凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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エルデンリングが発売されましたね。ダクソも今半世紀最高のゲームに選ばれた事ですし、RPG系の開発はそろそろお休みしてアーマードコアの新作を……。


102.思惑

ORCA旅団移動基地【ゴルディロックス】 独房

 

簡素なベッドと清潔な水洗式便器だけが備え付けられた3m四方の独房はゴルディロックス内に3室存在しており、本来カラードとの交渉材料になる捕虜を収容するために設計されたものだ。しかし現状、その一室は度重なる命令違反を繰り返す同志――オールドキング――のための懲罰房兼自室と成り下がっていた。

 

 

「あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅとぅー、あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅー」

 

 

オールドキングはベットに身を預けて両手を頭の後ろに回し、なんとも味気ない天井を見つめながら鼻歌を唄う。いつ聴いたのか、それすら思い出せないほど遥か昔に聴いた曲。歌詞の殆どは忘れてしまったが、この一節だけは何故か覚えている。

 

I'm Thinker――自分は思想家か。自らを思想家とのたまう輩にマトモな人間など一人もいない。ORCA(ここ)の連中もそうだ。実質は嫌いな同じヤツを殺したいだけなのに、それを人類の進歩のためになんて尊大な大義名分を掲げて有耶無耶にしている。それが気にくわねえ。革命なんざ最後は殺してなんぼだってのに。

 

 

「……くだらねぇ」

 

「オールドキング、入るぞ」

 

 

不意に機械的な印象を与える声がしたかと思えば独房のドアが開き、漆黒のジレとスラックスを着こなしたメルツェルが室内に入ってきた。右脇にはバインダー型のタブレット端末を抱えており、いかにも仕事中であるといった雰囲気だ。

 

 

「自動人形がなんの用だ。説教なら要らねえぞ」

 

「クローズプランでの戦力低下は避けたいと会合で一致した。謹慎解除だ」

 

「……そうか。じゃ俺はリザの整備でも――」

 

「その前に一つ、聞きたいことがある」

 

 

謹慎解除の言葉を聞いてベッドから気怠げに跳ね起きたオールドキングはズボンのポケットに両手を突っ込んで猫背に丸まったまま部屋を後にしようとするが、それをメルツェルが言葉で制して彼の前に立つ。自身の進行方向を妨害されたオールドキングは人目も憚らず舌打ちを鳴らし、威圧的な眼光を向けた。

 

 

「なんだよ。まだ何かあんのか」

 

「何故サハラに行った」

 

「あ?」

 

「答えろ。何故サハラに行った」

 

 

メルツェルとオールドキングの身長はほぼ同じだがメルツェルの体格は細く、オールドキングの厚く頑健な体格とは雲泥の差だ。しかし全身から放たれる存在感はオールドキングと同等かそれ以上のものを有しており、合理主義を嫌う彼が唯一認めている部分でもある。メルツェルは自身が答えるまで退く気はないと判断したオールドキングはウザったそうに口を開く。

 

 

「例の施設ってのがどんなもんか見たくなっただけだ」

 

「本当にそれだけか」

 

「一度話したことを何度も言わせんなよ。カラードの雑魚共とガラクタが偶然居たから、ガラクタをぶっ壊してカラードの雑魚共もぶっ殺そうとして新入りに止められた。それで全部だ」

 

 

オールドキングの口調と所作を見る限り、帰投時の尋問と同様に嘘はついていないのだろう。そう確信したメルツェルだが同時に不安にも駆られる。なにせオールドキングは全世界から異端とされるORCA旅団の中でも殊更に異端とされる者だ。狂気の内に秘められた混沌の中に何が潜んでいるか見当もつかない。故にメルツェルはより強い釘を刺したのだが、これがいけなかった。

 

 

「まぁいい。計画のため、存分に働いて貰うぞラティ――――――ぐっ!?」

 

 

突然、胸ぐらをつかまれて壁に叩きつけられたメルツェルは思わず目を閉じてしまう。次に目を開けた瞬間には拳銃の銃口が喉元に押し当てられていた。安全装置は外されており、いつでも発射可能な状態にシフトしている。そしてラティと呼ばれたオールドキングは深海のように深く、(くら)く、凍えるような雰囲気を纏っていた。

 

 

「そんな奴はいねぇ。俺の名前はオールドキングだ。それを忘れるな」

 

「……悪かった。以後気を付ける」

 

 

お互いに目を見つめ合う無限とも言える数秒の間、メルツェルの本気の謝意を感じ取ったオールドキングは押し当てた拳銃を喉元から離して安全装置を掛けてホルスターにしまい、メルツェルを自室に残したままその場を後にする。その先には白銀のリンクススーツに身を包んだ東洋系の男性が一人、廊下の壁にもたれ掛かって腕を組んで目を瞑っており、オールドキングが部屋から出て来たタイミングで目を開けて東洋系らしい黒い瞳を彼に向けた。

 

 

「よぉ真改、死に損なったらしいな」

 

「……猜疑」

 

「どうとでも言えよ。俺は好きなようにやるだけだ」

 

 

真改と呼ばれた男の一言にヒラヒラと手を振って答えたオールドキングは彼の目の前を横切って格納庫に向かう。その様子をじっと見ていた真改はドアを開ける音を聞いてようやく視線を移し、首をさすりながら出て来たメルツェルに声を掛けた。

 

 

「胡乱」

 

「いや、そうでもない。彼の行動原理は極めて単純だ。理解に苦しむだけでな」

 

「注視」

 

「そうしてくれると助かるが無茶はするなよ。お前はまだ病み上がりだ」

 

 

どう考えても相対する文字量がおかしいのにどうして会話が成り立つのか不思議だが、それは(ひとえ)に同志として過ごした時間が長いからだろう。二人の視線が再びオールドキングを追おうとした時、遠くに見える彼は曲がり角で姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 ORCA旅団移動基地【ゴルディロックス】 執務室

 

 

「GAの特務遊撃大隊が? 確かな情報か」

 

《干されたとはいえ我が社の情報網を舐めないで欲しいわね。今の特務遊撃大隊は間違いなくGAグループ史上最大規模の単一戦力。精度は保障するわ》

 

 

チタンフレームで構成している洗練されたデザインの執務用デスクには暁色の準礼服を纏ったテルミドールが座っており、その視線は備え付けのモニターに映し出された一人の妙齢女性に注がれていた。女性の名はミセス・テレジア。【ランク27】を拝する下位リンクスでありながらリンクス戦争を生き抜いた【オリジナル】であり、ただ一人のトーラス専属リンクスでもある。

 

元々トーラスとはORCA旅団の礎であるレイレナードと同盟関係にあったアクアビットおよびGAEが合併して生まれた企業であり、アルテリア襲撃以前より秘密裏にORCA旅団を支援していた正真正銘のスポンサーなのだ。

 

 

「毎度のことながら情報提供感謝する。オーメル内部の同志達が動けない以上、頼れるのは君だけだ」

 

《それより、どうするつもり? インテリオル・オーメルもGAの動きに気付いて軍拡を始めた。開発が遅れている例の新型AFが出張ってくる可能性も否定できないわよ》

 

「その点は心配いらない。メルツェルの言葉を借りれば『勝利の天秤はおおかた此方へ傾いている』からな」

 

 

テレジアの問いに自嘲的に笑うテルミドールは思い返す。私一人でも革命を成し遂げるつもりだったが、メルツェルがいなければここまで上手くいくことは無かっただろう。まるで未来が見えてるように最適な一手を教えてくれる彼は、旅団にとって最高の水先案内人だ。

 

 

《あの自動人形くん? いくら腹心の参謀だからって盲信し過ぎるのはダメよ》

 

「心得ているさ。それではこれで」

 

《あっ、ちょっと待って》

 

「? まだなにか」

 

 

テレジアからの忠言を有難く聞き入れ、通信を終えようとしたテルミドールを彼女が制する。それまで余裕を持って会話していたテレジアが急にモジモジし始め、頬もほんの若干ながら赤く染まっていた。

 

 

《その……テ、テペスは元気?》

 

「――あぁ銀翁か? 本当に良くやってくれているよ。老体に鞭打つことは私もさせたくないがね。話したいなら呼んでこようか」

 

《そ、そんなつもりじゃ……!》

 

「それは残念だな。老い先短い私としては君と存分に話したかったんだが」

 

《テペス!?》

 

「今はネオニダスだ、と言いたい所だが君にその名で呼ばれるのも悪くないな」

 

 

いつの間にかテルミドールの後ろに立っていた銀翁は椅子の背もたれを両手で掴んでモニターを覗いている。いい雰囲気であることを察したテルミドールはやれやれと肩を竦めると、野暮な言葉を掛けることなく銀翁と席を代わって執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀翁のお陰で執務室を追い出され、なにげなく廊下を歩いていたテルミドールは脳裏にこびりついて離れないラインアーク事変の事を思い出す。オッツダルヴァとしてキドウ・イッシンと相見え、此方の展望を全て看破されたときの事を。

 

 

『あんたらの事はだいたい知ってるぜ? 企業の罪、アサルトセル、クローズプラン。しまいにゃエーレンベルクなんて骨董品持ち出すってんだから節操ないよな』

 

『そこまで知って何故カラードにつく。人類種が生き残るにはこれ以外の方法はないと君も分かっている筈だ』

 

『考えが浅いんだよ。九を殺して一を救うのは結構だが外的要因で勢い余って十を殺しちまったら本末転倒だろ』

 

『そうならないために何億ものシミュレーションを――』

 

『所詮予測だろうが。確定した未来なんて誰にも分からねえんだよ。ごく一部の人間以外はな』

 

『……どういう意味だ。君には未来が見えるというのか』

 

『流石に全部は見えねえけど、この世界の終着点は誰よりも見えてるつもりだぜ?』

 

『なら教えてみろ。世界はどうなる』

 

『奇跡が起きなきゃ100%滅びる。でもそれは企業のせいでもアンタらのせいでもない。いわゆる第三勢力ってやつさ』

 

『……そんな戯言を信じろと?』

 

『信じようと信じまいと起こるのは確定してんだ。俺から言えるのは入念に準備しておけってこと。それと、アンタらが企画してる七月のお披露目会も諸々の事情で不発に終わるからな。覚えておけよ』

 

 

これをメルツェルに話した時、彼はいつもの微笑みで「確かに可能性は捨て切れないな。一応準備しておこう」と言っていた。しかし私は気付いた。ほんの一瞬だけメルツェルの表情が陰ったことを。私の(あずか)り知らない所で何かが起こっている。それがなんなのかは分からない。ただ確実に起こっているのは確かだ。

 

 

「……私が聴衆とは。まるで喜劇(ファルス)だな」

 

 

なにもない虚空を見つめ、テルミドールは力無く呟いた。




いかがでしたでしょうか。ジジイババアの色恋なんてどこに需要が……おっと誰か来たようだ。

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