凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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ジョー・ブラックをよろしくの完全版を見ました。ブラピかっけーでした。180分映画ということで各描写も凄く丁寧でしたね。面白かったです。


123.夜の女王、或いはポーラールートの怪物・Ⅴ

古来より人間は二つの並び立つ対象を比べたがる習性を持つ。竜虎、双璧、雌雄、甲乙と言った具合だ。それは恐らく、どちらが格上なのかをはっきりさせたいという好奇心から来る悪癖なのだろう。しかし、眼前で繰り広げられるメアリー・シェリーと王小龍の戦いを見た市井の凡夫は皆一様に口を揃えて言うに違いない。

 

 

次元が違う、と。

 

 

彗星の如く空を駆け巡るプロメシュースは【050ANSR(スナイパーライフル)】と【051ANNR(ベーシックライフル)】のダブルトリガーをストリクス・クアドロに向けて発射する。常人には捉えることすら困難である速度を有しながら、その兵装から放たれる一発一発が驚異的な精度でコア部へ向かっていく(さま)は笑うしか無い絶望感を駆り立てるが、対するストリクス・クアドロも似たようなものであった。

 

重量四脚というタンク型脚部を除いて最も機動性に劣る脚部は間違いなく近中距離戦には不向きである。それこそ現在進行形のプロメシュースと比べるなど烏滸(おこ)がましいレベルだ。だが実際のところ、近中距離戦において速度はそこまでウェイトを占める要素ではない。最も必要なことは『最小限の被弾で最大火力を叩き込み、常に目を離さない』ことなのだ。

 

プロメシュースから放たれた弾丸は吸い込まれるように真っ直ぐ突き進むが、ストリクス・クアドロは重量四脚の特性である抜群の安定性能と歩行走破能力を生かし、拳法の達人が如く必要最小限の動きでこれを回避。お返しとばかりに背部兵装【061ANSC(スナイパーキャノン)】で狙いを定めると、濃縮された死の香り漂う砲弾をプロメシュースへ撃ち放った。

 

先程と同様にQT(クイックターン)を生かした回避術で受け流そうとしたプロメシュースだが、僅かにタイミングがズレたようで着弾時に多少仰け反ったうえ、決して浅くない弾痕がプロメシュースのコアへ刻まれる。

 

先のリリウムと同様と考えるならメアリー・シェリーは怒り狂ってより苛烈な攻勢に打って出る筈なのだが、現実に起こったのは彼女の懐かしむようなサディスティックな笑みだった。ズレたのではなく、()()()()()のだと理解した興奮が彼女を芯から震わせる。

 

 

《前言撤回するわ小龍(シャオロン)教授(プロフェッサー)としての腕は鈍ってないようね。むしろ鋭さが増したかしら?》

 

「そういうお前は腕が落ちたなメアリー。以前のお前ならあの程度の被弾などする筈がない。退け、最後の警告だ」

 

 

王小龍は彼女からの会話を意趣返しを込めながら無下に終わらせると【061ANCM(高速分裂ミサイル)】を展開。迫り来る弾丸を紙一重で躱しつつプロメシュースに照準を合わせる。そしてロック完了の合図と共にミサイルが発射された瞬間、ミサイルは最大の特徴である複数分裂すら許されることなくストリクス・クアドロの目の前で爆発して機体が黒煙に包まれた。

 

061ANCM(高速分裂ミサイル)】がどれだけ優秀な性能を持ち、どれだけ優れた火力を有そうと、分裂する前に撃墜してしまえば恐れるに足らず。そう判断したメアリー・シェリーの【051ANNR(ベーシックライフル)】による狙撃は間違っていない。状況からしても最善策に近い手段を即座に選び出した彼女の判断力は賞賛されるべきであるし、コックピットの中でほくそ笑んだとしても誰も咎めないだろう。

 

 

《今の私が呑気にそれを打たせると思って?》

 

 

だからこそ彼女は理解するべきだった。相対している敵は老いた陰謀家ではなく無欠の教授(プロフェッサー)であることを。その瞬間、ストリクス・クアドロの黒煙が弾かれたように弾丸が複数発ほど飛び出してきた。

 

(黒煙で視界を奪ったのは早計だったか。しかし向こうもレーダー越しでしか視認できない。移動領域の広さにはこちらに分がある。ならば問題は………?)

 

黒煙から放たれる弾丸をプロメシュースに当てないよう的確かつ丁寧にQBで次々に避けていたメアリー・シェリーは違和感を覚える。そして彼女はこの違和感の正体を思い出し、眉間に皺を寄せた。

 

戦闘中における自然な違和感。それは相手の(てのひら)で転がされる時に感じる不快な違和感であった。

 

刹那、一際大きな風穴が黒煙を押し退けた。その原因が【061ANSC(スナイパーキャノン)】の砲弾であることをメアリー・シェリーは直ぐに判断できたし、尚更当たる気もなかった。だから彼女はQBを踏み込んで当然の如く回避しようとする。

 

しかし、QBは噴き上がらなかった。何故なら()()()Q()B()()()()()()()()()()から。

 

そもそもQBはネクストという鉄の塊をほぼワープとしか見えないレベルで移動させるブースター技術だ。理想としてはインターバル無しの連続使用が最も望ましいのだが、アクチュエータ複雑系が実用化されたこの世界においても当該技術は完全には確立されておらず、ほんのコンマ数秒だけインターバルが発生してしまう。――余談だが、現状インターバル無しでのQB連続使用が出来るのは【神の贈り物(ギフト)】を持つキドウ・イッシンのみである。

 

話を戻そう。そのコンマ数秒を突かれたメアリー・シェリーは驚愕するも、なんとか思考の平静を取り戻してプロメシュースの上半身を無理矢理捻り上げた。何故なら【061ANSC(スナイパーキャノン)】の砲口角度から予測される弾道がプロメシュースのコアを的確に捉えていたからである。

 

瞬間、メアリー・シェリーを衝撃が襲う。全身を揺さ振られ、脳振盪を起こしても不思議でない大きな衝撃だったが彼女の意識は刈り取られることなく、むしろけたたましく鳴り響くコンソールパネルの警戒音(アラート)と損傷表示に意識を集中させていた。

 

 

(コア損傷30%、左腕部損傷40%、左肩部稼働域減少……関節を少し抉られたのね)

 

 

起こった事実を冷静に把握するメアリー・シェリーだったが、内心で渦巻いていたのはマグマのようにグツグツと煮えたぎる憤怒の激情である。

 

認めよう。確かに王小龍の教授(プロフェッサー)としての腕は衰えていない。ミサイルの黒煙で視界を奪われながら、レーダー情報と数発の弾丸のみでプロメシュースのQB使用と位置を操り、なおかつQB連続使用のタイムラグを突いて最大火力を叩き込む。そんな芸当はアナトリアの傭兵でも易々とは再現出来ないだろう。まさしくBFFの理論を構築した者に相応しい完璧な技術だ。

 

だが、だからこそ腹が立つ。今でもそれほどの力を有しているのならリンクス戦争当時の力量は計るべくもないものだっただろう。

 

ならばなぜ、あの時――。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

 

王小龍は答えない。あの時、メアリー・シェリーがアナトリアの傭兵と北極で相対した時。満身創痍のプロメシュースと共に、野良犬と蔑んだ傭兵に対する絶望と賞賛の中で縋った緊急回線。弾丸の嵐に晒されながら必死に繋いだ緊急回線。音声のみでも、開かれた時はどれだけ安心したことか。

 

 

小龍(シャオロン)!』

 

『どうしたメアリー』

 

『救援を要請するわ! この際アスピナの野良犬でも構――』

 

『増援は送れない』

 

 

何の感情もなく突き放された時、メアリー・シェリーは理解出来なかった。この男は何を言っているんだ。増援を送れない? 何故? 貴方は襲撃を予期していたでしょう?

 

 

『……冗談よね?』

 

『用件はそれだけか。なら切るぞ』

 

 

反論する間もなく唐突に切られた通信。彼女の絶望の深さがどれほどのものだったかは彼女しか分からない。ただ一つ言えるのは、見通すにはあまりにも深く、あまりにも冷たい深さだったのは確かだ。

 

それが今、運命の悪戯なのかアンミルの力で現世に甦り、王小龍と相対したことで噴き出す。何故………何故……何故何故何故なぜなぜなぜなぜなぜナゼナゼナゼナゼ。

 

 

《なんで助けてくれなかったの? なんで私は一人じゃなきゃいけないの? なんで私じゃなくてあんな小娘なの?》

 

 

瞬間、メアリー・シェリーの言葉と共にドス黒い(もや)のようなナニカがプロメシュースの内側から発生して機体全体に纏わり付いた。端的に言ってしまえばオーラのようなものか。

 

明らかに異質。この世に有ってはならない力。

 

 

「メアリー………!」

 

《だから小龍(シャオロン)―――私と一緒に死んで》




いかがでしたでしょうか。

こじらせた末、ドSのヤンデレ化……救えねえな(ドン引き)。

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