サハラ砂漠 謎の施設内部
先日イッシン一行とナインボール2機が戦った密閉空間の激戦地ではフランソワ・ネリス率いるコルセール傘下の作業員が所狭しと動き回りながら様々な検査機器を用いて、ある場所の調査を綿密に行っていた。
その場所とは丁度ネクスト1機がギリギリ格納出来る程度のコンテナが収容されている格納庫であり、一つは閃光のような白色のコンテナ、一つは落日を彷彿とさせる朱色のコンテナに、最後の一つは何の飾り気もない銀色の素地が剥き出しのコンテナの計三つである。そして現在行われている調査の本命は、このコンテナの中身がなんなのか突き止めるためのものである。であるのだが。
「ふ~~……しかし参ったわね、コレ」
「ホント勘弁して欲しいですよ。どんな思考回路してたらこんなセキュリティアルゴリズム思いつくのか教えて欲しいくらいです」
濃緑色の厚手のタンクトップ姿でコンテナに取り付けられた電子制御システムの基盤を弄くり回しているネリスの言葉に、隣で地べたに座りながらノートPCをカタカタと叩く男性作業員は恨み節を吐いて同調する。更にその隣では触手のような何十本もの色彩豊かなケーブルの群れに対して威嚇するようにフヌヌッ!なんて呻きながら悪戦苦闘している小柄な女性作業員と大柄な男性作業員がいた。
中々コミカルなメンバーと思えるが、実は三人ともウィスやイェーイと同じくネリス直属の部下なのだ。ウィス達がリンクスであることを存分に生かして戦闘面からネリスを援護する『兵』とすれば、三人はあらゆる技術面から多角的にサポートを行う『官』と言ったところか。
そんな彼等の技術的経験則と各種知識は並大抵ではなく、その実力は一週間あれば戦場に打ち棄てられたスクラップ同然のネクストを新品未使用状態まで修復出来るほどだ。加えて助っ人として団長であり生粋の技術屋でもあるネリスも解析を手伝っている今、間違いなく世界最高峰のチームだと断言出来る。しかし、彼等の技術を持ってしても目の前のコンテナの扉を開けることが未だ叶わずにいた。
「私達レベルの技術者が集まって分かったことが、分からないってことが分かっただけ。なんて冗談でも笑えないわ」
「まさかこのアルゴリズム、実は宇宙人が作った……とかは無しですよね? 正直そう言われた方が自分はまだ納得出来ます」
「なら地球はとっくに宇宙人に支配されて人間牧場になってるだろうさ。俺だったら神が作りたもうた審判の扉ってほうがリアリティを感じるがな。てかそうだろ多分」
「うわ~出た、先輩お得意の隙あらば神様実在論。ホント、いい加減オカルトとかそういうの卒業したらどうです? 私みたいに美容とかスイーツとかに重きを置いたほうが人生楽しいですよ。ですよねぇネリス団長?」
「馬鹿言ってないで手を動かしなさい」
話の流れで持ち場を離れつつり寄ってくる小柄な女性作業員をデコピンで迎撃しながら窘めるネリスだったが、先ほどの大柄な男性作業員が言ったことはあながち間違いでも無いことは彼女自身が良く知っている。あれから日数が経っているというのに、つい数分前に起こっていたかのような、中性的で、無駄に美形で、どこまでも胡散臭いアイツとのやり取りを思い出した。
(
「……? どうしました、団長」
「ん、何でも無いわ。さっ!それよりこんな訳の分かんないアルゴリズムなんかちゃちゃっと解析して、眠れるイッシン坊やが目覚めた時に度肝を抜いてやりましょ!」
急に手を止めて自身の思考に没頭し始めたネリスを不思議に思ったのか、隣でPCを叩く男性作業員は気遣うような素振りで声を掛けると彼女はすぐさまそれを振り払って周囲の作業員に渇を入れる。
中身を考えた所でコンテナが開かなければ意味が無い。なら最優先はこのイカレたセキュリティアルゴリズムを解くことだ。そう断じたネリスは再び電子制御システムの基盤を弄くり回し始めた。
??? ?? ??
「ん~~!うま!やっぱ夏はスイカっしょ!」
ジジーッとアブラゼミが暑苦しい鳴き声を響き渡らせ、対抗するように鉄製の風鈴がチリンチリンと感覚の涼を届けている中、タンクトップと短パン姿のイッシン少年は田舎らしい長屋の縁側に置かれた座布団に胡座をかき、半月状に切り分けられた大玉スイカを両手で持ちながらシャクシャクとむしゃぶりついて堪能していた。そのすぐ後ろには漆塗りのお盆の上に置かれた、同じく半月状のスイカが二つと赤いキャップと角々しいフォルムが印象的な塩の小瓶が置かれている。
とても楽しみにしていた夏休みの帰省初日に謎の白黒本物ガイジンさんに出会うという超奇跡的な体験をしたイッシン少年は、この夏休みは一層特別なものになると予感していた。とくに根拠は無い。でもなんかスゴいことが起こる。そんなとりとめもない予感を。
「フッフッフ。今年の僕は一味違うぜ……!」
「なに馬鹿なこと言ってんの~?」
「あっ、せっちゃん!」
少年特有の妄想に浸っていたイッシンを引き摺り上げた声の方向を見ると、桜色のハンサムショートがよく似合う、ワンピース姿の少し年上であろう少女が呆れたような表情でこちらを見ていた。
「だからせっちゃん呼びは止めてって。私にだってちゃんとした名前があるんだよ?」
「いいじゃん。せっちゃんはせっちゃんなんだし」
「もぉ~アンタってホントに……ほら、サイダー。好きでしょ」
「おぉーー!!せっちゃんナイスゥー! 丁度飲みたかったんだよね!」
せっちゃんの白魚のような右手から差し出された口の開いている汗まみれの瓶サイダーを見るや否や、イッシン少年は大袈裟にリアクションしながら喜んで受け取る。瓶に触れた瞬間の、手の平から全身に駆け巡るヒヤッとした感覚でこの瓶サイダーがキンキンに冷やされた極上品であることが確定しており、この状態を一秒たりとも劣化させてはならぬと本能的に感じ取ったイッシン少年は分け目も振らず乱暴に口へ運ぶ。
荒れ狂う濁流のように口内へ流し込まれたサイダーは本当に良く冷えており、喉をイガイガと攻撃してくる炭酸の強さも申し分ない。端的にいって最高だった。
「ぷは~~!!生き返る~!」
「オッサンかアンタは」
「せっちゃんも飲む? めっちゃ美味しいよ?」
「わ、私はいい。さっき飲んできたし……」
「あ~。せっちゃん、これ間接キスとか考えてるんでしょ。エッチィ~~」
「そんなんじゃないから!! ホントに飲んできたの!」
せっちゃんは、ほんの少し紅潮した顔を誤魔化すようにバチンッ!とイッシン少年の肩を強めにはたいた。その音があまりに良かったのではたかれたイッシン少年はケラケラと笑い出し、それに釣られてせっちゃんも徐々にクスクスと笑い出す。
何の変哲も無いありふれた夏休み。照りつける太陽の日差しとアブラゼミの鳴き声は相変わらず暑苦しく、風鈴の音は涼やかだ。暫しのあいだ談笑していた二人だったが、ふとイッシン少年は思い出したかのように話の腰を折った。
「そういえばさ、この前ガイジンさんと何話してたの? ガイジンさん、せっちゃんと話したら急に帰っちゃったじゃん」
「ん~なんでもないよ。ただ道案内をしただけ。そういうアンタは何話した?」
「話したっていうか、なんか『いつここに来たの』とか『どうやってここに来たの』とかばっかり聞かれたんだよね、なんか変じゃない?」
「あ~それは確かに変だ。もしかしてあのガイジンさん、変質者ってやつかも」
「でもさ。もっと変なのが、僕それに答えられなかったんだ。思い出そうとしてもなんか訳分かんなくなっちゃってさ。せっちゃんどう思う?」
「う~ん。確かに変だね。でも、
「……まぁそれもそっか。ごめん、変なこと言って」
「別にいいよ。アンタが変なのは前からだし」
「あっ馬鹿にしたな! そんなこと言って―――」
何の変哲も無いありふれた夏休みは、まだ終わらない。
とある場所 とある時間
一切の闇しかない空間に、ただ一箇所だけスポットライトが照らされた場所がある。そこには燕尾服を来た神様が一人立っており、貴方の顔を確認すると満足そうに頷きながら両手を広げて小芝居じみた言葉を紡ぐ。
『レディースア~ンドジェ~ントルマ~ン!!大っっっ変長らくお待たせ致しました。ここから先のストーリーテラーは私、
時は七月。革命が始まる。
いかがでしたでしょうか。
イッシン君不在のまま七月に突入です。一体どうなってしまうのでしょうか。
励みになるので評価・感想・誤字脱字報告よろしくお願いします。