そこからは一方的だった。
愛憎が為せる技か、失意ある王小龍が駆るストリクス・クアドロの攻撃は一切当たらず、対して歪んだ想いを形としたメアリー・シェリー駆るプロメシュースの攻撃は面白いように命中していた。無論、王小龍が手を抜いている訳ではない。むしろ先程よりもキレのある動きでストリクス・クアドロを操っているのだが、あの異質なオーラのようなナニカを纏ってからのプロメシュースがそれを容易に上回ってくるのだ。
フェイントを加えたジグザグ航行、当てられる。【
レーダー上で測定されたECM濃度とプライマルアーマーの減衰率から見て、あの
未だ一発も着弾させていないため詳細な言及は出来ないが、仮に着弾した瞬間に暴発するアサルトアーマーのような形態を取っていた場合、想定させる被害や威力が全く予測出来ないのだ。つまり此方からの攻撃が逆効果に成り得るのだが、あくまでそれも仮定でしかない。だからこそ王小龍はあの黒い
《ねぇ、なんでよ
「………」
メアリー・シェリーの憎しみに歪んだ問いかけに王小龍は語らない。というより語れる状況にない。いつ引退してもおかしくない骨と皮だけの老体に鞭を打って出撃していた今までとは訳が違う。しかもそれまで現役同様に戦っておきながら、突然正体不明の力で強化されたメアリー・シェリーという伝説をバディであるリリウム抜きで正面から相手取らなければならないのだ。コンマ数秒でも気を抜く余裕は無いし、会話となれば尚更である。事実、王小龍は常に歯を食い縛りながら険しい表情で操縦桿を握っていた。
しかしメアリー・シェリーからすれば無視されているようにしか見えない。故に彼に対するヘイトが目に見えて増加しており、より苛烈な攻勢を生み出すに至ってしまう負の連鎖に陥っている。
そんな中、蚊帳の外に置かれて地上に座していたほぼ半壊状態のアンビエントに動きが見えた。左手に持っていた【
「今なら――!」
劣勢の
アンビエントの照準にプロメシュースを捉えたリリウムはゆっくりと息を吐いて気持ちを静めた。当てるならチャンスは一度。外せばヘイトを集めることに徹する。どちらの状況になろうとも
《焦るなリリウム。まだだ》
「っ!
渦中の王小龍から個別通信が舞い込んできたのだ。突然の通信に思わずトリガーを引く指を緩めたリリウムは前のめり気味に彼の安否を問う。
《無事ではないがな。それと【
「ですがそれでは
《安心しろ。我々は負けん》
そこまで言うと王小龍は一方的に回線を切った。劣勢でありながらなんと身勝手な言動なのかと人々は口を揃えるだろうが、リリウムは知っている。
アンビエントの挙動を横目で軽く確認した王小龍は険しい表情を崩さぬまま再びプロメシュースに目を向けた。本来ならストリクス・クアドロの狙撃で黒い
「……タイミング、誤るなよ」
そう呟く王小龍はストリクス・クアドロとのAMSシンクロ率を90%から一気に98%まで上昇させた。瞬間、全身の骨が砕けたのかと錯覚する激痛と、脳細胞の一つ一つが意思を持って頭の中を暴れ回るような神経の磨り減りが彼を襲う。思わず意識が刈り取られそうになるのを必死で耐える王小龍の口内からバキッと音がした。それはあまりのAMS負荷に食い縛っていた奥歯が割れる音だったが彼は痛がる素振りすら見せず、目の前の女王のみに視線を注ぐ。持って3秒。十分だ。
「いま! この瞬間だけは! お前と同格だメアリー!」
一際輝くストリクス・クアドロのメインカメラがプロメシュースを捉えた瞬間、【
アナトリアの傭兵と戦った時と同じ感覚。
この攻撃だけはなんとしても避けなくては。
生存本能に突き動かされたメアリー・シェリーは分け目も振らずにQBを噴かした。後のことは考えない、全身全霊の回避。それを見た王小龍は
エネルギー防御の低い【047AN】の装甲と、試作兵装とはいえインテリオル製レーザーライフルに比肩する貫通率を有する【
誰の目から見ても浅くないダメージを負ったプロメシュースだが、突如として周辺に漂う黒い
自己修復機能。この世界において、同様の性能を有しているナノマシン装甲が未だ兵器への転用段階に達していない事実を鑑みれば中途半端な攻撃を一切無効化する様子は脅威以外の何物でもない。事実、この現象を目撃したリリウムは驚愕する。
《
「案ずるなリリウム。
自己修復速度、修復開始までのタイムラグ、靄の収束率および収束時間、修復終了後の靄の拡散時間。その他全てを勘定し、計算する。そして導き出された答えに王小龍は満足した。
これでこそ老骨に鞭を打った甲斐があるというものだ。
いかがでしたでしょうか。
実は今回、前書きのボイリング・ポイントに倣って初回振りの当日一発書きとなっております(流石に校正等は軽くしてます悪しからず)。だからどうということはないのでしょうけど。
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