凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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今回はちょっとしたギミックを入れてみました。お気に召せば幸いです。


120.夜の女王、或いはポーラールートの怪物・Ⅱ

それを一言で表すとすれば、退屈がよく似合う光景だった。

 

蜈蚣(ムカデ)の如く地上を這い走るストリクス・クアドロの最高速度はお世辞にも速いとは言えない。良く見積もってもJOKERの通常ブーストと遜色ないレベルだ。背部兵装である【061ANSC(スナイパーキャノン)】の砲口を常にプロメシュースへ向けているとはいえ、あまりにもトロすぎる。

 

そして、その動きに追従するかのように前衛であるアンビエントの機動も遅い。空中機動を主としていて()つストリクス・クアドロよりも機体重量は軽いため、見るに堪えないような動きとまでは行かないが、それでも遅いとしか評せない機動であった。

 

何も知らない者からすれば当代最高峰のバディである彼等が数の利を制して手を抜いているのだと思うだろう。()()()()()()()()()()()()()。およそ命の遣り取りとは思えない技術だ。だがそれは、命の遣り取りを現在進行形で行っているからこそ出来る芸当なのだ。事実王小龍(ワン・シャオロン)の額には玉のような汗が滲み出ており、リリウムも肩で息を切らしながら操縦している。

 

対するプロメシュースは優雅に舞う蝶のようにヒラリヒラリと踊りながら非常にゆっくりとした動作で【050ANSR(スナイパーライフル)】と【051ANNR(ベーシックライフル)】を構えていた。疲れや緊張など微塵も感じさせない圧倒的存在を醸しながら。

 

刹那、アンビエントの【067ANLR(レーザーライフル)】が火を噴いた。狙い澄まされた赤い光条は吸い込まれるように直進していくが、プロメシュースは回避行動をとらない。それどころか瞬く間に射撃態勢を整えて【051ANNR(ベーシックライフル)】を撃ち放つ。

 

射出された弾丸は寸分違わず赤い光条に吸い込まれてその光を減衰させ、レーザーはプロメシュースに届くこと無く拡散した。しかしアンビエントは想定通りといった様子で困惑した挙動を見せることなく更に【067ANLR(レーザーライフル)】と【063ANAR(アサルトライフル)】を撃ち込み続ける。

 

古今東西ネクスト戦において次々と飛来する弾丸の雨に対する定石(セオリー)は、QBによる回避行動もしくはOBで距離を稼ぐことによる戦線仕切り直しの二通りだ。何故なら最も単純で労力も少なく被弾率を抑えられるから。だがメアリー・シェリーはその定石(セオリー)を真っ向から否定した回避行動、すなわち迫り来る弾丸を弾丸で迎撃するという荒業でプロメシュースの被弾率を抑えている。

 

およそ人類が為し得ていい(わざ)ではないがメアリー・シェリーは淡々と確実に、時折笑みさえ浮かべながら迎撃していく。弾丸同士のぶつかり合いで生まれた花火が二機の間でてらてらと輝きを放っている中、好機と見た王小龍はストリクス・クアドロの【061ANSC(スナイパーキャノン)】をプロメシュースへ撃ち込んだ。

 

距離にして1200。発射から着弾までコンマ5秒と掛からない亜音速の砲弾は空気抵抗以外一切の障壁に阻まれることなくプロメシュースに到達する。しかし、砲弾は装甲を穿つことはなかった。何故ならプロメシュースは着弾直前にQT(クイックターン)を発動。機体速度と砲弾速度を同調させ、()()()()()()()()穿()()()()()合気道のような受け流しにより損傷を最低限に抑えたからである。

 

更にプロメシュースはQT(クイックターン)によって生み出された遠心力に身を置いたままストリクス・クアドロめがけて【050ANSR(スナイパーライフル)】で射撃。本来ならば撃ち出された弾道にも遠心力が加味されてあらぬ方向へ飛んでいくのが常識であるが、狙撃の女王(メアリー・シェリー)にそんな常識など通用しない。まるで針の穴を通すような精密さでストリクス・クアドロの右手に握られた【061ABSR(重スナイパーライフル)】のバレルに風穴を開け、一気に使用不能状態に追い込んでしまった。

 

 

「当ててくるか……!」

 

 

流石の王小龍もこれには面食らったようで思わず悪態をつくが直ぐに感情を切り替え、使い物にならなくなった【061ABSR(重スナイパーライフル)】を投げ捨てつつ右背部兵装【061ANCM(高速分裂ミサイル)】を展開、射出した。

 

同系統兵装の中でも際立って高い巡航速度を有することから、本来想定された運用方法ではなく誘導砲撃に近い運用をされている【061ANCM(高速分裂ミサイル)】は分裂ミサイルの名に恥じず加速途中で複数基に分裂。血走った目つきで獲物を追う猟犬のような高速ミサイル群が全弾直撃すれば一般的な中量級ネクストのAPを20%ほど掠めとる威力を秘めており、いくら物理防御が優秀なプロメシュースでも無視できないダメージとなる。加えて複数基となったぶん命中する確率は格段に上昇し、メアリー・シェリーに対する精神的な牽制としての意味合いも込めた。

 

そこまで計算した上で王小龍は【061ANCM(高速分裂ミサイル)】による攻撃を選択したのだが、彼女は嗤う。やはり老いた。以前の彼なら()()()()()()()()()はしていない。

 

 

《自分の武器も知らないのね小龍(シャオロン)

 

 

プロメシュースは【051ANNR(ベーシックライフル)】を再び構えてトリガーを引いた。弾丸は見事な軌道を描きながら既に分裂した【061ANCM(高速分裂ミサイル)】の一基を撃ち抜くと、爆風によって周辺にいたミサイルは誘爆。なんとか誘爆を免れた残りのミサイルも彼女に取っては児戯に等しい技術で撃たれ、爆発してしまう。

 

 

《でも教えてあげられないわ。だって私の時代にそれはなかったもの》

 

「では此方はどうですか!」

 

 

リリウムの威勢の良い掛け声と共に、空中に出現したミサイルの黒煙を穿ちながらアンビエントが突進してきた。両手には射撃兵装を持ったままであり、近接格闘戦を行える兵装は何一つ有していない。無鉄砲と揶揄されても可笑しくない彼女の暴挙に僚機である王小龍は驚くが、彼女の意図を即座に理解したメアリー・シェリーは興味深そうに眉を上げた。

 

 

《ふん、気付いたのね。バカな小娘》

 

 

瞬間、アンビエントのハイキックがプロメシュースのコアを正確に蹴り抜いた。もちろんメアリー・シェリーも直撃を貰うほどお人好しな性格をしていないのでサイトを持った右腕を大きく持ち上げてガードするが、踏ん張り所のないプロメシュースは体勢を大きく崩してしまう。

 

 

「いまなら……!」

 

《よせリリウム!深追いするな》

 

「っ!」

 

 

チャンスと見たリリウムはアンビエントに更なる追撃を許可しようとしたが、コンソールパネルから急に発せられた王小龍の怒声に思わず彼女は急制動をかけて追撃を中止、一定の距離を維持しつつプロメシュースの出方を見る警戒行動へと移行した。

 

 

「何故ですか大人(ターレン)。あのタイミングならプロメシュースへの追撃は可能でした」

 

《狩人たるもの敵の本質を見誤ってはならん。ヤツの腕をよく見ろ》

 

 

コンソールパネル越しに映った王小龍の言う通りにリリウムは、とても射撃できる体勢でないプロメシュースを注視する。そこにはアンビエントを冷徹にじっと見つめる【051ANNR(ベーシックライフル)】の銃口が覗いていた。

 

狙撃タイプのネクストに対する一番の対応策は近距離戦闘に限る。近付いてしまえば装備された遠距離兵装は本来の性能を発揮できず、あとは煮るなり焼くなりどうとでも出来るからだ。その教科書通りの弱点を突かれた。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という先入観である。

 

 

「申し訳ありません。大人(ターレン)のお手間に――」

 

《構わん。まずは目の前の戦闘に集中しなさい。余所見をしていい相手ではないぞ》

 

「承知しました」

 

《……それとだが》

 

「?」

 

 

自身の至らなさを痛感しつつ、すぐさま修正点を見出して次に生かす。この一連の流れを淀みなく行えるリリウムは間違いなくBFFが誇る才媛であり次世代に担うべき人間だ。そう評価した王小龍は、だからこそ聞いておきたかったのだろう。

 

 

《黒煙を利用したハイキックでの肉弾戦強襲、どこで覚えた。少なくとも私は教えていないぞ》

 

「キドウ・イッシン様の戦闘データを参考にさせて頂きました。大変興味深い戦歴でしたので後学になればと思ったのですが、止めたほうがよろしいでしょうか」

 

チッ―――いや、兵装の虚を突いた良い戦法だ。取り入れて損は無いだろう》

 

 

『あの意地汚い呆けた間抜け面の悪童の技だと? 直ぐに止めなさい。奴と同じ技を吸えば知能指数の低下は免れないぞ』とは流石の王小龍も言えない。事実、本当に良い戦法であり対ネクスト戦においては非常に有用な技術に成り得るからだ。

 

間接的とはいえ、あのキドウ・イッシンを認めてしまった自身の客観性にそこはかとない苛立ちを感じた王小龍だったが、直ぐに思考を切り替えて目の前の敵に集中する。先ほど自身がリリウムに言った通り、余所見をしていい相手ではないのだから。




いかがでしたでしょうか。

王小龍おじいちゃんのイッシン君に対する評価はツンデレです。

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