凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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体調崩してゾンビみたいな生活してました。お陰で肥満気味だった体重も減り、健康なゾンビ生活です。

今回は短めなので悪しからず。


114.待望と再訪

ORCA旅団移動基地【ゴルディロックス】 艦橋

 

拘束衣のような特異な服装に身を包んだ銀翁、漆黒のジレとスラックスを着こなしたメルツェル、純白の軍服に青い三連星のブローチをつけたジュリアス・エメリー、白銀の和装を身体の一部の如く着る真改、そして暁色の準礼服に身を包んでいるマクシミリアン・テルミドール。

 

ORCA旅団において『最初の五人』と呼ばれている彼等の面持ちは複雑なものだった。気分が沈んでいるにも関わらず高揚している躁鬱に近い心理状態が異常なのは皆理解している。ならば何故それを鎮めることが出来ないかと言えば、彼等がカラードに提示した条件『企業の罪の全開示およびアサルトセルの破壊』をカラードが何の妥協案もなくそっくりそのまま呑み込んだからであった。

 

無論、この契約履行は不明戦力――LOSERS――の共同撃破が条件であるため後出しジャンケン的に覆される可能性も否定できない。しかしカラードに、企業に『企業の罪』を認めさせる好機を得たことはORCA旅団にとって喜ぶべき事柄なのは間違いないことだ。

 

 

「図らずも企業がクローズプランを認知し、認めるか。長く生きているが、こうも締まり無い成功は珍しいな」

 

「勘違いするな銀翁。LOSERSを倒さねば成就もなにもあったものではない」

 

「同意」

 

「年寄りの戯れ言だ。気にしないでくれ」

 

 

場を和ませようとした銀翁の軽口をジュリアスと真改が咎める。決して良い雰囲気とは言えないが、そこそこな物言いが出来るのもまた事実。ほどよい緊張感に満たされた場の空気を見たテルミドールはスクッとその場で立ち上がると、他の四人の視線が一気に集まった。常人ならば多少でも緊張する場面だが劇場型人間の彼は違う。むしろ弁舌が普段以上に回って『自分は世界の主人公だ』と没入出来るタイプの人間だからだ。

 

 

「諸君。確かに銀翁の言う通りクローズプランは企業の思わぬ助力によって図らずも達成されつつある。そしてそれが、ジュリアスと真改が言うようにオリジナルで構成されたLOSERSを打ち倒さねば成し遂げられない。疑念は残るだろう。軋轢もあるだろう。だが人類の進化の可能性があるのなら我々は歩むべきだ。それこそがORCA旅団の本懐なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後。

 

誰もいなくなった艦橋でメルツェルは黙々と作業をこなしていた。内容はカラードと正式に交わす予定の停戦協定書および共同戦線協定書の最終相互チェックである。ここでORCA旅団に不利益が生じる事項が含まれていては話にならず、そしてカラードはそれをやりかねないと彼は分かっていたからだ。

 

カタカタ……ペラペラ……と無機質な作業音が辺りに響いている最中、不意に後方からコツコツと足音が聞こえてくる。ふと振り向けば、そこには黒のタートルネックとタイトパンツに赤いジャケットを嫌味無く着る優男――ダン・モロ――がウイスキーボトルを小脇に抱えながらロックグラスを二つ持って飄々と近付いて来ていた。

 

 

「私は飲まないぞ」

 

「つれないこというなよ。一応の祝杯ぐらい付き合ってくれ」

 

 

メルツェルの素っ気ない反応に笑うダンは気にする素振りを一切見せずに彼の隣へ座ると、草原を背景に農夫が鍬を抱えた絵柄のラベルが貼られたウイスキー――ゴールドファーマー18年――の蝋封をベリベリッと剥がし、両方のグラスに注いだ。濃い琥珀色をしているそれを見て満足そうに見つめるダンは一方をメルツェルに渡そうとするが当の本人は本当に飲む気が無いらしく、全く見向きもしないまま作業を進める。

 

仕方なくダンは差し出したグラスを彼の傍らにそっと置き、自分のグラスで音を鳴らすとグイッと一煽りした。喉を焼くような芳醇で暴力的な味わいを愉しみ、更に鼻から抜ける余韻を堪能したダンは満足そうに一息つくとメルツェルのチェックが終わった協定書の最終案を手に取って眺める。

 

 

「しかしまぁ、ラインアーク事変からLOSERSのアルテリア襲撃まで期間も無かったのにここまで上手く行くとは。働き過ぎだなメルツェル」

 

「よくいう、誰が手間をかけさせたのか」

 

「悪いな。理想主義者なんだ」

 

 

ダンの言葉にジト目で返したメルツェルは軽い溜息を吐く。

 

 

「時期もある。早々に片を付けるぞ」

 

「それなんだが、少し待てないか?」

 

「……キドウ・イッシンか」

 

「彼の力が必要不可欠なのはお前も知ってるはずだ。待って損はないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【フラスコと硝煙の桃源郷】 ジョニーの格納庫

 

 

「被験者バイタル、正常値を維持」

 

「AMSシンクロ率105%、当初から変わりありません」

 

「フィズ、改良プログラムは良好に稼動中」

 

「……ふぅ、時間は掛かったけど大丈夫そうだね」

 

 

白衣姿の研究員達が皆、真剣な面持ちで目の前の研究機材に表示される難解な数列や記号とにらめっこしている様子を見て、カミソリ・ジョニーは取り敢えずの安心を覚えたようで一息ついた。彼の目の前には黒一色の異形の巨人――JOKER――が胸部を開け放って鎮座しており、その胸部には相変わらず眠り姫然としたキドウ・イッシンが穏やかな顔のまま瞳を閉じている。

 

彼とのフィズによる強制同期が弾かれて早一週間。そう、たった一週間。その間に世界はずいぶん様変わりしたものだ。彼は目覚めたらどんな反応をするだろうか。たぶん世界情勢を聞いたら何とも言えない微妙な顔をするに違いない。思わずクスッと笑うジョニーの横へセレン・ヘイズが足音を響かせながら並んでくる。この一週間、彼女が寝たのは僅か10時間。その他はすべてイッシンの傍に付いていたにも関わらず疲労の色は全く見えなかった。単に体力の関係か門弟を想う師の愛情かそれは分からないが、どちらにせよ超人的である事実に変わりはない。

 

 

「なにを笑っている?」

 

「彼が目覚めたら、どんな反応をするのかなって」

 

「安心しろ。アイツが目覚めて最初に食らうのは私のビンタだ」

 

 

にべもなく言い放つ彼女に思わずキョトンとしてしまうジョニーだったが、次の瞬間には肩を震わせながら笑いを堪え始めた。その様子を目を細めながら訝しんだセレンが言葉をかける。

 

 

「なんだ?」 

 

「いやホント、イッシン君は不憫だなって……フフ」

 

「当たり前だろう。飼い主(オペレーター)である私をここまで心配させたんだ。相応の責任は取って貰わねばな」

 

 

二人そんなやり取りをしている中、ジョニーのもとに研究員が電子バインダーを持って小走り近付いてきた。

 

 

「ジョニー様セレン様、フィズの準備が整いました。JOKERとの同調率も申し分ありません。いつでも行けます」

 

「だそうだよセレン・ヘイズ。それじゃ行こうか」

 

「……そうだな」

 

 

ジョニーから掛けられた言葉を合図とするようにセレンは再びJOKERを見遣る。イッシンが相変わらず静かに惰眠を貪っている様子は正直見ていて腹立たしい。こんなにも心配しているのに、なんだその気持ち良さそうな寝顔は。覚悟を決めるようにグッと拳を握り締めたセレンは身を翻してジョニー達に付いていく。

 

必ず助けて、ビンタする。それだけを考えて。

 

 

「JOKERとの接続完了。フィズ、正常に稼動中」

 

「強制同期シーケンススタンバイ。オールグリーン」

 

「それではお二人とも準備はよろしいでしょうか」

 

「僕は大丈夫だよ」

 

「ああ、問題ない」

 

「――分かりました。どうかご無事で。強制介入シーケンス、開始」

 

「強制介入シーケンス開始、同期まで7秒……5……4……3……2……1……同期します」




いかがでしたでしょうか。
来週は数ヶ月振りのイッシン君登場です。主人公がいない物語なんて書いてる側からしても酒のない宴会みたいなものですからツラかった。

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