「お~お~、人様がやっていい次元じゃねえよアレ」
「BFFをBFFたらしめた怪物だ。あの程度造作も無いだろう」
「マジかよ。じゃあ天下のレイヴン殿はどうやってあんなの落としたんだ?」
「『撃ち合えば負けると分かった辺りで、相対距離100を維持したまま二段QB主体の接近戦に切り替えただけ』と言っていたぞ」
「……あのさ、リンクス戦争の参加条件って人外じゃなきゃいけないルールでもあんの?」
双眼鏡を覗き込みながらムーンバックスのデカフェを嗜むイッシンが呈した疑問に対して無下に答えたセレンも、彼と同じくデカフェを飲みながら新旧BFF対決を双眼鏡越しに眺めていた。
会敵して約5分。2対1の数的不利で、しかも相手は当代最高と名高い王小龍とリリウム・ウォルコットのバディで、彼等の
意外にも答えは至ってシンプルだ。別段、小難しい戦略的要素が複雑に絡み合っている訳ではない。考えてもみて欲しい。助太刀しようと自身のネクストへ回れ右して振り向いたら目の前に銃を構えた味方が立っていたらどうするか。取り敢えずは話し合いを試みるだろう。そして会話が通じなければ諦めて観戦者に徹するしかない帰結になるのである。もちろん強行突破という手もあるが、それなりに傷付いた状態で助太刀に現れた所で足手まといになるだけだ。正直メアリー・シェリーという怪物相手には全くと言っていいほど役立たないだろう。
問題は、戦場に駆けつけようとした味方――イッシンとセレン、ドン・カーネル――に銃を向けているのがダン・モロとメルツェルの二人という点だ。両名とも酷く手慣れた様子で空間権を掌握すると、動けない彼等を尻目にダンは素早くセレブリティ・アッシュに搭乗。右手に握られた対ネクスト戦用の【
いくら転生者であるイッシンとドン・カーネルが頑張った所で、何処ぞの武闘流派の師範よろしく生身でネクストに立ち向かえる訳も無く。仕方ないのでこうやって双眼鏡片手にデカフェを飲みながら傍観を決め込むしかない状況なのである。
「ところでさぁ! なんで助太刀しちゃいけんのよ! どう見ても爺さんとリリウムちゃんの手に余ってるだろぉ!」
《……そうかい? 僕には拮抗しているように見えるけど。なに、多少不利なのは良い塩梅ってやつさ。あと大声出さなくても聞こえてるから》
「あっホント?」
「――ダン・モロ、俺には理解出来ん。ここで王小龍上級理事とリリウム・ウォルコット嬢が沈めば、同盟の戦力に多大なヒビが入るのは分かっている筈だ。なのに何故邪魔をする」
「それについては私から話そう」
「この戦いは必要なんだ。LOSERSを下し、アンミル・アンフィンも打ち倒した後の世界を
「ならば尚更加勢するべきだ。王小龍上級理事はここで失っていい人物ではない」
「……ひとつ勘違いをしている。私が必要としているのは王小龍ではない。彼の侍女、リリウム・ウォルコットだ」
《リリウム、仕掛けるぞ》
「はい
王小龍の掛け声にリリウムが合わせた数秒後、ストリクス・クアドロの肩部兵装【
馬鹿の一つ覚えか、と嘲笑ったメアリー・シェリーは【
先程と同様に10基に分裂した【
そして弾丸を打ち放ち………あらぬ方向へ飛んでいった。
一瞬なにが起こったのか理解出来なかった彼女は、しかしその原因を即座に見つけ出した。【
間違いない。あの小娘は分裂した【
《お前のような小娘が……許されるとでも?》
それまで優雅な蝶のようにヒラリヒラリと舞い踊るような機動を描いていたプロメシュースのメインカメラがギラリと光る。許さない。絶対に許さない。
瞬間、プロメシュースはメアリー・シェリーの激情を体現したかのように苛烈な高速機動を開始した。まるでスズメバチのようにブンブンと飛び回るプロメシュースは生半可な軽量機では追い着くことさえ困難な速度で縦横無尽に空中を駆け回る。敵の急激な速度変化に戸惑っているアンビエントは思わず棒立ちになってしまうが、その棒立ちも長くは続かない。
背面に衝撃が走ったかと思えば、コンソールパネルに『メインブースター損傷。出力80%まで低下』と表示された次の瞬間には正面から別の衝撃が襲い掛かって『サブカメラ損傷。偏差修正システムに障害発生』と表示された。
このままではマズイ。そう判断したリリウムはアンビエントにQBを噴かせつつOBを発動。戦線からの離脱を試みるが相手はあの
「このままでは……」
《いい的よ貴女。もっと無様に逃げ惑いなさい。その方が愉しめるわ》
レーダー上でのアンビエントとプロメシュースの相対距離は200。近中距離戦に分類される距離であり、本来ならばアンビエントの
万事休す。リリウムは奥歯を食い縛る。
まだだ。まだ死ねない。
想いの強さからだろうか。グッと操縦桿を握る手に力が入る。それがいけなかった。
アンビエントに生まれた、一瞬だけコアを曝け出してしまうという僅かな隙。上位リンクスでも見逃してしまいそうな小さな隙は、メアリー・シェリーにとって無防備以外の何物でも無かった。
ニヤリと嗤う彼女。
プロメシュースから放たれる必殺の弾丸。
自身の操縦ミスに気付くリリウム。
しかし時既に遅く。
「しまっ―――!」
《リリウムッ!!》
弾丸は百合の前に出た梟を、穿った。
いかがでしたでしょうか。
オジイのくせにヤムチャしやがって……。
励みになるので評価・感想・誤字脱字報告よろしくお願いします。