凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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ボイリング・ポイントという映画を観ました。マジモンの90分ノーカットの緊張感はヤバいですわ(語彙力)。ラストはクソだけども(憐憫)


124.夜の女王、或いはポーラールートの怪物・Ⅵ

そこからは一方的だった。

 

愛憎が為せる技か、失意ある王小龍が駆るストリクス・クアドロの攻撃は一切当たらず、対して歪んだ想いを形としたメアリー・シェリー駆るプロメシュースの攻撃は面白いように命中していた。無論、王小龍が手を抜いている訳ではない。むしろ先程よりもキレのある動きでストリクス・クアドロを操っているのだが、あの異質なオーラのようなナニカを纏ってからのプロメシュースがそれを容易に上回ってくるのだ。

 

フェイントを加えたジグザグ航行、当てられる。【061ANCM(高速分裂ミサイル)】と【051ANNR(ベーシックライフル)】の変則射撃、当たらない。QBを織り交ぜた体裁き、当てられる。先程と同様にQBのラグを突いた【061ANSC(スナイパーキャノン)】の砲撃、これも当たらない。QTをアクセントとした不規則性回避、冗談みたいに当てられる。

 

レーダー上で測定されたECM濃度とプライマルアーマーの減衰率から見て、あの(もや)はプラズマやコジマ粒子の類ではないことは明らかだ。ロイ・ザーランドのようにコジマ粒子の圧縮による緋色への変色であればどれほど良かったことか。それであれば手の打ちようはいくらでもあるのだが、発現した瞬間にネクストの性能を劇的に向上させる正体不明のエネルギーらしきナニカを纏っているとなれば話は変わってくる。

 

未だ一発も着弾させていないため詳細な言及は出来ないが、仮に着弾した瞬間に暴発するアサルトアーマーのような形態を取っていた場合、想定させる被害や威力が全く予測出来ないのだ。つまり此方からの攻撃が逆効果に成り得るのだが、あくまでそれも仮定でしかない。だからこそ王小龍はあの黒い(もや)の正体を突き止めるため不本意ながらもこの不利極まる射撃戦に臨まざるを得なかった。

 

 

《ねぇ、なんでよ小龍(シャオロン)。私じゃなくて、なんであの小娘なの? 教えなさいよ》

 

「………」

 

 

メアリー・シェリーの憎しみに歪んだ問いかけに王小龍は語らない。というより語れる状況にない。いつ引退してもおかしくない骨と皮だけの老体に鞭を打って出撃していた今までとは訳が違う。しかもそれまで現役同様に戦っておきながら、突然正体不明の力で強化されたメアリー・シェリーという伝説をバディであるリリウム抜きで正面から相手取らなければならないのだ。コンマ数秒でも気を抜く余裕は無いし、会話となれば尚更である。事実、王小龍は常に歯を食い縛りながら険しい表情で操縦桿を握っていた。

 

しかしメアリー・シェリーからすれば無視されているようにしか見えない。故に彼に対するヘイトが目に見えて増加しており、より苛烈な攻勢を生み出すに至ってしまう負の連鎖に陥っている。

 

そんな中、蚊帳の外に置かれて地上に座していたほぼ半壊状態のアンビエントに動きが見えた。左手に持っていた【063ANAR(アサルトライフル)】を投げ捨て、【067ANLR(レーザーライフル)】を両手持ちで構え始めたのだ。ネクストのアクチュエータ複雑系で構成された両腕で銃身を支えるというのは単に射撃精度が倍増するに留まらず、より複雑な予測演算にも対応出来るメリットが存在する。勿論デメリットとして火力が大幅に低下してしまう点が挙げられるが、今のリリウムにはどうでもいいデメリットだ。

 

 

「今なら――!」

 

 

劣勢の大人(ターレン)の為に隙を作る。ヘイトがこちらに向けばなお良し。それが彼女に出来る唯一の助力だと信じてしいたからである。

 

アンビエントの照準にプロメシュースを捉えたリリウムはゆっくりと息を吐いて気持ちを静めた。当てるならチャンスは一度。外せばヘイトを集めることに徹する。どちらの状況になろうとも大人(ターレン)の不利に繋がらないことを再確認した彼女がゆっくりと操縦桿のトリガーを引こうとしたその時。

 

 

《焦るなリリウム。まだだ》

 

「っ! 大人(ターレン)! ご無事ですか!」

 

 

渦中の王小龍から個別通信が舞い込んできたのだ。突然の通信に思わずトリガーを引く指を緩めたリリウムは前のめり気味に彼の安否を問う。

 

 

《無事ではないがな。それと【067ANLR(レーザーライフル)】の精密射撃はもう少し待て。然るべきタイミングに合わせろ》

 

「ですがそれでは大人(ターレン)の御身体が……」

 

《安心しろ。我々は負けん》

 

 

そこまで言うと王小龍は一方的に回線を切った。劣勢でありながらなんと身勝手な言動なのかと人々は口を揃えるだろうが、リリウムは知っている。大人(ターレン)が虚勢を張ることは絶対にない。大人(ターレン)が断言する時は具体的で理論的な策を有している時だ。彼と深い関係で過ごしてきた人間だけに理解出来る言外の意味。それを正確に受け取った彼女は再びトリガーに手を掛けて待機する。

 

アンビエントの挙動を横目で軽く確認した王小龍は険しい表情を崩さぬまま再びプロメシュースに目を向けた。本来ならストリクス・クアドロの狙撃で黒い(もや)の正体を確かめたい所だが、そういった我が儘を押し通せる場面でないことは王小龍も分かっている。だから仕掛けようとしたリリウムを制するのではなく御した上で反撃の糸口を見つける方向へシフトした。そしてシフトした以上、やるべきことは決まっている。

 

 

「……タイミング、誤るなよ」

 

 

そう呟く王小龍はストリクス・クアドロとのAMSシンクロ率を90%から一気に98%まで上昇させた。瞬間、全身の骨が砕けたのかと錯覚する激痛と、脳細胞の一つ一つが意思を持って頭の中を暴れ回るような神経の磨り減りが彼を襲う。思わず意識が刈り取られそうになるのを必死で耐える王小龍の口内からバキッと音がした。それはあまりのAMS負荷に食い縛っていた奥歯が割れる音だったが彼は痛がる素振りすら見せず、目の前の女王のみに視線を注ぐ。持って3秒。十分だ。

 

 

「いま! この瞬間だけは! お前と同格だメアリー!」

 

 

一際輝くストリクス・クアドロのメインカメラがプロメシュースを捉えた瞬間、【061ANSC(スナイパーキャノン)】と【061ANCM(高速分裂ミサイル)】および【051ANNR(ベーシックライフル)】の全砲門が火を噴いた。AMSシンクロ率がほぼ限界値まで引き上げられた攻撃の精度と威圧感は圧倒的と言うほか無く、狙われたメアリー・シェリーも思わず冷や汗がブワッと噴き出す。

 

アナトリアの傭兵と戦った時と同じ感覚。

この攻撃だけはなんとしても避けなくては。

 

生存本能に突き動かされたメアリー・シェリーは分け目も振らずにQBを噴かした。後のことは考えない、全身全霊の回避。それを見た王小龍は微笑(わら)う。刹那、アンビエントが構えた【067ANLR(レーザーライフル)】のトリガーが引かれ、放たれた赤い光条の狙撃は黒い(もや)に減衰することなく貫通してプロメシュースのコアへバシュンッと直撃した。

 

エネルギー防御の低い【047AN】の装甲と、試作兵装とはいえインテリオル製レーザーライフルに比肩する貫通率を有する【067ANLR(レーザーライフル)】の相性は抜群と言うほか無く、プロメシュースのコア装甲は貫通こそしなかったがグズグズに融解してしまっている。

 

誰の目から見ても浅くないダメージを負ったプロメシュースだが、突如として周辺に漂う黒い(もや)が重点的にコア装甲へ纏わり付き始めた。そして融解したコア装甲が黒い靄で完全に隠された次の瞬間、靄は飛散して中なら新品と見紛うコア装甲が顔を覗かせたのだ。

 

自己修復機能。この世界において、同様の性能を有しているナノマシン装甲が未だ兵器への転用段階に達していない事実を鑑みれば中途半端な攻撃を一切無効化する様子は脅威以外の何物でもない。事実、この現象を目撃したリリウムは驚愕する。大人(ターレン)すら圧倒する力に加えて自己修復機能も備えている相手にどう立ち向かえと言うのか。思わず操縦桿を握る手が脱力してしまうリリウムだったが対照的に王小龍は冷静だった。限界時間を迎え、AMSシンクロ率が90%に低下したことによる反動で若干の吐き気を催しながらも、プロメシュースが一時離脱したタイミングを見逃さずストリクス・クアドロにQBを発動し、リリウムを守るようにアンビエントの前面へ陣取る。

 

 

大人(ターレン)! あの現象は――》

 

「案ずるなリリウム。()()()()()()()()

 

 

自己修復速度、修復開始までのタイムラグ、靄の収束率および収束時間、修復終了後の靄の拡散時間。その他全てを勘定し、計算する。そして導き出された答えに王小龍は満足した。

 

これでこそ老骨に鞭を打った甲斐があるというものだ。




いかがでしたでしょうか。 

実は今回、前書きのボイリング・ポイントに倣って初回振りの当日一発書きとなっております(流石に校正等は軽くしてます悪しからず)。だからどうということはないのでしょうけど。

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