凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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息抜きで書いた二次作品が当小説の思わぬ宣伝効果を生んでくれたのは素直に嬉しいですね。みんな、積極的に闘争を求めていこう。


130.ヤヌスの鏡

「――それが僕がORCAに入った理由だ」

 

 

ダンの括る言葉に静まり返る会議室。それもそうだろう。彼本来の目標がORCA旅団の本懐である『九を殺して一を救う』ではなく『十すべてを取る』つまり全人類の救済だったことを初めて暴露されたのだ。その傍聴人であるドン・カーネルは僅かながらに目を見開いて驚きを隠せず、あのメルツェルでさえ神妙な面持ちで耳を傾けている。

 

しかし()()()()()()()など、あの男――キドウ・イッシン――の前では紙クズ同然。高い金を払って学芸会レベルの三文芝居を見せられた品のない観客ばりの文句を見事に垂れ流し始めた。

 

 

「僕は人類のために理想を捨てました、ので失礼ながらお涙頂戴ってか? 下らねぇ。だいたいな、そこのポンコツ自動人形君が雲隠れしてた理由をなんにも喋ってねえじゃねえかよ」

 

「……よく回る口だ。オールドキングと罵り合ったらどうなるか是非見てみたい」

 

「0:100であのイカレポンチが勝つから安心しろよ。てか一億総虐殺時代まっしぐらのサイコクソ野郎と一緒にすんな。……ほらドンちゃん、アンタからも言ってやれ。ポンコツなりに雲隠れしてた理由を教えてくれってよ」

 

「――恐らく、分かっていないのは貴様だけだぞ」

 

「……えマジで?」

 

 

小学生でも思いつかない低レベルな罵詈雑言をまくし立ててメルツェルを煽り散らかした上で、最後の仕上げとばかりにドン・カーネルへ話を振ったイッシンを待ち構えていたのは、何ともこっ恥ずかしい自業自得な梯子外しだった。思わず「いくらなんでもそんなことはないだろう」と周囲を見回したイッシンだったが、ダンは苦笑、メルツェルは真顔、ドン・カーネルは呆れ顔のトリプルプレーを決められており、まず間違いなくスリーアウトの雰囲気を呈している。

 

並の人間ならここで折れるが………と続けたい所ではあるが流石のイッシンも『煽り文句を散々言っておいて実は自分が一番なにも知らない』状態への耐性は一般人レベルだったようで、途端に借りてきた猫の如くシオシオと席に縮こまってしまった。そして一言。

 

 

「………じゃあ、あの……理由を教えて貰ってもいいですか?」

 

 

これである。ダン、メルツェル、ドン・カーネルは彼に対して三者三様の思いが芽生えたであろうが今は割愛するとしよう。そして、ハァ……と深い溜息をついたドン・カーネルはイッシンに分かり易く説明を始めた。

 

 

「ダンの担当神、今はセカンドと仮称するが、結論から言えば最大の理由はヤツの言った言葉にある。まず第一に『我々はゲストである』という言葉と他人事のような態度。これから読み解けるのは必ずしも神全員が神側の勝利に固執している訳ではないと言うことだ」

 

「あぁ、それは俺も感じたな。やっぱし全知全能の存在ってのは物事を考えるスケールが違ぇんだってよ。世界滅亡をゲームにするかフツー?」

 

「そして第二に『ダンがORCAに合流しなければ人類側が負ける』という言葉。前段を素直にうけとめれば純粋なアドバイスに解釈出来るが、逆に罠だという可能性も大いに有り得る。まさしく『使うには危険過ぎて、捨てるには惜し過ぎる』の状態だな。故にダンは、これは推測だが、メルツェルに顛末を話した上で雲隠れしたのだろう」

 

「――その通りだ。君のような聡明な考えを持つ人間が居ることをGAは誇りに思うべきだな」

 

 

ドン・カーネルの説明にメルツェルは薄く微笑みながら肯定する。使うべきであるかを決めかねる非常に重要な情報を有しているからこそ雲隠れをした。一見筋が通っている理由のようにも見えるが、イッシンは『う~ん』と首を捻って難しい顔をしている。

 

 

「分かんねぇな。いや、その情報の重要度と使いにくさは流石の俺でも分かるけどよ。それとORCAの雲隠れがどうも俺の中で結びつかねぇんだよな」

 

「慌てるな、まだ続きがある……ここからは完全に俺の推測だ。ダンがORCAに合流したのは四月、ラインアークを襲撃して存在が露呈したのが五月。アクシデントが重なったとは言え、たかが一ヶ月でカラードを裏切って合流し、そのカラードに正面から喧嘩を売ろうとしている自分の選択が本当に正しいと判断出来ると思うか?」

 

「まぁ普通はねえわな。不確定要素が多すぎるし、リスクもデカすぎる」

 

「加えてダンの性格だ。リスクとメリットを常に天秤に掛けつつ石橋を叩く人間がそんな無茶を容認する訳がない。だが現実はそうなった。そこから導き出せる答えは、()()()()()()()()()()()()()()()()と考えるのが自然だろう。そして俺は、その出来事はハワイにある()()()()()()()()()()()()()()()()()だと睨んでいるが、どうだ?」

 

「……まさに名推理だ。世が世ならシャーロック・ホームズになったのは君かも知れないな」

 

 

ドン・カーネルの仏頂面から繰り出された話の内容を静かに聞いていたメルツェルは彼への賞賛を交えて再び肯定する。そしてやはり、ここでもイッシンは首を傾げて得心がいっていない顔を作り上げていた。

 

 

「スコフィールドバラックスっていや俺のメイちゃんが所属不明ノーマルを撃破した場所だろ? あれか、正面から喧嘩売ったからもう後戻り出来なくなったって話か?」

 

「いや、ORCA旅団の破壊工作自体はアルテリアを筆頭に以前からあった。問題はスコフィールドバラックスから盗まれたデータ……GAの【オリジナル】()()()()()()()()()()()だ」

 

「……は? 嘘だろ? なにサクッとトンでもないこと言ってんの?」

 

「貴様が知らないのも無理は無い。この件に関しては安全保障上の都合でGAグループ内に徹底した箝口令(かんこうれい)を敷いているからな」

 

 

しれっと不穏なワードを織り交ぜたイッシンの言葉を華麗にスルーしつつ、それ以上の爆発ワードを投下することでイッシンを一方的に黙らせたドン・カーネルの手腕は見事と言うほか無いが、彼は特に気にする素振りも見せずに視線を移し、より一層眉間に皺を寄せてメルツェルを睨みつけた。

 

 

「だから問う。メノ・ルーの遺伝子情報で何をした? クローン技術を用いたところで今の技術では劣化版しか作れないだろう」

 

「……君はひとつ勘違いをしているなドン・カーネル。私達はメノ・ルーの遺伝子情報を使ってなにもしていない。あくまで必要だったのは遺伝子情報そのものだ」

 

「なに?」

 

「私は当初からLOSERSの出現を予期していた。そしてそのメンバーはリンクス戦争で戦死した各企業最強の【オリジナル】だろうということもね。だからこそ万が一に備えた情報収集も兼ねて、本社機能移転のタイミングで最も警備が薄かったスコフィールドバラックス基地に保管されていたメノ・ルーの遺伝子情報を奪取した」

 

「………」

 

「だが蓋を開ければどうだ。予想通りベルリオーズは蘇り、サーダナも蘇り、サー・マウロスクすら蘇ったと言うのに肝心のメノ・ルーは蘇ってこない。不思議には思わないか?」

 

「………」

 

「だから私は原因究明のためにダンとの情報共有、互いの神の擦り合わせ、それらを考慮した様々な理論を検証していく上で、ある仮説に辿り着いた。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という、端から見ればあまりに馬鹿げた仮説にね。そしてその仮説こそ、我々が雲隠れした理由だ」

 

 

雄弁に語るメルツェルに一同は沈黙する。確かに彼の説明は理に適って筋がはっきりしているし、メノ・ルーが既に蘇っている可能性も否定出来ない。しかし同時に突拍子が過ぎる事も確かだ。そこを目敏(めざと)く捉えたイッシンは馬鹿にしたような物言いでメルツェルを煽り始める。

 

 

「ようは被害妄想マシマシの厨二病ムーブをかまして雲隠れしてたって話か? 仮説なんてカッチョイイ言葉使ったところで本質は妄想と大して変わらねぇだろうが」

 

「無論その通りだ。だが、()()()()()()()()()()()()()()。確かにメノ・ルーは既に蘇っていたよ。それも君達カラードが予想もしなかった形でね」

 

「お~お~そうかい。なら早速見せて貰おうじゃねぇの。で、そのメノ・ルーさんはどちらにいらっしゃるんですかね? まさかテメェの頭ん中って訳じゃねえだろ?」

 

「……そうだな。だがそれを話すのは私では無い。扉の前で盗み聞きをしている御仁にお願いするとしよう」

 

 

メルツェルがそう言って会議室の扉に視線を移した数秒後、カチャッと扉が開く。そしてそこに居たのは松葉杖をついた満身創痍の王小龍だった。彼は深く項垂れていたが決してそれは外傷によるのものではなさそうだ。彼はメルツェルに促されるまま席に座り、グッと奥歯を噛み締めたような表情をしている。

 

 

「おい爺さん、大丈夫かよ。まだ傷が癒えて――」

 

「下らん心配などするな(わっぱ)。これは私の業だ。決して外せぬ、決して降ろしてはいけない業なのだ」

 

「御老体、この場には我々しかいない。録音録画機の類も無い。人払いも貴方以外は済んでいる。だからこそ、申し訳ないが話して頂こう。メノ・ルーは誰として蘇ったのか」

 

 

覚悟を決めた王小龍の気迫に思わず押されるイッシン。王小龍からここまでの気迫を受けた事が無い彼は、グッと口を噤んで耳を傾けた。そしてメルツェルの言葉に支えられ、王小龍はゆっくりと話し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――メノ・ルーの名はリリウム・ウォルコット。私の弟子だ」




いかがでしたでしょうか。

お気に入り人数が一気に100人ほど増えた事実が嬉しすぎて、割とドギマギしてます。急に来るとビビるね。

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