女性恐怖症の俺がエロゲ攻略なんて不可能だろ! 作:ryou卍
ですが感想を貰えると作者が喜ぶのでいただけると幸いです。
村から手早く出た俺はダンジョンへの道を進む。
人を隠すくらい深く生い茂る草木。気を抜けば今自分がどこにいるかさえも分からなくなりそうだ。
人、獣さえ通っていないだろうと獣道さえないことからわかる。
歩くたびに草が顔に擦れることに煩わしいことこの上ないが、俺の内心は全く別のことで気が重くなっていた。
仄暗い虚無感が、鏡の上の雲のように意識に影を落とす。
「……はぁ、やっぱり人と関わるとろくなことにならんな」
なぜ放っておかなかったのだと己の汚い部分が問いかける。
思考の滑車がぐるぐる回り、次から次へとさまざまな考えが現れる。現れては、消える。どうする、どうする、と自分の内なる誰かが囁いてくる。
別にあのままルナと彼女の母親の会話が終わるのを待っておくだけでよかったのだ。だというのに俺は思わず自分の存在を誇示し、あの場を終わらせた。
あの光景を終わらせたのはルナのためとかいう善からの気持ちから起こしたわけではない。むしろその逆。一刻も早く灰色に染まった感情を消し去りたかったからだ。
あの母親が自分の子供に何回も手を出すという光景に既視感を覚えてしまった。その瞬間思わず忘れようとしていたはずの光景が鮮明に脳内によぎり、膝から崩れ落ちそうになった。
あぁ、また思い出してしまった。
その瞬間、草むらの中に吐いた。木に左手をつき、右手の指を喉の奥へ突っ込むと、すぐに腹の筋肉が痙攣して生暖い液体が出てくる。胸や腹が波を打つたびに、喉と口に酸っぱい塊が溜まり、舌で押すと、歯茎を痺れさせてボトボト落ちていく。
早く、早くこの症状を止めなければ。そう思い草むらから抜けた俺は手ごろな魔物がいないか探す。
そして見つけたのは馬型の魔物。よく田畑を荒らし、農民に嫌われている魔物である。
ちょうどいい。馬型の魔物よ、俺のストレス発散に付き合ってくれ。
鞘から剣を抜き、一気に近づいて一振り。それで終わりだ。
その推定が外れることなく、魔物は俺に近づいていることに気が付くことなく無防備なままで斬られた。
そして肉を切り裂く感触が俺の手に伝わる――ことなく。
「うっひっひひぃぃぃぃん!!!」
超絶気持ち悪い鳴き声を上げた。そして足早に俺の前から走り去っていった。
……お前メスかよ。
なんだが気が抜けた。さっさとダンジョン内に入るとしよう。
◇◆◇◆
それは恐ろしいほどの完璧な暗闇だった。 何ひとつとして形のあるものを識別することができないのだ。自分自身の体さえ見えることない。そこにあるものは黒色の虚無だけだ。
――これが魔のゴブリンの巣か。
焦ることなく左手前へ突き出し、呪文を唱える。
「ライト」
その言葉を唱えた瞬間、一歩歩くことさえままならない洞窟内が今はどんな奇襲にさえ対応できるであろう明るさとなった。
さて、これでもしもの対策もできた。
暗闇の中からこちらに奇襲をかけようとしていた気配から戸惑いの感情が伝わってくる。
考える時間など与えてたまるか。さっさと攻略させてもらうとしよう。
そう思い、俺は力強く地面を蹴った。
◇◆◇◆
――侵入者だ。
とある暗闇のダンジョンの中。五匹のゴブリンが侵入者に気づいた。
このダンジョンにいるゴブリンたちは己が非力であることに気づいている。そのために闇に紛れ、集団で行動し獲物を捕らえる。この方法を用いればどんな格上の侵入者だって殺すことができる。そのことを理解したゴブリンたちの結束はより強固となった。
主のおかげなのかこの地は一度も踏み入られたことのない場所と思われている。なので油断した人間が軽い気持ちでこの場所に入ってくる。今回もそうだろう。
五匹のゴブリンは顔を見合わせ、入口へと物音を立てないように近づいていく。そして小さい穴へと入り込む。ここのゴブリンたちの基本の狩り方は待ち伏せからの奇襲であるからだ。
これからやってくるだろう獲物にいやらしく笑みを浮かべていると、違和感を感じた。
ゴブリンは暗闇でさえ昼間と同じように見える。しかしその感覚がどうにもおかしい。
あまりにも見えすぎるのだ。どういうことだと不信感を抱き、ゴブリンしか聞き取ることのできない鳴き声を上げる。
一、二、三……、あと一体から返事が返ってこない。急いで四匹で集まり、残りの一体がいるはずの持ち場へと走りだそうとしたその瞬間、仲間の悲鳴が聞こえた。
救援に駆け付けようとこん棒を握りしめ、ゴブリンたちは散会して悲鳴が聞こえた場所へと走っていく。常にお互いの位置を把握するために鳴き声を出しているが、また一体の鳴き声が消えた。
混乱するまま、急いで悲鳴を聞こえた場所に行き、辺りを確認するがそこには何もなかった。残った三体が何回も鳴き声を上げる。
その瞬間二体のゴブリンの頭は吹き飛んだ。
これまで遭遇したことのない事態に戸惑いながらもゆっくりと後ろを向くとーー。
「死ね」
鬼のような顔をした男が剣を振り上げていた。
それを最後にゴブリンは永遠に意識を失った。
この五体のゴブリンを仕留めたのは当然ルウシェである。初めてのダンジョン攻略ということもあり、慎重に慎重を重ね、一体ずつ仕留めていった。
気配を消し、一撃で。
だが今ので分かった。このゴブリンはやはりゲーム通り強くない。気をつけるのは暗闇でなくなった今では数だけだ。
一気に駆け抜けて、下の階層に降りていく。このダンジョンで出現するのは普通のゴブリンのみ。経験を積むことにもあまりならないだろう。
そう思い、俺は止まることなくボス部屋まで走っていった。
◇◆◇◆
「よし、着いたな」
目の前にはおどろおどろしい大きな扉。扉の前に立つと手がぶるぶる震える。これがボスのプレッシャーなのだろうか。ここにいるのはゴブリンソルジャーなはず、一度倒したはずの敵なので気負うことないのだがどうにも俺の第六感がここを開けるなと言っている。
主人公と俺自身の勘なので、出来るだけ逆らいたくないのだがここをクリアしなければ話にならない。十分な警戒をして扉を開けるとしよう。
ゆっくりと開けていくとぼんやりだが敵のシルエットが見えてくる。
ここには筋肉質の大柄な剣を持ったゴブリンがいるはずだが……あれ?
上から観察していくとしよう。まず頭。
――滝のようにまっすぐ伸びる金色の髪。
……顔はどうだ。
――甘やかされた愛らしい少女のような、引っ掛かりのない美しさ。
…………次は体。
――くびれる所とふくらむ所がはっきりした体つき。
………………足。
――すらっと伸びた美しい足が草や花に包まれている。
ふむふむなるほど?
どうやらゴブリンソルジャーは随分と小柄になったものだ。これなら倒すのも簡単かもなぁと思いつつ足の震えが止まらない。
あれぇおかしいな。まるで大人の女性を目にしているかのような体の反応じゃないか。一回扉を閉め、震えが止まらない自分の体に疑問を……疑問を持つ。
「やっぱり今日は疲れているみたいだな。まさかここにアルラウネなんているはずないしなぁ」
過去のトラウマからの精神的疲労が目にも影響を及ぼしたようだ。もう一度見てみるか。
扉を今度はより慎重に開ける。そしたら見えるのは筋肉質のゴブリンソルジャー……ではなく。
「あぁくそっ! どう見てもアルラウネじゃねぇか!!!」
扉が壊れるのではないかと思うほど強く扉を閉める。
もう終わったわ。このダンジョン攻略不可能だわ。女ってないだろう、女は。
俺は女性恐怖症とはいえ子供の女の子はまだ大丈夫なのだ。冷や汗は出るし、足は震え、触るのも一大決心してからだ。
だがそれでもまだ大丈夫なのだ。そのため今のルナやアイリには常に間近にクマがいるくらいの緊張ですんでいるが、大人の女性となると話は変わる。
もう見るだけでもきつい。触られようものなら失神するのは間違いない。大人の女性の近くに行かなくていいのならゴキブリだって食べて見せよう。
……どうしよ。
ボス部屋にいたのは間違いなくアルラウネ。しかも成人している。俺の天敵だ。こういうことがないために必死に悩を回転させ、ゴブリンの巣へと来たのに。
大人の女性となると近くに入れるのは約一分。アルラウネが守りに入るだけでワンチャン詰む。一回戻ろうにもこのゲーム、相手が女型のボスときに限りボス部屋一歩手前で
要するに、閉じ込められた。
太陽が消えてなくなったような寒さと闇とがルウシェの心におおいかぶさった。