凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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筋トレしたいし、国試の勉強もしたいし、時間足りないなーと思いながらYouTube見てます。



18.化け猫VSヒーロー・Ⅲ

カラード本部 地上1階 リンクス専用ラウンジ

 

 

「……うん。やっぱりレイさんが淹れるコーヒーは格別だな」

 

「おっ。嬉しい事言ってくれるな、ダン」

 

「そうか? 只の濃くて苦いコーヒーだぞ」

 

「おめぇの感想は要らねぇよ、ジョージ」

 

「私も同意見だ。このコーヒーの良さが分からんとは、とことん無粋な男だな」

 

「分かった分かった。コーヒーの味も分からん無粋な男は黙って飲んでるよ」

 

「………………………………解せねぇ」

 

 

間接照明が灯り、年季の入った木製カウンターに並ぶリキュールの数々が色彩豊かに照らされている中、四人の男女には一様にコーヒーが出されていた。

 

内三人は店主に淹れられたコーヒーを口に含み、その味の素晴らしさを談義しているが、残る一人はコーヒーに手を掛ける事も無く頭をカウンターにつけ、意気消沈とばかりに項垂(うなだ)れていた。

 

 

「どうした、イッシン。飲まねぇと冷めるぞ」

 

「どうもこうも! なんでダン以外の二人まで俺にたかってくんだよ! 特にセレン! 俺の財布事情知ってるよね!?」

 

「当たり前だろう。お前の小遣いを管理してるのは私だぞ」

 

「だったら何でたかるんだよ!」

 

「気にくわないからだ」

 

「」

 

「というか小遣い制なのか。セレン、月幾ら渡してるんだ?」

 

「1C(コーム)だ。十分だろう」

 

「……学生じゃないんだから、もうちょい渡してやれよ」

 

 

ちなみに、この世界において1Cは日本円にして一万円相当である。

 

レイはイッシンに対して憐れみの念を抱きながらも、追求による自身の身を案じたのかそれ以上は深追いせず、汚れを洗い落としたグラスを丹念に磨き始めた。

 

 

「それに! ダン! あんな勝ち方、俺は絶対に認めねぇぞ! ズルだ、ズル!」

 

「認めなくてもいいさ、勝敗結果は正式に出ているんだからね」

 

「ぐぬぬ……!」

 

「確かに、意外ではあったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は一時間ほど遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《さて、と。無為に長引かせるのは性に合わないんでね。そろそろ決着と行こうじゃないか》

 

「……奇遇だな。俺も同じ考えだ」

 

 

両者、睨み合ったのち先に動いたのはストレイドだった。

 

満身創痍のストレイドは獣の咆哮を彷彿とさせるブースター音を鳴り響かせ、セレブリティ・アッシュ目掛けてOBを始動、突貫する。

片腕を失っているためにOBの姿勢制御が覚束無いが、逆にその事がストレイドの迫力を際立たせていた。

 

対するほぼ無傷のセレブリティ・アッシュも騎士の凱旋歌を彷彿とさせるブースター音を鳴り響かせながら迎え撃つ。

 

イッシンは手負いの獣の如き気迫をストレイドに纏わせながら、残った左手に握られた【051ANNR】をセレブリティ・アッシュに放つ。姿勢制御に難があるとはいえ、それを感じさせない弾道は、吸い込まれるようにセレブリティ・アッシュへ直進していった。

 

しかし相手も本気を出したのか、今まで以上に少ない挙動、(まさ)に紙一重とも言える最小限の動きで命を刈り取ろうと向かってくる死の種を躱していく。

 

イッシンは躱された事実に歯噛みしながらも、唯一の勝ち筋であろう自らの作戦を再度反芻し、覚悟を決めた。

 

 

(正直ギャンブルだが、やるっきゃねぇ!)

 

 

イッシンは【051ANNR】を撃ちつつ、その左腕を大きく後方へ下げ始めた。

セレブリティ・アッシュもその意図に気付いたのか、背部兵装【049ANSC】を展開。傷だらけのストレイドに向けて亜音速の砲弾を放つ。

 

距離にして、およそ500。

OB発動中においては一瞬の距離であるが、決して回避不可能な距離ではない。

 

だがストレイドは砲弾を避ける事無く直進。

刹那、コックピット内に衝撃が走るがイッシンは構うことなくフットペダルを踏み込む。

ストレイドのメインブースターに完全燃焼を意味する青白い光が灯り、OBによる加速を更に上の段階へ昇華した。速度にしておよそ1800km/h。VOBに迫る超速度である。

 

 

「コイツで終わりだぁ!」

 

 

相対距離、100。

必中の距離を確信したイッシンは、左腕と共に後方へ下げた【051ANNR】を前面に突き出し、文字通り槍の如くセレブリティ・アッシュを穿たんとした。

 

誰もが決着を予想したが、セレブリティ・アッシュは恐るべき反応速度によりQBを発動し、右方向へこれを回避。

ストレイドの銃槍はセレブリティ・アッシュを穿つ事無く空を切る。

 

 

《残念、当たると思ったかい?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッシンの声が聞こえた瞬間。

ストレイドが薄い緑色に包まれ、爆発。ダンの視界は閃光により塗り潰された。

 

アサルトアーマー。

 

ネクスト内に蓄積された機関部を除く全てのコジマ粒子を解放し、機体周辺の敵を一掃可能な『奥の手』である。機体周辺のみという極めて狭い範囲ながら、その絶大な威力故にアサルトアーマーを基軸とする戦術をとるリンクスも少なくない。

 

そんな過剰火力を至近距離で発動したため、流石のセレブリティ・アッシュも無事ではないだろう。しかし、イッシンの狙いは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

イッシンはストレイドを急制動させ、その場で大きく右側へ跳躍させる。そのままセレブリティ・アッシュを前方宙返りの要領で飛び越えながら左手の【051ANNR】を投げ捨て、格納された【EB-O700】を展開、発振させた。

 

 

「背中のお宝、貰うぜ!」

 

 

イッシンの雄叫びと共にストレイドは【EB-O700】を横薙ぎに振り払った。

その光剣はセレブリティ・アッシュの【049ANSC】および【DEARBORN02】を悉く両断し、セレブリティ・アッシュの背中に大輪の黒い爆風を形成させる。

 

ストレイドは爆風で多少よろめきながらも、屈伸運動により脚部から着地、その反動を利用して【EB-O700】を突き立てながら爆風めがけて突進した。

 

アサルトアーマーによる奇襲攻撃に背部兵装の爆発。混乱しない方がどうかしてる。

 

イッシンは自らの作戦が上手くいった事を天に感謝しながら、そのまま爆風に向けてストレイドを走らせた。

仮に、セレブリティ・アッシュが動けたとしても方向は限られる。

それに相手の使用可能な兵装は【047ANNR】のみ。大した反撃も来ない今、追撃は容易だ。

 

 

「これでぇ!」

 

 

終わる。再び、誰もが決着を確信した時。

 

 

黒い爆風を押し退けるように、機械仕掛けの左腕が突如として出現。ストレイドが突き立てた【EB-O700】を手のひらを広げながら、まるで鞘に収めるかのように貫かれながらも受け止めた。

 

その左腕の内部からは小さな爆発音と金属が融解する音が【EB-O700】の威力を物語るように響き渡り、やがてその音は小さくなっていく。

 

 

《良い攻めだった。だけど(ひね)りが足りないな》

 

 

爆風が晴れ、敵であるセレブリティ・アッシュが姿を現した。その勇敢な立ち姿とは裏腹に、機体全体から火花とショート音が絶え間なく流れ出ており、本来の鮮やかな機体塗装も爆発による煤のためか粉っぽく黒味がかっている。

 

見るからに満身創痍。

ある意味、隻腕のストレイドよりも酷い状態である。

 

 

「…………ふっざけんな、まだ動けんのかよ」

 

《生憎ね。もう曲芸は終わりかい?》

 

「……まだまだに決まってんだろ!」

 

 

イッシンはストレイドを鼓舞するようにフットペダルを踏み抜くと、メインブースターに青白い光が灯り、OBによる加速が始まろうとする。

 

――奴はほぼ丸腰だ、勝ち筋はある。

 

イッシンの思考に再び火が入れられた時、凍える程に冷たく非情なダン・モロの声が聞こえた。

 

 

《残念だけど、もう終演の時間だ》

 

 

セレブリティ・アッシュの右腕に装備され、ストレイドの蹴りにより中央からひしゃげた【EB-R500】が、()()()()()()()と共に地面に落下。

そして右腕から駆動音が鳴り響き、ある兵装が右手に据えられる。

 

 

「……反則だろおぉぉぉぉ!!」

 

 

満身創痍のストレイドに向けられた兵装は、オーメル製格納パルスガン【EG-O703】別名〝線香花火〟である。

破格の瞬間火力を誇るが、集弾性の悪さと弾数の少なさから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

しかし、この状況は今まさに真価を発揮する状況である。

 

セレブリティ・アッシュが引き金を引く。

【EG-O703】はオレンジ色の閃光を線香花火のように前面へ撒き散らした。その閃光はゼロ距離で放たれた為に大きく拡散することは無く、煤だらけのストレイドの装甲を焦がし、溶かしていく。

 

全弾撃ち終わる頃にはストレイドの胸部に赤熱した大きな穴が形成され、その向こうに漂う雄大な雲が覗けて見えた。

大穴を作られたストレイドの頭部からは光が消え、そのまま両膝をついて大地に倒れ込む。

 

 

《経験の差分で、僕の勝ちだね》

 

 

 

『ランクマッチ終了。勝者、ダン・モロ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――白々しい程に豪華なテロップが流れ、勝者であるセレブリティ・アッシュが大きく映される。そんな映像を出力するPCを、イッシンは恨めしく凝視していた。

 

 

「……やっっっぱり納得いかねぇぇ!」

 

「子供かお前は」

 

 

模擬戦(ランクマッチ)とはいえ、負けた苛立ちを抑えきれずに悶絶するイッシンを尻目に、セレンは呆れながらコーヒーを一口含む。

 

 

「まぁ確かに〝線香花火〟は予想外ではあったよな」

 

「レイさんもそう思うよな!」

 

「でも、負けたんだろ?」

 

「…………ぐぅ」

 

 

レイの明瞭かつ簡潔な確認が余程応えたのか、イッシンは再び意気消沈しテーブルに頭をつけて項垂れる。

 

 

「実際、ヒヤヒヤもんだったけどな。ダンが負けたら俺の立つ瀬が無くなっちまうってのに……」

 

「悪かったよジョージさん。でも、イッシン君が強かったのも事実だ」

 

 

そう言ってダンは立ち上がると、新参者の敗者が項垂れる席まで歩を進め、右手を差し出す。

 

 

「改めて。ランク3、ダン・モロだ。よろしく、キドウ・イッシン君」

 

「………よろしくお願いします」

 

 

イッシンは不貞腐れながらも立ち上がり、ダンの握手に応じる。

ダンの手は細く柔らかいが、どこか骨張ったような不思議な感触だった。

 

 

「……さて、お互いに挨拶も済んだ訳だし。イッシン君、サシで一杯飲まないかい? 友好の証って事でさ」

 

「え? あ、ああ……」

 

「レイさん、奥の部屋使っていい?」

 

「別に構わないが、オペレーター殿の許可が必要じゃないのか」

 

 

レイが気まずそうに目配せした先には、ジト目で不快感を露わにしたセレンがダンを睨んでいる。

 

 

「セレンさん安心してよ。別に取って食う訳じゃないからさ」

 

「……勝手にしろ。ただ、イッシンは私のリンクスだ。それは忘れるなよ」

 

「勿論」

 

 

ダンは奥の扉を開けて、イッシンを手招く。

 

 

(……今、『私のリンクス』って言ったよな。間違って無いけど、なんか恥ずかしいぞ)

 

 

そんな事を考えながら、イッシンは奥の部屋の闇に呑まれていった。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。

やっぱりクーデレは正義だよ、大正義だよ。
ジーク・クーデレ!ジーク・クーデレ!

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