リンクススーツを身に纏い、愛機ストリクス・クアドロのコックピットで一連の中継を見ている王小龍は文字通り頭を抱えていた。ORCA旅団の来襲、予期できた。その目的が主要アルテリア施設への大規模同時攻撃、これも予期できた。
しかし、だがしかし。リンクス戦争時に戦死した【オリジナル】最上位のリンクス達が復活し、あまつさえ徒党を組み、ORCA旅団迎撃の舞台に
場荒らしと呼ぶには大きすぎる事態に、座していながら思わず
(ORCA旅団への攻撃を踏まえるとスタンスは敵対寄りの中立か。敵の敵は味方と言うが、流石に判断材料が少なすぎる。かといって増援を向かわせれば天秤は敵対に傾く。問題はどちらをとれば最大利が得られるかどうかだが――)
王小龍が二つ名に違わぬ権謀術数を回転させ始めた刹那、それまでオフラインだった回線が強制的に開かれた。その回線は
「……回線を開いた気概は認めてやる。だが悪手ではないか? このタイミングで貴様の話を聞く理由が此方側にあるとでも?」
《貴方はそんな愚策を犯す人間では無いでしょう。ましてや僕の話なら尚更の筈です》
コンソールパネルに映し出されたダン・モロは優男らしい
「なら早く用件を言え。私は死人の進軍を悠長に眺めるつもりはないのでな」
《ORCA旅団参謀代理として、カラードとの一時停戦および不明戦力への共同戦線構築を要請します》
「――! 正気か」
王小龍が驚くのも無理はなかった。しかしこれは、これまでさんざ敵対行動を取っておきながら想定外が起きた瞬間に手の平を返して擦り寄ってくる
《ORCA旅団の目的はあくまで企業体制の打破。世界を滅ぼすために動いている訳ではありません》
「……正面から現在の社会システムを否定する輩と手を組めというのか。笑わせるな。第一、手を組んだとして貴様等が我々の寝首を掻かないという保証はどこにもないだろう」
《確かに。ただ、その選択をすれば間違いなくカラードは壊滅しますが》
至極真っ当な疑念に対するダンの答えが『カラードの壊滅』という非常にインパクトの大きい言葉だったことに王小龍は思わず苦笑する。彼我の戦力を見れば夢物語にしか聞こえなかったからだ。確かにオリジナルの相手をする以上、カラード側に一定の損害が出るのは必定だろう。場面が揃えば最上位リンクスが早々に討ち取られる可能性も否定できない。だがそれだけだ。それだけなのだ。
「下らん脅しだな。仮に死人共が本物だとして、アルテリア施設防衛に駆り出されたリンクスは全員が歴戦の手練れだ。加えて後詰めに各グループの正規軍も控えている。一対多数の原則を当て嵌めれば、カラードが負ける道理などない」
《未知を定規で
「………」
《もう一度言います。ORCA旅団参謀代理として一時停戦および不明戦力への共同戦線構築を要請します。でなければカラードは壊滅し、世界は滅びます》
《ふむ……4機か。不足ないな》
アルテリア・カーパルスに降り立った黒い
事実、ジェラルドを始めとしたカラード・ORCA双方のリンクスは動けずにいた。ただ一人、全く動じずに落ち着いて事態を把握に努めていたトーティエントを除いて。
《――
「……トーティエント?」
《ジュリアス・エメリー、この場は私が受け持つ。君はカーパルスを離脱して旅団に合流しろ》
開戦当初と変わらず諦観した優しい声色がジュリアスに声を掛けたかと思えば、彼の乗機であるグレイグルームの肩部に搭載された変電設備のような特殊兵装にバチバチッと電光が走り始めた。兵装の名前は【
加えてグレイグルームに搭載されたオーバードブースターはアサルトアーマー特化型。その威力、破壊力は想像を絶するレベルにまで昇華していた。
「何を言っている、我らの目的はアルテリアの破壊だ! たかが1機の不安要素だけでおめおめと撤退する訳がないだろう!」
《いいやジュリアス・エメリー。私は元よりメルツェルにこれを頼まれていた。『万が一、第三勢力が参戦してきた時はジュリアスを逃がしてくれ。手段は問わない』とね》
「メルツェルが? しかしそれは――」
《私も大袈裟過ぎるとは思う。だが現に第三勢力が参戦し、その正体がオリジナルの頂点ともなればメルツェルの言葉を無下にすることは出来ない》
トーティエントの言葉に内に秘めていたであろう信念が見え始め、言葉尻にも熱が帯びてきていた。それまでの諦観した優しい声色が嘘のように鳴りを潜めて、代わりに強い意志が台頭してくる。その様子は普段の彼の振る舞いを見てきたジュリアスからすれば心変わりにも等しい印象だ。
《手段と目的を履き違えるな……早く行け。私の成就は君に託す》
「……済まない」
ギリッと歯噛みしたジュリアスは同胞を死地に残す無念を胸の内に押し込めつつ、乗機アステリズムを180°旋回させるとOBを発動して即座に時速1200kmへ到達。アルテリア・カーパルスを後にした。その様子を見送ったトーティエントは満足げに頷くと、視線をノブリス・オブリージュとトラセンドに向けて回線を開く。
《さて、彼女を追わなくていいのか? 彼女はORCA旅団の中でもトップ5に入る重要人物だ。捕虜にすればこれ以上ない交渉材料になると思うんだが》
「僕達の任務はあくまでアルテリア・カーパルス防衛だ。彼女が自ら撤退したのであれば無理に追う理由はない」
「なにより、目の前の
トーティエントの挑発的だが気遣いのある言葉にジェラルドとダリオは各々の主張を掲げると、乗機であるノブリス・オブリージュとトラセンドを一歩前進させて兵装を構えた。
《一時休戦か。ローゼンタールの騎士は甘いのだな》
「勘違いして貰っては困る。奴を片付けたら次はお前だ」
その一連の流れを見ていたベルリオーズは独りごちる。一瞬前まで殺し合いをしようとしていた者同士が、与えられた役目を果たしつつ互いに手を取り合って共通の敵を打ち倒そうとする人間的感情の美しさに敬意を払い、そして……。
《良い判断だ。この時代の戦士も中々やるようだな……行くぞ!》
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