凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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歯間ブラシをやり始めたら、口臭が激減して驚きました。みんなもやった方がいいぜ?あれヤバいよ?



19.1/3の弾丸は行方不明

「酒は強いほうかい?」

 

ダンは席に座るなりイッシンに問いかける。

部屋の壁はコンクリートの打ちっぱなしらしく、どことなく冷気が漂う。年代物であろう黄ばんだシーリングファンの暖色系の照明も薄暗く、木製の丸テーブルと丸椅子が二つ鎮座しているだけ。正直、拷問部屋と言われれば納得してしまうような雰囲気であった。

 

 

「まぁ、それなりに」

 

「なら良かった。ちょうど、良いバーボンがあるんだ」

 

 

そう言うとダンは椅子の下から四角い瓶を取り出した。

注ぎ口が蝋封されており、草原を背景に農夫が鍬を抱えた絵柄のラベルが貼られていた。年代物なのか、日焼けしたように古ぼけており端々が欠けている。

 

 

「ゴールドファーマーの18年物。僕のとっておきでね、特別な日しか飲まないんだ」

 

 

ダンは椅子の下からロックグラスを二つ持ち出し、テーブルにコトンと置いた。そのままゴールドファーマーの蝋封をペリペリと剥がし、栓を抜いてグラスへ注いでいく。二つともにシングルを入れ終えると、ダンは無言の笑みを浮かべながら一方をイッシンへ手渡す。

 

ゴールドファーマーは濃い琥珀色をしており、鼻を近づけるバニラとシナモンを合わせたような甘い匂いの中に若干のケミカルさが見え隠れする独特な香りがした。

 

 

「それじゃ早速本題だ。君は転生者かい?」

 

「……という事は、あんたも……」

 

「転生者だ」

 

 

笑みを絶やさずにダンは言い放つ。しかしどこか物悲しく、自嘲気味な雰囲気を醸し出していた。

 

 

「前世では早田 新吾(ハヤタ  シンゴ)と呼ばれてた、しがないフリーランスさ。……君は?」

 

「俺は前世でも騎堂 一心(キドウ  イッシン)って呼ばれてた、ただの会社員だ」

 

「興味深いな、前世の名前のままなんて。……あぁ主人公だから当然か」

 

 

ダン……いや、シンゴは独り合点をつきながら頷く。どこか他人事のような話し振りにイッシンは疑問を抱き、シンゴに問いかける。

 

 

「ずいぶん冷静なんだな。訳も分からず転生させられたってのに」

 

「それは()()()()()()。僕は転生して、かれこれ5年になる」

 

「……は?」

 

「なんだ、皆がよーいドンで転生してるとでも思ってたのか?」

 

 

シンゴは呆れ気味に笑い、ゴールドファーマーを一口飲む。しかし対照的に、イッシンは自ら置かれた状況を飲み込む事に時間を要した。

 

 

「じ、じゃあ他の転生者も、俺より先に転生しているって事か?」

 

「どうだろうな。僕が確認出来ている転生者は、君と僕を含め4人だ。あとの2人は分からないさ」

 

「他の転生者に会ったのか!?」

 

 

イッシンは木製の丸テーブルが軋む勢いで身を乗り出す。そんな勢いにビックリしたのか、シンゴも椅子に座りながら後ろへ仰け反る。

 

 

「そんなに驚かなくてもいいだろ」

 

「誰なんだよ、その2人って!」

 

「……一人はドン・カーネル。原作じゃ〝粗製〟扱いだったけど、この世界ではGAグループでローディーに次ぐ実力者だ」

 

「ランキングを見てまさかと思ったけど、やっぱりそうなのか」

 

 

ドン・カーネル。

原作ストーリー中において、初めてのネクスト戦の相手だ。その動きはお世辞にも良いとは言えないが、その発言と特徴的なエンブレムからネタにされる事もままある、ある意味名物キャラである。

 

しかし、彼の駆るネクスト〝ワンダフル・ボディ〟は高火力兵装を有しているため、乗り手を選びはするが決して弱くはないネクストでもある。

 

 

「どうやら転生前はロシア人らしくてね。前世ではイワンって呼ばれてたらしい」

 

「らしいらしいって……確認したんだろ?」

 

「転生者なのは間違いないんだ。ただ、気難しい人でね。話しかけて一言返ってくれば良いほうなんだよ」

 

「大丈夫かよ、それ」

 

「まぁ悪い人ではないさ。今度、機会があれば会わせるよ」

 

 

シンゴはそう言うとゴールドファーマーをまた一口飲み、一服する。イッシンも誘われるように手元のロックグラスに注がれているゴールドファーマーを口に含み、顔をしかめた。

 

 

「キッツいな、この酒」

 

「65度だからね。慣れれば旨いもんさ」

 

 

シンゴは涼しい顔でゴールドファーマーを一気に飲み下すと、一息ついて余韻に浸る。イッシンは同じ事は出来そうに無いと感じ、チビチビと飲み進める。

 

 

「さて、話を戻そう。もう一人の転生者なんだが……()()()()CUBE(キューブ)だ」

 

「だから多分って何だよ、確認したんだろ? それに今のってどういう事だよ」

 

「これはちょっと複雑でね。アスピナ機関の『プロジェクト・CUBE』って聞いたことあるかい?」

 

「聞いたこと無いな。『プロジェクト・マグヌス』の親戚か?」

 

「残念だけど、似て非なる物だ。『プロジェクト・マグヌス』はハード面であるネクストの研究。『プロジェクト・CUBE』はその逆で、ソフト面であるリンクスの研究さ」

 

「……原作でそんなのあったか?」

 

「無いはずだ。おそらく公式資料集にも書かれていない裏設定の類だろう。『プロジェクト・CUBE』はその名の通り、CUBEと名付けられた被験体リンクスをネクストに載せて実戦データを収集。そのデータを基に最強のリンクスを人工的に造りだそうって計画だ」

 

「ジョシュア・オブライエンのようにか」

 

「最終目標は彼を超える事みたいだけどね」

 

 

ジョシュア・オブライエン。

リンクス戦争において何人もの敵対リンクスを討ち取り、戦争終結へと導いた正真正銘の英雄だ。そんな英雄が所属していた組織が『アスピナ機関』である。

主にリンクス適性の根幹であるAMS技術の研究・開発を行っており、政治屋と揶揄されるオーメルグループの傘下組織でありながら、変態企業と名高いトーラスと双璧を成すほどに隔世感の強い技術者集団でもある。

 

 

「そしてどうやら『プロジェクト・CUBE』は最終段階に入ったようで、完成体であるCUBEをカラードへ登録して実戦での最終調整を進めているんだ」

 

「で、それと転生者に何の関係があるんだ?」

 

「アスピナ機関の友人によれば、完成体のCUBEはうわごとのように〝転生者を探さないと〟って繰り返しているみたいで人格調整に難儀しているらしい。これ以上の手がかりは無いだろう」

 

「……そうだな、判断するには十分だ」

 

「納得して貰えて良かった。……これで、僕の知っている転生者の情報は終わりだ。他に何かあるかい?」

 

 

シンゴは再びゴールドファーマーをグラスに注ぐ。少し酔っているのか、目分量でドボドボと淹れていく様を見てイッシンは軽く引きながら質問を投げた。

 

 

「ホワイト・グリントは転生者じゃないのか?」

 

「可能性は高いだろうけど、正直分からないってのが答えだね。ラインアークも自分達の最高戦力をむやみに会わせる訳にはいかないんだろう、面会は一度も出来てないんだ」

 

「……他の転生者の見当は?」

 

「まったくもって不明だよ。いずれ出てくる事を願うしかないな」

 

「……そうか」

 

 

イッシンは安堵と不安が入り混じった複雑な感情を抱いていた。自分を含めて4人の転生者の所在が判明したのは間違いなく大収穫だ。しかし、残り2人の見当すら不明なのは頂けない。

流石にカラードに登録しているリンクス全員に『転生者ですか?』と聞き回るなんて馬鹿な行動はしないが、それくらいの事をしないと見つけられないのも確かだ。

 

そんなイッシンに気付いたのか、シンゴは笑いかける。

 

 

「残り2人が敵になるって決まった訳じゃないんだ。そんな死にそうな顔をするなよ」

 

「……それもそうだな」

 

「だろ?……じゃあそろそろ向こうに戻ろう。これ以上君を独占すると、セレンさんから大目玉を食らいそうだからね」

 

 

そう言うと、シンゴはゴールドファーマーを一気に飲み干して席を立つ。酒で僅かに紅潮した顔はハヤタ・シンゴではなく、すっかりダン・モロの顔に変わっていた。

 

 

「今更だと思うけど、この話は他言無用でね」

 

「わかってる。下手な詮索を受けるのは御免だ」

 

 

ダンは満足げに頷き、ドアを開ける。その先ではセレンとジョージ、そしてレイが未だにコーヒー談義を繰り広げていた。

 

 

「いいかジョージ。コーヒーの味は焙煎で決まるんだ、分かるか?」

 

「レイ、俺はコーヒー博士になる気は無いんだって。それにコーヒーが飲みたくなったら近くのムーンバックスで―――」

 

「ん?……お前達、やっと戻ったか」

 

 

セレンはイッシン達が出て来た事に気付くと席を立ち、ツカツカと近付いてきた。イッシンはセレンの足取りが普段よりも速いと感じたが、特に気にする事も無く対応する。

 

 

「ごめん、話し込んだら長くなった」

 

「それは構わんが……少し酒臭いぞ」

 

「ゴールドファーマーを御馳走したからね、イッシン君には早かったかな?」

 

「あんなモノを好んで飲むのはお前くらいだ。少しは自重しろ」

 

「友好の証だって。な、イッシン君?」

 

「まぁ旨かったのは間違いないから、俺は気にしてない」

 

 

イッシンの回答にセレンは呆れ混じりに溜息をついた。奥のカウンターでは、相変わらずジョージとレイがコーヒー談義を続行している。

この空間では先ほどの密会とは打って変わって気楽な雰囲気が漂い、イッシンは肩の力が抜けたような気がした。

 

 

「とりあえず、今日は疲れたから帰らないか?」

 

「……それもそうだな。レイ、私達は先に帰るぞ」

 

「おう。また来いよ」

 

「じゃあ僕らも帰りますか、ジョージさん」

 

「あぁ帰ろう。このままじゃコーヒーお化けに憑かれちまう」

 

「誰がコーヒーお化けだ」

 

 

そうしてレイを除く全員が重厚な出入扉を開け、ラウンジからいなくなる。ドアの向こうから聞こえてくる話し声は徐々に遠ざかっていき、ラウンジには先ほどまでの団欒が噓であったような静寂が訪れた。

 

 

「さて、と……」

 

 

レイは誰も帰ってこない事を見計らい、ダンとイッシンが話していた部屋のドアを開ける。少し酒の匂いが漂う部屋で、レイは中央に鎮座する木製の丸テーブルの前に屈むとテーブルの裏に貼り付けられた小さな機械を剥がす。

 

 

「どれどれ、どんな話をしてたのかな? オジサンにも聞かせてくれよ」

 

 

レイは機械の電源をオンにした。冒頭は若干のノイズから始まり、次第に会話が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……レ……ん。レイ……ん。レイさ~ん。聞こえる~?ダンだよ~~。盗み聞きしてもいいけど、次はもっとバレにくい場所に仕込んでね~》

 

《ダン、何してんだ?》

 

《ん?ちょっとした悪戯だよ》

 

《話があるなら、早くしてくれよ》

 

《それもそうだね。じゃ、そこの椅子に座ってゆっくり話そうか》

 

 

そう言うと音声はブチッと切れた。

 

 

「………あのクソガキ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、当のクソガキはオペレーターであるジョージを先に帰し、カラード本部の屋上で春先の心地良くも冷たい風に吹かれながら、ある人物に電話を掛けていた。

 

 

《……私だ》

 

「お久しぶりです、王小龍」

 

《結果はどうだった》

 

「ずいぶん耳が早いですね、いつ彼とやり合うかなんて僕の気分次第なのに。……もちろん僕が勝ちましたよ」

 

《だろうな》

 

「ただ、危なくもありました。判断が遅かったら負けていたかも知れません」

 

《ほう、お前をしてそこまで言わせるか》

 

「あんな逸材、そうそういませんよ。……引き込みますか?」

 

《こちらでも動いている。無理はするな》

 

「相変わらずですね。その調子でリリウムちゃんの教育も頑張って下さいよ」

 

《ふっ、余計なお世話だ。切るぞ》

 

「ええ、また近いうちに」

 

 

ダンは電話を切ると眼下に広がる街を眺める。

そこでは年端もいかない子供が走り周っており、それを母親らしき女性が叱っている。

子供は叱られた事に泣きじゃくるが、女性はその子を抱きかかえると今度は優しそうな表情を浮かべる。

子供は母親の表情に安堵したのか、泣き痕を残して寝てしまった。

その様子をダンは見届け、想う。

 

 

(……この幸せな日常は僕が守る。どんな手を使っても、必ず)

 

 

時は三月、新たなる胎動が芽吹き始める季節の事である。

 

 

 




いかがでしたでしょうか。

文中の『プロジェクト・CUBE』は完全オリジナル設定です。わりと詳細まで決めているので、フラグ回収はしていきたい所存であります。

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