凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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久しぶりに一日を寝て過ごしました。
無為に過ごすほど贅沢な時間はないですね。


106.三つ巴・Ⅰ

7月27日 18:00

 

ORCA旅団移動基地【ゴルディロックス】 格納庫

 

ORCA旅団の行動特性上、どうしても隠密行動が多くなるために少数運用を前提として設計された格納庫には多種多様な装備を携えた9機のネクストが格納されていた。そしてそれらのジェネレーターは既に戦闘態勢に入っており、各々のコックピットではネクストの主人たるリンクス達が思い思いの時間を過ごしている。

 

不意にオープン回線が開き、各機のコンソールパネルにある男性の顔が映し出された。熱っぽい扇動家であり、諦観者であり、ロマンチストでもある複雑な、あるいは分裂した男。ORCA旅団団長、マクシミリアン・テルミドールの自信に満ちた顔が。

 

 

「これよりクローズ・プランを開始。ブリーフィングで話した通り、主要アルテリア施設に対しネクストによる同時攻撃をかける。君達のターゲットはウルナ、カーパルス、クラニアムを始めとした大規模アルテリア施設だ」

 

 

画面越しで旧代の独裁者を彷彿とさせる口調で作戦内容を展開するテルミドールには、道は違えど志を共にする旅団員達の顔を窺い知ることは出来ない。ネクストという鉄の塊に搭載されたコックピットで個人個人が間仕切られているのだから当然だ。しかし、彼等の熱気と緊張感の前ではそれら強固な壁は容易に貫通されて、否応にもテルミドールの肌を焦げつかせる。

 

 

「施設には多数の防衛部隊も展開している。襲撃が感知されれば、おそらく各グループの最精鋭部隊が韋駄天の如く駆けつけるはずだ。ゆえに部隊到着前にこれを殲滅することができればその後の戦闘が幾分か楽になるだろう」

 

 

彼の口から発せられた最精鋭部隊。GA・インテリオル・オーメルが再編成したこれらの練度は言わずもがな。時代こそ違うが、旧レイレナードグループを壊滅に追いやったリンクス戦争当時の最精鋭部隊よりも間違いなく強大な戦力であることは明白だった。

 

彼我の差を鑑みれば特攻承知のカミカゼとしか第三者は評価しないだろうが、それは違う。カミカゼは自身の命と引き換えに敵を倒して勝利を得る方法だ。対してORCA旅団の目的は敵を打ち倒す勝利ではない。ある一定の損害を与えた後は攻勢のプレッシャーを与えつつ交渉のための時間稼ぎに終始する、いわゆる政治的決着を念頭においた戦法なのだ。

 

もちろん企業の最精鋭部隊を相手にする以上、袋叩きにされて壮絶な戦死を遂げる可能性も大いに有り得る。仮に戦死せずとも全世界を敵に回したのだ。捕虜となれば『死んだ方がマシだ。殺してくれ』と敵に懇願するようなあらゆる拷問を受け、最終的には筆舌に尽くしがたい罵詈雑言を大衆から浴びせられながら処刑されるに違いない。

 

そんな脅迫じみた言葉を掛けたとしても彼等がコックピットから降りることはないだろう。何故なら彼等にとって『今』を変えない事こそが、無様な野垂れ死によりも苦痛であるのだから。

 

 

「……最悪の反動勢力、ORCA旅団のお披露目だ。諸君、派手にいこう」

 

 

テルミドールの号令とともに全ネクストのジェネレーターからコジマ粒子を供給する駆動音が一斉に鳴り響き、メインカメラには決意と覚悟が刻まれた光が輝き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

7月27日 18:32

 

ローゼンタール本社 総合防衛管制室

 

 

「カーパルスに所属不明ネクストが接近! こちらの呼び掛けに応答しません!」

 

「防衛ラインα、突破され――なっ!?βも突破されました! なんて速さだ!?」

 

「絶対防衛ラインまで残り50km、到達予想時刻18:44!」

 

「………来たか」

 

 

突然海面より出現した所属不明ネクスト確認から約5分。カーパルスの警備を担当していたローゼンタール直轄の防衛部隊が赤子の手を捻るように一瞬で突破されていく事態に管制室は悲鳴にも似た怒号が飛び交うが、その中で三人の男性だけは冷静さを保って状況を把握していた。ローゼンタールCEOであるレオハルトと【ランク6】ジェラルド・ジェンドリン、そして【ランク11】ダリオ・エンピオである。

 

 

「こうも易々と突破されると自信が無くなるな。これでも防衛部隊のノーマルパイロットは精鋭を選んだつもりなんだが」

 

「それを敵が上回っただけです。お気になさらず」

 

「――アルゼブラにも同様の襲撃があったようでね。残念ながら増援は期待できないが、二人とも行けるかい?」

 

「無論。撃墜数(スコア)を伸ばすには丁度良い相手です」

 

「頼もしい。では、頼む」

 

「「イエス、マイロード」」

 

 

カッと踵を返して立ち去る彼等の後ろ姿を横目で感じながら、レオハルトは目の前の大画面モニターに映し出された八面六臂の大立ち回りを演じている青い三連星のエンブレムを付けた純白の機体を眺めた。

 

 

「これは贖罪か。それとも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月27日 18:40

 

BFF本社 執務室

 

ウォルナット材で誂えられた気品あるデスクの上にシンプルな見た目のノートPCと珈琲が注がれたマグカップがそれぞれ一つだけ置かれており、画面では情報の奔流とも呼べる怒濤の分析データが指し示されている。その圧倒的情報量を眉一つ動かさずに読み切っていた王小龍は掛けていたメガネを外し、餅をつまむように目元を軽く揉みほぐした。

 

つい先ほど現れた所属不明ネクストの一団によるアルテリア施設への同時攻撃。時期やタイミングを考慮して、十中八九ORCA旅団によるものと見て間違いない。

 

しかし王小龍の顔には不安げな表情など微塵も感じられず、むしろ安心しているようでもあった。それもそうだろう。GAグループ管理下の主要アルテリア施設、アルテリア・ウルナには既にドン・カーネルを主軸とした新体制の特務遊撃大隊が待機しており、迎撃体制は万全なのだ。いくらORCA旅団のネクストが強かろうと、それこそ離反した元最上位リンクスであるオッツダルヴァとダン・モロが同時に向かってこようと、ネクスト2機、AF3機、新型ハイエンドノーマル9機を含んだ総計169機の大部隊を突破できる道理はないだろう。

 

抜かりは無い。想定外が起こったとしてもGAには『GAの英雄』ことローディーを筆頭とした手練れのリンクスが数多く待機している。後詰めとして彼等を投入すれば、オーメル・インテリオルグループが我が身可愛さにカラードを裏切る可能性を含めた、大抵の想定外は対処可能だ。

 

王小龍はホゥッと一息付くと、珈琲が注がれたマグカップに手を掛けて口へ運ぶ。(ぬる)くなった珈琲を唇で感じ、思いのほか長い時間を作業へ割いていたのだなと油断していた彼の耳朶を叩いたのはデスクのノートPCから鳴り響くけたたましい着信音だった。

 

おもむろに相手を見ると『マーフィー・ゴドック准将』と表示されており、王小龍の顔が険しくなる。彼はスピリット・オブ・マザーウィルの元艦長であり、イッシンと交戦した先の戦いで敗れたあと、身柄預かりの名目で女王派直轄の作戦司令室に配属された男だ。軍人の本分と戦いの退き際を弁えている聡明な将官というのが王小龍の中の評価なのだが、そんな彼が暗号回線を使わずに通常回線でコールしてくる事に違和感を覚える。よほど緊急の用件か、或いは()()()()()()()()通信を試みているか。

 

どちらにせよ受けない理由は無い。そう断じた王小龍は回線を開き、画面上に映し出された風格のある壮年男性を見る。

 

 

「久しいな准将。確かGAグループはORCA旅団に対する作戦行動中なのだが、暗号回線を使わずに私に直接コンタクトをとるとはどういった用向きかね?」

 

《突然のご連絡申し訳ありません。ですが、この件については直接お伝えしたほうが良いと判断しました》

 

「なるほど、用件は」

 

《はい。ツングースカ、ノーザンテリトリー、ナスカにある例の施設から未確認物体が複数飛び立ったことが確認されました。その全てがアルテリア施設に向かっています》

 

「……なに? 常駐している調査部隊はどうした。なにか起これば逐次連絡する手筈になっているだろう」

 

《それが、こちらからの呼び掛けに一切応答しません。恐らくは全滅したかと》

 

 

にわかに信じられない報告に王小龍は額に手を添えた。調査部隊にはネクストとの交戦経験もあるベテランパイロットも同行させている。それが助けを呼ぶ間もなく壊滅させられたという客観的推察は受け入れ難い。しかし対応した次手を即座に打たねばならぬのも事実だ。王小龍は気分を落ち着かせるために一呼吸おいてゴドック准将に尋ねた。

 

 

「わかった。それで一番最初に未確認機が来襲するアルテリアは?」

 

《カーパルスです。到着予測時刻18:50、向かっている未確認機は1機。現在ORCA旅団所属ネクストの襲撃に対応するため【ランク6】【ランク11】が現場に急行しています》

 

「ならばローゼンタールのレオハルトCEOにホットラインで直接報告しろ。あやつのことだ、どうせ現場に立って事の顛末を見守っているからすぐ捕まるだろう。何か文句を言われたら私の名を出せ。責任は持つ」

 

《感謝します、それでは》

 

 

ゴドック准将が敬礼してノートPCの画面が通信終了を示すブラックアウトを表示した直後、王小龍はスクッと立ち上がり、備え付けの木製ハンガーに掛けられたジャケットをヒラリと着用すると扉を開けて執務室を出る。そのすぐ目の前にはリリウムが王小龍が愛用しているブリーフケースを持って待機しており、キビキビと廊下を歩き始めた彼の立ち振る舞いで緊急事態が発生したことを察した彼女は追従しつつ、言葉少なげに王小龍へのサポートに徹した。

 

 

「ドン・カーネル大隊長に連絡を取りますか」

 

「あの手合いは自分で考える頭を持ってるから必要ない。それよりローディーにすぐ出撃出来るよう連絡を頼む。私達も出るぞ、準備しなさいリリウム」

 

「承知しました大人(ターレン)

 




いかがでしたでしょうか。

ここまではまだギリギリ原作通りです、ここまではね。

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