凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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「筆者は優しいけど人に興味ないよね。いや興味がないから優しいの?どっち?」って言われました。そんなことないもん。短慮で感情的で打算的な人間臭い人は好きだもん。


116.後悔先に立たず

「モグズルッ! ズルモグモグッ!ゴクゴク……ぷはぁ~……なるほど。めちゃヤバなことになってんね。世界終わるんじゃね?」

 

「他人事か」

 

「セレン、こちとら起きたばっかよ? その一発目が『オリジナルの復活』と『ORCA旅団との共同戦線』なんて聞かされりゃ誰だって実感湧かないって」

 

「およそ世界の終わりみたいに食い散らかしてる人間が言っていい台詞じゃないね」

 

 

ムーンバックス【フラスコと硝煙の桃源郷】支店のボックス席で、イッシンは特製ナポリタンと限定オムライスを爆食しつつハイブランドコーヒーをがぶ飲みするというスーパー豪遊タイムをかましながらセレンの話を聞いていた。彼女はイッシンの食いっぷりに若干引きながらアイスコーヒーをゆっくり味わっており、その横ではジョニーが同じく引きながらバナナサンデーを丁寧につついている。

 

 

「それで?これからどうすんの。オトモダチになったORCAに表敬訪問でもぶちかます感じ? 『ダン君久し振り~☆ あっオッツダルヴァ君もおひさ~◇ 色々あったけどこれから仲良くしようね~♡』って言いながら二人に銃口押し付けるドッキリでもやる?」

 

「それもアリだが」

 

「アリなんだ」

 

「まずは私と一緒にカラードに行くぞ。あの化け梟から企業連経由で直々に呼び出しが掛かってる」

 

 

セレンは心底面倒くさそうにアイスコーヒーをストローで吸い上げた。化け梟こと王小龍はこれまで何度もイッシン達に脅迫もとい協力を仰いで来ているが、その内容は全て非公式。つまり公式にはイッシンと王小龍の繋がりは一切存在せず、あるのはギガベース撃破の際に戦ったという記録だけ。

 

端から見れば多少なりとも険悪な関係だと思われているに違いない。だからこそそれを隠れ蓑にした良好なビジネス関係が続いている訳だが、今回はその王小龍側から()()なルートで召集が掛かっているのだ。

 

実は、カラードにおいて正式な手続きを踏んだミッションを依頼している企業はGA・インテリオル・オーメルを始めとした主要企業を含めてほぼいない。なぜなら、確かに規約としてミッション依頼の項目は存在するが、依頼すればカラードの特性上、全企業にミッション内容が開示されるデメリットが生じるのだ。武力による経済戦争で日夜しのぎを削っている企業が『今から貴社の基地を破壊します』なんてわざわざ報告する道理は無いだろう。

 

加えてカラード自体の存在意義がリンクスの管理に重きを置いているのも原因のひとつだ。だからこそ正式な手続きを踏まずにミッションが依頼されたとしても、いちいち指摘するようなことはしない。カラードの収入源である企業からの献金が滞れば運営に支障が生じるからだ。だからミッションが正式な手続きを踏まずに依頼されても黙認されている状態なのである。

 

さて、ここまでコキ下ろした正式な依頼方法だが勿論メリットも存在する。企業連を通した正式なルートで召集するメリットはカラードにおいて唯一つ。所属するリンクスは任務受託の是非に関わらず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

「うえぇ。また回りくどいことやるな、あの爺さん。そんなに切羽詰まってんの?」

 

「それもあるだろうが、おそらくパフォーマンスの側面も少なからずある。自身の子飼いにお前がいると知られれば、今後のあらゆる交渉を武力的な意味で有利に進められるからな」

 

「相変わらず抜け目ないねぇ。使われる側の身にもなって欲しいもんだ」

 

「その悪態はヤツに会うまで取っておけ。どうせ碌なことにならないんだからな」

 

「あいよマスター。じゃ、そろそろ行くか」

 

 

セレンの話を聞きつつ(おもむろ)に立ち上がったイッシンはパンパンに膨れ上がった腹をさすりながら手近に置いてあった伝票を取り上げ、ズボンのポケットに刺していた財布を広げる。刹那、イッシンの動きがピタッと止まり、目にも止まらぬ速さで両眼球を往復させると所謂(いわゆる)『なんの悪気もありませんよ(つら)』を瞬時に作り上げてセレンに優しく話しかけた。

 

 

「割り勘でいいか? セレン」

 

「ふざけるな」

 

「……割り勘でいいか? ジョニー」

 

「ちょっと容認出来ないかな」

 

「…………すいません貸してください」

 

 

それは非常に美しく、一切の無駄が省かれた理想的な土下座だった。まるで雄大な自然に囲まれた渓谷で(はぐく)まれた清らかな小川の如く、これは自然現象の一つであると言われても違和感のない流れるような一連の動作は、今後お目に掛かる機会はまず無いと確信できるほどの魅力を有している。

 

やっている理由はクソ以下だが。

 

 

「はぁ……この程度の食事の代金を払えないとは。オペレーターとして恥ずかしい限りだ」

 

「だって仕方ないじゃん! ネリスに会った後ATMに行く時間もなく例の施設に直行したんだぜ!?」

 

「だとしてもだ。リンクスたる者、常に準備を怠るなと言っているだろう」

 

「ならいい加減お小遣い制を撤廃してくれよ! なに? いい年したリンクスの小遣いが1C(コーム)って? 俺を高校生かなんかだと思ってる? こちとら健全な成人男性なんですけど!?」

 

「却下だ。第一、お前に金を渡そうものなら大半をメイ・グリンフィールドにつぎ込んで破産するのは目に見えてる」

 

「そんなことあるわけ!………いやあるな」

 

「そこは否定しないんだね」

 

 

決して譲らないセレンと、何とかして譲歩を引き出したいイッシン。そして思わずツッコミを入れるジョニー。コントとしては配役がバッチリはまっている状態であり、ここがオーディション会場なら結構いい線まで行くのではと思える完成度である。だがそんな状態がいつまでも続く訳も無く、状況が動いたのはすぐだった。セレンがやれやれと言って財布を取り出したのだ。

 

 

「復帰祝いも兼ねて、今回は特別だ。その分しっかりと働いて貰うぞ」

 

「神様仏様セレン様~! この愚民にお目こぼしをありがとうございます!」

 

「プライド無いのかな?」

 

 

ジョニーのツッコミもそこそこにセレンは食事の代金を支払おうとレジに足を進めようと方向転換した瞬間、先程のイッシンを彷彿とさせるような動きでピタッと止まる。相変わらず土下座したままのイッシンも何事かと顔を上げて見ると、そこには非常に見覚え深い人物が不浄物を視界に入れてしまったような嫌悪を露わにした表情をしていた。グレーのスリーピース、深く刻まれた皺、射抜くような眼光、背後でちょこんと立つ利発的な少女。見間違う筈がない。噂をすればなんとやらとはよく言ったものだ。

 

 

「居場所を突き止めて出向いた結果がこれか。リリウム、直視するな。アレは存在を認識していい類ではない」

 

「分かりました大人(ターレン)

 

「ヘイヘイヘイヘイ狡猾老獪陰謀爺さんよぉ。久々に直接会った第一声がそれって人としてどうよ? 俺だって人間よ? 爺さんはともかくリリウムちゃんから存在無視されるのは(おとこ)として最大級の刑罰よ? ねぇリリウムちゃん」

 

「………」

 

「ガン無視!!」

 

「何故ここにいる王小龍。カラード本部に呼び出したのは他でもない貴様だろう」

 

 

土下座の状態から瞬間移動でも駆使したかの如く一瞬で王小龍の前に躍り出たイッシンは、彼を斜め下から睨み上げてアシカよろしく甲高くオウオウと喚き散らし、ガンを飛ばしつつリリウムにアプローチして見事撃墜される。全く以てコメディの様相を呈している中、セレンは顔色ひとつ変えずに目を細めた。

 

 

「事情が変わったのだ。貴様等がこの場所にいるなら敢えてカラード本部に呼び出す必要もないからな」

 

「手短に教えろ。長話は性に合わん」

 

「明日、ORCA旅団とカラードの共同戦線構築調印式をここで行う。反論はするな。既に決定事項だ」

 

 

王小龍の言葉にセレンとイッシンは固まり、ジョニーは思わず絶句する。彼からすればムーンバックスでデカフェを注文するように軽々しく容認出来る事案では無いからだ。元々【フラスコと硝煙の桃源郷】はネクスト販売業から摘まみ出されたアウトロー共のギルド。そんな所で公式な行事が執り行われれば住人から多少なりとも反感を買うことくらいは容易に想像できる。

 

 

「ち、ちょっと待ってくれ。いくらなんでも急すぎる。やるなら色々と準備が……」

 

「LOSERSの再襲撃がいつあってもおかしくない状況だ。カミソリ・ジョニー、悪いが退くつもりは無い。それと(わっぱ)。すこし顔を貸せ。話すことがある」

 

 

ジョニーの嘆願も虚しく、王小龍は一方的に話を終了させると踵を返しながらイッシンを呼びつつリリウムと共にムーンバックスを後にした。どうしたものかとセレンの方を見遣れば『行ってこい』と顎で返事をされたので、イッシンは渋々といった様子で仕方なく彼に付いていく。

 

残されたセレンは飲みかけのアイスコーヒーに再び意識を集中させ、ジョニーは半ば放心状態でバナナサンデーを弄り回すしか出来なかった。




いかがでしたでしょうか。

今回は若干コメディ回でした。やっぱりイッシン君に喋らせてる時が一番楽しい。

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