女性恐怖症の俺がエロゲ攻略なんて不可能だろ!   作:ryou卍

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四話~胸につっかえるもの

妹と鍛錬を行い、あまりの疲労に俺が一日休んだ日の翌朝。

いつも通り妹に黙って鍛錬から帰ってきた俺。

今日は珍しく鍛錬を早く切り上げれたためルナについてこられることもなかった。だがその珍しいことは続くようだ。アイリが実に健やかな寝息を立てていて、顔の表情には一点の曇りもない。

まだ朝も早い。無理に起こす必要もないと思い朝食の用意をする。

 

アイリがここに住み始めてから彼女が料理を担当というか作りたがったので俺は必然的にしなくなったができないというわけではない。

素早く器用に体を動かしながら、一度に四つくらいの料理のプロセスをこなす。煮ものの味見をし、野菜をまな板の上で素早く刻み、冷蔵庫から卵を出して盛りつけ、使い終わった鍋をさっと洗った。自作の納豆もある、今日は食べようか。

 

出来た料理を机の上へと用意していく野菜も卵も豆腐、それぞれに個性的な香りを放ち、そうしたもろもろの食べ物が朝の膳に渾然とした朝のムードをかもし出す。飲み物はコーヒーにしようか。

 

家じゅうに香ばしいコーヒーの香りが漂い、暖かい雰囲気をそこに作りあげた。

 

妹も起きないし、起こす必要もないだろう。別に一人で飯が食べたいというわけではない。妹が気持ちよさそうに寝ているのを起こすのが申し訳なさを感じるだけだ。

だから心の中で久々に一人でご飯を食べれてるぜふぅー!とか思ってないので悪しからず。

 

「……やっぱ、魔剣のデメリットきついなぁ」

 

コーヒーを飲み、炒めた野菜をかじりながら、いつのまにかそういうことを考えていた。テーブルと朝の光という組み合わせが、俺にこれからのことについてむやみに考えさせたのだと思う。

 

今日の鍛錬中にワンチャンゲームだけでデメリットは存在しないのではないかと考え、魔剣で牛とかを狩っていたのだがやはり効果を発動させた。

 

あの魔剣は切れないものなどないし、刃こぼれすることもない。だが敵を倒すときに敵が死ぬことなく、とある能力を発動させる。それはエターナルアドベンチャーのプレイユーザーが知るとこぞって欲しがった能力である。

 

……相手の感度、超上昇である。

性別不明、または男、オスには発動しない。女、メスには確定で発動する。

例で言うと多分メスであっただろう、今日切りつけた牛が今まで聞いたこともないような鳴き声を上げ、草が体に触れるたびにビクビクしてた。

ちょっと面白かったので頭を優しく撫でてみたら目がもうイッちゃってる感じになり、よだれがめっちゃ出た。

 

ミステリさんが言った、名もなき魔剣。しかしこの剣には名は用意されている。というかプレイヤーがつけた。もったいぶるものでもないのでさっさと名を明かすとする。

 

感度3000倍ソードだ。

……何、聞いたことあるだと?俺は知らないので問題ありません。

この能力だが切りつけた者が鍛錬を積めば任意で解除することが出来る。発動を制御することは出来ないけどなっ!そのため今朝の牛には申し訳ないが狩らせてもらった。普通感度がそこまで上昇したら生きていけないからな。

 

あれ、デメリットじゃなくね?と思ったそこの君。そんなわけない。男を切ったときは当然血が噴き出してくるが、女を切った場合は血の代わりに艶やかな声が噴き出す。

そんなの傍から見たらどう思うよ。

俺なら男には容赦なく殺しにいくが、女には殺すフリをしてセクハラしてる変態だと思う。

解除したくてもどういう原理で起きてるか分からないので未だ手探りだ。

 

ため息をつきながらもうご飯を完食というところで、隣の部屋がゴソゴソと動き出したと思えばすぐに扉が力強く開けられた。

 

そこには髪がボサボサで寝間着の恰好をしたアイリがいた。

 

「ごめんなさいっ! 寝過ごした……」

 

「なに、いつも作ってもらってたからな。アイリが疲れている時くらい俺に任せろ」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」

 

そう言って少し俺をジト目で見る。

な、なんだよ……。

 

「寝過ごしたボクが悪いのは間違いないんだけど……何でご飯が出来たときに起こしてくれなかったの?」

 

「ん……。まぁ、いいじゃないか。しっかり寝れたろ」

 

「今の時間はむしろちょっと遅いくらいだよ! 兄さんと一緒に食べたかったのに……」

 

「ハッハッハッ」

 

マジ勘弁である。正直いつも一緒にいるだけでこちらのメンタルがゴリゴリ削られていっているのに、なぜ自分からその状況を作り出さんといかんのだ。

 

アイリが食卓の席に座り、俺は立ち上がり皿洗いをする。

カチャカチャカチャと皿や食器の触れ合う音だけが空間を支配する。そんな時、アイリが口を開く。

 

「そういえば……あまり気にしてなかったけど、ルナさん今日いないんだね」

 

「今までがおかしかったんだよ」

 

「そうだけど、昨日も村に行ってからルナさん来ることなかったでしょ? いつもなら朝昼夜に最低一回ずつは来てたのに」

 

……来すぎだろ。だが少し気になることでもある。この状況は俺の望み通りだが、昨日の今日でルナがこの家に来ないということはほぼありえない。

なぜなら直接来るなと言っても来たことあるからな。(白目)

鍛錬の途中で来なかったとはいえ、通常通りなら今頃この家でくつろいでいるだろう。

 

皿洗いが終わり、手を拭きながらアイリを見ると何やらソワソワしている。まるで当たり前の光景が急に無くなり、怯えているように見えた。

 

はぁ~。

 

「少し、外に出てくる」

 

「……兄さん?」

 

「多分遅くなるが気にせず家にいてくれ。そのうちルナも来るだろうし」

 

「兄さんっ!」

 

アイリは花が咲くように次第に唇をほころばす。

くそっ、俺は何を言っているんだ。折角のこの状況、自分で壊すことなんてアホの極みだ。

まぁそれも今日だけだ、そうっ!今日だけっ。

 

俺は自分の部屋へと戻り魔剣を手に取る。

この家から村まで歩いて二十分ほど。焦ることはない、ゆっくりと行こうか。

ルナの無事でも確認したら家にでも呼び、アイリを安心させてやろう。

その間、俺はダンジョンにでも行けばいい。

 

そう思い、俺は鼻歌を歌いながら村へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

村へもう入る、というところで何やら怒号のような女の声と、耳に響くような高い音が、村から聞こえた。  何だ?と思い気配を隠しながら進んで行く。それくらい物騒な気配が神経をざわざわと刺激した。音は数秒続いて止んだ。それからも断続的にこもった音がしたが、やがてそれも聞こえなくなった。

 

「……さて、何をやってるのやら」

 

人が集まっているのは村の中心の広場。家の陰からこっそりと除く。

人が多くて分かりづらいがどうやら騒動の中心にいるのはルナと……その母親らしき人物だ。今まさにビンタされたところだろう、ルナの頬が真っ赤に染まっていた。両方の頬が赤いことから先ほどの音はビンタの音だったのだろう。

 

……何やらドロッとした感情が湧いてきた。その感情が何なのかと理解する前に騒動は進んで行く。

ルナの母親の声が少し離れた俺にも正確に聞こえてきた。

 

「ルナッ、何回も言っているでしょう! いい加減あの化け物のところに行くのはやめなさいっ!」

 

「ルウシェ君は化け物なんかじゃないもんっ! お母さんこそ分かってよ!」

 

「あなたと同じような年の子供がゴブリンキング率いる群れを殺したのよ!? あれが化け物じゃなければなんて言うのよ!」

 

「村を救ってくれた友達だもん! なんでみんなは化け物だとか鬼とか言うの!? ルウシェ君が居なかったら私たち死んでたかもしれないんだよっ!?」

 

「このっ……! 言うことを聞きなさいっ」

 

また母親が手を振り上げ、ルナが目をぎゅっとつむる。

 

……あぁ、この光景はだめだ。

 

ぱたん、ぱたん、と頭の戸が次々に開く。不用意に記憶を辿っていくとまずいぞ、と気づいた時には、すでに、開くべきではない戸も開いている。出てくるのは、「助けて」と縋るような目で懇願してくる()()()()()()少年の顔だ。

 

『許してお母さん――』

 

その光景をもみ消すように、隠れていた家の壁を壊れない程度に全力でたたく。意識外からの大きな物音に視線が一気にこちらへ集中する。

 

村人たちの表情の変わりようは傑作だったとでも言っておこう。野次馬でルナたちの言い合いを見に来ていた者は、はやてに吹かれた木の葉のように、からだを斜めにして逃げ出す。

 

そしてその場に残ったのはルナとその母親。俺がゆっくりと近づいていくと母親が蒼ざめた顔に血管が膨れ上がり血の気の引いた唇を固く結ぶ。

 

だが流石というべきか先ほど喧嘩していたはずのルナの手を握り、少し抵抗の意思を見せたルナに構うことなく抱え込んで逃げていった。追いかければすぐに追いつけるだろう。

 

しかしそんなことする必要もない。ルナの安否は確認できた。手紙もルナだけが気づく場所へと残しておいた。なら、もうここに用はない。

 

だから、ルナ。いつまでもこっちを見るな。そんな申し訳なさそうな顔をする必要はない。むしろお前に見られているほうがつらいのだから。

 

そして誰も俺の視界に入らなくなった。先ほどまでのざわめきが氷の世界に閉ざされたように凍りついて静まり返った。

 

ただ、己の心臓の音だけがうるさく俺の耳に響いていた。

 

 




今回も読んでいただきありがとうございました!

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