凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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怒濤の誤字脱字報告ラッシュ、本当にありがとうございます。それとパッチ、ザ・グッドラックの『、』は誤字じゃないんです。原作準拠なんです。なんか申し訳ねぇ。

それと、今回は賛否が分かれるかもです。


107.三つ巴・Ⅱ

7月27日 18:47 アルテリア・カーパルス

 

 

「防衛部隊が、全滅…? 20秒足らずでか…」

 

 

VOBを用いた超高速移動によってローゼンタール本社から数分でカーパルスに到着した【ランク6】ジェラルド・ジェンドリンが最初に発した言葉は驚嘆と戸惑いに近い感情を以て吐き出された。

 

作戦司令室でレオハルトCEOが言った通り防衛部隊には精鋭の戦闘員が配置され、特にカーパルス本陣においては、その精鋭達の中でも戦績輝かしい人員を配置している。少数精鋭と内外から謳われるローゼンタールの中において、更に精鋭と呼ばれる戦闘員達の練度はおそらくサイレント・アバランチを凌駕するだろう。

 

そんな最精鋭の庇護が、僅か20秒しか敵戦力に対抗出来なかった事実はジェラルドを驚嘆させるには十分過ぎる理由だった。しかし彼の隣に立つ【ランク11】ダリオ・エンピオの意見は違ったようである。

 

 

「怖じ気づいたか、ジェラルド。貴族の務めなど、大層な御託の割に…クククッ」

 

 

彼は敵戦力に驚嘆するジェラルドに対して明確な嘲りを現したのだ。それは自身より高いランクを有し、なおかつノブリス・オブリージュの先代リンクスであるレオハルトから認められ、直接それを受け継いでいるにも関わらず敵の表面的な戦果ごときで戸惑いを露わにしたジェラルドへの当てつけの意味が強い。

 

ダリオの言葉の真意をすぐさま察したジェラルドは多少居心地が悪くなりながらも、心持ちを切り替えてカーパルスに襲来した敵を見据えた。

 

破壊された防衛部隊の残骸から立ち上る黒煙を背景にしている敵ネクストは2機。1機は純白の装甲に身を包み、青い三連星のエンブレムを付けた、かつてアスピナ機関所属だった頃のホワイト・グリントを彷彿とさせる軽量機。もう1機は憂鬱さを体現したような灰色の装甲を纏い、どこか幾何学的な印象を与えるエンブレムを付けた、フラジールに勝るとも劣らない細身なシルエットに対して至極不釣り合いな巨大ユニットを肩に据えた軽量機である。

 

対してこちらは両機とも総合性能に優れた中量機。セオリー通りの単純な撃ち合いなら負ける確率は皆無に等しい。

 

気負う必要はない。ただ、いつも通りのミッションを遂行するだけだ。

 

 

「お前に心配されるほど零落(おちぶ)れてはいないさダリオ」

 

「貴様に期待などハナからしていないが……まあ、撃ち漏らしくらいは俺が尻拭いをしてやるとするか」

 

「ノブリス・オブリージュ、青と灰のイレギュラーを排除する」

 

 

刹那、ノブリス・オブリージュの象徴たる翼型の背部兵装【EC-O307AB(三連装レーザーキャノン)】通称〝破壊天使砲〟の砲身に当たる羽根の端部が前方に展開すると、三本の白い光条が敵ネクストに向けて放たれた。不意打ちに近いタイミングで撃たれたレーザーは高速を保ったまま目標を穿たんと直進するが、敵イレギュラー達は素早いながらも悠々とそれを回避。

 

返す刀で白いイレギュラーが持つ【HLR71-VEGA(高出力レーザーライフル)】から撃ち出された野太い光条がジェラルド達に襲い掛かるが、彼等は当然の如く回避する。

 

そうして戦闘の口火が切られようとした時、白いイレギュラーからオープン回線で通信が入った。女性特有の凜とした声色はまさしく戦士の風格があり、一歩間違えば悪辣とも捉えられかねない威厳を醸し出している。そんな彼女を軽く諫めるのは諦観したような男性の優しい声色であり、儚さすら感じられた。

 

 

《2機か。警告はしたはずだが、侮られたものだな。私とアステリズムも》

 

《私も忘れて貰っては困るよジュリアス・エメリー。おそらく君一人で十分だろうが、なにぶんメルツェルの指示だ。相応に働いてみるとするさ》

 

 

オープン回線で繰り広げられた二人の会話を聞き、ずいぶん余裕じゃないかと苛立つダリオはトラセンドの右腕兵装【ER-R500(レーザーライフル)】と左背部兵装【EC-O300(レーザーキャノン)】を展開して正面からの撃ち合いに構えようとするが、そんなセオリーなど捨て置けと言わんばかりにノブリス・オブリージュが左腕兵装【EB-O305(レーザーブレード)】を振りかざして分け目も振らずにアステリズムと呼ばれた白いイレギュラーへ吶喊した。

 

突然の出来事にジュリアスは面食らいながらも、すぐさま【ER-O200(レーザーライフル)】で応戦しながら距離を取る。ジュリアス・エメリーが駆る乗機のアステリズムは外見こそ旧ホワイト・グリントに似通っているが機体コンセプトは真逆と言ってよく、旧ホワイト・グリントが近距離高速戦闘に特化しており、対するアステリズムは射撃機動戦に特化した機体なのだ。

 

結果として格闘兵装によって距離を詰められては文字通り手も足も出ない弱点を有しており、目の前のノブリス・オブリージュはそれを即座に看破したのかと若干の焦りを心に滲ませるが、突如個別回線で語り掛けてきた男性の声にそれは杞憂だったと安堵する。

 

 

《何故君がここにいる! ジュリアス・エメリー!》

 

「……その声、ジェラルド・ジェンドリンか」

 

《答えてくれ!何故君が!?》

 

「答える義理はない」

 

 

そう突き放したジュリアスは【HLR71-VEGA(高出力レーザーライフル)】の獰猛な銃口をノブリス・オブリージュに向け、トリガーを引く。再び放たれた野太い光条を回避しようとしたジェラルドだったが、ジュリアスと交信するために自ら距離を縮めたがゆえ若干間に合わず、格納された右背部の【EC-O307AB(三連装レーザーキャノン)】の砲身の一本に命中してしまう。

 

バチバチと音を立てながら散発的にショートする砲身を躊躇いなくパージしたジェラルドはノブリス・オブリージュに右腕兵装【MR-R102(アサルトライフル)】および左背部の【EC-O307AB(三連装レーザーキャノン)】を構えさせながら、距離を稼ぐアステリズムを追撃。苛烈なイタチごっこが開幕した。

 

 

「――成る程、旧知の仲とは。やはりアスピナの業は根深いな」

 

 

一部始終を見ていたイレギュラーの男性は呟くと、ジュリアスに加勢するため自身の駆る灰色のネクストにOBを展開しようとする。しかしそれは真後ろから迫ってきたトラセンドの強襲によって断念せざるを得なかった。即座にOBをキャンセルし、QBを噴かして回避行動に移った灰色のネクストは右腕兵装【01-HITMAN(マシンガン)】を連射しながらトラセンドを挑発する。

 

 

「不意打ちとはずいぶんなラフプレーじゃないか。ローゼンタールの騎士なら作法は(わきま)えて然るべきだろう」

 

《ふん、空き巣の匪賊にかける作法なぞ持ち合わせる道理があるか。貴様では少々役不足だが大人しく撃墜数(スコア)になれ》

 

「面白い。後が控えているが問題ないだろう。グレイグルームの恐ろしさ、味わうといい」

 

 

口火の罵りを終えた双方は互いにQBを噴かして本格的な戦闘に突入しようとした刹那、何の前触れも無くけたたましいコール音と共にローゼンタール本部から緊急通信が入った。

 

何事かと目を見開くダリオだったが緊急通信に応答しない訳にも行かず、敵イレギュラーを視界に収めて回避行動を取りながらコンソールパネルを触って回線を開く。そこに映ったのは壮年の男性、レオハルトだった。

 

 

《良かった。なんとか繋がったようだな》

 

「レオハルトCEO? 現在我々は敵イレギュラーと交戦中なのですが」

 

《先ほどBFFの王小龍から情報が入った。そちらに正体不明の未確認機が1機向かっている。ORCA旅団との関連性は不明だが、どちらにせよ敵性戦力の可能性が高い》

 

「未確認機……これか?」

 

 

レオハルトから得られた情報を元に素早くコンソールパネルを操作し、衛星通信を併用したレーダー索敵を行ったダリオはカーパルスへ急速に近付いてくる物体を確認した。会敵時刻は18:50。猶予は残り30秒足らずしか残されていない。

 

 

「チッ、数的不利は避けられんか」

 

 

悪態をつくダリオだが、彼も上位リンクスの一人だ。既に敵イレギュラーとの彼我戦力が同等以上であることを見抜いており、ここにネクストが投入されれば天秤が一気に傾く事実は容易に想像出来た。

 

どうしたものかと思案しながら敵イレギュラーを見遣ると、彼にもなにかしらの通信が入ったらしく回避行動を取りながら此方の様子を窺っているようだった。

 

そして彼方で開催されていたノブリス・オブリージュとアステリズムのイタチごっこはいつの間にか終幕を迎えており、一定の警戒距離を保ちつつお互いの僚機であるトラセンドおよびグレイグルームと合流する。

 

 

「ことの次第は聞いたなジェラルド」

 

《ああ、だがどうする。あの様子だとジュリアス……ORCA旅団にとっても不測の事態らしいが》

 

「その答えはいまから来る奴に聞くだけだ」

 

 

そう言ってトラセンドのメインカメラが眺めた方向には大出力ブースター特有の輝きを纏った光点が近付いて来ているのが確認出来た。徐々に大きくなっていく機影を光学カメラで補正した映像を見るに、どうやら黒一色で構成された大型のコンテナらしく、VOB並の超スピードを一切減速させないままカーパルスの機械化された地面に凄まじい衝突音と共に激突する。

 

激しい爆発音と黒煙に(いぶ)されている謎の黒いコンテナの登場にカラードとORCA、計4機のネクストが臨戦態勢を取った。不思議なことにあれほど凄まじい衝突音をあげておきながら、ひしゃげたような外傷は一切見当たらず、その事実がより一層彼等の警戒感を押し上げている。

 

やがてコンテナのハッチ部分がプシューッという減圧音と共に解放され、漏れ出た空気で周囲の黒煙が弾き飛ばされるとコンテナ内部から一体の黒いネクストが武装した状態で、ゆっくりと一歩一歩踏み締めるように姿を現した。そしてその姿見た全員が、衛星中継を通じて状況を注視していた王小龍も含めて絶句する。

 

忘れない。忘れられるものか。だが何故。

貴様は死んだろう。火葬され、灰になっただろう。

 

黒いAALIYAH(アリーヤ)フレーム。黄色の複眼。敵対企業のパーツ。

 

王小龍は初めて自身が全く理解できない事柄に恐怖し、怒り、歯を食い縛り、画面越しの黒いAALIYAH(アリーヤ)を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

「ベルリオーズ………!」




いかがでしたでしょうか。

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