「この状態の私に当てたのは褒めてあげる。でも無駄よ? 貴方達とは違うもの」
メアリー・シェリーは冷静に戦局を分析していた。王小龍の一撃を囮にしてリリウム・ウォルコットが【
だが本命である【
先程の王小龍の気迫はリンクス戦争当時でも数回しか経験したことがない。正真正銘、今の自身に繰り出せる全身全霊の一撃だったのだろう。だからこそ思う。彼は老いた。老いすぎた。
刹那、ストリクス・クアドロの四脚が膝から崩れ落ちる。当然だ。ほんの数秒とはいえリンクス戦争当時の全盛期真っ盛りだったアナトリアの傭兵と同等と見紛う気迫、機動力、戦闘力を発揮したのだ。棺桶に片足を突っ込んだ老人がマトモに耐えられる訳がない。
無様に跪くストリクス・クアドロを見たメアリー・シェリーの背筋にゾクゾクと電流が走った。私の後見を務めておきながら死の間際に裏切り、のうのうと暮らしてきた人間に対し、時代を超えて復讐を果たすことが出来る。その機会がどれだけ得難い幸運であるかメアリー・シェリーは知っていた。だから彼女がプロメシュースを着陸させ、一歩ずつストリクス・クアドロに近付きつつ【
一発。【
二発。四脚の左前股関節を撃ち抜いて体勢を崩させ、次いで右前股関節も撃ち抜き、
三発。見ていられなくなったのか、背後から躍り出ようとするアンビエントを制したストリクス・クアドロの左手のド真ん中を撃ち抜く。着弾の摩擦により赤熱した風穴から見える風景は無味乾燥として、なんとも味気ない。
しかし、一方的に
そこから更に二発、三発とストリクス・クアドロが機能停止せず、かつ搭乗リンクスに最大の苦痛が与えられる箇所を的確に射抜いていくメアリー・シェリーだったが、変わらず王小龍は沈黙を貫いたままだった。
そして遂に穿てる箇所が無くなりプロメシュースとストリクス・クアドロの相対距離が80を切った頃、彼女の被虐思考は単なる苛立ちへと昇華する。これほど徹底的に痛め付けられてなお呻き声の一つも上げない胆力は驚異的と言うほか無く、純粋な賞賛の念を送るメアリー・シェリーだったが同時に謝罪の言葉が絶対に聞けないという反証の表れでもあることに気付き、操縦桿をグッと握り締めた。
「それじゃ
こめかみにうっすらと青筋を立ててサディスティックな笑みを浮かべたメアリー・シェリーはプロメシュースが持つ【
完全な勝利を確信したメアリー・シェリーは再び回線を開き、王小龍へ話し掛けた。裏切ったとはいえ同じ時代を生きた人間である。辞世の句ぐらい詠ませてやるのがせめてもの手向けというものだ。まぁ、あれだけ痛め付けても呻かなかったのだから既に事切れているかも知れないが。
「なにか言い残すことはある
《……さらばだ。メアリー》
「――そうね。さよなら
刹那、ネクスト一機が丸々収まってしまうほど野太い翡翠色の光条が弾速3000という超速度を以てプロメシュースの真横から飛来し、その全身を包み込んだ。あまりに突拍子も無い出来事に一瞬だけ思考停止してしまったメアリー・シェリーだったが、その数瞬後には完全に思考停止に追い込まれてしまう。何故なら文字通り地獄の苦しみを受けたからだ。
「なに、この光………ギャアアアア!!???」
プロメシュースの装甲がマグマのように沸き立ち膨れて
「コ……ジマ…キャノン……!?」
《流石に分かるか。特注のハイコジマキャノンだそうだ。ネクスト三機程度なら造作も無く融解出来る威力なのだが、やはり一筋縄ではいかんようだな》
「
それまで糸の切れた操り人形の如く項垂れていたストリクス・クアドロのメインカメラに光が灯る。傷が無い場所を捜す方が困難なほど満身創痍の状態だが、どことなくその姿は威厳に満ち溢れていた。
《メアリー。お前の敗因は勝利を確信したこと、そして一人で
「――ふ……ざけるなぁ!!」
メアリー・シェリーは理性を失った怒り狂う猛獣のようにプロメシュースが持つ【
「なんで!! なんでなの! なんでまた
《単に弱いからじゃない?》
それまでブラックアウトしていたプロメシュースのコックピット内のコンソールパネルに光が灯り、アンミルこと一神が映し出される。画面越しの彼は煌びやかな黄金の玉座に座りながら頬杖をつき、気怠げに赤ワインを嗜んでいた。
「アンミル……!?」
《いや~正直、期待外れもいいとこだね。君なら上位リンクスの一人や二人くらい余裕で倒せると思ってたのに、まさかのゼロって(笑)》
「私の実力はこんなものじゃない!! 助けてくれたら今以上の働きを約束するわ! だから――」
《なにを勘違いしてるのかな?》
メアリー・シェリーの言葉にスッと目を細めたアンミルは赤ワインを一気に飲み干してグラスを玉座の後方へ弧を描くように投げ捨てた。
《これは世界を賭けた
「…………!?」
絶句するメアリー・シェリーを他所にアンミルは一方的に回線を切り、再びコンソールパネルに漆黒が戻る。自身が絶体絶命の危機に際しているというのに、自らを生き返らせた張本人がまるで飽きた玩具のように目の前で自身を見捨てた事実を受け止め切れない彼女は、絶望に打ち拉がれながら半ば放心状態で視線を元に戻した。
そこには【
《さらばだ。メアリー》
「――畜生、ちくしょおおおお!!」
メアリー・シェリーの怨嗟の叫びが虚しく木霊する中、【
それを確認したようにコジマキャノンはどんどん細くなり、やがて収束する。プロメシュースが完全に消滅したことを改めて確認した王小龍はコジマキャノンが飛来した方向を見遣り、個別回線を開いた。
「……苦労をかけたな」
《ふん。俺ありきの作戦を立てて起きながら何を今更。第一、ここまでの展開を読み切ったから俺を独房から無理矢理出して待機させていたんだろう》
「読み切った上でコレしか勝ち筋を見出せなかったのだ。亡霊とはいえ身内に手を掛けさせたことは謝る」
《別に気にしていない。汚れ役はもう慣れてるし、俺はメアリーさんが嫌いだった》
「……そうか」
ストリクス・クアドロのメインカメラ倍率を最大まで上げた先。小高い丘の上で偽装迷彩を施し、両背格納式ハイコジマキャノン【
「リリウムと会うつもりはないか?」
《悪い冗談だ。会ったところでどうにもならないだろ》
「あの子には私以外の人間が必要だ。私以外のな」
《……まぁ考えておく》
ユージンの言葉を聞いた王小龍は軽く微笑むと通信を切った。そしてコックピットに背中の全体重を預けながら思いを馳せる。メアリー・シェリー。BFFを築き上げ、磨き上げ、戦場に散った怪物。傲慢で、高飛車で、奔放で、寂しがり屋な只の女性。
「――少し疲れたな。やはり年には勝てんか」
勝者 王小龍&リリウム・ウォルコット&ユージン・ウォルコット
いかがでしたでしょうか。
まさかのユージン登場でございました。伏兵で決着とは汚いさすが王小龍きたない。色々思うところもあるのでしょうねぇ。
励みになるので評価・感想・誤字脱字報告よろしくお願いします。