凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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オーダースーツが出来上がりました。イギリス製の固い生地なので二年目が一番カッコよくなるとのこと。着倒してやるぜ……!


132.狼煙の火起こし

オーメルグループ本社『オペラハウス』

 

オーメルグループの総本山である『オペラハウス』は旧イスラエルの中心部に建てられており、かつて旧オーストラリアに存在した建造物と同じ通称を与えられている。その理由はリンクス戦争において滅亡したレイレナードグループの本社ビル『エグザウィル』の構造理論を流用した特徴的な形状をしていたからだ。

 

『オペラハウス』は『エグザウィル』の欠陥だった部分、つまり剥き出しだった8本の支柱に高強度の防壁を纏わせることに成功。加えてノーマル100機、飛行型AF(アームズフォート)【イクリプス】2機、【ランク13】ルーラーという大戦力で防衛された『オペラハウス』は、GAグループ本社の『THE・BOX』とまではいかなくとも十分な堅牢性を発揮()()()()()()()

 

しかし今は違う。高強度の防壁に守られた8本の支柱は残り1本を除いて全て破壊され、ノーマル部隊およびイクリプスは既に全滅。頼みのルーラーも大破炎上しながらヨロヨロと戦線を最大戦速で離脱していく最中だった。

 

まさに惨劇と化した『オペラハウス』の瓦礫の中、2機のレイレナード製ネクスト【AALIYAH(アリーヤ)】――シュープリスおよびオルレア――が敗走したルーラーの後ろ姿を静観している。

 

 

「いいのか? 手負いを逃して」

 

《構わん、アレは伝令だ。いずれORCAカラード同盟を連れて帰ってくる》

 

「それを潰すと。相変わらず合理的だ」

 

《君ほどじゃないさ、アンジェ》

 

 

ベルリオーズに掛けられたその言葉にアンジェはフッと鼻で笑うと、おもむろに『オペラハウス』最後の支柱に歩み寄ってオルレアの右腕に装備した【MOONLIGHT(レーザーブレード)】を展開、発振させる。

 

その瞬間オルレアのコックピットに通信回線が割り込んできた。老齢によって(しゃが)れた声の主はオーメルグループ旧宗主その人であり、声の震わせ方からも追い詰められていることは明白だ。

 

 

《待ってくれ! もう我々が戦う理由は無いはずだ! 防衛部隊が全滅して、生殺与奪の権は完全に君達にある! 要求すればなんでも通る状態じゃないか!? ならこの状況を最大限利用するべきだ! 技術供与が必要ならいくらでも無償で渡そう! 金だって無制限で渡す! 私の公印が押された誓約書を渡したっていい!》

 

「……そう言ってるが?」

 

《聞く耳持たん》

 

「だそうだ。残念だったな」

 

《まっ――》

 

 

刹那、【MOONLIGHT(レーザーブレード)】の非情な刃が『オペラハウス』最後の支柱を切り刻む。支えを完全に失った『オペラハウス』はガラガラと倒壊を始め、ものの数十秒で巨大な瓦礫の山に変貌を遂げた。

 

 

「呆気ない最期だ」

 

《漁夫の利で身を為した者の末路としては十分だろう》

 

「手厳しいな」

 

《レイレナードを吸収したんだ。むしろ手緩(てぬる)いくらいさ》

 

「それもそうか………次は?」

 

《カラード本部だ。既にマウロスクとサーダナを待機させている。我々が合流次第、叩くぞ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~~懐かしのカラード本部………って感じでもなさそうだなこりゃ。物々しいったらありゃしねぇ」

 

「オーメル本社が陥落したんだ。これくらいの警戒態勢は当然だろう」

 

「だからって身体検査で全裸にされる必要あるかよセレン? こちとら尻の穴まで調べられたんだぞ? 検査官がソッチだったらどうするんだ」

 

「お前のような(わっぱ)に欲情するようなヤワな検査官なら選考段階で除外されておる。やましいことがなければ安心して見せつければいい」

 

「俺の倫理観的に嫌だっつってんだろ爺さん。昨今流行(はや)りの人権侵害ってやつだぞ。なんなら訳の分からねぇ聞いたことも無い末端NPO団体に直談判してやろうか? そこそこ燃え上がらせてもいいんだぜ?」

 

「まぁ僕達は今までカミソリ・ジョニーの所にいたからね。いくらあそこがカラードの認可施設だとしても本部での初回検査は徹底的にするべきだと思うよ」

 

「それに我々ORCA旅団のメンバーも既にカラード本部に入っていると聞いている。同盟関係の齟齬(そご)が無いことも確かだ」

 

「要はゴネているのは貴様だけと言うことだキドウ・イッシン。大人しく口を閉じていろ」

 

「へいへい分かりましたよ。民主主義に(のっと)って多数決に従いますよ」

 

 

軽妙な遣り取りを交わしているイッシン一行だがカラード本部に到着した時のお出迎えはランカーネクスト2機、すなわち【ランク15】ヤンが駆るブラインドボルドと【ランク21】カニスが駆るサベージビーストだった。

 

両機ともに中堅リンクスとしてカラードに登録されているが、ブラインドボルドはアルドラ社専属リンクスとしてリンクス戦争を生き延びた古豪として名高く、サベージビーストはローゼンタール寄りの若い独立傭兵でありビックマウス気味な言動が目につくものの、ミッション達成率が非常に安定したリンクスとして評価が高い。

 

俗に言う「彼等であれば間違いない」と言った人選であり、常にLOSERSの脅威に晒され、つい先程オーメルグループ本社が陥落した事実を踏まえたとしても、カラード本部の防衛戦力としては何ら問題ないレベルの実力者である。

 

そんな彼等が守るカラード本部に入ったイッシン達を出迎えたのはGAグループ宗主であるスミス・ゴールドマンとインテリオルグループ宗主のブルーノだった。両人とも見たことがないほど眉間に皺を寄せた深刻な表情をしており、顔の所々に脂汗が滲んでいる。

 

 

「やっと戻ったか小龍。ランカーの皆もよくぞ無事だった……貴方がORCA旅団のメルツェルですな? 私はGAグループ宗主のスミス・ゴールドマン。申し訳ないがウザったい社交辞令は後にして早速本題に入らせて頂く。歩きながらで構わんかな?」

 

「無論です御宗主。どうやら事態は急を要するようですな」

 

 

メルツェルが了承の言葉を完全に言い終える前にゴールドマンが歩を進め始めた様子を見た彼は、事態が想像より深刻化していることが予想できた。ツカツカと早足で歩く宗主達に連なるようにイッシン一行も歩を合わせ続けて付いていく。

 

 

「全く以てその通り。オーメル本社が陥落したのがつい4時間前。15分前にはここから20km先の洋上で敵と思われる大部隊の出現を確認した次第でしてな。現在現場の指揮はローゼンタールCEOのレオハルトが担当している状態です」

 

「敵の部隊? LOSERSってのは各企業のエゴ丸出し少数精鋭ゾンビ達なんだろ。そんな奴らが大部隊なんて信じらんねぇな。魚群でも間違って探知したんじゃねえのか?」

 

「口を閉じていろ(わっぱ)……! 失礼、ヤツへの処罰は謹んでお受けさせます。しかし大部隊という点は私も同意しかねる部分です。本当に敵戦力なのですか」

 

「信じられないのも無理は無いがECM逆探知や強行偵察でも存在が確認されている。呼び掛けにも応じず、認識コードも不明。ORCA旅団との関連も認められなかった。であればLOSERSと想定して問題ないだろう。輸送艦が30隻、護衛艦6隻の船団だ。この輸送艦に戦力を隠していると見て間違いないだろう」

 

「それにしては数が少ない。全てノーマルだとしても精々150機が限界でしょう。その程度でカラードに仕掛けるとは考えづらい」

 

 

ドン・カーネルの言葉に一同は無言の同意を返した。ノーマル150機。数字で見れば膨大だが実際のところ、どんなに多く見積もっても中堅ネクスト2機で事足りる数字だ。その程度の戦力で正面からの戦いを挑むとすれば―――

 

 

「或いは何らかの秘策があるか………どちらにせよ議論している余地は無さそうだ。小龍、君には同盟の総指揮を頼みたい。権謀術数で鍛えた戦略眼を存分に発揮して欲しい」

 

「でしたらここに居るメルツェル殿を参謀として迎えても宜しいですかな。此度の戦い、どうも老い()れ一人では勝てそうにありませんので」

 

「無論だ。メルツェル殿、お受けして頂けるかな?」

 

「もちろん。断る理由も見つかりません」

 

「感謝する。………それではリンクスの諸君は至急ネクストへの搭乗準備に取り掛かってくれたまえ。人類の舵取りを死した敗者に任せる訳にはいかんからな」




いかがでしたでしょうか。旧オーメル宗主くん、失脚した上に呆気なく退場して残念。まぁ同情はしないけども。

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