凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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ACⅥが発表されたのに本小説が更新しないのは駄目だと思い、なんとか投稿しました。次回更新はいつになるか分かりませんが、とりあえず…………ACⅥありがとう!


135.それぞれの覚悟

GAグループ本社【THE・BOX】

 

 

《何コレ……ふざけてるの……》

 

「口より身体を動かせスマイリー! 意地でも生き残るぞ!」

 

 

GAの生ける伝説と評される【ランク4】ローディーは自身が駆る愛機フィードバックを臨戦態勢から戦闘態勢に移行しつつ、ただ呆然として立ち竦んだままの【ランク18】メイ・グリンフィールドを彼女の愛称で怒鳴りつけた。

 

彼等の眼前に迫ってくるのは、荒野を駆ける死神の列もといLOSERSの【オリジナル】サー・マウロスクの操縦下に置かれた自律式ネクスト002-Bの30機編隊。対するこちら側の戦力は自立砲台1500門、ノーマル800機、AF(アームズフォート)ギガベース3機、GA専属ネクスト2機。加えて先程入った通信では遊撃作戦中のAF(アームズフォート)グレートウォールが増援に駆け付けるという。

 

確かに数だけで言えば圧倒的にこちらが有利だ。それは揺るがない。だが、それを補って余り有る質を(もっ)て敵が挑んでくるとなれば話が変わってくる。むしろこの程度の数では足りないくらいだ。勢力差で言えば紙一重でこちら側がやや不利に分類される現況が分からないメイではなく、だからこそ呆然と立ち尽くしてしまう。

 

狩る側が狩られる側に回ったときの恐怖と絶望。それがメイの精神を支配しようとしたその時、スピーカーから緊張感の無い気怠げな男性の声がコックピット内に木霊した。

 

 

《なぁ~にビビってんだよメイ。らしくねぇじゃねぇか》

 

「ジョージ……?」

 

《週間ACマニアの女神様は勝利の女神様なんだろ? 変に気負わないでいつも通りやりゃあいんだよ》

 

「でも私、こんな正面からの大規模戦闘は初めてで――」

 

《死ぬかも知れないってか。まぁ長いことネクストに乗ってると薄くなる感覚だよな。だが俺から言わせりゃどっかのキドウ・イッシンみてぇに短期間でそう何度もネクスト戦を経験する方がよっぽどイカれてるぜ。ありゃ前世で徳を積んでないタイプだな。ゴキブリかなんかの生まれ変わりなんじゃねえか?》

 

「――フフッ言い過ぎよジョージ」

 

《まぁ、仮にもしお前が死んだ時は俺も一緒に死んでやるからよ。だから安心して行ってこい》

 

「………今の言葉、忘れないでよ?」

 

《あ? それってどういう――》

 

「メイ・グリンフィールド、メリーゲート、行くわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラインアーク 中央特区【ネスト】作戦司令室

 

 

「敵ネクスト部隊、時速1200kmで接近中! 会敵まで30秒!」

 

「マグヌス、ホワイト・グリントもAMS接続安定。バイタル、異常なし。FCS、正常に稼働中」

 

「同じくマイブリス並びにクリティークともAMS接続安定! 搭乗リンクスのバイタル、異常なし! FCS、正常に稼働中!」

 

「全機、システムオールグリーン。搭載火器、全て異常なし。いつでも出撃可能です、イェルネフェルト特別補佐官」

 

「ありがとう。……以降のオペレーティングシステム権限を移管。各リンクス、聞こえますか」

 

 

サー・マウロスクの操縦下に置かれた自律式ネクスト002-Bの30機編隊がラインアークを襲撃せんと猛烈な勢いで突撃してくる非常事態に【ネスト】の管制官およびオペレーターが慌ただしく必死で対応している中、フィオナ・イェルネフェルトの立ち振る舞いは優雅そのものだった。何故なら彼女は身を以て知っていたのだ。

 

オペレーターが感じる焦燥、不安、緊張はどれだけ隠してもリンクスに伝わってしまう。当時は右も左も分からぬ小娘だったが故に何度も彼に無駄な気遣いをさせてしまった。それが原因で恐らく戦闘パフォーマンスも低下させてしまっていただろう。

 

だから彼女は気負わない。彼等に全幅の信頼をおいて、だだ自分の役割に徹すればいいのだ。それだけで彼等の生き残る確率が上がるなら安いものである。

 

 

《こちらレイヴン、聞こえている》

 

《ロイ・ザーランド、聞こえてるぜ》

 

《セロ、問題ない》

 

《シェリング・ザーランド、クリティーク、感度良好だ》

 

「それでは作戦を説明します。敵はラインアークに迫る旧レイレナード社製自律式ネクスト002-Bの30機編隊。情報では旧メリエスの【オリジナル】サー・マウロスクによる遠隔操縦下にあるようです。彼の戦歴を鑑みても油断は決して出来ません。今回のミッションは敵ネクスト部隊の全機撃墜。また、アブ・マーシュ博士から『敵ネクストを鹵獲して欲しい』との追加注文が入っています。正直無視して構わないのですが、敵戦力分析の観点からミッションに組み込みました。可能であれば鹵獲をお願いします」

 

《ひゃ~~相変わらず無茶振りするぜDr.マーシュは》

 

《だが一理ある。AMSを用いた遠隔操縦は非常に興味深い技術だ》

 

《それでも無茶振りに変わりないがな。長い付き合いだが、やはり彼の行動には馴染めない》

 

《プロトタイプネクストを降したお前が言うな。俺からすればお前の存在の方が無茶振りのようなものだぞ、レイヴン》

 

「皆さん問題なさそうですね。では、ご武運を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧日本国 有澤邸 当主の間

 

 

「つまりは、逃げろ……そう言ってるのかい? 雷電」

 

「現状の戦力彼我を鑑みれば当然の話です。勝てない戦と負け戦は似て非なるものだと十六代目も分かっているでしょう」

 

「そして逃走の成功率を高めるために君が殿(しんがり)を務めると。ずいぶん身勝手じゃないか」

 

 

深緑のリンクススーツを着用し、厳めしい面持ちのまま正座している雷電の目の前には、戦争なぞどこ吹く風と言わんばかりに紋付き袴姿の十六代目有澤隆文が呑気に茶を啜っていた。しかしその目はいつにないほど鋭く、気迫という面だけで言えば雷電に勝るとも劣らない。

 

 

「現在有澤重工の全兵力を投入して件のネクスト部隊に対応していますが、いかんせん相性が悪過ぎます。レーザー兵器相手ではいつ突破されてもおかしくありません。ならばこそ今のうちに―――」

 

「雷電。我が社の社訓はなんだい」

 

「? 一体何を仰って……」

 

「我が社の社訓はなんだい」

 

 

有無を言わさぬ力強さ。本当に目の前にいる細々しい御仁から発せられているのかと疑ってしまう圧力に、しかし忠誠を誓った我が君のなにを恐れる事があろうかと雷電は己の怯える本能を捻じ伏せて社訓を読み上げる。

 

 

「有澤の前に有澤なし、有澤の後に有澤なし。全てを防ぎ全てを壊す。ただひたすらに前進あるのみ………です」

 

「そう。有澤重工には戦った上での戦略的撤退こそあれど、戦わずして退くという選択肢はない。だから私は退かないよ」

 

「ですがそれでは!」

 

「だから、雷電。君にコレを託そうと思う」

 

 

主君の自殺表明を言葉を以て制しようとした雷電を、差し出した右手によって先んじて制する有澤隆文。その手には無骨な、それでいて繊細な金色の紋様が彫られている鍵が置かれている。

 

その鍵を見て雷電は言葉を詰まらせた。有澤重工の社長のみが継承出来る鍵。()()()()()()()()()()()()()()()()。それが目の前に差し出されたからだ。

 

 

「これは……」

 

「株式会社有澤重工業第十六代社長有澤隆文の権限において、当社社員である雷電にネクスト【鉄輪(かんなわ)】の搭乗許可および戦闘許可を付与する。これが僕の答えだ」

 

 

ネクスト【鉄輪(かんなわ)】。タンク版プロトタイプネクストと形容すべき怪物は当時の有澤重工が持てる技術の全てをつぎ込んだ採算性と量産性を一切考慮していない究極最強のガチタン。

 

本来、社長にしか搭乗権限のない【鉄輪(かんなわ)】の起動キーを差し出した有澤隆文の覚悟は相当なものなのだろう。なにせ株主総会が開かれた瞬間、満場一致で引責辞任が可決されるような事案なのだ。たとえそれが世界の危機だとしても、である。

 

 

「十六代目………」

 

「行きなさい、雷電。君なら出来るはずだ」

 

「―――御意!」

 

 

漢、雷電。天下分け目の天王山に馳せ参ずる。

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