凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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前話のゲイリーセブン社、略して〝ゲイブン〟
気付いてくれたドミナントはどれほどいるのか。


21.大人と子供

「僚機の依頼?」

 

格納庫(ファクトリー)の待機室に置かれている北欧風のソファでゲーム片手に寝そべっていたイッシンは、思わずオウム返しで聞き返した。

 

 

「そうだ。しかも依頼主は()()有澤だぞ。今時書類を郵送するような、時代錯誤も甚だしい頑固者のな」

 

 

セレンは手元の封筒から書類を取り出す。有澤重工のロゴマークがあしらわれた深緑色の封筒から出て来たのは、藁半紙を彷彿とさせるような薄い黄土色の紙束だった。

 

 

「報酬の45%がこちらに入るし、有澤の実力も折り紙付きだ。悪くは無い依頼だと思うぞ」

 

「どれどれ……『突然の依頼、失礼する。昨今、活躍目覚ましい貴殿の助力を承りたく、依頼させて頂いた。~(中略)~此度の戦、小生のみでは持て余す。~(中略)~吉報を待つ』……長いし、後半何言ってるか分からねぇ!?」

 

「なんにしろ、依頼は依頼だ。……受けるか?」

 

イッシンは声にならない呻きを上げながら、ソファの上で大きく伸びをする。手元のゲームにはセーブ完了の文字が浮かんでいた。

 

 

「正直、ちょっと気が引けるな」

 

「ほぉ、珍しく弱気だな」

 

「ギガベースを落として、GA寄りのダンともやり合ってるんだぜ?なのに素知らぬ顔で僚機の依頼をしてきてんだ。警戒しない方がおかしいだろ」

 

「なら辞退の返事を――」

 

「冗談。受けさせて貰うぜ」

 

 

イッシンは不敵な笑みを浮かべながら、渾身のキメ顔で自信満々に言い放つ。……変わらずソファに寝そべりながらであるから、格好はついていないが。

 

 

「知り合いを増やす良い機会だし、罠なら突破するまで。だろ?」

 

「……分かってきたじゃないか」

 

 

まるで飼い犬が初めて芸を覚えた時のように、セレンは口元に微笑を浮かべる。そして、それは始まりの合図でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リッチランド農業プラントは、オーメルグループ傘下のアルゼブラ社が保有する世界有数の農業地区である。総面積は30万平方メートルに及び、小国であれば二、三国が丸々収まるほどに雄大な大地は世界に供給される穀物の約27%相当を生産している。

 

そんな世界の台所の上空3000mを二つの影がジェット音を鳴り響かせながら並行に飛行していた。一つは淡い桜色の旧式輸送機であり、その下には青色の『TYPE(タイプ)-HOGIRE(オーギル)』が合金製多重層ワイヤーロープで吊されている。

 

もう一方も同じく輸送機であるが、こちらは対照的に深緑一色の最新式輸送機であり、そこかしこに散見される無骨さから爆撃機に見えなくもない。その爆撃機の下には輸送機と同色の()()がぶら下がっていた。いや、正確には砲台ではない。

 

上半身が単眼のマッシブな人型でありながら、脚に相当する箇所には重戦車のようなキャタピラが占用している。両腕があるはずの箇所には短身かつ重厚な砲塔が一門ずつ搭載され、背中には列車砲と見紛うばかりの巨大な砲塔が折り畳まれて格納されている。

 

移動要塞という言葉は、この機体の為に生まれた。そう言われても納得出来るほどの圧倒的存在感を放ちながら。

 

 

「あれが〝ランク14〟雷電か。……間違っても、あんなのとはやり合いたくねぇな」

 

《ふっ、〝ランク3〟に肉薄した奴が何を言う》

 

「それとこれとは話が別だ」

 

 

ストレイドのコックピット内で待機するイッシンは、セレンに対し口を尖らせる。

 

 

(にしても、ホントにやり合いたくねぇな)

 

 

イッシンはストレイドのメインカメラを並行する雷電に向けた。モニター越しにも分かる重厚さ。ほとんど鉄の塊のような質量にイッシンは生唾を飲む。

 

目の前に吊らされている雷電も原作内で幾度となく倒してきたネクストの一人だ。

だが、あくまでそれは原作での話。現実(リアル)として正面から相対した時に、本当に勝てるかどうか疑問であった。

不意にスピーカーから着信音が鳴り、向こう側のセレンが対応する。

 

 

《イッシン、雷電からの通信だ。出るか?》

 

「あぁ、繋いでくれ」

 

 

分かった、とセレンは返事をする。インカムで雷電に話を通しているのだろう。ゴソゴソと二、三言話すとスピーカーからブツンブツンとノイズが二度入る。

 

 

《有澤重工、雷電だ》

 

「ストレイド、キドウ・イッシンだ」

 

《此度の支援、感謝する》

 

「構わねぇよ。むしろアンタと組めるなんて光栄だ」

 

《世辞は不要だ。……しかし若いな》

 

「ガキは嫌いか?」

 

《聞き分けがなければな。……露払いは任せたぞ》

 

「仰せのままに、社長殿」

 

 

イッシンの返答を鼻で笑って返すと、雷電からの通信が切れる。数秒後、再びブツンとノイズが入るとセレンの声がコックピットに流れた。

 

 

《どうだった、有澤は》

 

「セレンの言う通り頑固者だな。だが信頼はできる」

 

《ほう、根拠は?》

 

「男の勘だ」

 

《……聞いた私が馬鹿だったよ》

 

 

セレンの呆れた声がコックピットに反響するが、当のイッシンはクツクツと笑っている。

 

 

《まったく。……改めて、ミッションの概要を説明するぞ。今回のミッションはAF『ランドクラブ』の破壊だ。事前情報では1機と説明されたが、正直当てにならん。最大限の警戒を怠るなよ》

 

「了解。今回は弾薬をタンマリ仕込んでるんだ、弾切れはそうそう起こらないさ」

 

 

そう言うとイッシンはコンソールパネルを起動させ、ストレイドの兵装を確認する。

 

左手にはGAの汎用ライフル【GAN02-NSS-WR】

右手にはレーザーライフル【LR02-ALTAIR】

背部右側はGA製分裂ミサイル【CHEYENE01】

背部左側は有澤製グレネードキャノン【OGOTO】

肩部にはBFF製連動ミサイル【061ANRM】

 

 

《いくら依頼主が有澤だからとは言え、わざわざ有澤のグレネードまで買い付けるとは思わなかったぞ》

 

「こういう心証って大事だろ?GAグループの兵装を使っておけば、向こうが考えてる俺の評価も変わるかも知れないしな」

 

《流石にその程度はわかるか。……まもなく作戦エリアに到着する。現時点より、有澤との通信も常時オンにするぞ》

 

「あいよ」

 

 

聞き慣れたノイズがコックピット内にブツンと鳴る。有澤との通信が接続されたかどうか確認するために、イッシンは有澤へ呼びかけた。

 

 

「社長殿、聞こえているかい」

 

《良好だ》

 

「そりゃ良かった。……なぁ、一ついいか?」

 

《応えられるか分からんぞ》

 

「それならそれでいいさ。アンタ、影武者なのか?」

 

《……ずいぶん愚直に聞くな》

 

 

有澤重工第16代社長〝有澤隆文〟

同社が誇る重装甲ネクスト『雷電』を駆り、自ら最前線へ赴く傑物というのが表向きだ。

 

しかし、GA傘下とはいえネクスト産業の一翼を担う企業の長が戦場に出るなど荒唐無稽にもほどがある。その状況の中で陰謀論の如く囁かれているのが〝影武者説〟である。

 

影武者が〝有澤隆文〟の名を(かた)りミッションをこなしていけば、同社の社長を乗せても問題ない程に堅牢な製品であると評判も上がっていくし、社長本人が乗っている訳ではないから、リスクは限りなく少ない。何よりそれであれば納得が行く。

 

――というか、そうであって欲しい。

経営も出来て、マッチョで、リンクスとしても折り紙付きとかチート以外の何物でもないだろ。いや、チートでももうちょい易しいぞ。

 

 

「で、実際のところは?」

 

《……ここでは言えん》

 

「まぁそう――」

 

《この任務が終わったら私の屋敷に来い。そこで話そう》

 

「マジかよ」

 

 

意外にあっさりと答えてくれる事に、イッシンは思わず素が出る。マジでか。そう言うのって終盤まで勿体ぶる感じじゃないのか。

イッシンが内心呆けていると突然セレンが怒鳴った。

 

 

《イッシン!雷電!緊急事態だ!》

 

「ど、どうしたよ!」

 

《リッチランドのランドクラブを確認。予想通り、1機ではなく2機だったようだ》

 

《その程度の誤差では、この雷電は削り切れん。問題はない》

 

《いや、問題大ありだ。……ランドクラブ2機共に()()()()()()()。代わりにネクスト反応が2機確認されているが、一方からは救難信号が出ている》

 

「……は?」

 

 

イッシンは再び間抜けな声を出す。原作のハードモードでは、確かにランドクラブは2機だった。それがこの世界では撃破されており、挙げ句にはネクストと来た。

 

いやホント原作と変わりすぎじゃない?第8艦隊の時もそうだけど、どうしてこうもネクストと御縁があるのか。俺もう泣きそうなんだけど。

イッシンが内心で更に嘆いている中、雷電は状況の把握に努めた。

 

 

《ネクストの識別反応はあるのか》

 

《救難信号を発信しているのは〝ランク16〟マロースだ。もう一方の信号は識別反応なし。恐らく()()()()()()だろう》

 

 

イレギュラーはリンクス管理組織『カラード』に属さず活動するリンクスおよびネクストの総称である。カラードが自らの管理下にいない者に対して異端分子(イレギュラー)と呼称するあたり、実質的なカラード運営者である企業側の傲慢が垣間見える形であるが。

 

 

《正直、アルゼブラの雪豹(ゆきひょう)が助けを求めるとは考えづらい。罠の可能性が高いな》

 

《ランドクラブ2機を潰してまでか?小生はイルビスと相見えたことがあるが、奴はそんな愚策なぞ仕掛けん》

 

《撃破信号などいくらでも偽装出来る。やりようはあるだろう》

 

「助けようぜ」

 

 

唐突な終止符。

それまで様々な可能性を投げ合い、最も確率の高い可能性を探索していた雷電とセレンは呆気にとられる。

 

 

「セレン、格納庫(ファクトリー)で言ったろ。『知り合いを増やす良い機会だし、罠なら突破するまで』って。正にそれなんじゃないか?」

 

《……ふむ、若さに似合わず豪胆だな》

 

「そうでもしなきゃ生き残れないだろ」

 

《まっこと、その通り》

 

《貴様という奴は本当に……。――分かった、これより目標をランドクラブからイレギュラーネクストに変更。第一目標を〝ランク16〟マロースの援護および救出。第二目標をイレギュラーネクストの撃破とする、それでいいな》

 

《「応っ!」》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リッチランド農業プラント 第4セクター

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ――。貴様、何者だ!」

 

 

マロースのリンクス、イルビス・オーンスタインは叫ぶ。自らの指揮下であるノーマルで構成されたエリート部隊〝バーラット部隊〟は総数20機を超える大部隊であるが、その(ことごと)くが無惨にも撃破された。

 

あるノーマルは腰から上が吹き飛ばされ、またあるノーマルは麦畑の中、まるで女王に(ひざまづ)くような体勢で胸部には大きな風穴が形成されている。麦畑に引火したのか(あた)りには食欲をそそる香ばしい匂いが立ちこめるが、その匂いが一層この状況の異様さを際立たせる。

 

イルビスが駆るマロースも、本来は〝雪豹〟の名に恥じぬ純白の機体であるが左腕はもがれ、機体全体が煤とショートのドレスで化粧させられており、もはや〝捨て猫〟と形容したほうがしっくりくるような状況だった。

 

そんな捨て猫が睨みつける先には黄土色の巨人が佇んでいる。この惨劇を引き起こした元凶は、まさに悪魔と呼ぶべき異形の形をしていた。

 

 

《つまみ食いのつもりだったが、弱過ぎて話にならねぇな。まぁ死んどけ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……首輪付き》




いかがでしたでしょうか。

黄土色の悪魔は誰なんだー(棒読み)

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