凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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シュークリームってあんなに重い食べ物でしたっけ。2つ食べたら結構キツくなりました。年かな。


108.三つ巴・Ⅲ

7月27日 18:51 アルテリア・ウルナ

 

 

「もう! いったいどこから撃ってきてるのよ!?」

 

「射程外からの超精密射撃……こんな芸当が出来るのは――」

 

 

メイ・グリンフィールドは苛立ちを全面に出した怒号を叫びながら乗機メリーゲートに回避行動を取らせ、ドン・カーネルは静かながら驚嘆の色を隠せずにいた。メイとカーネルが拝する【ランク17】および【ランク12】は経験と実績に裏打ちされた政治的配慮の無い純粋な評価であり、上位リンクスとして戦場に君臨するに相応しい実力があるという証左でもある。しかし、いま彼等が感じているものは強者の余裕ではなく不安と混乱に苛まれた半ばヒステリックな感情であった。

 

件のORCA旅団から差し向けられた巨大ガトリングを背負う白いタンク型ネクストと、それを火力でサポートするように立ち回る黒い重量二脚ネクストの2機で編成された敵イレギュラーと交戦していたドン・カーネル率いる特務遊撃大隊は最初、アルテリア・ウルナ本営からおよそ数キロメートル先に突如として飛来、落下したコンテナの中身の調査に割いている暇など持ち合わせていなかったし、割く気も無かった。

 

何故ならアルテリア・ウルナはGA管内の中でも一際(ひときわ)切り立った渓谷の頂上付近で稼働しており、天候上常に発生している深い霧による天然の煙幕も相まって、戦場の頂点たるネクストと言えど最接近しなければ照準すらままならない天然の要塞()()()からである。

 

しかし、そのコンテナから現れた1機のネクストの登場により状況が一変。最初は大隊所属のノーマルが12機、全機ともたった一発の弾丸で戦闘不能に追い込まれかと思えば、次にサイレント・アバランチが駆る新型ハイエンドノーマルが2機、しまいには新たに配備された新型AF【白老】の内1機が針の糸を通すような神業で的確に動力部を狙撃されて沈黙してしまった。

 

突然の事態に右往左往している特務遊撃大隊を見て、これ好機と見た白いタンク型イレギュラー――ヴァオー――は猪突猛進を地で行く進撃を開始しようOBを展開しようとするが、それを黒いイレギュラーが手を挙げて制止する。刹那、音速を遥かに超えた砲弾がタンク型イレギュラーの進行方向に着弾したのだ。あのまま進撃していたら確実に穿たれていたと感じる圧倒的精度を目の当たりにしたイレギュラーの一人――メルツェル――は得心がいったように軽く頷く。

 

 

「まさか死人が出張ってくるとは。事実は小説より奇なり、か」

 

「俺はどうしたらいいメルツェル! ぶっ潰すか!」

 

「流石に相性が悪い。最悪、ウルナは諦める」

 

 

興奮するヴァオーを抑えつつ今後の展望も含めた次の一手を考えるメルツェルを知ってか知らずか、全てを一撃の下に屠り去っていく狙撃の主――メアリー・シェリー――はサディストな笑みを浮かべた。下らない()()と違って賢い獲物のほうが狩り甲斐があるからだ。

 

 

《フフッ。いい的よ、坊や》

 

 

 

 

 

 

7月27日 18:52 アルテリア・クラニアム

 

 

【ランク5】ウィン・D・ファンションがアルテリア・クラニアムに参上したのは必然だったと言っていい。クラニアムは現存するアルテリアで最もエネルギー供給率が高く、クレイドル体制を維持する上での要諦に位置する施設だ。だからこそ企業連はカラードに在籍するリンクスの中で突発的な対多数戦闘をも難なくこなし、ほぼ完璧な依頼達成率を誇るウィン・D・ファンションをインテリオルが編成したネクスト部隊から強引に引き抜き、その防衛に当たらせる判断は間違っていなかった。

 

唯一間違いがあるとすれば、それは彼女以上の手練れが乱入してくる可能性を考慮していなかった点であろう。

 

ウィン・D・ファンションの目の前にはカラードを裏切ったオッツダルヴァ改めマクシミリアン・テルミドールが駆る情熱的な赤い差し色が特徴のALICIA(アリシア)と背部追加ブースターを背負った白いAALIYAH(アリーヤ)、そして彼等三人を俯瞰できる位置に突如現れた黒に近い藍色の装甲を纏ったAALIYAH(アリーヤ)がいた。白いAALIYAH(アリーヤ)は企業連からの事前情報で真改という旧レイレナード社のリンクスであることは容易に判別出来たが、藍色のAALIYAH(アリーヤ)は判別する必要すらない。

 

アナトリアの傭兵の戦闘記録を見た際に焼き付いた記憶。国家解体戦争において最も多くのレイヴンを屠り、純粋な力と力のぶつかり合いに魅入られ、そしてその中で果てた旧レイレナード社所属の女性リンクス。それこそが……。

 

 

《久しいな、真改》

 

「【鴉殺し】だと!?」

 

 

ウィンは驚愕の感情を隠すことなく声に乗せて言い放つ。有り得ない。彼女はリンクス戦争当時、アナトリアの傭兵に一対一の決闘を挑んで間違いなく死んでおり、それはカラード内部で保管されている経歴記録書と死亡診断書の正当性から明らかだからだ。

 

その感情はテルミドールも同じだったようで、加えてORCA旅団設立の源流と言える旧レイレナード社のリンクスがORCA旅団との敵対も辞さないスタンスを取っていることが、彼の混乱をより加速させる。

 

 

「馬鹿な……!貴女はアナトリアの傭兵に――」

 

《お前達に興味は無い。用があるのは真改だけだ》

 

 

しかし【鴉殺し】の視線はウィンとテルミドールには一切注がれず、ただ呆然と佇む白いAALIYAH(アリーヤ)――スプリットムーン――だけに送られていた。

 

 

「……アンジェ」

 

 

真改は【鴉殺し】の名前を呼ぶ。師として、友として、姉として、恋人として、あの時代を共に駆け抜けた彼女と、立場の違いこそあれ再び会えたことを天に感謝していた。しかしその万感の思いは届くことはない。

 

 

《さぁ真改。あれからどれほど強くなったか、私に見せてくれ!》

 

 

 

 

 

 

 

7月27日 18:53 アルテリア・フィーマー

 

 

ORCA旅団の中で銀翁と呼ばれているネオニダスは、コジマ技術の粋を結集したトーラス製ネクストARGYROS(アルギュロス)をベースとした乗機月輪(がちりん)からも推測出来るように、度重なるコジマ汚染によって余命僅かな身となった老人である。それゆえORCA旅団として行動する中で自身を驚かせるような出来事に遭うなど砂粒程度の確率だと高を括っていた。だが人生とはかくも面白いもので、時として思いがけないサプライズが用意されていることがしばしばある。

 

 

《長生きはしてみるものだな。かの傲慢家に再び会えるとは》

 

《まだ生き恥をさらしていたかテペス。貴様は棺桶の中で永遠に眠っていろ》

 

《良く言う。サーの称号を与えられながら傍若無人に振る舞うお前も同じ穴の狢だろうに》

 

 

ネオニダスは眼前でクリーム色のTELLUS(テルス)フレームを駆る男性リンクスを老練された言葉で嘲り、対する男性リンクスは非常に高圧的な物言いでネオニダスを罵った。同じ時代を生きた者同士の同族嫌悪とでも言うべきか、お互いプライマルアーマー以外に見えない障壁でも展開しているのかと錯覚するような覇気の衝突を感じる。

 

 

「サー、なのですか?」

 

 

それを知ってか知らずか【ランク20】エイ=プールが会話に割って入った。敬称(サー)と呼ばれた男性リンクスはクリーム色のTELLUS(テルス)のメインカメラを彼女の乗機ヴェーロノークに向けると、高圧的な態度は変わらないながらも懐かしむような声をエイに掛ける。

 

 

《会いたかったぞ、娘たちよ》

 

「なら何故アルテリアを襲うのですか!」

 

 

エイは叫ぶ。

 

インテリオル・ユニオンが設立される前、まだ前身であるレオーネメカニカとメリエスだった頃。リンクスとして拙い技術しか持ち合わせていない自身を含めた女性達の育成を一手に担い、持ち前の傲慢さを生かして彼女達を自分の所有物だと言い放ち、あまりに乱暴で不器用な暖かい庇護で守ってくれた男性――サー・マウロスク――が突然目の前に生き返り、こんな悪魔の所業に手を染めるのが理解出来なかったからだ。

 

しかし彼女の思いとは裏腹にサーの声質は冷たく鋭いものへ変化する。それは敵に向ける明確な殺意の現れでもあった。

 

 

《女の分際で俺の前に立つとは良い度胸だ。先に殺してやってもいいんだぞ?》

 

「マウロスク。いくら貴方でも3対1の乱戦には勝てないわ。大人しく投降しなさい」

 

 

ヴェーロノークの隣に立つタンク型ネクストであるレ・ザネ・フォルのリンクス、【ランク7】スティレットは死人が現れた動揺を理性と冷静さで上書きしながらも戦闘態勢に移行しつつサー・マウロスクに降参を促す。それは彼女なりの優しさでもあったし、同時に打算でもあった。

 

サー・マウロスクが一般に知られている評価はアナトリアの傭兵に無残に負けを喫した【オリジナル】。そこだけ見れば大した人物ではないと並の上位リンクスなら一蹴するだろう。しかし彼女は知っている。サー・マウロスクの真の恐ろしさはそこではないことを。

 

 

《ほぉ、なら教えてやる。格の違いってやつを》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月27日 18:55 アルテリア・ピュービス

 

 

「なに、あの動き……!」

 

「止まるな! ヤツ相手に止まれば死ぬぞ!」

 

 

【ランク18】シャミア・ラヴィラヴィと【ランク16】イルビス・オーンスタインはゲリラ戦のプロである。宗教的問題から紛争が絶えない地域を渡り歩き、血に汚れた武功を数々と打ち立てた。卑怯悪辣と卑下されても気に留めない。手段を選んで殺されるよりも、手段を選ばず生き残る方がより高尚であることを彼等は知っていたからだ。

 

だからこそ逃げ惑う。

 

彼等がいま相対しているワインレッドの逆関節型ネクストには、億に一つでも勝てる見込みがないからである。

 

 

《――つまらん。無意味な戦いだ》

 

 

必死に生き残ろうともがく彼等とは対照的に、そのワインレッドの逆関節型ネクストを駆る男性はとても退屈していた。あの胡散臭い人物が言った『人類の進化を目の当たりにしたくないか?』という口車に乗せられて再び表舞台に立ったまではよかったが、蓋を開けてみれば進化のしの字すら当て嵌めるのを躊躇う陳腐な人間しかいない。研究対象として考察すること自体が研究への冒涜にも思える。

 

 

「なら(えぐ)られるのはどうじゃ」

 

 

そんな停滞した男の思考に横槍を入れるように死角から1機の軽量級ネクストがQBを噴かしながら颯爽と現れた。極東の方言訛りが特徴的な男性リンクス――【ランク22】ド・ス――が駆るネクスト、スタルカの右腕に装備されているのは必殺の【KIKU(パイルバンカー)】。直撃すればAFでさえも一撃で撃破可能な近接兵装が放つ濃密な死の香りは相対するものに劇的な威圧感を与えるはずなのだが、ワインレッドの逆関節型ネクストはまるで玩具の銃で脅してくる子供を諫めるような口調で言葉を繋げた。

 

 

《お前では近付けない。存在が薄すぎる》

 

「ぐっ!!」

 

 

次の瞬間、スタルカの眼前からワインレッドの逆関節型ネクストが消え去ると同時にスタルカの背後から痛烈な衝撃が走る。一瞬で回り込まれ、逆関節特有の強靱なジャンプ力で蹴り飛ばされたとド・スが理解した時には乗機であるスタルカはうつ伏せの状態で地面を削り取っていた。

 

 

「ド・ス!!」

 

 

シャミアの叫びも虚しく、ワインレッドの逆関節型ネクストの右手に握られた【SAMPAGUITA(大型ショットガン)】の銃口がスタルカの背中に向けられる。重量級タンクの手本として名高い雷電の装甲を数発で貫通可能な【SAMPAGUITA(大型ショットガン)】がスタルカのような軽量級ネクストに放たれればどうなるか火を見るより明らかだ。そうして確定した死を到来させるために引き金が引かれようとした瞬間。

 

 

《心底ガッカリしてたんだ。いくらてめぇを殺したくても死んでるから殺せねぇことによ》

 

 

狂気に満ち満ちた声が聞こえた。久しく聞くことの無かった声。アナトリアの傭兵と出会うまで研究対象として最も興味深く、素晴らしかった男の声。振り返った先にいた黄土色の逆関節ネクストを見て男は表情にこそ出さないが歓喜する。

 

この時代においても、お前は私の研究対象とするに相応しい変化を遂げているのか。やはり新しい。惹かれる。

 

 

《これも転換か。変わったなラティ》

 

《その名前で呼ぶんじゃねえサーダナ。俺の気が済むまで無限に殺してやる》




いかがでしたでしょうか。

という訳でAC4の強敵達が登場です。ここの神様ってホントやることがいちいちエグいよね。

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