ラインアーク 中央特区【ネスト】会議室
「そうか……イッシン君はそんな状態に……」
「AMS負荷が自身の限界を超えたのだから当然と言えば当然だ。あの砂漠の狼でさえ躊躇った領域に踏み込んで生きて帰ってこれただけ上出来とも言えるがな」
「セロ。あんたとはこれが初対面だが、仲間が昏睡状態だってのにドライ過ぎやしねえか。心配なりなんなりしてやるのが筋ってもんだろ」
「なら聞くが心配すれば彼は昏睡から目覚めるのか? 彼の傍で
「俺が言いたいのはそういうことじゃなくてな……!」
「抑えろロイ。お前の気持ちも分かるが今回はセロが正しい。状況が芳しくない以上、合理的に物事を考えるべきなのはお前も分かっているだろう」
ラインアークの中央特区特別監査役でもあるフィオナ・イェルネフェルトにレイヴン自らわざわざ頼み込んで人払いをした簡素な会議室では、雰囲気も装いもてんでバラバラな四人の男性が各々好きな場所に陣取って会話をしていた。
普段と変わらず白いリネンシャツとクリーム色のスラックスというシンプルな服装のレイヴンに、この時代には珍しいブラウンの本革ジャケットとジーンズを着熟したロイ、着替えるのが面倒なのかリンクススーツのままのセロと、鈍色のブレザーと白のチノパンという無難な服装のロイの父親の四人である。そしてこの四人が暗号通信ではなく一箇所に集まって会話をしているところからも、内容が易々としたものではないことは直ぐに読み取れた。
「それで、セロ。我々をここに集めた理由は伏したルーキーの状況報告だけでは無いのだろ?レイヴンやロイならまだしも、私まで引っ張り出したんだからな」
「話が早くて助かる……知っての通りGAはORCA旅団に対抗するためドン・カーネルを主軸とした特務遊撃大隊の再編を行い、それに呼応してインテリオルも所属リンクスを一つにまとめ上げた最精鋭部隊を編成。オーメルの発表はまだだが、恐らく同様の動きをすると予想されている」
「――はっ、各グループともORCAをぶちのめす口実に戦争の準備を始めてるって訳か。だけどそれとこの会合がどう関係してくるんだよ。まさかラインアークもその波に乗れって言うんじゃないだろうな?」
ロイは自身と戦場を共にしたイッシンへの粗雑な扱いに未だ立腹しながらセロの話を挑発的な言葉で煽る。ラインアークは反企業体制の大義名分を掲げているが、実際のところそこまで致命的な敵対関係には至っていない。もし本当にそうなっているなら各グループの最精鋭が集結した混成部隊によってラインアークは既に消滅している。
そうなっていない理由は二つ。一つは条件付きだが各勢力の依頼を受けていること、もう一つはラインアークが所有する有効戦力が今のところホワイト・グリントしかいなかったことにある。前者はラインアークおよびホワイト・グリントの運営、維持に必要な物資を調達するために各企業から非公式に依頼される
問題は後者だ。今までラインアークは企業体制を迎え撃つ戦力をホワイト・グリントしか持たなかった。しかしそれはセロというリンクスの登場により崩れつつある。仮にセロがウィスやイェーイのような下級リンクスであれば、ラインアーク側に付いたとしても大した支障にならないと判断して企業連もそこまで問題視することは無かったろうが、実際はどうだ。リンクス戦争を【オリジナル】として戦い抜き、アスピナ機関で実験体として長年幽閉されていたとは思えない力量を披露し、おまけに特別なチューンが施された専用機まで所有している。
そんな規格外がラインアーク側の新たな戦力となれば、今後企業がどんな対応を打ってくるかは想像に難くない。それを見越した上で、セロはロイの問いに真っ正面から答えた。
「そのまさかだ。1時間前、僕は正式にラインアーク所属リンクスとしてカラードに登録した。君と、君の父親もラインアーク所属リンクスとして登録して欲しい」
「……おい冗談だろ? 別に俺はいい、レイヴンさんには返してない恩が山ほどあるからな。だが親父は話が違うだろ。引退して何年経ってると思ってるんだ? 殺されに行くようなもんだぞ!?」
「企業連がORCA旅団掃討の前哨戦としてラインアークを攻撃してくるとしてもか? いいか、企業連の老人共に『ラインアークの所有する戦力はORCA旅団掃討に必要不可欠だ』と思わせるんだ。それが成功すればしばらくの間企業連の顔色を窺う必要は無くなるし、なにより掃討終結後の交渉カードになる。だからこそ今のラインアークには彼の力が必要だ」
「なら尚更……!」
「もういい、ロイ」
激昂するロイを遮るようにロイの父親は言葉を重ねた。そしてゆっくり立ち上がると鈍色のジャケットの襟を正してセロを真っ直ぐ見遣る。眼光は鋭く冷え、まさしく理性の刃を宿しているようだった。
「もう一度聞くが、引退して久しいロートルの私をラインアーク所属リンクスとして登録するつもり、ということでいいか」
「親父――」
「黙ってろ。これは私とセロの話だ………それで、どうなんだ」
「その通り。今のラインアークには貴方の力がいる。それと一応言っておくが、今でも高難度シミュレータでSランクを獲れるリンクスが引退して久しいというのは無理があるぞ」
「――全て織り込み済みか。まぁ、明確な選定理由がある以上断る理由もない。レイヴン、構わないな?」
セロの言葉を聞いて薄く笑ったロイの父親はレイヴンに視線を移した。当のレイヴンは左手でシャツの襟を
「ロイの言葉を借りるようで悪いが、鉄火場からずいぶん離れていたのに大丈夫なのか。実戦とシミュレータが違うのは分かっているだろ」
「ならお前自ら鍛え直してくれると助かる。
「最初からそのつもりだった癖によく言う」
レイヴンと軽妙なやり取りをしている中、ロイは最初と打って変わり項垂れて沈んだ表情をしていた。引退した父親が自分の意思で再び生殺与奪の戦場に舞い戻るのだから晴れやかな雰囲気になれる筈がない。それを察したロイの父親は彼に歩み寄り、父親らしい優しくも力強い眼差しを向ける。
「親父」
「悪いなロイ。これが私の、最初で最後の我が儘だ」
「……そうなった親父が止められない事は俺が一番良く知ってる。だから、作戦行動中は必ず俺と僚機を組んでくれ。それが条件だ。それが嫌ならクリティークには意地でも乗せねぇぞ」
「強くなった息子に背中を預けられるんだ。断る父親がどこに居る」
そう言ってロイの肩に手を掛けたロイの父親が慈愛に満ちた破顔を見せると、それに釣られてロイも照れ臭そうに鼻で笑った。その一部始終を見ていたセロは満足そうに頷く。
「――決まりだな。古豪の力、存分に発揮して貰うぞ。シェリング・ザーランド」
「無論だ」
ローゼンタール本社 最上階 CEO室
「つまりオーメルのリザイアは出てこない、ということですか」
「ふん、保身に走ったか。いっそORCAに寝返れば俺の
「ダリオ。君の言い分は尤もだが、もっと紳士らしく振る舞いなさい。野心に満ちた騎士がいくら魅力的でも所作が粗暴では台無しだ」
「……失礼しました。レオハルトCEO」
マホガニーのデスクに座る紺色のダブルスーツを上品に着熟しているレオハルトと呼ばれた初老の男性の目の前には、純白の生地に金の刺繍が施されたマントルを肩掛けしている【ランク6】ジェラルド・ジェンドリンと朱色の生地に同じく金の刺繍が施されたマントルを着用した【ランク11】ダリオ・エンピオが直立している。
彼等の話題はラインアーク事変にてグループ宗主の座を降ろされたオーメルの行動に注がれていた。オッツダルヴァという最強の駒とグループ宗主という最高の権力を同時に失ったオーメルは斜陽に追い込まれており、それまでの悪評も相まって自社の存続に心血を注いでいる有様だ。
そんな苦境の中、ORCA旅団掃討作戦に唯一の専属リンクスである【ランク13】リザイアを回す余裕は無いとの理由で戦力の提供を辞退したのである。リンクス戦争におけるオーメルの暗躍を間近で見てきたレオハルトはこめかみに手を当てて溜息を吐いた。
「彼等のことだ。苦しい苦しいと表で言って、裏で何某かの策謀でも練っているんだろう。下手に付き合う必要はないさ」
「同意見です。それで、グループとしての共同部隊はやはりアルゼブラと?」
「そうなるな。アルゼブラは旧イクバール時代から実戦的なゲリラ戦を得意としたリンクスを多数輩出している。ORCA旅団掃討においても、その有用性は計り知れない」
「あのイカレ共と肩を並べるのは癪だが、まぁ上手く使ってやるか」
「案外気が合うかも知れないぞ。いや、野心で言えばお前の方が狂気的かもなダリオ」
「……面白い。今ここで俺の方がノブリス・オブリージュに相応しい事を証明してやってもいいんだぞジェラルド」
「二人ともよさないか」
犬猿の仲でしか発生し得ないバチバチとした視線のぶつかり合いに辟易としながらレオハルトは面倒臭そうに諫める。二人とも腕は確かなのだが、同じローゼンタールの専属リンクスにも関わらず顔を合わせれば必ず罵り合いに発展してしまうのが玉に瑕だ。
「本来なら我が社の支援リンクスであるキドウ・イッシンにも招集をかけるんだが、彼はいま現在所在不明だ。よって君達二人がローゼンタールの最精鋭ということになる。それを重々理解した上で行動し給え。いいな?」
「――承知しました」
「――了解」
ということでAC4からシェリングとレオハルトが参戦です。シェリング登場は気付いた人も多いんじゃないでしようか。それと意外かも知れませんがロイとシェリングの立ち回りって結構似てるんですよ。同じヒルベルトだし。だから親子って設定も有りかな~なんて思った次第です。
あとジェラルドとダリオは犬猿の仲です、絶対そうです(偏見)
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