!」

「ごめん……ね……一緒に、流れ星、見れ、なくて……」

「そんなこと……そんなこと良いから……だから……」

 

 響の目から、涙がこぼれ落ち始める。

 それは未来の顔にポツリ、ポツリと落ちていき、未来ほ頬に落ちて、そしてまた下へと落ちる。

 

「ねぇ……響……」

 

 そんな泣いている響の頬を、未来はぷるぷると震わせながらも片手を上げて、そっと撫でた。

 

「泣かない……で……わたしは……」

 

 より一層にか細くなった未来の声。

 彼女は、そんな状態ながらも響に笑顔を見せて、そして――

 

「へいき……へっちゃ、ら……!」

 

 笑顔のまま、すとんと手を地面に落とした。

 

「え……? 未来……? み……く……? あ……あああ……あああああああああああああああああああああああっ……!!!!!!」

 

 ――死んだ。未来が、死んだ。私にとってのひだまりが、これからずっと一緒だったはずの彼女が。私の大切な、未来が。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああっ!! ああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 響の慟哭が、天を貫く。未だ優しく未来の亡骸を抱きしめながら。

 すると、そのときだった。

 未来の亡骸が、静かに、そしてわずかに紫色に光り始めたのだ。

 それだけではない。周囲に散乱していた聖遺物もまた光り始める。

 紫色の光はやがて粒子となり、叫ぶ響にまとわり始める。

 ついには光と響は一体になり、そして――

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「はぁ……! はぁ……!」

 

 翼は雲に覆われた夜空の下、膝を付き、折れた刀を地面に付き立てなんとか倒れぬようにと体を支えながら、息を荒げていた。

 響を送り出した後も激戦は続いていた。

 フィーネ、四人の装者、錬金術師達、ノイズとアルカ・ノイズ。それらすべての敵と翼は渡り合った。

 だが彼女一人の力では限界があり、今こうして立てなくなるほどまでに憔悴してしまっていた。

 周囲の建造物はほぼすべてが原型をとどめていない廃墟となり、荒野と呼ぶべきほどに荒れ果てていた。

 その中でも、それぞれの勢力は未だしのぎを削っている。

 ヴァネッサ、ミラアクル、エルザの三人は激戦についていけずに絶命し、ぐったりと地面にその体が放置されているが、フィーネ、ウェル、キャロル、アダムと言った勢力のトップ達は未だ健在だった。

 クリス、マリア、切歌、調もだいぶ疲労が出ているが翼ほどではない。

 更に先程突然現れたシェム・ハがその戦いに混ざり、余計状況は混沌とすることになった。

 

「く……どう……すれば……!」

 

 翼は息も絶え絶えになりながらもこぼす。

 今はそれぞれが一旦距離を取り、お互いにらみ合うという一時的な牽制の状況になっていた。

 だが、ちょっとしたきっかけですぐさま戦いが再開されるだろう。

 そして、その戦いに今の翼は混ざることができないのを、彼女は思い知っていた。

 

「立花……小日向……せめて、お前達だけでも生きて……」

 

 もはや自分の命も残りわずか。そんな弱気すら言葉に出てしまった、その刹那――

 

『――!?』

 

 その場にいた全員が、異様な気配を感じ同じ方向を見た。

 当然翼もその方向に目を向けた。今の自分の体の状況など忘れてしまうぐらいに、巨大な存在が来ている。そう思ったからだ。

 彼女らが目を向けたところから、人影が一つ歩いて来ていた。

 黒と金が入り混じった仰々しい鎧をまとったその姿は、先程までお互いを罵り合っていたそれぞれの首魁ですら言葉を発せなくなるほどに圧倒的だった。

 近づいてくるほどに、そのオーラはその場の者達を包み込んでいく。

 そして、もっとも位置が近かった翼の横にそれが歩き、横切ったときに翼はその正体をやっと認識した。

 

「……たち……ばな……?」

 

 それは、響だった。

 顔の上半分を隠す黒い仮面をつけていたが、それが響であることが、翼には分かった。

 

「貴様……立花響か……!? その体から溢れている力はなんだ……!? 何を力と変えている……!? 何と化した……!? そうだ、お前が纏っているものはなんだ……!? 何を纏っている……!? それは私が作ったものか……!? お前が纏っているそれは何だ……!? 何なのだ……!?」

 

 困惑したフィーネが目を見開き、矢継ぎ早に響に投げかける。それに対し、彼女は――

 

「シンフォギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 ただ一言、吠えた。

 

「――っ!? なんだ、これはっ……!」

 

 その響の言葉と共に、天地が揺れる。そしてそれだけでなく、共鳴するようにカ・ディンギルが崩れ折れたのだ。

 

「バカなっ!? カ・ディンギルが!?」

 

 さらに周囲にあふれていたノイズとアルカ・ノイズがすべて消滅する。そして、天を覆っていた雲が消え、星々輝く夜空が広がった。

 夜空では、流星群が落ちていた。

 

「……まずいっ!? まずいまずいまずいまずいまずいっ! “アレ”をッ! “アレ”をこのままにしてはマズいッ!」

 

 その様に最初に全員の気持ちを代弁したのはウェルだった。

 半恐慌に陥いりながらの言葉だったが、その場にいた全員――神とされたシェム・ハですら意味合い的に同じ感情を抱えていた。

 

「あああああああああああああっ!」

 

 ウェルの言葉を端として、翼を除いた全員が響に襲いかかる。

 

「貴様らが……誰かの約束を犯し……!」

「が、ハッ……!?」

 

 まず先陣を切ったガリィが一瞬でスクラップにされ――

 

「嘘のない言葉を……」

「エッ……!? アッ……!?」

 

 次に、ファラが粉微塵にされ――

 

「争いのない世界を……」

「ジ……イア……!?」

 

 そしてレイアの上半身がまるまる消え――

 

「なんでもない日常を……」

「……ギ……!?」

 

 ミカが紙くずのように散った。

 

「剥奪すると、言うのならっ……!」

 

 すべて左腕一本、一撃で行われたことだった。

 呪いすら感じるその声の圧力と、オートスコアラーが瞬きする間に排除された結果に、全員足を止めてしまう。

 その逡巡を、響は逃さなかった。

 

「……えっ?」

 

 調の目の前に、瞬時に響が現れていた。そして、その腹部に一撃、拳が叩き込まれた。

 

「……っ!?」

「調!?」

「し、調っ……!?」

 

 そして次の瞬間、調は粒子になって消滅した。

 

「え……調が……調が……調えええええええええっ! お、お前っ! よくも……よくも調をデスっ!」

「待ちなさい切歌っ! あの一撃は何かがおかしいわっ!」

 

 マリアが制止するが、切歌は我を忘れ響に突撃する。だが、そんな切歌が振り下ろした鎌は、左手の指二本に挟まれただけで止まった。

 

「そ、そんなっ……」

 

 動揺する切歌をよそに、響は口を開くことなく拳を叩き込み、切歌を消滅させた。

 

「切歌っ……!? そ、そんな……切歌と調が……私が守らなくてはならなかった、二人が……!」

 

 マリアは絶望の表情を浮かべ、腰が砕けたようにその場に座り込む。

 その横をかけて響に向かうものがいた。カリオストロとプレラーティ、そしてサンジェルマンである。

 

「三人ならっ……!」

 

 三人による別方向からの高火力攻撃。だが、響はそれに動じることは一切なく、ただ左手をすっと上げた。すると――

 

「何っ!?」

「えっ!? 嘘っ!?」

「どういうこと、なわけだ!?」

 

 三人の体は空中に制止し、身動きが取れなくなってしまったのだ。まるでその場に凍りついてしまったかのように、ピタリと。

 

「この力……まさか聖遺物……!? そ、そうか……そういうことか……!」

 

 サンジェルマンが何かに気づく。しかし、だからと言って何かできるわけでもない。

 

「嫌……こないで……い――」

 

 響はまずカリオストロを消す。

 

「カリオスト……」

 

 そして次にプレラーティをあっさりと消す。

 二人を消すと、響はサンジェルマンに向かいゆっくり歩いてくる。

 

「その体……非常に多くの聖遺物が融合しているな……! 神獣鏡の『凶祓い』の力とガングニールの『神殺し』の力の融合により、聖遺物を包み込んでいた力場を消滅させ、呪詛を消滅させた体を依り代に混ぜたのだろう……! さらに一撃一撃に錬金術の基礎たる分解と構築を……! だが、そんな力を一つに集約させれば、今のお前の精神は――」

 

 言い終わる前に、サンジェルマンは響の右手によって薙ぎ払われる。

 

「……人に……自由を……」

 

 そして、消滅する直前に、サンジェルマンは一言呟き、消えた。

 

「チッ……! ふざけるなよ……! 聖遺物の塊だと……!? そんな奇跡の塊……認めねぇぞ……認めねぇぞおおおおおおおっ!」

「……くそっ!」

 

 キャロルが怒号と共に数多のビームを飛ばす。それにクリスもまた追従し全火力を放出する。

 だが、響はそれを一切動くこと無く受けきった。

 

「……化け物がっ……!」

 

 クリスが冷や汗を垂らしながらこぼす。

 響は次の瞬間、またも視認できない速さで先程まで攻撃していたキャロルとクリスの間に移動し、そして両腕をそれぞれ裏拳で二人の後頭部を殴打した。

 

「……パパ……ごめんね……」

「私はただ……平和を……」

 

 キャロルとクリス、親への思いを胸に抱いた少女二人は、無念さを抱えながら命を散らした。

 

「……ひ、ひいいいいいいいいいっ!」

「ドクター!? ダメっ! ここで逃げちゃっ!」

 

 そのあまりの光景に耐えられなくなったウェルは後ろ姿を見せ走り出す。

 マリアが引き留めようとするもウェルには届かない。

 だが、響が彼を逃がすわけがなかった。

 

「っ!? ひっ――!?」

 

 ウェルの目の前に、いつの間にか響は立っていた。そのウェルが恐怖に怯えた反応をしている最中に、響は彼の腹部を貫き、消した。

 

「……時間操作だね、今の動き……! ずっと化け物だよ、君のほうが……! ああああああああああっ!」

「切歌……調……! ……やるしか……やるしかないのよっ……! ああああああああっ……!」

 

 傍観するも観念し真横から突っ込むアダムと、なんとか勇気を振り絞り共に蛇腹剣を振るうマリア。

 だが、響はそんな二人に目もくれることなくすっと二人の方向に手を差し出す。

 すると、二人の足元で盛大な爆発が起き、二人を炎が包んだ。

 

「ぐあああああああっ!?」

「ああああああああ!?」

 

 数秒間延々と続いた爆炎が収まると、二人はぐったりと倒れており、そして消滅していった。

 

「……セレナ……今、行くわね……」

 

 風と流れるマリアの言葉。

 もはや残るはフィーネ、そしてシェム・ハの二人だけだった。

 

「おのれ……おのれ立花響……! なぜだ……なぜそれほど的確に我らを敵とできる! 先程の錬金術師の言葉通りなら、貴様の精神は! 魂はすでに崩壊しているはずだ! いくら呪詛が消えようと、人の身に余る力をいくつも取り込めば魂が持つはずがない! なのに、どうして……!」

「人間よ……貴様の存在、到底看過できぬ……! 今ここで、我のすべてをもって貴様を滅ぼす……!」

 

 だが、そんな二人の決意と気迫も、響には届かない。

 むしろ、響は二人に向き直ると、ゆっくりと右手を空に上げた。

 すると、その手のひらの上に急に巨大な、黄金色に輝く槍が現れた。

 禍々しさと神聖さを兼ね備えるその槍に、二人は驚愕する。

 

「その槍、まさか……!?」

「…………」

 

 響はその槍を、武器を初めて手にし、そして全力で、しかし変わらず無言でその槍を二人に投げつけた。

 

【Lance of Longinus】

 

『ぐあああああああああああああああああああああっ!?』

 

 神殺しの槍は、二人に瞬時に届き、そして、その命を奪う。

 

「ああ……私の……私の命が輪廻ごと……消え……」

「我が……我が人に消される……など……」

 

 そうしてフィーネとシェム・ハ。神代の存在は現在、未来における可能性すべてを含み消滅したのだった。

 

「…………」

 

 響はすべての敵を消滅させると、その場をゆっくり歩き去り始める。

 一部始終すべてを言葉すら忘れ見ていた翼は、去ろうとする響を見てやっと我に返った。

 

「……まっ、待て! 立花!」

 

 響は翼に声をかけられ、足を止める。しかし、振り向きはしない。

 

「どこへ行くんだ……これから、どうするつもりだ……」

「…………」

 

 響は答えない。

 ただ、流れ星が落ちる空を一度見上げ、再び前を向き、歩き始める。

 荒れ果てた街から誰もいない先へと、ただ一人で。

 

「待て……立花……! 立花ああああああああああああああっ!」

 

 翼は叫ぶ。

 動くことのできない体を憎みながら。

 消える響の後ろ姿に、手を伸ばしながら。

 

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