「……つまり、記憶が無い。そういう事でいいな?」
アルミ製の簡素なテーブルを挟み、対面しているセレンさんの確認に俺は頷く。
そんな部屋で、かれこれ30分程こんな問答が繰り返されていた。
コックピット内に生まれ出でて約半日。
前世では二十数年間の経験があるが、転生したとなれば話は別だ。言ってしまえば、今の俺は生後半日の大きい赤ん坊と言う話になる。そして『赤ん坊に自分の置かれている状況を理解しろ』なんて要求は、無茶以外の何物でもないだろう。
「自分でもよく分からないんです。なんで此処にいるか、そもそもどうしてこうなったのか」
「ふむ、AMS接続による一種の記憶障害だろう。
セレンさんは申し訳なさそうに顔をしかめる。
数刻前、転生した事実に若干パニック気味だった俺は馬鹿正直に
「俺は転生して、前世では普通の会社員だった」
と、話した時のセレンさんの表情は生涯忘れないだろう。あんなに憐れみの篭もった視線は始めて感じたよ。
お陰でちょっとゾクゾクしたじゃないか。
新たな性的嗜好を開きそうになる本能的な衝動を抑え、俺はセレンさんが言った単語に質問を投げる。
「戦時品って?」
「ん? ……あぁ、お前が搭乗する予定のネクストだ。値段の割に状態が良好だから買い取ったが、とんだ貧乏くじだったみたいだな」
そう言いセレンは立ち上がると、壁に設置されたブラインドをあげる。
強化ガラスを隔てたその先にあるのは、いや、
「TYPE-
セレンさんの説明を
…………俺、本当に転生したんだな。なんか感慨深いよ。
そんな複雑な感情が顔に出ていたのか、セレンは呆れ顔で
「自分の精神を弄られた機体に、そこまでの憧憬を抱けるのはある意味感心するよ」
「えっ…………あっ、いや、その……」
「まぁいい、なんにせよ適性検査は合格したんだ。とっとと着替えろ。カラードに登録しに行くぞ」
そう言うとセレンはブラインドを閉め、部屋の一角を指さす。向けられたそこは、カーテンが環状に設置されているだけの空間だった。
(………ユニ〇ロでも、もうちょいマシだぞ)
内心ぼやきつつも、移動しカーテンを閉める。
「あれ、セレンさん。着替えってどこですか?」
「待ってろ、いま渡す」
数秒後、カーテンから登場した着替えは転生前の世界で【スーツ】と呼ばれたものだった。
どこの世界も正装はスーツなんだな。そう思い、着替えを始めた。
転生後、今の今まで着ていた服は【リンクススーツ】と呼ばれる物らしく、厚手の全身タイツに要所要所防護剤による強化が施されたような格好の服だ。セレンさん曰く耐G性能は一級品で、現行版に比べ旧式ではあるが今でも愛用者が少なくないスーツだそうだ。
そんな戦闘スーツから正装のスーツに着替えようとした時、違和感を感じた。……大丈夫か、このスーツ。
一抹の不安を胸に、スーツに着替えカーテンを開ける。
「サイズは合っているようだな。中々似合っているぞ」
「似合ってますか、これ」
濃紺のブリティッシュダブルに白のボタンダウン、黄色のソリッドタイに水色のチーフ。現代風にアレンジはされているが、マフィアにでも誤解されかねないド派手なスーツであることに変わりは無い。
「セレンさんの趣味ですか、このスーツ」
「不服か?」
「イエ、イイシュミヲシテルトオモイマス」
「そうだろう。選ぶのに苦労したんだ」
次回があれば、その時は自分で服を買おう。
そう心に決め、俺はセレンさんの後についていった。
今は短いスパンで投稿していますが、物語が進むに連れ更新間隔は長くなっていくと思われます。
どんなに遅くなっても週1投稿はしていきたいと思っているので、気長にお付き合い頂ければと思います。
感想・評価よろしくお願い致します。