凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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久々にPCゲームをやったんですよ。すごいですね。オープニング見てるだけで疲れちゃいました。年かな。


97.正解と不正解

猛然と迫り来るナインボールに対してイッシンはフットペダルを蹴り抜いてJOKERにQBを発動させながら、右手に握られた【MR-R100R(アサルトライフル)】と左背部兵装【CG-R500(チェインガン)】のダブルトリガーで迎撃する。双方とも同系統の兵装と比べれば威力こそ落ちる代物だが、ローゼンタール製に共通する信頼性の高さをウリにした確実な弾幕を張る目的ならこれ以上の適任はない。

 

イッシンは鬼教官(セレン)に嫌というほどシゴきあげられたシミュレーションを思い出しながら、なんとかナインボールを照準内に収めてダメージを与えようとしていた。

 

ちなみに、その時のシミュレーション内容は『VOBと同速度で四方八方に動き回る直径2mの的を上位リンクスの攻撃を避けながら射抜け』と言うトチ狂ったメニューであり、初めて見たときは冗談抜きでセレンに精神科を勧めたほどだが、今この状況に置かれたからこそイッシンは考えを改める。せめて二割増しにしておくべきだった。

 

当たらない。ただの弾丸一発も。

 

もちろん【MR-R100R(アサルトライフル)】と【CG-R500(チェインガン)】から放たれる弾丸が全て当たるとは思っていない。通常のネクスト戦でも撃ち漏らしは日常茶飯事だ。

 

しかし、だがしかし。一発も当たらないのは流石に異常である。武器の整備不良だとかFCSの故障でしか有り得ない事象を目の前のナインボールが機体性能一つで捻じ伏せる様は恐怖を通り越して畏怖すら覚えてしまう。コイツにはどう足搔いても勝てない。それこそ天に唾吐くようなものだと。

 

仕舞いには、前世を含めこれまで経験してきた危機的状況ですら生来より封印されてきた原始的な生存本能【逃走】を目覚めさせるには至らなかったのにナインボールの戦闘能力を目の当たりにした瞬間、まるで向こう(逃走本能)側が『いつになったら出すんですか?』とクラウチングスタートの姿勢で聞いてくる始末だ。

 

俺だってそうしたい。全部投げ出して無様に小便を漏らしながら死にたくないと叫びながら敗走したい。

 

だが、それを俺の闘争本能が許さないのだ。逃走本能が脳内で呼び掛けてくるよりもずっと大きな声で叱咤してくるのだ。『マグヌスとバッカニアが居るのに何故逃げる必要がある? ナインボールを倒すことこそ最上最大の誉れだろう。お前の持つ山猫(リンクス)の覚悟とはその程度のものか』と。

 

 

「ネリス! マーカーした地点に追い込む! 合わせろ!」

 

《誰に言ってんの!》

 

 

威勢良く返答するネリスの怒声を確認したイッシンはJOKERの【CG-R500(チェインガン)】を格納して【EB-R500(レーザーブレード)】を発振させると【MR-R100R(アサルトライフル)】の残りマガジンが空になる勢いで乱射しながらOBを発動した。

 

対するナインボールは自身に放たれた弾丸を全てお手本のように回避しながら向かってくるJOKERを捕捉し、搭載されたスーパーコンピュータの演算処理で到達予想時間と最効率加害箇所を算出。最適なタイミングで一刀両断してやるとばかりにレーザーブレードを発振させながら迎撃せんと突っ込んでくる。そして両者が一つの閃光に成り、レーザーブレード同士の過干渉で電磁波が彼等を包み込んだ瞬間。

 

 

「受けてくれてありがとよ!」

 

 

イッシンはすかさず肩部に装備していた【FSS-53(ロケット)】をゼロ距離で発射した。【FSS-53(ロケット)】はオーメルグループ内でも特に斜陽と揶揄されるテクノクラート社が製造する特殊兵装だ。レーザー兵器やコジマ兵器が台頭するACfA世界において現実世界と同様の旧式ロケット兵器を作り続ける職人気質な同社にはある種の畏敬の念を抱かずにはいられないが【FSS-53(ロケット)】に関して言えば違う評価になる。

 

この兵器、威力こそ雀の涙しかないのだが着弾した相手に与える物理的衝撃力が桁外れに高いのだ。それこそ作中に登場する全兵器の中で社長砲こと【OIGAMI(ロマン砲)】に次ぐ高値だったりする。アーマードコアにおいて物理的衝撃力は敵を行動不能、つまり硬直させられる力を現しており硬直可能時間は最大2秒程度。そしてそんな兵装をゼロ距離で当てられたナインボールも例外では無い。

 

硬直したナインボールを尻目にその場を離脱したイッシンは【FSS-53(ロケット)】をパージして投げ付け、右手に持つ【MR-R100R(アサルトライフル)】で誘爆させた。度重なる衝撃の波にナインボールは動くことが出来ず、スーパーコンピュータの演算処理だけが虚しく稼働している。

 

 

《そこおぉ!!》

 

 

そして好機を窺っていたネリスがそれを見逃す筈は無く、バッカニアのメインカメラを通して狙い澄ました【A12-OPS(ハイレーザーライフル)】の最大出力レーザーを叩き込む。馬上槍の先端に集約された光は刹那の間に極大の青白い光条となって一直線にナインボールへ突き進み、その光をナインボールのメインカメラに照り返させて呑み込んでいった。

 

側壁に到達したレーザーは蒸発音に近い爆発を引き起こして多量の黒煙を撒き散らしながら、やがて黒煙だけを残して消える。

 

 

《や、やった……!?》

 

「ハァ……ハァ……それ、フラグだからやめてくれます? もう一回アレやれってのは無理だから」

 

《なによ、ノリ悪いわね。まぁ流石にあの極大レーザーに吞まれて生きてるってのは無いで……しょ……?》

 

 

イッシンを囮にして死地に放りこんでおいて相変わらずの軽口を叩くネリスに、戦闘によって息も絶え絶えのイッシンはマジトーンで窘めながらバッカニアに近付いて行くが突然疑問形で絶句したネリスの様子を見て、考えたくない嫌な予感が背筋を走る。

 

――いや嘘だろ? 流石に笑えないぞ。あれだろ? 実はドッキリ的なやつだろ? 俺わかってるから。 ネリスはそう言う子だってわかってるから。ほら、だから全然怖くないし。全然振り返られるし。

 

そうしてイッシンが振り返ると、居た。

 

 

 

全身が煤けて赤よりも黒の方が多くなり、メインカメラが一部を除いて殆ど消し飛び、左腕も無く、コアの右側が抉れている、直立したナインボールが。

 

 

 

《……馬鹿げてる。私は夢でも見ているのか》

 

「サーモカメラに写ってるってことは夢じゃないみたいだな。心中お察しするぜセレン」

 

《ほんっっっとに最悪! いくら無人機だからってやっていいことと悪いことがあるでしょ!?》

 

《――待て。無人機と言ったか?》

 

「ん? 言ってなかったっけ。ナインボールは完全自律型AIだぜ。そんなもんを量産してる世界があるんだからやってられないよな」

 

《……まったく。嫌なタイミングだが、お前が転生者だと信じてもいい気がしてきたよ》

 

「そりゃどうも」

 

 

セレンと掛け合いでそうこうしているうちに、満身創痍の煤けたナインボールのメインカメラから赤い光が消えてブラックアウトした。警戒態勢を崩していなかったJOKERとバッカニアは再び臨戦態勢に移行してナインボールの出方を窺っていると、今度はナインボールのメインカメラが紫色に光り出し、男性とも女性ともつかない機械音声のアナウンスが周囲に響き渡る。

 

 

【システム40%損傷。対象をイレギュラーと認定。修正プログラム発動、状況を開始する】

 

「は?」

 

 

そこからが速かった。有人機であれば即撤退レベルの損傷を受けていながら、手負いのナインボールはいままでの戦闘が準備運動とでもいうような挙動で向かってきたのだ。

 

手始めにナインボールは背部兵装のグレネードランチャーと連装ミサイルを起動させるとグレネードランチャーをJOKERに、連装ミサイルをバッカニアにそれぞれロックして攻撃してきた。

 

並のグレネードランチャーならJOKERの機動性を駆使して難なく躱しつつ反撃することが出来るが、まるでライフルのような弾速と連射速度で放たれては回避に専念するしかない。加えて、バッカニアを追い回す連装ミサイルの威力が半端ではなく【061ANCM(高速分裂ミサイル)】と【POPLAR01(高追尾ミサイル)】の合作とも言える驚異的な性能で、元々がフロート型軽タンクである鈍足のバッカニアを徐々に追い詰めていく。

 

そんな状況の中、ネリスは自身が放った最高の一撃をマトモに浴びてなお此方を圧倒出来る性能を有しているナインボールに対してフラストレーションが込み上げてきており、遂には回避もそこそこに迎撃態勢にシフトしてしまう。

 

 

《ふざけないでよ! この、この、このぉ!!》

 

「やめろネリス! 回避に専念するんだ!」

 

《こんな攻撃で私がやられる訳無いでしょ!》

 

 

イッシンの制止も聞かずネリスは【A12-OPS(ハイレーザーライフル)】と背部兵装【PC01-GEMMA(パルスキャノン)】のダブルトリガーで飛来するミサイルを撃墜していくが、使用する武器が双方ともエネルギー兵器であるため撃てなくなるのは時間の問題だった。そうなればどうなるかなど小学生でも分かる。

 

こんな時どうするべきか。イッシンが自身に問いかけている最中、セレンから無情な通信が入る。

 

 

《イッシン、お前は回避に専念しろ》

 

「……ああ、分かってる」

 

 

生き残るために見捨てろ。セレンが言外に込めた意味は十分理解出来る。むしろ傭兵としては最適解だ、これ以上はない。イッシンは深く息を吐いて操縦桿を握り直す。肌に張り付いたリンクススーツが冷たく感じる。

 

そう、これが正しいんだ。

 

 

「セレン」

 

《? なんだ》

 

「帰還出来たら、しこたま怒ってくれ」

 

《……馬鹿野郎が》

 

 

セレンの恨み節を聞いた俺はフッと笑う。そうだよな。馬鹿だよな、俺。それも会って日の浅いヤツなんかに。

 

だけど変える気は無い。

 

俺は、間違ったままでいたい。

 

 

「【限界機動】……行くぜ、JOKER!」

 

 

JOKERのメインカメラが一際大きく輝いた。




いかがでしたでしょうか。

普段はダーティーな戦法メインの癖に仲間が危機になると主人公ムーブかましちゃうイッシン君。いまから君の名前は【映画版ジャイアン】だ。いいね?

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