凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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なんか、こう、経緯こそ違えど当小説の構想時に思い描いていたシーンを書けるってことにロマンティックが止まりません。


111.宣告

7月27日 18:55 アルテリア・カーパルス

 

 

「ハァ…ハァ…! 3対1で劣勢とは…ハァ…悪い冗談だな…ハァ……!」

 

《小煩い口を閉じてろジェラルド…ハァ…ハァ…余計な情報は、判断を鈍らせる……!》

 

《しかし彼の言葉も一理ある……ハァ……夢なら覚めて、欲しいのだ……》

 

《――その程度か。見かけ倒しにも限度がある》

 

 

ノブリス・オブリージュ、トラセンド、トーティエントの3機は焼け焦げた煤と浅くない損傷だらけになりながらも陣形を保ち、臨戦態勢を崩さない。それに対してベルリオーズの乗機シュープリスのなんと美しいことか。掠り傷一つ付いていない漆黒の装甲は夕日によって艶めかしい光沢を顕現させ、見る者全てに『我は圧倒的強者である』と喧伝しているようでもあった。

 

 

《逃げたければそうするといい。追いはしない》

 

《……だ、そうだ。どうするジェラルド?》

 

「ハア…ハア……ローゼンタールの騎士に、敵前逃亡は有り得ない…!!」

 

《クハハ……奇遇だな。俺様も同意見だ……!》

 

 

瞬間、ノブリス・オブリージュとトラセンドが飛び出し、次いで後を追うようにトーティエントも飛び出す。ノブリス・オブリージュの背部兵装【EC-O307AB(三連装レーザーキャノン)】が全て展開して計三門(片側パージしてる)の砲口から死の光が放たれるが、シュープリスは放たれたレーザーの僅かな隙間を縫うように最小限の体移動で一切被弾することなく回避した。続けて迫り来るトラセンドは両腕に装備された【ER-R500(レーザーライフル)】を連射しながら吶喊してきたが、シュープリスは先程と同様に攻撃を躱すとトラセンドの右肩関節にそっと【04-MARVE(アサルトライフル)】を滑り込ませて一発だけ弾丸を発射する。

 

弾丸は見事に肩関節を撃ち抜き、トラセンドは隻腕になった衝撃で後方に吹っ飛んだ。その機影を目眩ましにするように現れたトーティエントが【02-DRAGONSLAYER(レーザーブレード)】を発振させながら槍の要領でシュープリスの頭部を貫こうとするが、シュープリスは首を傾げるだけでそれを回避。返す刀でミドルキックを見舞われたトーティエントは丸石のようにゴロゴロと転がりながら距離を離された。

 

 

《弱過ぎる。相手にならん》

 

 

状況が全くの振り出しに戻ったことにベルリオーズは嫌悪感を抱く。確かに今の時代は()()()()()()動乱の時代ではない。ネクストの有用性が見出され始め、同時に人間の根本的な悪が顔を覗かせていたあの頃と比較するのは文明への侮辱だろう。

 

だがしかし、とベルリオーズは想う。一人の戦士として生きるにはあの時代は居心地が良過ぎた。常に戦いの中に身を置き、常に強敵と相まみえ、常に全力を出すことが出来たあの時代が。

 

 

(願わくば()ともう一度――)

 

『あ~ら感慨に耽るなんて珍しいじゃんベルリオーズく~~ん!!』

 

《……貴方か》

 

 

殺伐とした戦場においてあまりに不相応な声が聞こえたかと思えば次の瞬間、シュープリスの目の前にネクストほどの巨大なホログラムが投影される。そこに映し出されたものは、赤いチュニックを身に纏ったヒトが背後から鳩やらクラッカーやらを出して楽しげに振る舞っている様子だった。

 

 

「え……は、え?」

 

《なん、だあれは……》

 

《――いやはや理解が追い着かないな》

 

 

突然すぎる状況にシュープリスと相対する3機は一ミリも動けずにいたが、対するベルリオーズは溜息を吐きながらシュープリスに纏っていた緊張感をほぐす。目の前の人物が出張ってきたということは一種の安全装置が作動したことと同義だからだ。

 

 

《表舞台に出ることはないと聞いていたが。どういう風の吹き回しだ》

 

『いやさ? 君以外にも何人かアルテリアに送ったのは知ってると思うんだけど、思いのほか防衛部隊が頑張ってるみたいでね? まだ一箇所も墜とせて無いんだよねぇ』

 

《……それで》

 

『勿体ないじゃん! なんの取り柄もない凡人共が伝説に善戦してるなんて神話でも中々ないよ! だからね? 君を含めた全員に一回退いて貰って、奇襲じゃなくて正面から戦って欲しいんだよ。()()()()()()()!』

 

 

ホログラムの言葉を聞いてベルリオーズは僅かに思案する。全世界。なるほど、魅力的だ。あの時代でさえ叶わなかった戦場を彼は提供してくれるという。そして気付けば口を開いていた。

 

 

《【アナトリアの傭兵】とは戦えるのか》

 

『勿論さ! 刺激的で叙情的でエキサイティングな舞台を用意してあげるよ!』

 

《――了解した。ベルリオーズ、帰還する》

 

《逃す道理がなかろう……!》

 

 

刹那、飛び出したのはトーティエントだった。ジェラルドとダリオが反応する前にグレイグルームにOBを展開させていた彼は軽量機らしい超高速でシュープリスに接敵する。そしてコンソールパネルを目にも止まらぬ速さで操作すると画面いっぱいにジェネレータ制限解除(リミッターオフ)の文字が表示され、同時に【P-MARROW(アサルト・アンプ)】に過剰なまでの光が灯り始めた。

 

 

(警戒を解いている今、ヤツに限界出力のアサルトアーマーは避けられない!!)

 

『ありゃ。まだやるんだ?』

 

《ほぉ、自爆覚悟か。悪くない》

 

 

トーティエントの決死のカミカゼにホログラムの人物は少々意外そうな面持ちとなり、ベルリオーズは軽く目を細めたようだが、そんなことは私の知ったことではない。ORCAの描く未来を勝ち取るためには目の前の人物が必ず障害になる。ならば命に代えても、いまここで芽を摘むだけだ。

 

 

《人類に進化と繁栄を……!》

 

 

そしてグレイグルームは翡翠色の冷ややかな光に包まれ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ることは無かった。代わりに生じたのはグレイグルームのコアに深々と突き刺さった黒い槍。いや、正確にはシュープリスの右手に握られた【04-MARVE(アサルトライフル)】の銃身そのものだ。その先端に胸部を貫かれたトーティエントは呼吸をするため、肺に溜まった大量の赤黒い血をゴプッと吐き出さざるを得なかった。

 

 

《馬、鹿な……》

 

《ジェネレータとコックピットを同軸で貫いた。コジマ粒子供給が出来ない以上、いくら必殺のアサルトアーマーでも意味を成さない。貴様の敗因は相手が悪かったことだ》

 

 

だがベルリオーズの小さな賛辞の言葉は絶望の中で目の光が消え始めたトーティエントには届かない。そのままダランと脱力したグレイグルームを粗雑に投げ捨て、血液と潤滑液が混合して不気味な照りを纏う【04-MARVE(アサルトライフル)】をブンッと振り払ったシュープリスは唖然とするジェラルドとダリオに向き直る。

 

 

《今回はここまでだ。命拾いしたな》

 

 

ベルリオーズの言葉と同時にシュープリスは浮上を開始し、機体の大きさがピンポン玉程度になった辺りでOBを発動、そのまま虚空へ消えていった。戦場となったカーパルスに残されたものはグレイグルームだったものと満身創痍のノブリス・オブリージュおよびトラセンド。そして未だ投影されたままのホログラムだけだ。

 

刹那、ノブリス・オブリージュの拳が途轍もない衝撃音と共にカーパルスの地面に打ちつけられた。摩擦によるものだろうか、握られた拳には煙が上がっている。

 

 

「私は……ノブリス・オブリージュは……!」

 

《………ちっ!》

 

『あ~~完全敗北でナルシズムに浸っているところ悪いけど、ちょっといいかな』

 

 

場違いな声にジェラルドがノブリス・オブリージュに顔を上げさせると、そこには(かが)んでこちらの顔を覗き込んでいるホログラムの男性がいた。それを見たダリオは思わず、残っているトラセンドの左腕に装備された兵装【ER-R500(レーザーライフル)】で寸分違わぬ精度を保ちながら男性の頭部を射抜くが、その光条はスルリとホログラムを通過する。

 

 

『――短気と喧嘩っ早いは似て非なるものだ。いくら凡人(モブ)でもそれくらい理解しなよ?』

 

《黙れ外道が……!》

 

「――何の用だ」

 

『おっと、君は違うみたいだねジェラルド・ジェンドリン。流石ノブリス・オブリージュを継いだだけはある』

 

「さっさと言え。用件はなんだ――!」

 

『そう急かすなよ……実はね? ちょっと世界に伝言を頼みたいんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月。多くにとって突然に、それは起こった。

 

死んだはずの【オリジナル】複数名によるORCA旅団のアルテリア施設同時襲撃への襲撃。結果的に退却したとはいえその全てが成功し、クレイドルは拠って立つエネルギー基盤を大きく揺るがされた。

 

そして、LOSERS(敗北者たち)と、総司令官アンミル・アンフィンの名でごく短い声明が世界に発信される。

 

 

 

To Race(人類よ)

 

Welcome to Judgment(審判の時だ)

 

 

 

それは、地球に住む全ての人々への明確な宣戦であった。

 

企業は安全な経済戦争を放り出し、狂気の敵対勢力に対することを余儀なくされ、人々は覚束ない足元にはじめて気づいたかのようにそれを恐怖するしかなかった。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。

太字の部分。アレを書きたいがために2年間頑張って更新してきた節があります。感慨深けぇ。ちなみにアンミル・アンフィンはFnu.mni.lnuの簡易的なアナグラムです。間違ってたらすんません。

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