女性恐怖症の俺がエロゲ攻略なんて不可能だろ!   作:ryou卍

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一話~修行したいだけなんです

ルウシェの朝は早い。

まだ真っ暗のうちから起きだし、修行のための身支度をする。

ここで音を出してしまうと望まぬ同居人が目を覚まし、修行についてきてしまうため慎重に動く必要がある。

そっと部屋を抜け出し、前日に用意していた水で顔を洗う。魔法でも水を用意することもできるがこの程度で魔法に頼ってしまうともし魔法がなくなった場合の時が怖いため、しないように決めた。

 

外に出ると、明け方の山中の空気は霧で潤み、むせかえる土と木の香りがした。自然はまさにいまの時間に深呼吸をしているんだなと感じる澄んだ空気。自分の吐いた息が霧に溶けて、植物たちの養分になっていくのが想像できる。

 

いつまでもこの空気を味わっていたいがそうもいかない。

まだ少し肌寒くて、家に戻りたい欲求が湧き上がってくるが頭を振って自分に喝を入れる。

自分には一日も無駄にしていい時間がない。誘惑に身を任せるのは魔王を討伐してからだ。

 

早足で修行場へと向かう。

修行場所へ到着すると、まず土の状態を確認する。

前回同様土の状態はとてもいい。これなら強く踏み込んでも滑って怪我をすることはないだろう。

 

なぜ、そんな心配をするのかって? ……聞かないでくれ。

 

土の状態を確認が終わると準備体操を始める。首、手足と順にほぐしていく。

それらすべてが終わると、用意してきた荷物から木刀を取り出す。

できれば真剣を使いたいのだが残念ながら手持ちがない。村の人に疎まれているのが裏目に出てしまった。

 

無駄なことを考えてしまった。剣を振るのに雑念などあってはならない。

神経を研ぎ澄ます。次第に周りの音は耳に届かなくなっていく。

この集中力を保ったまま、ゆっくりと剣を振っていく。

己の動きは所詮我流。だがこの主人公の体は流石というべきか素振りをしていくだけで動きが最適化されていく。その動きを無意識だけではなく、意識してできるために鳥が俺の頭に留まって休むほどゆっくりと。

 

そうして幾時間が過ぎたろう。俺の前には「時」というものさえなかった。

無意識に意識がついていくように何万と繰り返しただろうか。それでも理想はまだ遠く。

 

あと一セット、そう思う頃には朝日が俺を照らしていた。

 

まずい、これではまたルナがここにきてしまう。

そう思い素早く汗を拭い、帰宅の準備をするが時すでに遅し。

 

背後にはルナの気配、いやまだ間に合うか――。

 

「おはよう、ルウシェ君!」

 

「……あぁ、おはよう」

 

間に合いませんでした。ニコニコと朝日にも負けないくらいの笑みを浮かべたルナ。

とてもきれいな笑顔ですがそれ以上近づかないでください。

 

「もぉー、また逃げる。私だって傷つくんだよ~?」

 

「俺は恥ずかしがり屋だからな。半径一メートル以上に近づかれるのは耐えられないんだ」

 

「えっ……。それって私を女の子として意識してくれてるってこと?」

 

いやんいやんと顔を赤らめながら悶えるルナ。

そうだけどそうじゃない、というか好感度はあのイベント以来上がることはしてないはずだ。なのにその反応はおかしいだろ。

 

「そんなんじゃない、というか近づくなといった傍からから近づいてくるな。今汗もかいてるし臭うぞ」

 

「そんなの気にしないよ! ……むしろルウシェ君のニオイには興味があるなぁ」

 

「なに十歳で変なモンに目覚めてんだ……! じゃあ俺は帰るからな、さよならだ」

 

そう言って家へと歩き出すとルナも俺の後ろについてくる。

気のせいだと思い、少し歩くスピードを上げる。何故かルナの歩くスピードも上がった。

嘘だっ!と心で叫びながら全力ダッシュに切り替える。あれおかしい、後ろの気配が消えないぞぉ。

思わずルナに声をかける。

 

「ルナ! お前の家は俺の家と真逆だろ、なんで俺についてくるんだ」

 

「今日は一日中暇なの~。だから朝ごはんもルウシェ君とアイリちゃんと一緒に食べようと思って!」

 

「人生に暇というものなど存在しない! 早く家に帰って親御さんとの仲を深めてこい!」

 

「十分仲いいですよーだ。それよりルウシェ君たちとの仲を深めたいもん!」

 

「まだ足りない! だから俺らなんて気にせず家に帰れ!」

 

「やだっ! ルウシェ君たちと一緒にいたい!」

 

そんなやり取りをしつつ、どんどんスピードが上がっていく俺とルナ。

だが一向にルナを振り切れることは出来なかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

……結局振り切れず家までについてきてしまった。これ、とある時期から毎日なのだ。本当に自信なくすんだが。くすん。

 

「ルウシェ君早いね~。ついていくのに精一杯だったよぉ」

 

「……じゃなぜ汗一つかいてないんだ」

 

「なんでだろうね~、いつもはこんなに早く走れないんだけどルウシェ君についていきたいと思った時だけこうなるの」

 

意思ひとつで修行していない女の子が一般の成人男性の走る速度を容易に超えるものについてこれるわけないだろと思うがルナはギャグキャラ要素もある。

それだから仕方ないと自分に言い聞かせる。……言い聞かせる。

そしてまた距離をつめてきたルナから離れつつ、家の扉を開ける。

 

「ただいま」

 

「おかえり、兄さん」

 

俺と同じ色の黒髪に何を考えているかよくわからないエターナルアドベンチャーのクール担当が出迎えた。

何やら顔が険しい。今日も俺が黙って修行に出かけたことが気に入らないようだ。

 

「兄さん、修行に行くならボクにも声をかけてって言ったのに」

 

「あぁ、悪い悪い。それじゃあルナの対応を頼む」

 

「ちょっと……、兄さんそれ昨日も同じこと――」

 

その瞬間目を光らせたルナがアイリへと飛び掛かる。

 

「アイリちゃんー! 今日もかわいいねぇ~」

 

「ちょ、やめ……、兄さん! 昨日だけっていったのに!!」

 

 

ルナとワチャワチャしている少女。この子の名前はアイリ。義理の妹だ、エロゲらしいだろ?

当然この子もヒロインの一人であり、俺の女性恐怖症の対象でもある。同じ家で住むなんて俺にとっては拷問に等しいことだが仕方がない。

 

椅子に座り、抱きしめようしてくるルナをアイリが必死に離そうとしているところを眺めながら過去を振り返る。

 

主人公ルウシェに親はいない。三歳のころに捨てられたからだ。母と父の髪色は金色であり、本来生まれてくるはずのない黒髪の子が生まれてきたのだ。それは修羅場となった。

当然だ、金色の髪を持つ二人から黒色の子供が生まれてきたのだ。浮気を疑うのは必然だろう。しかしそんなことに覚えがない母と父はお互いを疑うが、答えなど出るはずがない、浮気などしていないのだから。喧嘩の果てに子供の押し付け合いとなった。

誰の子か分からないやつなんて俺だって育てたくない。まあその結果が二人からも人目につかないところで捨てられた。幸運だったのは既に一人で歩くことができる年齢だったことだろう。

現在は山小屋の廃墟を改良し、誰の目を気にすることなく生活できるので満喫している。

 

そして山小屋を改良した後、俺は微かに残っている記憶を頼りに山奥で倒れているアイリがいる場所に向かった。これはゲームで過去を振り返る回想のときに知ったものだ。何故かここでも選択が発生し、アイリを拾わない選択を選ぶと主人公ではなく中年男性に拾われる。

どうなるかはご想像にお任せするが当然バッドエンドとなる。

 

さすがにそれは心苦しいので死ぬ気で探し出し、俺の家で保護した。アイリにどうして私がここで捨てられていることを分かったのかと聞かれたが、どうにか必死に誤魔化した。それからある程度回復したら適当に村の誰かに預けてやろうとしたが、アイリが抵抗したため断念した。

 

確かに一回捨てられた身としては大人は信じることはできないだろう。それよりかは信用できないが同じ捨てられた経験のある俺の方が信用できる。理屈は理解できたため、俺は好感度を上げないようにふるまいながら今日まで生きてきた。その結果アイリはルナみたいに近距離に近づいてこないし過度に話しかけてこない。時に甘えてくるのが玉に瑕だがこの年頃だ、仕方ない。

 

しかしそれでも俺にはキツイ。が、断ろうとするもんなら

 

「ボクのこと、嫌いなの……?」

 

と、いつもの硬い表情を崩し、涙を目に浮かべながら泣き出す一歩手前までいったので俺は死ぬ気で冷や汗と震えを押しとめながらアイリの頭を撫でて誤魔化した。

 

……あれは三途の川が見えたね。今思い出すとまた寒気がしてきた。

 

そんなことを考えてると、急に声をかけられた。

 

「兄さん、ボーッとしてるけど話聞いてた?」

 

「っ!? あぁ、すまん。アイリが作ってくれた朝ごはんに目を奪われてた」

 

「……そんなこと言っても誤魔化されないからね」

 

そんなこと言いつつ鼻歌を歌いながら朝食を用意してくれる。

この光景、画面越しだけで十分だったなぁ……。

椅子に座って待ってるとルナが離していたはずの椅子をズリズリと引きずりながら俺の隣に寄せようとしていた。

 

何その拷問。そんなことしたらただでさえ女の子二人のきつい環境なのに、朝食を食べるどころか何もない胃からリバースしてしまう。

必死に目でアイリにルナ頼み込んだ。

 

分かってくれたのかアイリがルナを押し止める。何故か目が悲しそうに変化したがそれも一瞬だったので気のせいだろう。

 

「ルナさん、朝食中に行儀が悪いですよ。兄さんから離れて食べてください」

 

「なんで~? ……あ、わかった。アイリちゃん羨ましいんでしょっ、自分が素直に甘えられないから」

 

「そ、そんなことないっ! いいから早く兄さんから離れて!」

 

また騒がしくなるが結果ルナが離れてくれたため、アイリに感謝しつつまたルナが来る前に急いでご飯をかきこむ。

それを見てルナとアイリも言い合いをやめ、席へついた。

 

ルナが喋り、アイリが主に返答。時々俺も返事を返す。

 

これが今の俺の生活だ。

 

――できれば女の子がいない生活がいいなぁ、とそう思いつつ。

 

朝食を終えた俺は、ルナとアイリに気づかれないように静かに席を立つ。そして剣を手に取り外へと向かった。

 

 

 

……あれ、なんでアイリとルナがついてくるの? やめろぉ!!(切実)

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

気づけば兄さんの姿がなかった。

今日も声をかけてくれなかったことに心が締め付けられるように苦しくなる。

だがそれより確認することがあった。

 

「ルナさん、兄さんの今日の修行の様子はどうでしたか」

 

「……今日もふらふらになるまでやってたよ。多分あの時のことをまだ気にしてるんだと思う」

 

ルナさんとボクの頭の中に同じ光景が浮かび上がる。

 

息が詰まるほど激しい雪と風。

たくさんの魔物の死体の上に立つ満身創痍の兄。

傷口から迸る血潮は、石垣の隙間を漏れる泉のように滾々として流れ始めていた。

 

その姿を怯えた目で見る村人たち。

兄さんに救ってもらったくせに、そんな目で見るなんて許せない……!

 

「アイリちゃん?」

 

ルナさんから声をかけられ、ふと正気に戻る。

 

「……どうしましたか、ルナさん」

 

「いや、怖い顔してたから……。あの時のこと、だよね」

 

「そうだよ。ボクは許せない……! あんな優しい兄さんを、村を救った英雄を、あんな扱いするなんて」

 

思わず兄以外に使う言葉遣いが崩れてしまう。だがそんなことを気にする余裕などなかった。

 

「ボクが兄さんに拾ってもらう前から鍛錬はしていたよ。けど、間違いなくあの日から兄の修行頻度は多くなって、その質も異常になっていったのをルナさんも見てたでしょ」

 

「うん、そうだね……。不甲斐ないけど私にできることはルウシェ君が修行をやりすぎないように見に行くだけ」

 

「今の兄さんに言葉は届きませんからね。……あの日、何か他にボクにできることがあったはずなのに」

 

兄は気にするなと言ったけれど、ボクの心には未だ傷跡を残している。

 

未来が途方もなく厚い重い灰色の壁のようにしか感じられなかった親に捨てられたあの日。

そんな時、ふと手がのばされた。大丈夫か、どこか痛むところはないかという言葉を添えて。

その言葉に感じられる無償の愛にすぐさま飛びつきたかったが、捨てられたばかりで信じることも怖かった。だから兄に質問した。

 

――どうしてここに?

 

今思えば最初にそんなこと聞くなんておかしいものだ、少し恥ずかしい。だが兄は悲しそうな顔ですぐに答えてくれた。

 

――ここにはよく子供が捨てられるからな、よく見に来るんだ

 

俺もその一人なんだと笑いながら。

どうして笑っていられるんだ、悲しくないのかと今度は聞いた。それもかなりキツめの口調で。ほんとによく見捨てられなかったものだ。

 

そんな疑わないと気が済まない私の頭を手袋をはめていた兄の手が撫でた。そのあまりにも優しい手つきに涙が零れそうになった。そして笑みを浮かべながら兄は言う。

 

――確かに悲しい。けどな、そのおかげで救える命があるんだ。

 

今まさに悲しんでいる君を救えた、と少し照れながら。

ボクはもう、泣くことを我慢できなかった。生まれてからこんなにいい人に会えたことがなかった。親からも、今はどこにあるかわからない村の人から罵りと暴力しか与えられなかったから。

 

涙と同時に、よそからの心を拒絶していた胸に、桃色の花弁が張りついたほどのささやかなぬくもりが湧いた。

 

それから兄との生活が始まった。楽しかった、昔のことなんて忘れるくらいに。ボクを近くの村の人の誰かに預けようとしたときは大泣きしてしまったがボクは悪くない。大泣きしたおかげで兄ともいれるし結果良しだ。

今も兄は村の人と仲良くしたほうが言いというけれど、あんな人たちどうでもいい。

 

あの雪の日。血に濡れた兄を思わず抱きしめたとき、兄は震えていたのだ。いつも朗らかに笑っていた顔は真っ青になっていて、目は潤んでいた。

 

優しい兄に深い傷をつけたんだ。兄を避けるくせにボクには言い寄ってくるやつらなんて知らない。

 

「ねぇルナさん」

 

「どうしたの~?」

 

「声をかけてくれなかった悪い兄さんの所まで行かない?」

 

「それいいねぇ~、ついでに抱き着いちゃおうか」

 

「それ採用です」

 

でも今はそんなことはどうでもいいか。何回言ってもボクに声をかけてくれない兄さんにお仕置き(甘え)させてもらおう。

 

ボクとルナさんは計画した瞬間すぐさま兄さんのもとへと走っていた。

 

 

 

 

 

……ボクとルナさんの顔を見た瞬間兄さんの走る速度が上がった。絶対逃がさないからね!

 

 

 

 

 

これがボクたち三人のいつもの日常だ。

 

 

 

 




これから勘違い要素も積極的に入れたいと考えていますが難しい……

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