カラード本部 地下15階 通称「茶の間」
中世を思わせる厳かな装飾が煌びやかに施され、カラード最上位リンクス達による『お茶会』が定期的に開かれているこの場所は異常な空気感に支配されていた。
重圧という言葉ではほとほと生温い、もはや重力や引力、斥力と言った万物の物理法則が集中的に我が身へ降り注いでいると言われたほうが納得出来る空気感。生命活動の源である呼吸を行うにも脂汗を垂らして、ようやく一回息を吸えるほどの重苦しさが漂うこの場所に存在しているのは10名の老若男女であった。
上座に座っているのは各グループの宗主3名、その右手には王小龍、ローディー、スティレットのカラードを代表する【オリジナル】の精鋭3名。対する左手にはジェラルド・ジェンドリン、ウィン・D・ファンション、ドン・カーネルという現代のトップガン達3名が名を連ねている。そして上座にはラインアーク代表としてレイヴンが一人、儀礼的に出された紅茶を静かに嗜んでいた。
『茶の間』に集まった彼等10人の中で大きな違いがあるとすれば、それはスティレット、ジェラルド、ウィン・D、ドン・カーネルの4人が該当するだろう。何故なら彼等だけが各々血の滲んだ包帯を額に巻いていたり、頬に特大の絆創膏を貼付していたり、ウィン・Dに関しては左腕にギプスがはめられているからだ。その様子を見てインテリオルグループの宗主がおもむろに口を開く。
「傷の具合はどうかね? ウィン・D」
「――問題ありません、宗主」
「そうだろうな。【ランク4】を拝する君ならその程度の傷、何の支障にもならないだろう」
宗主の言葉にウィンは押し黙るしか答えを持ち合わせていなかった。インテリオル最高戦力でありながら何という失態か、と言外に含まれる嘲笑の意思。ウィンは膝の上に置かれた拳をキツく握り締める。その様子を知ってか知らずかローディーが慇懃を保ちつつ語気を強めてインテリオル宗主を問い質す。
「その御言葉は如何なものでしょうか。クラニアムに現れた【オリジナル】は【鴉殺し】です。加えてORCA旅団からはオッツダルヴァと真改が来ていた。ヤツらの戦果等々を鑑みればむしろ、彼女が生きてこの場に居ることを労うべきでは」
「ふむ、君の意見も尤もだが。それではインテリオルが彼女に莫大な投資をしてきた意味がなくなってしまう。格上だから負けても仕方ないは通用しないのだよ。更に言えば【GAの英雄】がインテリオル宗主に口を出すのは内政干渉だと思わないかい?」
「この期に及んで政争ですか。宗主というのはつくづく――」
「やめろローディー………失礼しました。然るべき処遇は受けますので、どうかこの場は穏便に」
インテリオル宗主の不遜な態度に業腹となったローディーが言い返そうとした瞬間、横に座る王小龍が制して波立った雰囲気を収める。彼の言葉に両者とも口をつむぐとオーメルグループ臨時宗主であるレオハルトが代わって口を開いた。
「では状況を整理しよう。まずORCA旅団がアルテリアを同時襲撃し、各企業の最精鋭が防衛部隊として対応している最中、戦死したとされる【オリジナル】複数名が来襲。これに対して三つ巴またはORCA旅団と一時休戦して迎撃にあたる。しかし【オリジナル】の戦力は尋常ではなく両者ともほぼ一方的に敗北を喫した。そして【オリジナル】は全世界に宣戦布告したあと行方不明である、と。ここまではいいかな」
「改めて聞くと空想妄想の類にしか聞こえんな。死人が甦り、最高位リンクスを力で捻じ伏せた挙げ句にあの声明文。
レオハルトの説明を横で聞いていたGAグループ宗主スミス・ゴールドマンは腕を組みながら鼻を鳴らす。手段を選ばずという側面があったとはいえ、曲がりなりにも世界の安定を目指してきた人間の一人としての自負が彼にはあった。それをぽっと出の組織に力で真っ向から否定されたのだから面白い訳がない。
「私も同意見だ。だが彼等の持つ戦力が、認めたくないがカラードを凌駕しているというのも事実。ではどうやって彼等に退場して貰うかだが、その方法の一つを王小龍が提案してきた。この会合ではその是非を問いたい」
レオハルトの言葉で『茶の間』にいる全員の視線が王小龍に集まる。対する王小龍はレイヴンと同様、儀礼的に出された珈琲を嗜んでいた。一口含む度に小さな皺が眉間に刻まれるあたり、彼の好みの味ではなかったのだろう。嫌いなものは早々に終わらせるに限ると言わんばかりに珈琲を飲みきった王小龍は目を閉じて一息つくと、まるで告解するように言葉を走らせる。
「アルテリア襲撃の折、ORCA旅団からカラードとの一時停戦および不明戦力への共同戦線構築を正式に要請された。私はこれを受けるべきに思う」
歴戦の猛者達だけが座る『茶の間』がほんの一瞬だけどよめいた。互いが殺し合っている最中に現れた第三者を消すため「仲良く手を組みましょう」と突然言われれば誰だって動揺、困惑するだろう。しかしレイヴンは違ったようで、静かに挙手して発言を求めた。
「言ってくれ」
「ORCA旅団は信用出来るか。不明戦力を排除したあとはどうなるのか。この二つを聞きたい。無論、隠し事は無しだ」
「それは
「ラインアークはあくまで自治組織に過ぎない。民の危険を最優先に動くのは組織運営の原理原則に反しないだろう」
「詭弁だな」
「どうとでも。それで答えは」
レイヴンは崩れない。もとより批判されるのを覚悟で会合に臨んでいる彼に罵詈雑言を投げ付けたところで大した収穫は得られる筈がないのだ。それを即座に理解した王小龍は溜息を吐きながら攻勢を緩め、彼の問いへの答を吐いた。
「背中を預けるには疑わしいが、肩を並べて戦うには信用に足る相手だ。ヤツらの戦力を取り込めるのは戦略的に大きな意義を持つ」
「……なるほど」
「そして不明戦力を排除したあとだが、条件付きでカラードに投降すると言ってきた」
「条件?」
「『企業の罪を全世界に公表し、アサルトセルを破壊すること』これが提示された条件だ」
これに最も動揺したのはゴールドマン、そしてインテリオル宗主だ。逆にドン・カーネルを除いたトップガン組は何のことかと首を傾げている。【オリジナル】組とレイヴンはピクッと反応したが、それ以上の行動は起こさなかった。より一層空気が重くなるのを体感したジェラルドは思わず発言する。
「失礼。企業の罪とは?」
「ふん。そんなものある訳が――」
「ブルーノ、もうやめよう。ORCA旅団がそれを掴んでいる以上いずれ露見することになる」
ゴールドマンに諦観したような声色でブルーノと呼ばれたインテリオル宗主は信じられないといった様子で彼をキッとしばらく睨むが、根負けする形で背もたれにドカッと身を預けて特大の溜息を吐く。
「分かった。だが君が話せ。私は話す気になれん」
「……ジェラルド・ジェンドリン。君は国家解体戦争が起こった原因を知っているか?」
「ええ。たしか食糧やエネルギー資源の不足によって統治能力の低下した国家に対して、新たな秩序構築を掲げた企業グループが仕掛けた戦争だと記憶していますが」
「そうだ。だがそれは本当の理由ではない」
「え?」
「国家解体戦争はな、企業の愚行を隠蔽するための隠れ蓑に過ぎなかったのだ」
いかがでしたでしょうか。
書きたかった部分を前回で書き切ったのに燃え尽きず更新した自分を褒めたいです。でもね?この後の構想、豆腐みたいにヤワヤワなんですわ(コソッ
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