凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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カルボナーラを極めました。今の私は、急に異性が自宅に来ても無敵です。


109.異なる道程の交差点

リンクススーツを身に纏い、愛機ストリクス・クアドロのコックピットで一連の中継を見ている王小龍は文字通り頭を抱えていた。ORCA旅団の来襲、予期できた。その目的が主要アルテリア施設への大規模同時攻撃、これも予期できた。

 

しかし、だがしかし。リンクス戦争時に戦死した【オリジナル】最上位のリンクス達が復活し、あまつさえ徒党を組み、ORCA旅団迎撃の舞台に機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)よろしく突然躍り出てくるなど誰が予期できようか。

 

場荒らしと呼ぶには大きすぎる事態に、座していながら思わず蹌踉(よろ)めきそうになった王小龍は陰謀家の二つ名を賭してどうにか持ち堪えて思考を走らせ始めた。

 

 

(ORCA旅団への攻撃を踏まえるとスタンスは敵対寄りの中立か。敵の敵は味方と言うが、流石に判断材料が少なすぎる。かといって増援を向かわせれば天秤は敵対に傾く。問題はどちらをとれば最大利が得られるかどうかだが――)

 

 

王小龍が二つ名に違わぬ権謀術数を回転させ始めた刹那、それまでオフラインだった回線が強制的に開かれた。その回線は所謂(いわゆる)秘匿回線。王小龍が本当の意味で信頼を置き、かつ秘匿回線を教えるに足る有益性を持ち合わせている人間しか知らない回線を強制的に開かせることの出来る人間は限られる。GAグループ宗主スミス・ゴールドマンと【ランク4】ローディー、それと……。

 

 

「……回線を開いた気概は認めてやる。だが悪手ではないか? このタイミングで貴様の話を聞く理由が此方側にあるとでも?」

 

《貴方はそんな愚策を犯す人間では無いでしょう。ましてや僕の話なら尚更の筈です》

 

 

コンソールパネルに映し出されたダン・モロは優男らしい(たお)やかな笑みを浮かべつつ交渉人(ネゴシエーター)の表情を崩さない。リンクススーツを着用せずに、普段通り黒のタートルネックとタイトパンツに赤いジャケットを身に付けていることから彼が戦場に出ていないことは明白だ。なぜ彼ほどの実力者がORCA旅団出陣に参加していないのか甚だ疑問ではあるが、そんなことは些事とでも言うように王小龍は相手の出方を強気な姿勢で見極めようとする。敵対関係の組織から直接連絡が来るなど異常事態の何物でもないのだから。

 

 

「なら早く用件を言え。私は死人の進軍を悠長に眺めるつもりはないのでな」

 

《ORCA旅団参謀代理として、カラードとの一時停戦および不明戦力への共同戦線構築を要請します》

 

「――! 正気か」

 

 

王小龍が驚くのも無理はなかった。しかしこれは、これまでさんざ敵対行動を取っておきながら想定外が起きた瞬間に手の平を返して擦り寄ってくる蝙蝠(コウモリ)具合に対するリアクションではない。ORCA旅団が停戦と共同戦線構築を()()するということは彼等がカラードよりも格下であることを意味し、なおかつ主導権を明け渡すことに他ならないからだ。

 

 

《ORCA旅団の目的はあくまで企業体制の打破。世界を滅ぼすために動いている訳ではありません》

 

「……正面から現在の社会システムを否定する輩と手を組めというのか。笑わせるな。第一、手を組んだとして貴様等が我々の寝首を掻かないという保証はどこにもないだろう」

 

《確かに。ただ、その選択をすれば間違いなくカラードは壊滅しますが》

 

 

至極真っ当な疑念に対するダンの答えが『カラードの壊滅』という非常にインパクトの大きい言葉だったことに王小龍は思わず苦笑する。彼我の戦力を見れば夢物語にしか聞こえなかったからだ。確かにオリジナルの相手をする以上、カラード側に一定の損害が出るのは必定だろう。場面が揃えば最上位リンクスが早々に討ち取られる可能性も否定できない。だがそれだけだ。それだけなのだ。

 

 

「下らん脅しだな。仮に死人共が本物だとして、アルテリア施設防衛に駆り出されたリンクスは全員が歴戦の手練れだ。加えて後詰めに各グループの正規軍も控えている。一対多数の原則を当て嵌めれば、カラードが負ける道理などない」

 

《未知を定規で(はか)るのは愚者であると教えてくれたのは貴方でしょう。お忘れですか》

 

「………」

 

《もう一度言います。ORCA旅団参謀代理として一時停戦および不明戦力への共同戦線構築を要請します。でなければカラードは壊滅し、世界は滅びます》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ふむ……4機か。不足ないな》

 

 

アルテリア・カーパルスに降り立った黒いAALIYAH(アリーヤ)――シュープリス――のリンクスであるベルリオーズは短くそう言い、おもむろに戦闘態勢を整える。一分の隙も与えない洗練された一連の動作は見る者全てを魅了するような優雅さを醸し出していたが、それは同時に圧倒的技量を有している裏返しになっていた。相対する者からすれば死刑宣告にも似た心理状態に置かれてしまうのは仕方ない。

 

事実、ジェラルドを始めとしたカラード・ORCA双方のリンクスは動けずにいた。ただ一人、全く動じずに落ち着いて事態を把握に努めていたトーティエントを除いて。

 

 

《――()()()()()()()()()()。メルツェルの先見も凄まじい》

 

「……トーティエント?」

 

《ジュリアス・エメリー、この場は私が受け持つ。君はカーパルスを離脱して旅団に合流しろ》

 

 

開戦当初と変わらず諦観した優しい声色がジュリアスに声を掛けたかと思えば、彼の乗機であるグレイグルームの肩部に搭載された変電設備のような特殊兵装にバチバチッと電光が走り始めた。兵装の名前は【P-MARROW(アサルト・アンプ)】。文字通りネクストの奥の手であるアサルトアーマーの威力・範囲共に増大させ、一撃で敵を沈めるためだけに開発された試作兵装である。

 

加えてグレイグルームに搭載されたオーバードブースターはアサルトアーマー特化型。その威力、破壊力は想像を絶するレベルにまで昇華していた。

 

 

「何を言っている、我らの目的はアルテリアの破壊だ! たかが1機の不安要素だけでおめおめと撤退する訳がないだろう!」

 

《いいやジュリアス・エメリー。私は元よりメルツェルにこれを頼まれていた。『万が一、第三勢力が参戦してきた時はジュリアスを逃がしてくれ。手段は問わない』とね》

 

「メルツェルが? しかしそれは――」

 

《私も大袈裟過ぎるとは思う。だが現に第三勢力が参戦し、その正体がオリジナルの頂点ともなればメルツェルの言葉を無下にすることは出来ない》

 

 

トーティエントの言葉に内に秘めていたであろう信念が見え始め、言葉尻にも熱が帯びてきていた。それまでの諦観した優しい声色が嘘のように鳴りを潜めて、代わりに強い意志が台頭してくる。その様子は普段の彼の振る舞いを見てきたジュリアスからすれば心変わりにも等しい印象だ。

 

 

《手段と目的を履き違えるな……早く行け。私の成就は君に託す》

 

「……済まない」

 

 

ギリッと歯噛みしたジュリアスは同胞を死地に残す無念を胸の内に押し込めつつ、乗機アステリズムを180°旋回させるとOBを発動して即座に時速1200kmへ到達。アルテリア・カーパルスを後にした。その様子を見送ったトーティエントは満足げに頷くと、視線をノブリス・オブリージュとトラセンドに向けて回線を開く。

 

 

《さて、彼女を追わなくていいのか? 彼女はORCA旅団の中でもトップ5に入る重要人物だ。捕虜にすればこれ以上ない交渉材料になると思うんだが》

 

「僕達の任務はあくまでアルテリア・カーパルス防衛だ。彼女が自ら撤退したのであれば無理に追う理由はない」

 

「なにより、目の前の前代最強の一人(ベルリオーズ)を放置する言い訳なんぞになるとでも? 奴をたおせば撃墜数(スコア)に加えて名声も手に入る。俺の実力を見せるには丁度良い相手だ」

 

 

トーティエントの挑発的だが気遣いのある言葉にジェラルドとダリオは各々の主張を掲げると、乗機であるノブリス・オブリージュとトラセンドを一歩前進させて兵装を構えた。

 

 

《一時休戦か。ローゼンタールの騎士は甘いのだな》

 

「勘違いして貰っては困る。奴を片付けたら次はお前だ」

 

 

その一連の流れを見ていたベルリオーズは独りごちる。一瞬前まで殺し合いをしようとしていた者同士が、与えられた役目を果たしつつ互いに手を取り合って共通の敵を打ち倒そうとする人間的感情の美しさに敬意を払い、そして……。

 

 

《良い判断だ。この時代の戦士も中々やるようだな……行くぞ!》




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