凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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過度な身体の酷使は良くないと改めて実感しました。もう若くはねぇんだなと。切ない。


131.業と落城

「………は? いや、え? いやいや冗談キツいぜ爺さん。リリウムたんがメノ・ルー? んなことある訳ねえだろ。大体、顔も身体も髪の色も何一つ似てねぇじゃねえかよ」

 

 

想定すらしていなかった事実にイッシンはただただ否定する事しか出来ない。リリウム・ウォルコットはメノ・ルーである。この事実を彼女の師である王小龍から直接聞かされた一同はメルツェルを除いて全員が目を見開き、まさに信じられないと言った様子であった。

 

しかしイッシンが「リリウム・ウォルコットとメノ・ルーは似ていない」と言い放ったのには訳がある。それは彼がこの世界に転生したての頃――時期で言えばダン・モロとランクマッチを行った後――に訓練とミッションの合間を縫ってカラードの資料保管室で様々な情報を仕入れていたのだ。そしてその勢いが高じて前作【アーマードコア4】の時代について調べている時に、メノ・ルーの情報に行き着いた。

 

メノ・ルーの顔写真はいまでも鮮明に覚えている。リリウムのような名家の気品は纏っておらず、どちらかと言えば修道院のシスターと言った雰囲気。利発さではなく慈愛に特化した穏やかな顔立ち。そして天と地ほども違う胸部の膨らみ。メイ・グリンフィールドさえ居なければ間違いなく彼女がイッシンの最推しヒロインになっていた事だろう。

 

だからこそ彼は理解出来なかった。何を以て爺さんはリリウム・ウォルコットをメノ・ルーと呼称したのか。料理で言えばステーキとハンバーグくらい違うというのに。

 

イッシンが間抜けな感想と例えを脳内で繰り広げていることなど(つゆ)知らず、渦中の王小龍は苦虫を噛み潰したような苦渋の表情のまま言葉を紡いでいく。

 

 

(わっぱ)の言う通り、リリウムがメノ・ルーという訳ではない。正確にはメノ・ルーの遺伝子とウォルコット家の遺伝子、そしてメアリー・シェリーの遺伝子を掛け合わせたハイブリッドクローン……それがリリウムなのだ」

 

「なるほど、それ故の適性S+か。メノ・ルーの顔を知っているローディー特別顧問が何も言わなかった理由も頷ける」

 

「てか爺さん『出自は確認した』って……」

 

「嘘に決まっておろう。この事実が漏洩すればリリウム、ひいてはBFFが崩壊する。主にGAグループの……ローディーの攻撃を受けてな。だからこの情報を知っている者が現れれば善悪、行動理由、利用価値の有無を問わず全身全霊を以て完膚なきまでに叩き潰すつもりだった」

 

「――やっと話が見えたぜ。それを察したメルツェルは爺さんにORCAを潰されないよう雲隠れしてたってことか。そりゃ本気出した爺さんの相手なんて死んでも御免だろうからな」

 

「だが、その話し振りを見るにGAはこの件を関知していないようですね。王大人(ワン・ターレン)、貴方が主導した訳ではないでしょう? こんな無用の特大リスク、貴方なら絶対に取らない」

 

「……ダン、私の口から言わせるな。これでも私は忠義を誓った身だ」

 

 

王小龍の言葉にダンは思い出す。忠義を誓った身。魑魅魍魎(ちみもうりょう)蔓延(はびこ)る政界財界を老練な権謀術数で生き抜いてきた彼が自ら忠義を誓う相手などこの世に一人しかいない。それも心からの忠義ではなく、罪悪感と贖罪にキツく縛り上げられた偽りの忠義。

 

 

「ウォルコット卿ですか。確かにあの人ならやりかねない」

 

「誰だよ。そのウォルコット卿ってのは」

 

「BFF社の経営に口出し出来る唯一の貴族、といえば分かるかな? 先祖代々ウォルコット家は武勲凄まじい家系でね。その因果か分からないが、現代でもリリウム嬢を含めて三人のリンクスを輩出している超名門貴族なんだ。王大人(ワン・ターレン)が忠義を誓っているのはそこの御当主様だよ」

 

「………は~~ん、またまた読めたぞ。要は爺さんがウォルコット卿とかいう尊厳破壊野郎の狂った計画の片棒を担いじまったって自責で胸がいっぱいってことか。まぁしょうがないんじゃね? 実際担いじまってるし」

 

「キドウ・イッシン。思考は自由だが口に出して良いことと悪いことの判別は弁えろ、不快だ」

 

 

王小龍の心境を一切省みないイッシンの軽率な物言いにドン・カーネルが強めの釘を刺す。転生者であるとは言えGA所属の彼からしてみれば最重要機密を流用して【オリジナル】以上の能力を持ったクローンを作り出し、あまつさえそれがGAではなくBFFの【ランク2】としてカラードに登録されている事実は不愉快極まりないことだろう。それでも王小龍の心情を(おもんばか)って蔑口を抑えているのだ。最愛の弟子の出生が許されざるものであったと聞かされた時、師の心中は推して知るべきであると。

 

 

「悪かったよ。でもよ? リリウムたんをクソ親の代わりに見守って立派に成長させたのも事実だろ。そんな爺さんが贖罪やらなんやらに縛られる必要はねぇよな? 元はと言えばそのウォルコット卿って野郎が全部悪いじゃねえか」

 

 

そんな彼の眼光鋭い視線をモロに受けたイッシンも流石にマズいと考えたのか、すかさずフォローを入れる。というか元々フォローを入れるつもりで敢えて蔑口を並べていたイッシンにとってみれば「前フリを邪魔しやがって」以外の感想は無いのだが。

 

 

「その事実をリリウムに伝えられると思うか? 成人もしていないリリウムに実父は実父ではなく、お前はクローンであると、作られた存在であると、そんな重いものを背負わせられると思うか?」

 

「………」

 

「だが、こうして貴様等に知られた以上いつまでも隠し通せるものでもない。この戦争が終わったら、私から直接伝えるつもりだ。それまでは、どうか、どうか黙っていてくれないか」

 

 

そう言うと王小龍は傷だらけの老体に鞭を打って地面に両膝を付け、両の手の平を上にして臥した。五体投地――いわゆる土下座の態勢――だ。王小龍が、海千山千の陰謀家として名高いあの王小龍が。たった一人の人間のために。

 

ここまでされると思っていないメルツェルを含めた一同は驚愕し、イッシンに至っては即座に立ち上がって土下座を辞めるよう王小龍の傍に寄り添った。

 

 

「おい辞めろよ爺さん! アンタの気持ちはよく分かった! 俺達はリリウムの出自を絶対に言わねぇ! だから土下座なんか辞めてくれ!! これじゃコッチが悪役じゃねえかよ!」

 

「……(わっぱ)、いやキドウ・イッシン。その言葉に嘘偽りは無いか?」

 

「ある訳ねぇだろ! テメェ等も同じだよな!?」

 

「無論だ」

 

「言うメリットもないしね」

 

「御老体の願いは叶えて然るべきものだ、安心しろ」

 

「ほら、全員がこう言ってんだ! だから早く頭を上げてくれ! 爺さんにこんな頭下げられるコッチの身にもなってくれよ!」

 

その場にいた全員が肯定の意を示す。そこに企業連やORCA旅団の垣根は無く、ただ純粋に王小龍の不憫を哀れみ、そして同情した故の行動であった。イッシンの言葉にようやく重い頭を上げた王小龍は彼に寄り添われる形で支えられながら、仄かに湿った目尻に指を数度押しやって水分を拭う。

 

 

「すまない。恩に着る」

 

「分かったから謝んなよ。爺さんに謝られたら調子狂――」

 

「イッシン! ここにいたか!! お前達も!」

 

 

感動のシーン真っ最中の中、会議室の扉がバーンッ!と勢い良く開いた。そこには肩で息を整えるセレンが鬼の形相で立っており、膝に手を置いてゼェゼェと大粒の汗を滲ませている。

 

 

「……おいおいセレン、いま結構良い場面なんだからせめてノックくらいしろよ」

 

「緊急招集だ!今すぐカラード本部に飛ぶぞ!」

 

「いやだからなんで――」

 

「オーメルが………オーメル本社が墜とされた!!」

 

 

風雲急を告げる。




いかがでしたでしょうか。リリウムたんクローン説はもちろんオリジナル設定です。ウォルコット卿、業が深すぎだろ……。

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