現在時刻
北西洋上、BFF第8艦隊より100キロ南東の海域。
ネクスト〝ストレイド〟は通常ブーストを噴かしながら回収地点に向かっていた。元々【MP-O200I】が搭載されていた背部には焼け焦げた接続ジョイントしか残っておらず、時折小さな黒煙が痛々しく立ち上っていた。
だが、むしろ幸運と言える。そもそもスナイパーキャノン自体、当たり所によってはコア部を貫通する威力を有している。それが武装とはいえ、直撃しているのだ。本来であればメインブースターがイカれてもおかしくない筈だが、特に異常無く稼働しているのは幸運以外の何物でも無いだろう。
「いやぁ、一時はどうなるかと思った」
《私の言う通り、上手くいっただろう》
「そういうセレンも自信無かっただろ?じゃなきゃ〝試してみるか〟なんて言わないし」
《……可愛げの無い奴だ》
「それほどでも~」
イッシンは鼻歌交じりに上機嫌で応える。
最悪の
「しっかし、良くあんな仕込み思いついたな。まさか───」
《───
戸惑いを隠せないリリウムからの通信に、王小龍は年甲斐も無く半ば
「そのようだ。………全く、上手く化かされたな」
ミサイルの反応はレーダー上、海中に沈み爆発するまで表示される。そこを逆手に取られた格好だ。………全く、陰謀家が聞いて呆れる。
ギガベースは水陸両用のAFであり、その汎用性に一定の評価がある。そして、その水陸両用を実現するためキャタピラに相当する箇所には最新鋭の技術が詰め込まれているのだ。言い換えれば、迎撃武装や装甲に割くスペースは皆無に等しく、破壊されれば移動不可および浮上不可。まさしく『アキレス腱』と呼ぶに相応しい弱点である。
そして今回、そのアキレス腱を断たれたギガベースは轟音と共に海底へ沈み、生涯を終えようとしていた。
(……見誤ったか……)
王小龍は苦虫を噛み潰したように顔を
ミサイルを魚雷として運用すること自体は難しい事ではない。水密性と推進剤、あとは信管を調整すればどうとでもなる。
問題は、
信管の調整は直前に出来るとしても、水密性と推進剤に関しては作戦行動前に調整するしかない。そして、今回の出撃は情報漏洩対策のためにギガベース出航の1時間前に無理やりねじ込んだ護衛任務だ。となれば自然と解は絞られる。
(万が一に備えていた……とは思いたくないな)
仮にそうだとしたら、少なくとも武装関係に深い造詣のある、それもGAグループ以外の
(……先に唾をつけられたかも知れん。ぞっとしない話だ)
王小龍はしばし熟考に
であればどの企業か。オペレーターを勘定に入れればインテリオルの可能性が高い。だが【MP-O200I】の出所を考えればオーメルの線も捨て切れない。先の大戦において、オーメルの潜水艦技術は一歩抜きん出ていた。弾頭の改造なぞ造作も無いだろう。
《
不意にリリウムから通信が入った。王小龍は熟考と並行し、簡素な受け答えを行う。
「どうした、リリウム」
《思案中、申し訳ございません。一点確認させて頂きたいのですが》
「……なんだ」
《……その、私は何をすれば良いのでしょうか》
リリウムの問いに王小龍は一瞬
BFFの新たな〝女王〟たるリリウムは、まだ齢16。花も恥じらう時分の少女だ。
同年代と比べ遥かに利発で
『家』という花壇に縛られた
そこに王小龍は在りし日の自分を重ね合わせ、教育係を自ら買って出た。以降、リリウム・ウォルコットにとって王小龍は『師』となり、王小龍自身もこれを是としている。
「……うむ、まずは周辺を警戒しつつギガベース搭乗員の救助。その後、襲撃の詳細を本部に打電しておけ」
《了解致しました、
そう言うとリリウムのネクスト〝アンビエント〟はギガベースへ向かっていき、その様子を王小龍は見守る。
(
王小龍はリリウムへの教育方針を密かに考え、胸にしまう。そして再び、熟考の扉を開けた。
「───で、誰なんだ?。そのトンデモミサイルを仕込んだ人って」
《最近知り合った友人でな。突飛な思考の持ち主だが、悪い奴じゃない。いずれ会わせるさ》
既にイッシン駆る〝ストレイド〟は回収地点に到着しており、輸送機による回収作業──作業と言っても、ネクストの上半身に合金製多重層ワイヤーロープを掛け輸送機に吊すだけの旧式輸送ではあるが──を受けていた。その間、手持ち無沙汰となったイッシンは、暇潰しがてらセレンと他愛ない話をしていた。
周辺を軽く警戒しつつイッシンは話を続ける。
「にしても終始ジリ貧な展開だったな」
《なんだ、不服か?》
「もうちょい上手く出来ると思っただけだ」
《自惚れるな。上位ランカー2機を相手取って命があるだけ有難いと思え。それと──》
「あっ、そうそう。それなんだけどさ」
思い出したかのようにイッシンは話の腰を折る。
「ランクって、ランクマッチで決まるんだろ?」
《……そうだが、それがどうした》
「してみたいんだけど」
イッシンの緊張感の欠片も感じない問答にセレンは頭痛を覚えた。戦闘領域から離脱したとはいえ、仮にもまだ作戦行動中だ。並の奴なら極度の精神疲労でグッタリする筈だが、
《ハァ……分かった、手配しておく。で、だ。気付いているか?》
「え、何が」
《戦闘中も、今も、タメ口だな》
「………………………………ぁ、ぃゃ」
《別に構いはしない。その方が私もやりやすいからな》
「じ、じゃあ──」
《だがな。なんか気にくわないから後で覚えていろ》
「………はい」
カラード記録ファイル(整理番号:IU-101)
依頼主:インテリオル・ユニオン社
依頼内容:AFギガベースの撃破
結果:成功
報酬:400000c
備考:BFF社ネクスト〝ストリクス・クアドロ〟および〝アンビエント〟との交戦有り。なお、本依頼の受注リンクス〝キドウ・イッシン〟に交戦による身体的外傷および精神的外傷は確認出来ず。
いかがでしたでしょうか。
最近の個人的暇潰しトレンドは「国土地理院地図」で日本各地の標高を見る事です。
……そこ、くそ陰キャとか言わない。
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