凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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毎度、誤字脱字報告ありがとうございます。校正して頂いて初めて気付くミスもあり、だいぶ助かってます。

話は変わりまして、宝くじって多空くじとも言うじゃないですか。ようは物欲センサーが働いて当たらないと考えたわけですよ僕は。だから『ハズレてくれ!』って真剣に願いながら購入したんです。そしたらね、当たったんですよ。300円。


103.女ならでは夜は明けぬ

【フラスコと硝煙の桃源郷】 ジョニーの格納庫

 

 

「ここにいたのか。コーヒーでもどうだい?」

 

「……ああ、貰おう」

 

 

企業専属の最上位リンクスでもこれほどの設備は与えられないだろうと胸を張って言える最新式格納庫の隅で、汎用コンテナを椅子代わりにして小さく座っていたセレンに、ジョニーが両手にコーヒーを持って優しく話し掛ける。

 

イッシンがここに搬送されて72時間以上が経過していた。しかし、JOKERとのAMS同調がこちらを拒否されているかのように上手くいかないことに加えて、現状況で無理に強制同期すればイッシンへの精神的影響が計り知れない。万全を期すためにはJOKER側が合わせてくれるまで待つしか無い、というのがジョニーを筆頭とした研究チームの結論だった。

 

この結論を聞いたセロは事の顛末をラインアークへ報告するために一時帰還。ネリスはコルセールの調査チームを率いてサハラの施設内部調査を再開。セレンは一人ここに残り、イッシンが目覚めるまで共に居ることを選択したのである。

 

セレンの傍らに座ったジョニーはコーヒーを一口啜り、自慢の格納庫へ綺麗に収められたJOKERを見遣った。黒一色に染め上げられた異形の巨人の胸部は無防備に開け放たれ、その周囲には常駐している二~三人の研究員がイッシンのバイタルを細やかにチェックしている。彼は相変わらず穏やかな顔で意識を失っており、まるで眠り姫だ。

 

そうしてしばらくすると視線を正面に戻して自身にも言い聞かせるようにセレンへ言葉を掛けた。

 

 

「ところで、最後に寝たのはいつだい?」

 

「さあな」

 

「僕の記憶が確かなら君は既に80時間以上起きてることになるんだけど」

 

「……連続160時間の不眠訓練を受けている。その程度なら問題ない」

 

「言っても聞かないとは思ってた」

 

 

ジョニーは薄く笑うとコーヒーに口を付けた。彼女に差し入れるため、それなりに高いインスタントを使ったお陰でいつもよりコクと後味がすっきりしている……いや、普段飲んでいるインスタントが不味すぎるだけか。普段常飲しているキロ1C(コーム)のインスタントコーヒーを初めて飲んだときには目が覚める思いをしたが、慣れれば案外イケるものである。

 

己の馬鹿舌加減を自嘲するジョニーとは対照的に、セレンの表情は全く変わっていない。何事も無いかのように気丈に振る舞っているが、憔悴しきっているのは誰の目にも明らかだった。だが(たち)の悪いことに、それを気遣って彼女を仮眠室に送ろうとした研究員達の(ことごと)くはアゴを右フックで撃ち抜かれてKOされている。

 

そんな傷だらけの野良猫を彷彿とさせるセレンに困り果てた彼等が最終的に縋り付いたのが主であるジョニーと言うわけだ。まぁ彼がセレンをどうにか出来るかと言われれば、その限りではないのだが。

 

 

「そういえばAMSの件、心当たりはあった?」

 

「皆目見当もつかん。そもそも本当に中で私を見たのか」

 

「アレは間違いなく君だった。保障する」

 

「――そうか」

 

 

沈黙。

 

 

「やっぱり怖いかい?」

 

「なにがだ」

 

「判ってるくせに」

 

「……それはお前の役目だろう」

 

「勿論、最善は尽くす」

 

 

そうして再び沈黙が訪れ、二人が持つインスタントコーヒーの湯気が消え失せてなお明けることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インテリオル・ユニオン本社 地下5階

 

巨大な円卓中央に置かれた球体状のオブジェから放たれる淡い水色の光が放物線を描くように上部へ収束し、その場所に作り上げられた立体ホログラフィックの地球儀がぐるぐると世話しなく回り続けている。

 

上座にはスーツ姿の壮年男性が一人と彼を挟むように若年であろう秘書の女性が二人座っていた。対する下座には男装の麗人を体現した真鍮色の軍服を纏った女性――【ランク3】ウィン・D・ファンション――と、腰まで伸ばした照りのある漆黒の髪が印象的でミステリアスな伏し目の女性――【ランク6】スティレット――、白髪のボブカットが似合う小さなヒビの入った眼鏡を掛けた女性――【ランク20】エイ=プール――の三人グループが座っており、それに加えてもう一人。

 

壁に背を預けながら腕を組んでいる黒のサングラスを掛けた禿頭の筋骨隆々な男性――【ランク15】ヤン――が物静かに佇んでいる。

 

 

「……時間だ。今回君達に集まって貰ったのは他でもない。GAグループが戦力の集中化を行っていることは既に知っているな。恐らくは昨今騒がれているORCA旅団とやらへの警戒策だろうが、同時に他グループへの示威行為も含まれているのは明白だ」

 

 

スーツ姿の男性が口火を切り、世間話を挟む間もなく単刀直入に本題を話し始める。揚々とした声と口調は大衆向けの演説には持って来いの才能だが、ここに居る四人には響くどころか鬱陶しいとさえ思われていた。どうせ大した内容でもないのに、何故そこまで勿体振った話し方をするのかと。リンクス達のそんな視線などお構いなしに男性は話し続ける。

 

 

「よってこれに対抗するべく我々インテリオルグループも独自に戦力を再編成。ORCA旅団討伐を前提として運用し、仮に企業間戦争へ発展した場合でも問題ないレベルの部隊を設立させる」

 

 

企業間戦争。

 

この一言が発せられた瞬間、それまでの怠慢な空気が嘘のように打ち破られ、四人の眼光が鋭いものへ様変わりした。その雰囲気を察した男性は続けて話そうとした口を一度(つぐ)み、質疑の時間を設ける。彼等のような歴然の強者に一方的な命令を押し付けるのは悪手であると知っているが故の行動であった。

 

 

「疑問が生じているなら忌憚なく言い給え」

 

「なら私からいいですか。この状況でインテリオルが戦力を集中させるのは理解出来ます。出来ますけど、優先順位がおかしいんじゃないですか」

 

 

律儀に挙手して発言したのはエイ=プールだった。ミサイル特化型ネクスト【ヴェーロノーク】を駆る彼女はリンクス戦争当時から現役で活躍しており、機体の特性上、弾薬費が膨大になり過ぎて専属リンクスにあるまじき「万年金欠」の汚名に悩まされながらも常に一定以上の戦績を残してきた実力派である。

 

 

「優先順位? 現状考えられるあらゆる脅威に柔軟に対応するために戦力を再編成するんだ。なにもおかしくは――」

 

「エイ=プール女史が言及したいのはそこじゃない。その『あらゆる』の意味がORCA旅団よりも、企業間戦争に偏っているようにしか聞こえないと言っているんだ」

 

 

スーツの男性が話し終えるより先に『お前は質問の意図を理解していないのか』と呆れた雰囲気を醸しながらヤンが口を出す。アクチュエータ複雑系の先駆者としてお馴染みのアルブレヒト・ドライス、通称アルドラ社唯一の専属リンクスであるヤンは国家解体戦争時、国軍側の兵士だったという異色の経歴の持ち主である。その豊富な経験でリンクス戦争を見事生き延び、今では中堅リンクスとして堅実かつ圧倒的な戦績を修めていた。

 

そんな戦略に於いての一家言を有している彼だからこそ、男性から話された言葉を軽くあしらう。何をどう考えても戦争を始めたい、もといGAグループのシェアを争奪したいようにしか聞こえないからだ。

 

 

「バカなことを。インテリオルグループが掲げた大前提はORCA旅団の排除だ。彼等を消さなければ他グループとの経済戦争どころかグループの存続すら危ぶまれるんだぞ」

 

「なら何故、戦力の配置計画を変更した」

 

「なに?」

 

「戦力の再編成が立案された当初、我々リンクス部隊はORCAの仮拠点と目されるエーレンベルク近郊の前線基地に配置される予定だったはずだ。それが蓋を開けてみればエーレンベルクに配備されるのは評価性能も疑わしい平たい新型AFが1機だけ、我々は全機インテリオル本社の護衛ときた。ヤツらとの全面戦争を避けたいのだと感付かないほうがどうかしてる」

 

 

それとらしい言い訳を並べた男性に対し、切れ味鋭い冷徹な言葉の刃で斬り掛かったのはウィンだった。美麗で整った容姿とは裏腹に『隠し事は無しだ、全て話せ』と言わんばかりの威圧溢れる迫力に、男性とその取り巻き達は身動(みじろ)ぎしながらも何とか平静を持ち直して言葉を紡いだ。

 

 

「君達がどう思おうが勝手だが、これは役員会の決定事項だ。専属リンクスである以上、指示には従って貰うぞ……用件は以上だ、失礼する」

 

 

男性はあくまで貴様等の飼い主は我々上層部であることを捨て言葉として吐き捨てると、よほど居心地が悪かったのか早々に席を立って早足で退席する。それを追うように秘書の二人も慌てて席を立ち、リンクス達へ軽く会釈をすると駆け足で退席していった。

 

 

「――ふん。あの物言いだと、飼い猫が気分で主人の手を嚙むことを知らないようだな」

 

「それは私も同感よ、ウィン。でも専属リンクスが勝手に動けないのも事実。インテリオルに補助金をいっぱい貰ってる万年金欠の私なら尚更ね」

 

「先輩のネクストはミサイル特化型なんですから仕方ない部分ではありますよ。まぁ先輩に毎月末ご飯を奢ってる私としては、最近どう接していいか判らなくなってきましたけど」

 

「うっ……。やっぱり威厳ないのかなぁ私」

 

「それよりもスティレット女史。今の会合、なぜ発言なさらなかった。リンクス戦争を【オリジナル】として駆けた貴女の言葉なら、流石のあの男も耳を傾けたでしょうに」

 

 

ヤンの言葉で話の本筋から脱線していたエイとウィンは黙ったままのスティレットに視線を送る。会合中から今まで、ずっと目を伏していた彼女の第一声は溜息とも吐息ともつかない柔らかな呼吸だった。

 

 

「エチナを封印したあの連中に何か言ったところで変わらない。それに私達は山猫(リンクス)。エサが貰えてるうちは飼われるけど、貰えないなら自分で狩りに行くだけよ」




いかがでしたでしょうか。

ここ最近、各勢力のオムニバス形式が続いておりますが、もう少しお付き合い下さい。

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